『わっ、おまえなんでそんなとこいんの?』
『…隠れんぼしてたんだよ。もう二時間も隠れてるけど。』
『隠れんぼ…?他に人いなかったぜ?…おまえ置いてかれんたんじゃね?』
『…やっぱり?せっかく友達が出来たと思ったのに。』
『───おまえ、名前は?』
『へ?…比企谷、八幡。』
『なら、ハチな。いいか、ハチ』
『───今日からおれら、友達だ!』
青春とは嘘であり、悪である。
青春を謳歌せし者たちは、常に自己と周囲を欺き、自らを取り巻く環境の全てを肯定的に捉える。
彼らは青春の二文字の前ならば、どんな一般的な解釈も社会通念も捻じ曲げてみせる。
彼らにかかれば、嘘も秘密も罪咎も失敗さえも青春のスパイスでしかないのだ。
仮に失敗することが青春の証であるならば、友達作りに失敗した人間もまた、青春のど真ん中でなければ、おかしいではないか。
しかし、彼らはそれを認めないだろう。
全ては彼らのご都合主義でしかない。
結論を言おう。
青春を楽しむ愚か者共、砕け散れ。
「砕け散るのは君の方だよ、比企谷。」
はぁ、と溜息を吐きながら眉間に皺を寄せる平塚先生。…はて。
「…なんすか?それ。」
「…君は本当に言ってるのか?これを見たまえ。」
ふむ、これは…高校生活を振り返って。そういえばそんな課題もあったな。確か俺は…ああ。課題をやったのが確か深夜の三時過ぎくらいで眠くて仕方がなくて内容を覚えていないな。…ん?
「…もしかしてこれ、俺のですか?」
「その通りだよ。…成績優秀の君がこんな文章を書いてきたから私に喧嘩を売ってるのかと思ったよ。」
「…いやあ、その。課題をやった時が丁度深夜テンションだったと言いますか。似たような題材のアニメを徹夜で見てて見終わった時にこの課題を思い出しまして…すんません、書き直してきます。」
今みると酷いな、これ。あの時は眠過ぎてこれでいいやって思ったんだよな。深夜テンションって怖いな。
「…君の目はなんというか、あれだな。死んだ魚のような目をしているな。」
「そんなDHA豊富そうですかね?賢そうっすね。」
「真面目に聞け…。」
再びため息をひとつ。
「…ふむ。比企谷、君に友達はいるか?」
「…はい?なんすか、その…娘との距離感を掴めないお父さんみたいな質問。」
「いやね、あんな文章を書いたくらいだし君は世界を全てを見下している様な目をしている。…それに、授業中はともかく授業の前後でも君は誰かと話している様子はなかったからな。悲しい学校生活を送っているんじゃないかと思ったのだよ。」
おい教師。散々言うな…。
「いますよ、親友が一人。小学校からの腐れ縁ですけど。クラスは基本被ったことないんで、授業前とかは話さないですね。」
「ほう?ここの高校の生徒かね?名前は?」
「失礼しまーす、静ちゃんせんせー、現国の課題クラスの全部集めて持ってきたよって…あれ、ハチ?どうした?呼び出し?」
「…茅ヶ崎、その呼び方はやめろ。…ハチって、比企谷の事か?知り合いか?」
「…お前、タイミングいいな。先生、コイツですよ。親友。」
「…本当か?なんというか…イメージが真逆だな?」
茅ヶ崎 千景。明るい金髪と少し着崩した制服、顔立ちは整っており、八重歯は快活な印象を助長している。…彼の見た目を要約するとチャラい系イケメンである。イケメン爆ぜろ。まあ見た目によらず真面目で成績優秀だしそもそも彼の髪色は地毛だったりするのだが。
「ん、その通り親友だぜー?な、ハチ。」
「おう。後肩組むの止めろ」
「つれねー!」
調子よく肩組んでくるのを軽くはたく。その姿を見てる平塚先生は心から驚いた様な顔をしていた。
「…本当に仲がいいのだな。比企谷、それなのにこんな文を書いたのか…?」
「…いや、だから深夜テンションだったって言ってるじゃないですか。それに俺の友達は千景だけですので友達作りに失敗してる事には変わりないですし。」
「つってもハチのぼっちの理由は初日に事故にあったせいでもあると思うけどな。別にコミュニケーション取れないわけじゃないし、顔も目が淀んでる以外じゃ特に問題もないしな。つかハチ何書いたの?」
