ポリポリポリ……。
気品のある和室には似つかない、スナック菓子を頬張る音が響く。
「ふむ、やはりこの揚げ芋の菓子は美味じゃのう♪
薄く切られておるから、揚げ物のこのさくさくとした食感が引き立てられておるわ」
サイバーチックなこの菓子をあのカタカナ嫌いなランカがここまで気に入るとは思わなかったが、どうやら趣味嗜好までには含まれていないらしい。
……しかし、今のランカの格好を見ると、いささかはしたない食べ方では無いかと思わずにはいられない。
「……むう、良いではないか寝っ転がりながらくらい。この食べ方は最高に堕落しておって幸せぞ?」
その堕落しているのが駄目なのではないか……。
布団に寝っ転がりながら菓子をつまむ。
確かに、一度は憧れる食べ方ではあるのだが、淑女……しかも高貴な神であるランカがやるものでは無いと思うのだ。
……フラニカはやりそうだが。
「別にここは天界でもないし、神としてのわらわを知る者もおらんしの。神だからどうこうと言うのは気にしなくても良いじゃろ?」
……まあ、普段のランカを見ていても、神性の欠片も見当たらないし……今更の話だったか。
「ぬし、地味に気にしておることをずばっと言うのはやめてくれぬか?」
バサッと身体を起こし抗議するランカを、自業自得の一言で切り捨てる。
「……はあ……わらわもくろを見習って、くぅるびゅうてーを目指してみるかのう……。
……あっそうだぬしよ、そこのお茶を取ってくれるかの? あとそこの漫画本も」
……クールビューティーなランカが見れる日はまだまだ遠そうだな。
はいはい、どうぞ。
「ぬしよ感謝するぞ♪ でもやっぱり、こういう生活はやめられぬよ〜わらわは本当に幸せぞ!」
ランカが楽しいなら良かったよ。
仲間が楽しく幸せに暮らせるようにするのは、主人の義務だからな。
「本当に、ぬしには良くして貰っておるな。いつも甘えさせて貰っておるし、こんな住心地の良い部屋まで用意して貰ってなあ……そう、入口の鳥居もとても良い感じぞ♪」
ランカの部屋は皆とは少し離れた中庭の先にある。
その離れに何となく特別な雰囲気を感じ取ったので母屋と繋がる廊下に鳥居を立ててみたのだ。
どうやら、それが功を奏したようだ。
「ぬしのその思い付きのお陰で、神性パワーがここら辺に着実に溜まっておるぞ!」
そう言ってよく分からない部分を指差すランカ。
まあこれは特にツッコミは入れず受け流しておこう。こういう場合のランカは大体適当なことを言っていることが多い。いちいち相手にはしない。
「む、少し冷たくはないかのう……まあ良いか。
しかし、神性が溜まっているのは本当ぞ? ぬしの感じ取った特別感こそが、丁度いい神性を生み出すのじゃよ」
神だからこその感覚だろうか。下々の民である自分にはよく分からないが、ランカがそう言うのならばそうなのだろう。
「まあ、わらわはあまり神性とかは求めてないがのう……変に畏まられても困るじゃろ?
しかし、最低限はあった方が楽だし……そこら辺の釣り合いを取るのは難しいのう」
これも神ならではのものだろうか。
しかし、ランカが畏まられることを避けているということは何となくだが察していた。
あえてその怠惰で適当な姿を見せて、フランクに接するようにしている節があるからだ。
「流石ぬしじゃのう、わらわのことをよく見ておる♪
わらわ、あっちでは畏まられてばかりで、気軽に接せる相手など居らんかったからのう……」
ランカは大袈裟に物憂つげな表情でわざとらしく溜息を吐く。
……まあ、ランカの性質を考えれば、それが本人にとってどれほど退屈であったかは想像に難くない。
「そうなのじゃよ! 分かってくれるかぬしよ!
