フラニカ・メノウィの歓迎会
ヴェルニースの酒場に居た男に依頼され、生体兵器の実験体と激闘を繰り広げたあの日。
陰鬱で血の匂いが充満したあの実験場で、俺たちは不思議な少女と出会った。
「……あなた……つよい……? へんなひと……ひと? …………? ……ねこちゃん……? ひと……?
おもしろそう……でもあなた、みんなたおした。
……わたしも……たおす?」
たどたどしい言葉でそう呟き問い掛けてくる桃色の髪をした少女。
少女の呟きを聞く限り、どうやら自分たちに対する敵意はなく、むしろ興味を抱いているように思えた。
それならば一度、コミュニケーションしてみるのも良いかもしれない。
そういった考えの元、今の所倒すつもりは無いということを伝え、その少女と暫く言葉を交わしていった。
「……ねえ、わたし……あなたについていきたい。
……わたし、あなた……きになる。……あなた、おもしろい。
……いい?」
コミュニケーションを交わしていくうちに、互いに興味が深まっていったようだった。
この少女が自分たちに強い興味を持ったのと同じように、自分自身も、この少女の不思議な雰囲気に惹かれ始めていたのだった。
……よし、この少女を仲間にしよう。
少女の問い掛けに勿論だ、と答え荷物から捕獲用のボールを取り出す。
……こうして俺たちの仲間に、新たに実験場で出会った謎の少女――シュブ=ニグラスのフラニカ・メノウィが加わるのだった。
――――――
依頼を終えて街に戻った後、少女に服を買い与えたり少女自身のことについて色々聞いたり、名前が無いということで名付けをしたり、この少女の力を情報屋に見てもらったり……そんな少女との長い一日を終えた俺たちは今、わが家にてソフィの提案で小さな歓迎会を開いていた。
「かんぱーい! さあさあメノちゃん! 好きなだけ食べて飲んで!」
ソフィの乾杯の音頭でグラスが音を鳴らすと、みなワイワイと楽しそうにご馳走に手を伸ばしていく。
あの少女――フラニカ・メノウィも、目の前のご馳走に眼をキラキラと輝かせる。
「これ、とってもおいしそう……! ホントに食べて、いいの?」
「もっちろん! 今日のパーティはメノちゃんが主役なんだから! めいいっぱい楽しんでね!」
顔をパァーっと明るくさせたフラニカは、皿一杯にご馳走を乗せ、パクパクモグモグとどんどん平らげていく。
どうやらフラニカは、かなり食べることが好きなようだ。
見ていて気持ちいい位のその食べっぷりには、見ているこっちの食欲も進むというものだ。
「おいしい……! すっごくおいしい、しあわせ。
ありがとう、お姉ちゃん……!」
「はぁっん!! ……お姉……ちゃん……!」
フラニカがお姉ちゃんと呼びながらソフィにその可愛らしい笑顔を見せると、ソフィは声を上げ崩れ落ちた。
効果は抜群だ!
「……どうやら、またソフィの甘やかし相手が増えそうだね。まあ、その分ボクたちへの被害が減るから嬉しい限りだけどね」
優雅にグラスのオレンジジュースを飲みながら隣のイルミカが俺にぎりぎり聴こえるくらいの声で呟く。
確かに、ソフィは楽しめるしコトルシィやフラニカも甘えられて嬉しい、自分やイルミカはソフィのお姉ちゃん攻撃を受けずに済む。
皆幸せ万々歳のハッピーエンドだ。
「あっ勿論あなたたちも大事なお姉ちゃんの弟妹よ! お姉ちゃん忘れたりなんてしないからね!」
……だがそうは問屋が卸さない。
地獄耳なソフィのその宣言に、ビクリと跳ね身体を強張らせるイルミカに目を背けながら、夢中になってご馳走を頬張るフラニカについて考える。
先程のお姉ちゃん発言もそうだが、思考は読めないが意外と素直で甘え上手な所を見るにかなり妹力が高いと思える。
そらに彼女は無数の妹を召喚する力を持っている。
確かシュブ=ニグラスはモンスターを召喚する力を持っていると記憶しているが、それが何故か妹を召喚する力になっているのだ。……これも妹力の為せる技なのか……?
