エヘ狂猫の日誌集   作:エヘ狂信者の猫

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メノコトモンドー

「メノ、ふしぎに思ってるの」

 

 ポリポリと音を立てて菓子を食しながら、メノウィは呟く。

現在ワタシたちは、メノウィの自室で菓子を食べて雑談をする――所謂、女子会と呼称される物を行っています。

この会には、大切な友人であるメノウィと親睦を深めるとともに、お互いに知識や疑問を共有し、周りの人たちの行動などを理解し慣れ親しめるようにすするという目的があります。

 

「ソフィお姉ちゃんは、とってもすきすきで溢れてる……しゅー様にもそう、しーちゃんにも」

 

 メノウィの言葉に静かに頷き続きを促す。

メノウィの疑問は、新しい知識の発見に繋がることが多く、とても興味深く聞いてしまいます。

 

「メノやルミカやらんちーにも、すきすきしてる。ちょっと、すきすきの感じはちがって、なんというか……しゅー様としーちゃんはとってもトクベツって感じだけど。

でもみんなタイセツって思われてる感じする」

 

 それは恐らく、恋愛感情の差でしょう。

お姉様は、ワタシやマスターを心から愛してくれていますから。

もちろんお姉様は、ここにいる皆のことを愛して、大切にしてくださっていますが。

 

「うん、メノもそう思う……でも、そこはいいの。

問題はしゅー様。しゅー様……お姉ちゃんのことすきすきって思ってるのに、お姉ちゃんみたいにくっつかない。すきすきって感じ、あんまり見せない」

 

 ……なるほど、確かにマスターはあまり積極的にお姉様を抱きしめたり口づけをしたりと言った直接的な愛情表現をしない傾向にありますね。

 

「そう、ぜんぜんすきすきでラブラブなことやってない……しゅー様、お姉ちゃんのことがすきすきなのに。

でも、お姉ちゃんはそれなのにすきすきのまま。

それに、ふつうにお話してるだけなのに、しゅー様のすきすきとお姉ちゃんのすきすきが、とってもおっきくなることがあるの。ぎゅーもちゅーもしてないのに、ふたりともちょっと変」

 

 それは、特別な行動ではなく、いつも通りの平常な日常を二人で過ごせていることに、幸福を見出しているからではないでしょうか。

何も変わっていないように見えますが、その変わらないということが二人にとっての喜びなのでしょう。だから、表面上は何も変化が無いのに内面だけ膨れ上がるのでしょう。

 

「……うーん……メノ、よく分からない……二人はそうなの、かなあ……」

 

 菓子を頬張りながら難しそうな顔をするメノウィ。

話を聞いていて察するようにメノウィは、深い所にある感情を察知する能力に長けています。

それ故に感情の動きそのものには敏感なのです。

しかし、感知するものがとても感覚的なもので具体性が無いからか、その動きがどう言った理由で起こり言動とどんな関係性を持っているのかを理解することは出来ていません。

 

 感情の動きに敏感なようで、ある意味では鈍い。

感情に対しては鈍く、行動の解析においては優秀であるワタシと、彼女のそれは正反対と言えるでしょう。

しかしだからこそ、メノウィの豊かな感受性から来る気付きはワタシに大きな刺激を与えますし、メノウィの疑問を解析することによって、メノウィも疑問を解消することができるのです。

 

「……でも、メノもしゅー様と二人でなんもしないでボーってしてるの、けっこうすき。

なんも面白いことしてないのに……これと、似てる……?」

 

 恐らく、そうなのではないでしょうか。

特別なことをしていなくても、一緒にいれるだけで嬉しい。それが愛情を増大させるのでしょうね。

……ワタシも、お姉様といる時によく感じます。

 

「……そっか、うん……いっしょにいるの、メノもすき。なんとなく、分かったきする。ありがとー、しーちゃん」

 

 満足そうに頬を緩ませるメノウィに、それは良かったと伝えてお茶を一口する。

刺激や発見という利点もありますが、やはり自身の知識でメノウィを助けられたということが、一番の喜びでありやりがいであると感じますね。

 

――――――

 

「あっ、そうだしーちゃん」

 

 コップに入ったジュースを飲み干して、呼び掛けてくるメノウィ。

 

「わすれてた……メノ、まだふしぎに思ってることあるんだった」

 

 新たなメノウィの疑問に、菓子に伸ばした手を一度止め、控えめな好奇心を抱きながらメノウィを見やる。

 

