「シュ、シュトさん……あの……話があるんだけどね……? これ……見て欲しいの」
ソフィに突然後ろから声を掛けられ振り向き自身の目を疑った。
そこに居たのはいつもの青い服の一部が赤く染まり、髪を黄色いリボンでツインテールに結んだソフィであった。
……この姿に自分はとても心当たりがあった……というかこの姿は正しく「妹」だろう……。
これは一体どういうことなのだろうか……。
「あっあのね? ちょっと好奇心でシュトさんの部屋にあった日記を開いてみたの……そしたら服とか髪型が徐々にこんな感じになっちゃって……」
自室にある日記……それは正しく「妹の日記」であった。確かアレは荷物を整理した時に一度部屋に置いてそのままだったやつだ。
しかし、日記を読んだにも関わらず妹は出現せず、その代わりにソフィが妹のように変化していくとは……そんなこと、見たことも聞いたことも無いのだが……。
「……もしかして、私がお姉ちゃんで、弟妹好きだったのが原因……だったり……?」
不安そうな声色でそう呟くソフィ。
確かに、妹はブラコン・シスコンの権化みたいな生き物だ。立場が逆とは言え、同じくブラコン・シスコンなソフィと共鳴し、普通ではない何かが起こってしまうなんてこともありえるかもしれない。
「じゃあもしかして……私、妹ちゃんになっちゃうの……?」
今にも泣きそうな表情をしながら問いかけるソフィ。
あまりにも突然の出来事。しかも一時の好奇心で取り返しのつかないことになりそうだというのだ。誰だってこうなってしまうだろう。
「わ、私……ずっとあなた達のお姉ちゃんで居たいのに……それが……それが……私妹ちゃんになっちゃう……お姉ちゃんになれなくなっちゃう……シュトお兄さんの……お姉ちゃんじゃ、居られなくなっちゃう……」
下を俯きうわ言のようにそう繰り返すソフィ。呟いている内容はあまり聴き取れなかったが、とても辛そうにしているのは見て分かった。
やはり精神的にかなり参っているのだろう……彼女を休ませようと近づいた所で異変に気付く。
「お姉ちゃん……私……お姉ちゃん……妹……シュト……ちゃんの……お姉ちゃん……私……ちゃん……お兄……お姉ちゃん……私……妹……お姉ちゃん……私……シュト……お姉ちゃん……妹……お兄……私……お姉ちゃん……妹……お兄……ちゃん……」
虚ろな目でぶつぶつとひたすらお姉ちゃん、妹、お兄ちゃんなどとソフィは呟き続けていた。
その異様すぎる光景に自身の身体を一歩後ろに下げてしまった。
だがしかし、このままソフィを放っておく訳にはいかない。ソフィの肩に手を置いて呼び掛けると、ソフィは呟くのを止め俺の方へ倒れ込んだ。
「う……ん……」
倒れ込んだソフィをしっかりと受け止め、身体を揺すって声を掛けるとソフィは目を開いてこちらを見つめる。
少し落ち着きは取り戻したようで一先ず安心していると、自分を未だ見つめ続けるソフィが微笑みなから口を開いた。
「ありがとう……少し落ち着いてきたわ……。
ごめんなさい……取り乱しちゃって……でも大丈夫! 私、こんなことじゃ負けないから!」
ソフィは自身の腕を持ち上げガッツポーズを作る。どうやらいつものソフィに戻ってくれたようだ……本当に……心の底からホッとした……。
「心配してくれてありがとうね……本当にごめんね……。
でももう大丈夫だから、私はこれからも頑張るから……どんな私になってもあなたの為に尽くすから……だから安心して、ね? 私の大切な大切な……
お 兄 ち ゃ ん !」
まるで地獄へと引き摺りこむ悪魔の腕のようなそのワード(お兄ちゃん)を聴き俺の意識は思考をする間もなく闇へと沈んだ。
闇に沈みゆくその朧げな頭の中では、焦ったようなソフィの声が意味もなくただ響き続けていたのだった。
――――――
「なーんてね! 嘘よウソウソ! 今日はエイプリルフールでしたー!
……ってアレ? えっ……シュトさん? あっえっちょっとシュトさん!? シュトさーん!?」
……その後ソフィは、気絶から目覚め真相を知った主人の、けして激しくはなくだからこそ辛い諭すような言葉を、申し訳なさそうな顔で正座をして何度も深く頭を下げながら受け止めるのであった。