「……ん、ソフィお姉ちゃん……これ、やって……?」
「はいはいメノちゃん〜……これをやればいいのかしら? ふふっ、お姉ちゃんにおまかせあれ!」
実験場で出逢った不思議な少女フラニカが仲間に加わってから幾日かが過ぎた。
フラニカはその持ち前のマイペースさですぐに皆と打ち解けあったようだ。
「……あっ、しゅーさま。今日のごはんは何にする……? ……メノ、おいしいのがいい」
マイペースだが人懐っこい性格で甘え上手なフラニカは、あっという間にみんなの妹的ポジションを獲得した。
ソフィもイルミカも、フラニカに対してはかなり甘々だし、実際自分もフラニカを甘やかしがちだと自覚している。
……コトルシィは、どうやら友達という対等な関係になったようだ。何がキッカケでそうなったのかはよく分からないのだが……今度、聞いてみてもいいかもしれないな。
……まあそれはさておき。
こうしてフラニカは妹ポジションを手に入れたのだが……それに異議を唱えるモノが一人いた。
「お兄ちゃん! ぽっと出の不思議少女になんてなびかないで! わたしこそが本当で本物で絶対的な真のお兄ちゃんの妹なんだから!」
……そう……昔、日記を読んで呼び出し、今は牧場の管理を一人で行っている影の立役者『妹のマグ』だ。
「ふっふっふっ、そう! わたしこそが真の妹!
幻の5人目! グランドオーナー! 妹のマグ!」
真の妹の意味もわからんし、ザ・グランドオーナーに至っては本気で何一つ理解できない。
というかなんだそれ。
「わたしがいっつもどこでお仕事してるのかくらいお兄ちゃんなら知ってるでしょ?」
……それは、そうだな……マグには牧場でとある仕事を任せている。その主な目的は……グウェンちゃんを大量に増やすというものだった。
「そう! このわたしこそグウェンちゃんランドの管理人! アイアムオーナー!
グ(ウェンちゃん)! ランド! オーナー!
……なのよ!」
……あー、それで縮めてグランドオーナーってことか……いや、知らんがな。
「もう、お兄ちゃん? なんかわたしの扱い雑じゃない?」
ならばもう少し落ち着いてくれ……。
ハイテンションフルスロットルを相手するのは非常に疲れるのだ……。
「わたしはいつだってアクセルベタ踏みのお兄ちゃんエンジン全開だよ!」
……そうか……それは、……良かったな……。
マグの全てを振り切るハイテンションに全てを諦め、考えることをやめた……。
――――――
「マグちゃんvsフラニカちゃん 〜最強妹決定戦〜
真の妹を決める戦いが……さあ、始まるわよー!」
……どうしてこうなった……?
日差しの気持ちいい落ち着いた昼下り。そこに突然ソフィの軽快で意味不明な開会宣言が襲いかかる。
「進行役はもちろん! みーんなのお姉ちゃんこと、ソフィお姉ちゃんがお送りします!」
……もう一度言おう。どうしてこうなった。
「どっちが本物の妹キャラかをこの際ハッキリさせちょおうってね! さあ、勝負だよフラニカ!」
「……メノ、負けない……!」
意味がわからないのだが二人の間では通じ合っているらしい。
「……メノもよくわからないけど、とりあえずがんばる」
そうなのか……まあ、とりあえずファイト……?
「うん、応援してて」
「あーずるいよ!! ここぞとばかりに妹力を見せつけてえ……!」
マグが何やら因縁を付けているようだが、別に不自然さの欠片も無かっただろうに……。
「……ふふんっ……♪」
……どうやらあながちマグは間違いでも無かったらしい……。
なんなのだ……この二人の中で何が通じ合ってるのだ……?
「お兄ちゃん! 妹の力を舐めないでよね!」
だからそれが理解が出来ないのだ。
「はいはい、それじゃあそろそろ本戦に行きましょうか〜」
色々着地点が分からなくなっていた所でソフィが司会の本領を発揮。
こういう時のまとめのうまさは流石お姉ちゃん代表ソフィだなあ……。
……それで、本戦とは言ったが何をするんだ?