「しゅー様もそうだけど、ルミカも全然すきすきラブラブってやらない……でもほんとうはすきすきですきすきでしょーがないって感じなの」

 

 ヨルのことですか……ヨルはマスター以上に捻くれてる所がありますからね。

……しかし、ヨルの胸中をこのように暴くのは、なんだかあまりよろしくない気がしますね……。

 

「そうなの? しーちゃん……ルミカ、なんでガマンしてるの?」

 

 ……そうですね、少し難しいですが……。

ヨルは、直接的な表現を敢えて避け、間接的に表すことに価値を感じていると思われます。

 

「……うーん、つまりルミカはカッコつけ……?」

 

 いえ、そうでは……いや、ある意味ではそうかもしれませんが……。

ただ、ヨルのそれは単純な趣味嗜好を超えている気はします。

生き方にまで影響を受けているような……その理由まではワタシには分かりませんが。

 

「やっぱり、カッコつけ……? でもメノ、ルミカとってもカッコいいと思う……! いけめん……クール……!」

 

 腕をぱっぱと上げてカッコよさの度合いを表現するメノウィ。その姿にほのかに胸部に温かさを感じながらメノウィに同意する。

ヨルは、そのクールなイメージをとても大切にしている傾向がありますからね。

 

「ルミカ、カッコよくて面白い……もっともっとカッコいい」

 

 ヨルはクールとユーモアのバランスがとても上手ですからね。いつも、周りの評価や状況を冷静に見れているといいますか……。

……そう考えると、ヨルが間接的表現を好んでいるのも、それが行動原理レベルであるのも、そういった所から来ているのかもしれませんね。

 

「ルミカが、みんなが見てるの分かってるから、ルミカはカッコつけてるの?」

 

 そういうことなのではないでしょうか……常に冷静であるが故に、クールや格好良いといった周囲の目や評価に沿った行動を取るようになっているのではないかとワタシは考えます。

……断言することは出来ませんが。

 

「むずかしいこと、よく分からないけど……ルミカ、いつも気にしてるのかな。それってすごいってメノ思う……やっぱりルミカ、カッコいい」

 

 良き友人への尊敬の思いを込めた眼差しを、彼女の部屋の方角へと向けるメノウィ。

 

「……でも……メノやっぱり、ちゃんとしゅー様にすきすきいっぱいでラブラブしていいと思う」

 

 そのことに関してはきっと、大丈夫ではないでしょうか。

 

「……? どうして、しーちゃん」

 

 マスターは人の感情を察して行動するのがとても上手ですからね。ヨルの内に秘めている思いというのも簡単に察してくれるでしょう、マスターならばきっと。

 

「じゃ、二人っきりのときはラブラブなの……?

ラブラブで、すきすきなの?」

 

 マスターが察した後の行動については不明です。

ただ、そこから先の詮索などしてはならない、とお姉様に教わりました。

……ワタシたちは、ここまでにしておきましょう。

 

「……うん、そうだね。お姉ちゃんが言うんだったら仕方ないね……ちょっと気になるけどガマンガマン」

 

 あの好奇心に満ち溢れたメノウィがその興味を抑え、自らの意思で自重するとは……流石はワタシのお姉様と言ったところでしょう。

 

 お姉様素敵……! お姉様大好き……! お姉様のこと……心から愛しております!

 

「……メノ、しーちゃんのすきすきはもっと抑えた方がいいと思うな……」

 

 元々が冷めている目をさらに1,2℃くらい冷やしたような目でメノウィはワタシを見つめる。

だがお姉様を想うこの眼差しの前では、所詮メノウィの冷ややかな眼差しなどでは太刀打ちできる訳ないのであった。

 

――――――

 

 時は過ぎ去り、宴もたけなわな頃。

メノウィとワタシは、話題も尽き、無言のままただひたすらに菓子を貪り食う。

今この空間に存在するののは、菓子を食べる咀嚼音とコップにジュースを注いで飲み干す音だけであるのだった。

 

「…………これ、なやんでたけど」

 

 唐突に、メノウィはが口を開く。

伏せがちなその眼差しには、何かを躊躇している者たちのそれとよく似通っていた。

話を進めさせる為に無言でメノウィを促す。

 

「……しーちゃんって、さあ……しゅー様のこと、どう考えてるの?」

 