「お前が言うと嫌味に感じるけどな。課題だよ、お前らのところもやったろ?高校生活を振り返ってって奴。」
「あー…あったなそんな奴。見ていい?」
「おう。」
千景の顔が徐々に曇っていく。どんどん悲しいものを見る目になっていってる気がする。ちゃうねん、俺もこんな事書く気なかったねん。寝不足って怖いんだな。
「…ハチ、病んでんの?病院紹介しようか?親父とは専門違うけどその病院精神科あるし。」
「マジの心配辞めてくれ。」
因みに千景の親は父親が医者で母親が女優だそうだ。幼い頃に離婚していて母親の顔はテレビでしか見たことがないそうだが。彼の髪が金色なのもハーフなためである。つくづく主人公みたいなスペックしてんなこいつ。リア充爆ぜろ。
「よし、決めた。」
そんなやり取りをしているとさっきまで沈黙を保っていた平塚先生が口を開いた。
「取り敢えず、それは書き直しだ。」
ですよね。
「それと比企谷、君は部活に入っていなかったよな。」
「…?ええ、入ってないですが。」
「君にはふざけた課題の罰として奉仕活動をしてもらおう。」
「は、なんすかそれ?自慢じゃないですけど力仕事とかはそこまで出来ないっすよ。」
「すげぇ、ホントに自慢じゃねぇ」
ケラケラ笑う千景と呆れたように溜息をつく平塚先生の差が激しいな。原因は俺なんだけど。
「大丈夫だよ、力を使うことは殆どないだろうから。比企谷、ついてきたまえ。茅ヶ崎、比企谷と私は行くが君はどうする?」
「は?行くってどこに…」
「おー?どこ行くか知らないけど行ってらっしゃい。あ、ハチ。今日帰り飯食いに行こーぜ。用事終わったら連絡くれよ、待ってるから。」
失礼しましたーと軽く手を振りながら千景は先に部屋を出ていった。少しくらいは俺の返答を聞け。こっちの都合もあるんだから。取り敢えず後で小町に連絡入れるか…。
「君たちの仲がいいようでなによりだよ。ほら、行くぞ。場所は後でのお楽しみだ。」
それに続く様にして平塚先生も部屋から出ていく。ここで放置されるのも無視して帰るのもどうかと思うので俺は渋々ついて行った。
「茅ヶ崎とは何処で出会ったんだ?腐れ縁とは言うが君たちの性格の差が激しすぎてね。小学の頃は性格が違ったのか?」
歩いていると平塚先生が俺に問いかけてきた。まあ、確かに俺もああいうチャラそうな見た目をした奴は自分から付き合わないだろうしな。
「あー…まあ。出会いは別に大層なものじゃありませんでしたよ。たまたま公園で会って少し話して友達になったって感じです。性格も今と大して変わりません。」
「ふむ、君は茅ヶ崎の事は素直に友達と言うんだな。君の性格はもっと捻くれていると思っていたよ。君とも茅ヶ崎ともそれなりに付き合ってきたつもりだったのだがな。」
「まあ、俺も千景も学外のことを態々先生に話したりしませんしね。学校でもアイツと目が合ったら挨拶くらいはしてますけどそもそもあまりエンカウントしませんし。」
千景は教師とも雑談するタイプだが自分の事は語らない癖があったりする。聞けばペラペラ喋るんだけどな。
「後、俺が捻くれてるってのは間違ってもないっすよ。妹によく言われるんで。ただアイツに関することをぼかすとうるさいんですよ。前にアイツの前でぼっちだって名乗ったら思いっきり脇腹小突かれまして。」
しかも三回。執拗に同じところを狙ってきたあたりマジでキレていたと思われる。脇腹突かれると変な声出ちゃうよね。
「まあ、君のような人間には茅ヶ崎の様に強く引っ張ってくれる人間の方があっているのかもしれないな。君も彼の話をしている時は楽しそうだ。」
そんな風に言われると大きなお姉さんたちが喜びそうだな…違いますよ?
「まあ…友達ですから。」
この作品はBL要素はありません。…なんかクラスのメガネの女子が鼻血を吹いた気がするな?
「さて、着いたぞ。」
「…ここは?特別棟っすよね、ここ。」
「ふむ。それは中に入ってからだ。邪魔するぞ、雪ノ下。」
そう言って平塚先生は扉を開けた。取り敢えず続いて中に入る。というかノックしなくていいのか…?