「……メノ、ぜんぜん知らない」
「それはもうわたし決めてるよ!」
それじゃあマグに有利すぎやしないか……?
……いや、レベル差を考えたらそれくらいのアドバンテージは必要か……。
「メノはへーき。それくらいじゃなきゃ……面白くない」
「そのマンシンで足元をすくわれないことだね!
それじゃあ本戦の内容を発表するよ!
お題は〜……スキルレベル三番勝負だよ!」
……スキルレベル……? それって、それこそレベル差がモノを言う勝負なのでは……?
フラニカのレベルは45……対してマグのレベルは7程度……この差は歴然。
ましてや、三番勝負なんて……マグの勝ち目が全く見えないのだが……。
「メノもそー思う」
「ふっふっふっ……そう言ってられるのも今のうちだよ!
それじゃあソフィお姉ちゃん! ルール説明お願いね♪」
「はいはーい! えっと、これを読めばいいのね?
ルールは簡単! 順番に一つスキルを言って、そのスキルレベルの高い方が勝ち!
これを三回やって、多く勝ってた方が最終的な勝者……ベストいもーとよ!」
ベストいもーとが何かを理解は出来ないのだが大体は理解できた。
……しかし、本当にこれにマグの勝機はあるのだろうか……?
「もー、お兄ちゃんは見る目が無いね! まあ見てて、すぐに目にもの見せてあげるんだから!
……あっ、先行はわたしが貰うわね! それじゃあいっくよー!」
「……メノ、……負けない……!」
こうして、理解不能な妹なるモノの闘いの火蓋が切って落とされるのだった……。
――――――
「先行はわたし!
やっぱり、妹と言えばお兄ちゃんのことをどれだけ理解できてるが重要だよね! そして、お兄ちゃんと言えば信仰スキル! まずは信仰スキルで勝負だよ!」
「……たしかに、しゅー様のと言えば信仰……って気がする」
ほう……信仰スキルですか……。
「シュトさんの目が鋭くなった……!」
信仰スキルは時とともに強化されるもの……つまりこれは、どれだけ長い時間をともに過ごしてきたかが重要なスキルなのだ。
「ということは……マグちゃんにもまだ勝機はあるってことかしら……!」
マグはソフィに次いで長い時間を過ごしてきた仲間だ。時期で言うと大体イルミカと同じくらいの頃だったか……そう、実を言えばマグは結構な古参なのである。
それに対しフラニカは最近加入したばかり……これはマグの前言通り、良い勝負が見られるかもしれないな……!
「……なんだかんだ言って、シュトさんもノリノリなのね」
「ぜったいに負けない……! メノの信仰レベルは……55……!」
流石レベル45……最近加入したばかりとは言えスキルレベルはとても高い……これはマグには厳しいか……?
「………………。
……ふっふっふっ……勝った! 信仰スキル69!」
……なんと、これは驚異の数値が飛び出した……!
「……うん、この勝負は……。
……第一回戦! マグちゃんの大勝利よ!」
「なっ……メノが、……負けた……?」
なんとも熱き接戦……これを制したのは、勝機の無いと思われていたマグであった。これが年功の為せる技か……。
これはマグの言う通り、認識を改めなければいけないな……流石マグだ……!
「ふっふーん、もっと褒めても良いんだよ! お兄ちゃん!」
「ぐぬぅ……くやしい……次こそは、……勝つ……!」
フラニカの眼に火が灯る。ここまで本気のフラニカは中々お目にかかれないかもしれない……。
「次はメノの番……! メノはしゅー様の為にたくさんがんばる。しゅー様の盾になる……!」
「つまり、次は盾スキルで勝負ってことで良いのかしら?」
「うん、……メノの盾スキルは31。これは、メノの勝ち……!」
メノは戦闘において盾と召喚術、狂気付与を得意とする。つまり盾スキルは得意分野という訳だ。
一方マグは普段は牧場で働いていて戦闘には出ていない……見事に弱点を突いたという訳だ……。
「くっ……わたしの盾スキルは3……。……仕方ないから、この勝負はあなたに譲ってあげる……!