それに何の偶然か今日は9/6――妹の日である……これは、髪こそ緑のツインテールでは無いものの、妹並の妹力を持った妹の権化であることは間違い無いだろう。
(ちょっとお兄ちゃん!! お兄ちゃんの妹はこのわたしでしょ!!)
そんなことを考えていた所為なのか、突然脳内に怪電波が響く。
……これは妹のマグか……今彼女はグウェンちゃんランド(牧場)に住み込みで働いている筈なんだがなあ……。
(お兄ちゃんへの愛があるからこれくらい出来て当然でしょ? 離れていても寂しくないよ!)
そっかあ……じゃあまたね……。
適当に怪電波を切り上げ、以降それを無視して無心で食す。
……まあ、今度はマグも一緒に何かするのも良いかもしれないな……フラニカとの顔合わせも兼ねて。
――――――
宴もたけなわといった所で、フラニカを立たせ前に出す。
食事を中断させられ少し不満気な表情をしていたフラニカだったが、すぐに切り替えたのか仲間たちを見渡すとおもむろに口を開いた。
「……メノの名前は、フラニカ・メノウィ。……これ、しゅー様につけてもらったの。
……メノは、フラニカって呼ばれるのも、メノウィって呼ばれるのも……どっちも、すき。
……えっと……あと、おいしいのもすき。おいしかった。……よろしく」
最後にぺこりとお辞儀をして締めくくると、暖かな拍手がフラニカを包んだ。
その喋り方から無口な印象を最初は受けたが、どうやら先程の自己紹介を聴く限り喋ること自体は結構好きなように思える。
好きをハッキリと表現することといい、不思議な雰囲気を纏っていて思考は読めないが、実は結構素直なかわいい少女なのだなと感じるのであった。
「こちらこそよろしくね、メノちゃん!
さっき自己紹介したと思うけど、改めて……私はソフィ! 私のことはまた気軽にお姉ちゃんって呼んで良いからね!」
「ボクはイルミカ。これからよろしく、フラニカ」
「ワタシの名前はコトルシィ。これからよろしくお願いします、メノウィ」
フラニカの言葉にならい、各々思い思いにフラニカを呼ぶ仲間たち。
ちなみに、フラニカの一人称はメノ。
そして俺のことはしゅー様と呼んでいる。
……うん、やっぱり不思議な少女だなフラニカは。
「……ソフィお姉ちゃん、……ルミカ、……しーちゃん……。
うん、覚えた。……よろしくね、みんな」
……どうやらその独特な呼び名は仲間たちにも例外ではないようで、フラニカの呼び名によってこの会場に一瞬の沈黙が訪れる。
苦笑いをするイルミカ。
自分が呼ばれたということに気付けず無言で首を傾げるコトルシィ。
そして、お姉ちゃんに反応し崩れ落ちるソフィ。
……本当に不思議な少女だな、フラニカは。
……なんか一人だけ反応違かった気もするがそれは些細なことだ。多分。
一方のフラニカはというと、そんな状況には目もくれず席に戻り再びモグモグとご馳走をどんどん平らげていく。
何とも不思議で、何ともマイペースな少女が仲間に加わったな……。
フラニカが既に席に戻っていると気付いた皆も、互いに笑いあって席に戻り宴を再開した。
「さあ、2回目だけどもう一回! グラスの準備は良い? 行くよー!
仲間になった&これからよろしくね! って感じでメノちゃんを祝いまして――」
『――かんぱーい!!』
大いに盛り上がった歓迎会と、そこで楽しそうに笑うフラニカたちを見て、これから上手くやっていけそうだなと俺は微笑みながら思うのであった。