わらわ、これでも高位の神様だからのう。もう、色んな奴らから尊敬と畏怖の念を抱かれて! もう困った困った!」
身振り手振りと一緒に大袈裟すぎる物言いをするランカにああすごいすごいと適当な相槌を打つ。
正直全く信じていないのだが、これを責める人間などいないだろう。
「なんじゃ、信じておらぬのか! 全く、これは本当なんじゃぞ! わらわとっても偉い神様ぞ!?」
ここに一人いたか。
まあ、そこまで言うのなら話半分までは信じてやろうか。
「……むう、なんだか腑に落ちないのだが……まあよかろう。
そんなこんなで、わらわはあっちじゃとっても退屈しとったのじゃよ。話し相手は畏まりまくった世話係しか居なかったからのう……」
……神様友達とか居なか――。
「そこ、うるさいぞ?」
――はい。
……しかし、あっちでは世話係が居たのか。まあ、何となく想像は出来るけども。
「そうだのう、結構沢山居ったぞ? わらわの世話係は」
まあ、アレやってコレやってばっかりなランカのことだし、それくらいの人員は必要だったんだろうなあ。
「……なんか、言葉に少し棘がないかのう?
まあ、確かにあっちでも沢山甘えさせて貰っていたな。……あまり満たされはしなかったがのう」
……ほう? そんなに沢山の人に世話をさせていたのに満たされなかったのか……それまたなぜ?
「うーん、やっぱり畏まられてたからかのう……何というか、義務感? そういう感じで、温かみが無かったのじゃよ……」
ランカは、ただ世話をされたいという訳では無いということか?
「まあ、そうだのう……やっぱり、お互いに気持ちよく甘えたいのじゃ。こう、甘えられて嬉しい、喜んでくれて嬉しいという気持ちを抱いてくれる方がわらわは好きかのう……」
そうか……何となくだが、ランカの想い描く甘えるというものを少し理解できた気がするな。
「ふふっ、そうか? ぬしは賢いのう……」
大人な、優しい微笑みを溢しながら、ランカは目を細めた。
……普段とのギャップに、少しドキッとしてしまったことは秘密にしておこう。
「むっ、どうかしたのかぬしよ?」
いや、何でもない。
……しかし、ランカが自分で出来るようなことも人に任せて甘えてくるのは、そういう温かさを求めているからなのだろうな。
神をも凌駕する超速の持ち主であるランカに掛かれば、言葉を発する内の時間で行動を終わらせることもできるのだし。
「そうじゃな、大体そんな感じよ。
ぬしは本当に温かいからのう……何度も甘えてしまうのじゃよ♪
それに、待つ時間というのもとても楽しいものぞ?
のんびりと温かさを味わいながら、うきうきと待つのは本当に素晴らしいのう♪」
いつもいつも、物を頼み終えると上機嫌にして待っているなとは思っていたのだが……そういうことだったのか……。
超速の持ち主だからこそ、そのゆっくりとした時間を大切にしているのか。彼女の気質がそういうゆっくりとしたものなのも、それに近いのだろうな。
「いやはや、しかし……ぬしもそうじゃが、ここにいる者たちはみな本当に温かいのう……。とても心地良い場所じゃよ、ここは……」
気に入ってくれてなにより。仲間の皆ともちゃんと打ち解けられたようで良かったよ。
「みな、本当に温かいからのう……いつも気にかけてくれるし、とても気楽に接してくれておるし、本当に仲良くさせて貰っておるよ……」
ランカが天界時代に求めていたもの、どうやらそれはここで得ることができたようだな……。
「本当じゃな……♪ みな本当に凄い者たちじゃ。
優しくて温かくて楽しくて……そんなみなと出会えてわらわ幸せ者じゃのう♪」
良い奴らだからな、うちの仲間たちは。
すぐに仲良くなって打ち解ける……皆を思いやって、皆を認め合って、皆を愛する……それが出来るということは自分も本当に凄いことだと思う……心から誇れる自慢の仲間たちだよ。
「ふふっ、ぬしは本当にみなのことが大好きじゃのう……わらわもみなのことが大好きじゃ♪」
それは良かったよ……。
……まあ勿論のことだが、その仲間にはランカ、お前のことも含まれているからな。
「……ふふっ、そうか……それは嬉しいのう……。
わらわ、ぬしのことも好きじゃぞ♪ 甘やかしてくれるしのう! いつもありがとうな、わらわのぬしよ♪」
はいはい、こちらこそありがとう、ランカ。
温かさに満ちたこの和室で、二人の猫はゆっくりとこの時間を味わうのであった。