……でも、次はそうはいかないんだから!」
「第二回戦勝者は! フラニカちゃん!」
圧倒的過ぎるレベル差。考えてみればこれは当然の結果であった。先程の信仰スキルが異端だったのだ……本来ならばこの圧倒的レベル差によって、マグの勝機などありはしないのは明白であった。
また信仰のようにマグに有利なスキルなど、そうあるものではないだろう……恐らく、次の勝負も……。
「…………こうなったら、わたしも本気を出すしかないみたいだね……!
最後はわたしの本職……遺伝子学スキルで勝負よ! わたしの遺伝子学は68! さあ、あなたのレベルはいくつかしら!」
「メノの……メノの遺伝子学スキルは……あれ、ない……遺伝子学スキル……ない……」
ああそうか……! マグは牧場で働いている、グウェンちゃんランドの管理人グランドオーナーマグなのだ! 牧場での仕事で遺伝子学スキルは通常ではありえないほどに鍛え上げられている……!
それに、遺伝子学スキルは通常獲得している者は少ないスキルだ。このマグでさえ、巻物を使い習得させたものである。
これは例えフラニカが遺伝子学を習得していたとしても、マグに勝つことは出来なかっただろう……。
完全完璧なる、マグの勝利であった……!
「……第三回戦勝者は……マグちゃん……!
よって最強妹決定戦スキルレベル三番勝負の勝者は……マグちゃん!!」
ソフィの宣言に合わせ、どこからともなく紙吹雪と拍手歓声が降り注ぐ。
まさに激闘……大番狂わせ……! とても手に汗握る熱き闘いであった……!
「わたしの勝ち!! これでわたしが、最強の妹だよ! お兄ちゃん!!」
「……メノが……。……メノが、……負けた……」
握りこぶしを両手にし天に突き上げるマグと、ガクリと崩れ落ちるフラニカ……。
これで、妹キャラ最強は決まった、ということみたいだな……。
「……フラニカ……うん、ナイスファイトだったよ!」
「……マグ。……そっちこそ、いい闘いだった……!」
闘いの最後は、両者の笑顔の握手で……。
「これにて、マグちゃんvsフラニカちゃん 〜最強妹決定戦〜 へいかーい!! 皆さん、ありがとうございましたー!!」
――――――
……で、マグの勝ちであの場は終わったんだけども……結局、勝って何か変わったの?
「うーん、そうだね……まずはわたしが妹たちの中で一番上の最強だっていうのが決まったね」
それでフラニカはその下についたと……。
「……? しゅー様、何言ってるの? メノ、別に妹じゃない……」
えっ、じゃあ……?
「……別にメノ、下でも上でもないし関係ない」
……じゃあ、今までのあの闘いって……。
「うん、特に意味は無かったよ! わたしもビックリしちゃった! 別にメノは妹じゃないって言われてねえ……それじゃあさっきやった意味無いじゃん!! ってねー」
……はあ……? えっ……? ……はあ?
つまりは、全部、茶番だったと……?
「うん! でも楽しかったから良いでしょ!」
「メノ、とっても楽しかった……マグ、また遊ぼ」
「うん! フラニカちゃん、また遊びましょ!」
……最初から最後まで、この二人は理解不能だったな……。
……でもまあ、この理解不能な妹なるモノたちが、
この二人が、楽しそうなら……それで良かった……。
そんなことを一人思いながら、我が家のお風呂場を目指して足早に歩いていく……。
ああ、温泉よ……!
疲労も徒労のやるせなさも、妹なるモノたちの狂気も、全て洗い溶かし流しておくれ!
――――
その日、我が家の温泉からは、声にならないうめき声だけが、いつまでも、いつまでも、響き渡っていたのであった……。