教室を見渡した俺は思わず静止した。長い黒髪を風に靡かせ、こちらに一切興味を示さず読書を続ける彼女はまるで絵画の様で。
俺は彼女を知っている。雪ノ下雪乃、二年J組国際教養科所属。眉目秀麗、才色兼備なんて言葉が良く似合う女子だ。千景がテストの度に「また2位だったぁぁ」と発狂しているからよく覚えている。まあ、アイツ国語苦手で足引っ張ってるらしいからね。
「平塚先生、ノックを。」
「ノックをしても君は返事をしないじゃないか。」
「先生が返事をする前に入ってくるからじゃないですか…。それよりも、彼は?」
「ああ、今日からこの部に入部する比企谷だ。比企谷、自己紹介したまえ。」
「は?えっと、二年F組比企谷八幡です…って、入部ってなんすか。聞いてないんですけど。」
いやまあ、なんとなく察してはいましたけど。わざわざこんなところまで連れてこられたし。
「これから君には舐めた作文を書いた罰としてここでの部活動を命じる。異論反論抗議口答えは一切受け付けない。」
俺には肯定する以外の答えはないらしい。いや、別にする気もなかったんだけどなぁ…。
「えぇ…いや、別に俺はいいですけど、そっちはいいんですか?俺なんか入れて。」
「ああ、雪ノ下。こいつは腐った目とひねくれた神経のせいで孤独で憐れむべき人生を送っていてな、私からの依頼はこの性格の矯正だ。受けてくれるな?」
散々言うなこの人。俺じゃなかったら泣いてるよ?
「お断りします。彼のその下心に満ちた下卑た目を見ていると身の危険を感じるので。」
「安心したまえ。確かに淀んだ目をしているがこの男のリスクリターンと自己保身の計算についてはなかなかのものだ。この男の小悪党ぶりには信用してもいい。」
この人たちは俺の心を折りに来たのだろうか。もしかして俺がサンドバッグに見えてるのだろうか。
「いや、常識的な判断が出来るって言って欲しいんですけど…。」
「小悪党…なるほど。」
しかも聞いてないし納得したぞこいつ。
「まあ、先生の依頼ともなれば無下にはできませんね、承りました。」
「そうか!じゃあ頼んだぞ雪ノ下!」
そう言って平塚先生は教室を出ていった。え、いや状況が掴めないんだが。
「…あー、その。取り敢えず、座っていいか?」
「ええ、椅子は後ろから勝手に取っていいわ。」
「おお…サンキュ。」
許可を得たので後ろから適当な椅子を見繕い雪ノ下の真正面、机の丁度対になる位置に置いた。
「…質問、いいか?」
「どうぞ。」
「じゃあまず、ここってなんの部活なんだ?平塚先生は何も言わなかったんだが。」
なんとなく二人きりの部屋は居心地が悪かったので質問する事でお茶を濁してみることにする。
平塚先生が出ていってから無言で読み出した本をぱたんと閉じてからこちらを見た。
「そうね、ゲームをしましょうか。ここは一体何部でしょうか?」
「はぁ…。」
ふむ、と教室を見渡してみる。特別な機材はなくあるのは椅子と机だけ。彼女は本を持っていた、と考えると文芸部が妥当。
しかしそう考えると俺がこの部に入れられた意味がわからない。平塚先生は確かに依頼と言っていた。となると…
「…ボランティア部、とか?」
「…へぇ、その心は?」
「特別な機材がないから音楽や料理、手芸みたいな道具がいる部活ではない。平塚先生が依頼と言っていたが、文芸部だとしたら意味がわからない。となるとボランティア部しか思いつかなかった。どうだ?」
なんとなく自信があった。名前は違うかもしれないが、そう大きくは外していないだろう。
「…そう、驚いた。意外と頭はキレるのね。そうね、おまけで合格と言ったところかしら。
ここは持たざる者に自立を促す部活。ホームレスには炊き出しを、途上国にはODAを、モテない男子には女子との会話を。
ようこそ奉仕部へ。歓迎するわ。」
…モテない男子の件、いる?もしかして俺の事揶揄されてる?それにしても名前は奉仕部らしい。男子高校生的には少し卑猥にも感じる名前だが別にそんな意図は無いし俺も全く気にしてない。嘘じゃないよ。ハチマンウソツカナイ。
「頼まれた以上は力になるわ。あなたの問題を解決してあげる。」
「…あー、じゃあもう一つ質問。俺の問題ってなんだ?別に俺はコミュニケーションをとれない訳じゃないし、自分で言うのもなんだが成績もそれなりに優秀な方だ。目を除いて顔も悪くない。友達がいないわけでもないしな。」
「自分でそんな事を言うのは気持ち悪い人間だと思うのだけれど?…でも、そうね。あなたの問題を言うとしたら、変わる気がない事かしら。あなたのそれはただ逃げてるだけだわ。」