 メノウィのどう……とは、今回の話題の流れ的に恋愛感情についてのことでしょうか。

 

「メノ、しーちゃんがしゅー様のことすきすきなのか、よく分からない」

 

 ……そうですね、ワタシ自身の考えで言えば、マスターのことは尊敬していますし、心から信頼していますし、マスターには絶対の服従を誓っています。

ワタシは、マスターに命じられればなんでもします。ワタシはマスターの為にマスターによって生み出されたモノなのですから当然です。

 

「じゃあしーちゃんは、しゅー様のことすきすきじゃないの?」

 

 マスターに対して、お姉様へのものと同じ恋愛感情をワタシが抱いているとは思えません。

しかし、……これがよく分からないのですが、尊敬、安心……? に類似したような、少々不明な感情をマスターに対して抱いているような節があるのも事実です。

 

「しーちゃんも、よく分かってないの?」

 

 そう、ですね……。ワタシもよく分かっておりません。

 

「ふしぎだね、しーちゃん。……しーちゃんのそれが、分かったらいいね」

 

 ええ、……はい……。

……ありがとうございます。

 

「ところでしーちゃん? これもずーっと言うか考えてたけど。しーちゃん……なんかちょっと遠いって思うの」

 

 ……遠いとは、どういうことでしょうか……?

マスターと従者の適切な距離感を保っているとワタシは思うのですが。

 

「うーん、じょーずに言えないけど……しーちゃんはしゅー様のこと、とっても信じてる……よね?」

 

 それは当然です。マスターはワタシのマスターですので。

 

「うん。……でも、しーちゃん、しゅー様からいうもすこし離れてるよね?」

 

 ……そうなのでしょうか……? 意識したことはないのですが……。

 

「……しーちゃん、最近いつしゅー様のとなりにいた? なんもお話しないで、ずっとしゅー様のそばにいることあった?」

 

 メノウィに言われ、記録の海を漁ってみるも、そのような記録は残っていなかった。

……なるほど、確かにあまり近いとは言えませんでしたね……。

しかし、そのようなものが無かった所で、何か影響はあるのでしょうか。

 

「メノは、すっごい大事って、思う。みんな、とっても信じてると、一緒にいたくなるって思う。

お姉ちゃんもルミカも、しゅ―様といつも一緒。

なんでもない時、となりにいる。なんにもしてなくても、ずっとそばにいる。

でも、みんなすきすきラブラブしたくて一緒にいるのとはちょっと違くて……とっても安心して、きもちよくて、ゆっくりしてて、……メノもそんなふうに思ってて」

 

 ゆっくりと、そしてしっかりとしたメノウィのその言葉に、静かに耳を傾ける。

 

「信じてるひとのそばにいるって、いっぱいあたたかくなるって思う。メノ、お姉ちゃんもルミカもらんちーも、そしてしーちゃんとも……みんなとそばにいたいってとっても思う。

みんなもたぶんそう思ってるから、きっと、そういうのなんだと思う」

 

 信頼している人には、そばにいたいと思う……ですか……。

確かに、お姉様のそばにいて安心したり、ヨルと話していて落ち着いたり……そういう体験はありますね。

 

「うん、みんなそう。たぶん。

……でも、しーちゃんは信じてるって言ってるのに、そういうことしない……たぶん、しーちゃんが気づいてないからだってメノ思う」

 

 ……意識したことは、無かったですね……。

 

「うん、だからメノ……しーちゃんはもっとしゅー様に近づいていいって思う……あんまりこういうの分かんないけど、ますたーとか、そういうの関係ない感じで、たくさんとなりに行って、きゅって近くになって、すとんとかすりすりとかぎゅーっとか、しゅー様にやっちゃえ」

 

 …………そう、……ですか……。

……メノウィの言う通り、それが自然なのだとしら、それで何か得られるものがあるかもしれませんね……。

 

「うん……! やっちゃえ、しーちゃん」

 

 楽しそうな笑顔で腕を振り、後押ししてくれるメノウィ。

……分かりました。今度からは意識して、マスターとの距離を近づけてみようと思います。

 

「ふぁいと……! しーちゃん、なにか分かったらおしえて、ね……♪」

 

 ……ええ、もちろんです。また、次の女子会で……必ずしますね。

身を乗り出して握ってきたメノウィの柔らかな手をそっと握り返し、笑顔で約束を交わすのでした。

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