「驚いた。まさかこんな近くに依頼主がいたとは」
病院の外。駐車場付近のベンチに腰掛ける少年に、麻玖木と別れたショウマが話しかける。
「はい。僕も驚きました。ショウマさん、キャラメイクお上手ですね。そっくりです」
「お前もなかなかのもんだよ。昨日のこともあって、すぐにわかった。違うのも頭の羽根と服装くらいだし。ほら、オレンジジュース。俺の奢りだ」
「ありがとうございます。えと、改めて、僕はセレジュ……
飲み物の缶を受け取ったセレジュが本名を名乗り、ショウマもそれに倣うことにした。
「柊翔真だ。ゲームと同じショウマでいい」
「じ、じゃあ僕も、セレジュで。その、ショウマさん、昨日はすみませんでした。無理を言って依頼を引き受けてもらって……」
「もういいって。お前よりあのユーコとかいう記者の方が無理言ってたしな」
「そ、そうですか。あはは……」
思い出してげんなりするショウマにセレジュは苦笑した。
「で、セレジュはなんでこの病院に? 依頼のことと何か関係あるのか?」
単刀直入に切り込んだショウマに、セレジュは少し俯く。ショウマはすぐに自分の失言だったと後悔した。
「あ、いや、話したくないなら、別にいいんだ。俺もそうだし……!」
愛想笑いを浮かべて、ショウマは自分用に買った缶コーヒーのプルトップに指をかける。
「実はここに、僕の兄が入院してるんです」
セレジュは、ショウマの向こうに立つ一般病棟に視線を投げた。
「ガンダムが好きで、ガンプラが好きで、GBNもサービス開始と一緒に始めたんです。だけど……」
「だけど?」
言い淀んだセレジュは、絞り出すように続く言葉を紡いだ。
「事故で、失くしたんです。利き手を……」
「な……」
「それ以来、兄さんは抜け殻のようになってしまって、せっかく早いうちからCランクになったGBNのアカウントも僕に譲って、ガンプラから距離を置くようになったんです」
「じゃあ、GBNのセレジュは本当はセレジュのお兄さんのアカウントなのか」
頷くセレジュの目は、後悔に揺れていた。
「ギアを兄さんから譲り受けた時、僕は兄さんに言われるがまま、GBNでの兄さんの姿と名前を、僕のものに作り変えました。兄さんの目の前で」
「そりゃまた、なんで」
「兄さんは、踏ん切りをつけるためだって言ってました。実際、それからの兄さんはガンプラの話も、GBNの話もしなくなって……。心が離れてしまったんです。あんなに大好きだったガンプラから」
セレジュは鞄から一冊のノートを取り出し、ショウマに差し出した。
「兄さんがオリジナルのガンプラを作る時に使っていたアイデアノートです」
ショウマがノートを開くと、そこには機体から武器まで、様々なアイデアがイラスト付きで記されていた。
「すごい情報量だ。本当に好きだったんだな。ガンプラが」
「はい。……後ろの方、見てみてください」
言われて開くと、そこには《Zガンダム》をベースにしたオリジナルガンプラの設計図があった。
「へえ、面白いコンセプトだな」
「僕、またあの頃みたいな兄さんに戻って、元気になってほしくて。今度の兄さんの誕生日に、その完成したガンプラをプレゼントしたいんです! でも、そのためにはパーツ成型のためのBCが足りなくて……」
「なるほど。それで今度のミッションの撃墜報酬が欲しいわけか。あの額があれば、パーツどころか、ちょっとしたフォースネストも買える」
「それに、僕、あまりバトルが得意じゃなくて……。いろいろ練習はしてるんですが……。だから、ショウマさんにお手伝いしてほしくて」
「そういうことか……よし!」
ショウマは音を立ててノートを閉じると、勢いよく立ち上がり、セレジュの前に立った。
「要はお前に《ディビニダド》を一機でも倒させればいいんだろ? 俺に任せろ。ヘルパーのプライドにかけて、お前を援護するぜ」
その言葉を聞いて、セレジュの顔に笑顔が咲く。
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
「ただし!」
「へっ?」
「俺はあくまで援護だ。トドメは必ず、お前が撃て」
「……! はい!」
ショウマが突き出した拳に、セレジュも自分の拳を合わせた。
▼▼▼
そして、ミッション開催当日。
限定ミッション専用のエントランスの先には、クロスボーン・バンガードの旗艦《マザー・バンガード》のモビルスーツデッキを模した待機エリアが広がっている。
そこでは今回のミッションに参加するダイバーたちがミッションの開始を今か今かと待ち続けていた。
「ごめーん! お待たせ!」
「ユーコさん、こっちです!」
「遅くないか? 一応の依頼主だろ。もう始まるぞ」
先に待機エリアに入っていたセレジュとショウマに、ユーコが金色の髪を揺らしながら駆けてくる。
「社会人なめないでよ。取材相手はあなただけじゃないんだから」
「そりゃ悪かった。というか、あんたも出るんだな。てっきりギャラリーにでもいるのかと」
「密着取材って言ったでしょ? 足手まといにはならないから、安心して」
「ユーコさんのガンプラって、どんなのなんですか?」
「ふっふっふ、それは見てのお楽しみよ」
そこに、ミッションの開始1分前を告げるチャイムが鳴り、ショウマ達の周囲からもダイバーたちが次々と姿を消し始めた。この音を合図に、ダイバーたちは自分のガンプラに搭乗し、出撃に備えるのだ。
「俺たちも行くか」
「はい!」
「オッケー!」
ディスプレイを操作し、ショウマはセレジュやユーコと同じようにガンプラに搭乗する。
『あ、来た来た』
ショウマがコクピットに入ると、《クインス》の声が響いた。
「さあ、今回はいつも以上に張り切っていくぞ」
『うん! セレジュ君の事情がショウマ好みだもんね! 私も頑張っちゃう!』
クインスの正面、閉じられていたハッチが開いて光が差し込む。ショウマは操縦桿を握りしめ、ミッション開始10秒前のカウントダウンで大きく息を吸った。
「ショウマ! 《キマリスクインス》、いきます!」
カタパルトが駆動し、悪魔の名を持つ白い機体が発進する。
次回はいよいよ戦闘回。
不定期更新です。
感想来たら意外と早い更新があったりするかもしれない。
来なくてもいいことがあったら更新するかもしれない。
お楽しみに。