エヘ狂猫の日誌集   作:エヘ狂信者の猫

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読書仲間ができるまで

「イルミカ・ヨル様、あなたの部屋の本を読ませて貰ってもよろしいでしょうか?」

 

 珍しく休みの日だったので部屋で一人くつろいでいたのだけど、突然ドアがノックされる。

訪問者は最近新たに仲間になったコトルシィだった。

ボクに部屋に入ることを許可されたコトルシィは、ドアを開けると早々にさっきのようなことを言って頭を下げた。

 

「ワタシは起動したてでデータの蓄積がなされていません……。

このままでは活動に支障をきたしてします……これでは皆様のお役に立てません……なので、ワタシにはデータを蓄える必要があるのです」

 

……なるほど、それでボクの本を読みたいって訳だね?

 

「はい。よろしくお願いしますイルミカ・ヨル様……」

 

 知識を蓄えるのは良いことだ。今まで知らなかった世界が開けていくからね。

それにコトルシィはアンドロイドなのでなんというか……世間知らずで少し天然な所があるからね……。

これを機に色々学んでくれたらこっちの気苦労も少しは減ってくれるだろう……多分。

 

「……では……?」

 

 ああ、勿論良いよ。ボクの本なら好きなだけ読むと良い。

そう伝えるとコトルシィは頭をバッと上げると、普段無機質にも思えるその顔を眩しいくらいに明るくさせた。

 

「ありがとうございます! イルミカ・ヨル様!」

 

 そこまで喜ばれるとは正直予想外だったが、悪い気はしないね……。

コトルシィにも案外可愛い所もあるもんだね……と思ったボクは思わず微笑みを漏らしてしまった。

 

「本当にありがとうございますイルミカ・ヨル様……なんとお礼を言ったらいいか……」

 

 そう言って深々とお辞儀をするコトルシィ。

やはり彼女は本当に律儀で礼儀正しい少女だ。そこまでしなくても良いのに、と思ってしまうがそこもまた彼女の良さなのだろう。

とりあえずコトルシィに、ボクの好きでやったことだからそこまで気にしなくても良い、それに読書仲間が出来てボクも嬉しいからね……と伝えて頭を上げさせる。

 

「イルミカ・ヨル様は本当に優しいお方ですね……ありがとうございます」

 

 そこまで真正面から褒められると照れを隠し切れなくてボクとしては少し困るのだが……悪い気はしないからまあいいか。

しかし、ボクはコトルシィに対し一つ気になることがあった。

ボクは、……所で、とコトルシィにそのことについて切り出す。

 

「はい? なんでしょうかイルミカ・ヨル様」

 

 ……そう、まさにそれだよ。

コトルシィはずっとボクのことを、イルミカ・ヨル様と呼んでいる。

正直言って、なんかまどろっこしいなとずっと気になっていたのだ……。

 

「もしかして、嫌でしたか……? 申し訳ありません……」

 

 申し訳なさそうな顔で再び頭を下げるコトルシィに、いや別に嫌って訳ではないんだけどね……と伝えてもう一度頭を上げさせる。

 

「……ではどういう……?」

 

 不思議そうな顔で問うコトルシィに、少し頬を掻く。

……あー、なんていうかさ……これから読書仲間になる訳じゃないか。

だったらやっぱり……さ?

なんていうか、こう……対等な感じのが……自然っていうか……こう……あるじゃないか?

 

「というと……?」

 

 こっちは顔が熱くなってきているというのに、コトルシィは全然変わらない調子で聞き返してくる……うぅ羨ましいな……。

……あーもう、だから!

ボクはコトルシィと友人になりたいんだよ!

だから、そうやってかしこまった呼び方は止めて、もっとフランクに呼んで欲しいってことだよ!

 

 先程のやり取りで、回りくどく言ってもコトルシィには伝わらないと察し、ボクはコトルシィ恥ずかしさを堪えながら素直にそう伝えた。

 

「……なるほど、友人……ですか。考えた事もありませんでした……」

 

 ボクの告白を聞いたコトルシィは、動きを止めたかと思うとそう言って考え込んだ。

無言の間が流れこの部屋はしばし静寂に包まれる。

その間ボクは自分自身の鼓動の音を聞きながらコトルシィの答えを今か今かと待っていたのだった。

 

「……そうですね……これからワタシたちは読書という趣味を共有する仲……友人と言われる仲になりますね……。

はい、分かりました……これからよろしくお願いしますね、ヨル」

 

 そう言ってコトルシィは、少し柔らかくなった言葉と柔らかくなった表情で手を差し出す。

ああ、よろしく……と、ボクも微笑みながらその手を握るのだった。

 

――――――

 

 ……そういえば、イルミカじゃなくてヨルの方で呼ぶんだねコトルシィは。

 

「なんだかそっちの方が呼びやすかったので……大丈夫でしょうか?」

 

 いや、構わないよ。

……でもまあ、こっちの名前で呼ばれることはあんまり無かったからね。少し不思議な気分だよ。

 

「それなら良かったです、ワタシは安心しました」

 

 コトルシィはそう言って微笑む。

うん、やはり彼女は良い顔をするね……。

 

「ありがとうございます。ヨルもいつも素敵な顔をしてますよ?」

 

 素直に言葉を伝えてくるコトルシィに照れを隠せず思わず頬を掻いてしまう。

なんだか呼び方一つで一気に友人っぽくなったね……。

……そうだ、せっかく友人になったのだから、ボクもコトルシィへの呼び方も変えてみようかな。

しばらくコトルシィの呼び方であーでもないこーでもないと考え込んでいると、コトルシィが再びボクの前に手を差し出す。

 

「改めて、これからもよろしくお願いしますね、ヨル」

 

 ……ああ、これからもよろしく、トルシィ……。

二人の手が重なると、ボクとトルシィは互いに微笑みを交わし合うのだった。

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