「なら変わることも現状からの逃げだろ?なんで過去と今の自分を肯定してやれないんだよ。」
「それじゃあ悩みは解決しないし─────、
誰も救われないじゃない!」
彼女は、そう叫んだ後俯いた。何故か、その姿に昔の自分を重ねてしまった。友達が欲しくてしょうがなくて、自分に理由を見つけようとした自分に。俺と雪ノ下は全く違う人種な筈だ。それでも、よくわからない親近感が湧いてしまった。
「…お前さ、俺に散々なこと言ってたけど友達いるのか?」
「…そうね、まずどこからが友達の定義か教えて貰っていいかしら。」
「…それは友達いないやつのセリフだろ…。」
ソースは小学校の頃の俺。
「…お前、人から好かれそうな癖にぼっちとか、俺よりも孤独体質じゃねぇか。」
「あなたにはわからないでしょうけど、私可愛いから、大抵の近づいてくる男子は私に好意を抱いていたわ。」
ああなるほど。その話の先はなんとなくわかった。俺も覚えがある。いや、正確には千景が、だが。
「…嫉妬か。」
「ええ、下履を隠された60回のうち50は私に嫉妬した女子だったわ。
…でも、それも仕方の無い事なのかもしれない。人間は完璧ではないから。弱くて醜くて、すぐ嫉妬し蹴落とそうとする。不思議なことにこの世界は優秀な人ほど生きづらいのよ。そんなの、おかしいじゃない。
──だから、変えるの。この世界を。」
世界を変える、彼女はそう言った。確かにこの世界は優秀な人ほど嫉妬され、蹴落とされてきただろう。
救われないと言った時の彼女の表情の理由がわかった。きっと彼女は、変わることが無意味だと思いたくないのだ。今まで嫉妬され生きてきた彼女にとって、救いだったのだろう。人を、世界を変えるということは。
「…なあ、雪ノ下。俺と友達になろう。」
「…え?」
「いや、なろうじゃないな。俺と唯一の友達曰く友達はなろうって言ってなるものじゃないらしい。だから、今日から俺と雪ノ下は友達だ。」
俺の中で変わることが逃げだって思っていることは何も変わってない。そして、逃げが悪いこととも思ってない。
俺は、きっと千景と出会ってなかったら今よりももっと悍ましいものになっていただろう。もしかしたら、俺も世界を変えると言っている側だったのかもしれない。それを救いにしなければ立っていられなかったかもしれない。
それでも俺は、運命が変わる出会いというものを知っている。たった一人の人間の言葉で、簡単に人を救えるのも知っている。
「なあ、知ってるか?人間って意外と単純なんだぜ?たった一人の言葉で救われる事も、まるで世界が変わったかの様な衝撃を受けることだってあるんだ。」
彼女のぽかんとした顔を見て俺は思わずニヤける。
「これから同じ奉仕部としてよろしくな?雪ノ下。」
「…で、一方的に雪ノ下さんの友達になってきたと。なんというか…お前、やっぱ面白いと思うわ。」
場所は変わって学生の味方サ〇ゼ。正面にはスプーンとフォークを器用に使ってパスタを食べてる千景がいる。
「…なんか、思い返すと恥ずかしくなってきた。」
いや、ほんとにあの時はなんか行けるって思っちゃったんだよなぁ…ここが外じゃなかったらのたうち回っていただろう。俺のばーか!!
「んー…ま、確かに恥ずかしいのは否定しないけど。でも、よかったと思うぜ?静ちゃんせんせーも褒めてたからな。私好みの展開だとか言って。」
「は…?いや、平塚先生がなんで内容を知ってんだよ?」
「静ちゃんせんせー、話最後まで聞いてたらしいぜ?お前が部活終わる連絡寄越してきた三分くらい前に職員室に帰ってきたから。」
あの人、出歯亀してたのかよ…。あとナチュラルに職員室にいるなよ、普通居心地悪くないか?ああいうところ。
「ま、これから頑張れよ。明日もあるんだろ?はは、楽しみだな。もしかしたら青春ラブコメが始まるかもしんないぜ?」
「ねーよ。」
妙にニヤケながら言ってくる戯言を聞き流しながら、頼んだミラノ風ドリアを口に入れた。
キャラクター設定
比企谷八幡
原作との乖離点
・小学校からの友達がいる
・そのため中学のトラウマは大体カット
・ガチガチの理系が傍にいるため数学もそれなりに良い
茅ヶ崎 千景 (ちがさき ちかげ)
八幡の小学校からの友達
クラスは一度も同じになってない(小学は別の学区、中学は同じだが被らなかった。)
材木座と同じクラス
父親は医者(1ヶ月に2、3回しか帰ってこない)、母親は女優(アメリカ人で、千景が小学入る前に離婚、今はアメリカにいる)
最近の悩み︰親父が医者の不養生を絵に書いた人間で全然ご飯食べてくれない。