「……行きます。ライトニングボルト……!」
トルシィの掛け声と共に夜の荒野に雷鳴響く。
マナから生成された稲妻は、眩く輝き宙を裂く。
「ヨル、どうですか? 上手く詠唱できているでしょうか」
ああ、よくできているよトルシィ。マナの変換から発動まで、どこも問題無くできている。
結構魔法のセンスあると思うよ、トルシィ。
「それなら良かったです、ありがとうございます」
ボクは今、トルシィに頼まれ彼女の魔術詠唱訓練を監督していた。
戦闘面では銃使いとしてこれまで活躍していたトルシィなのだが、意外なことにトルシィには魔術師の素質もあったのだ。
トルシィはふぅと一息つくと、手に持った魔法書を静かに閉じる。
そう、トルシィは魔法書を媒体に魔術を生み出す魔法書使いなのだ。
トルシィは元々読書好きだからか、魔法書から魔術を生み出すのがとても上手いのだ。
「……しかし、実際に使ってみて分かりましたが、魔法とはここまで大変なものなのですね。ヨルの詠唱の精密さには脱帽します」
ふふっ、まあボクはベテラン魔術師だからね。
「ヨルは何の補助も無しにマナを魔術に変換できますからね。ワタシには到底真似できません」
まあ、一般的な魔術師は魔法書で予めマナ変換の鋳型を作るか、魔法書から直接マナ変換をするからね。
ボクのようにマナをそのまま魔法にできる者たちは、種族や職に根付いた秘伝だったり、生まれついての個人の才だったりで少ないんだよね。
……でもまあ、逆にボクは魔法書を読めないから、トルシィのような詠唱はできないんだけどね。
「その上ワタシは、マスターから頂いたこの指輪の補助が無ければ詠唱できませんから、より一層ヨルの実力の高さを実感しています」
そう言って、トルシィは右人差し指に着けた指輪を撫でる。
美しい青空を思わせるターコイズがあしらわれたその指輪は、何でも古代人が魔術や呪いに使用してた物を再現して造られたらしい。
この指輪にはマナを引き出す力があるようで、トルシィのマナと魔法書をリンクさせる役割がある。また、魔法の威力を増幅する力もあり、トルシィの詠唱に無くてはならないアイテムなのである。
「★《ターキーストーン》ですか。マスターの話では、天候に関する呪術に使われていたとか。あとは旅の御守りとかにも使われていたらしいです」
天候……確か、ターコイズには天候に関する力が秘められていると聞いたことがあるね。それが関連してるのかな? 昔から、石と魔術には深い関係があるとされているからね。
そうすると、石を利用して魔術を使うということは自然であり、トルシィの指輪と魔法書を使った詠唱スタイルは王道と言えるのかもしれない。魔石を使った杖とかもよくあるしね。
「そうなのですか……? しかし、確かに石による影響は強く感じますね。この石が天候に関わる物なせいか、ワタシが詠唱できる魔法は天候魔法に限定されてますし」
そう、トルシィの使う魔法は少々特殊だった。
天候の力を利用し天候を操る魔法、それがトルシィの使用する天候魔法である。
強力な稲妻を生み出すライトニングボルト、治癒能力を持つ雨を広範囲に降らす治癒の雨、様々な効果を持った霧を発生させる霧魔法などが挙げられるだろうか。
特にトルシィは治癒の雨が得意なようで、仲間たちの体力管理に期待されていたりする。
「攻撃、回復、サポートと一通り揃っているのはありがたいですが、もっと色々なことができていればさらにお役に立てるのに……」
いや、トルシィそれは違うよ。
使える魔法が限定されているということは、その魔法に特化しているということさ。多くの魔法が使えると言っても、それは器用貧乏になりやすい。
逆に少なければその少ない魔法にリソースを割くことができ、磨き上げることができるんだ。
「なるほど、特化という考え方もあるのですね」
ああ、そうだね。
それに、魔法にも個人によって得手不得手はある。
きっと、トルシィは天候魔法の素質がとても高いんだとボクは思うよ。
「……? それは何故でしょうか?」
まあ、そうだね……キミの名前がターコイズを由来としているからっていうのと、キミの髪色がターコイズブルーだからかな?
「確か、ワタシの名前がターコイズ由来なのはマスターから聞きましたね。しかし、名前と髪色ですか……それらは、そこまで魔法に影響される物なのですかね?」
いいかい、トルシィ。魔術や呪いにおいて、名前と髪はとても重要な役割を担っているんだ。
髪には多くのマナが宿る。髪の毛を使った魔術や呪いはどれも強力な物になるね。それだけ、魔術において髪は重要なんだよ。
「ふむ……そうなると、このターコイズブルーの髪が実際のターコイズと結び付けられているのかもしれないという訳ですか……」
そして、名前だね。名は体を表すという言葉の通り、名前とはそのモノの性質を表す物なんだよ。
例え関係の無い名前が付けられたとしても、時間が経つごとに名前は定着してその性質を持たせていくんだ。
言葉という物には力があるんだ。この世で一番簡単な魔術は言葉だよ。放った言葉には強力な力が宿るんだ。まあ、だから言葉には気を付けようってことだね。
「ふむ……魔術とは本当に奥深い物なのですね。でも、そう言われてみればこの魔法たちもしっくり来るような気がします」
そうやって認識することこそが、魔術を強力にしていくのさ。
さあ、これからも魔術の鍛錬に励みたまえ、トルシィ。ボクはいつでも力を貸すよ。
「ありがとうございます、ヨル」
他でもない友人の頼みなのだからね。任せてくれたまえよ。
「頼りにしていますね、ヨル……♪」
そう言って、トルシィは優しい微笑みを返すのであった。
――――――
はいトルシィ、チョコレートだ。熱いから気を付けて飲みたまえ。
「ありがとうございます、ヨル。いただきます」
魔術の訓練を終えたボクらは、すぐに帰宅はせず、夜の荒野で焚き火を囲み、温かなチョコレートを嗜んでいた。
「……ふう、温かくて程よく甘くて、なんだかホッとしますね」
チョコレートは元々薬だったらしいからね。疲れた身体にはよく染みるだろう?
それに、儀式にも用いられていたからかマナとの親和性も高くてね。
「なるほど、このチョコレートにも魔術的な意味があるのですね」
ま、ボクはそこら辺は詳しい訳では無いんだけどね。しらんけど、ってやつさ。
「? ヨルの言ってることはたまによく分からなくなります」
……気にしないでくれたまえ。
「分かりました」
……それにしても、だ。
そう言って、ボクは焚き火に反射し煌めくコトの指輪を見やる。
まさか、あのシュトがキミに指輪を渡すとはね。
「この指輪は魔術用なので、深い意味はありませんよ」
まあそれは分かっているが、それはそれとして異性からの指輪のプレゼントというのは特別だろう?
「そうですね、ワタシも一度確認してみました」
え、ホントに聞いたのかい?
「はい。これはプロポーズですか? と。勿論、否定されましたが」
……キミ、随分と大胆だね……。というか、シュトにそういう気があるのかい? トルシィは。
「いえ、そういう訳では……多分無いと思いますが……」
うん? 珍しく、歯切れの悪い言い方をするねトルシィ。何か気になってることでもあるのかい?
「えっと……正直、よく分からないのですが……」
焚き火をぼんやりと見つめながら、トルシィがポツリポツリ……と、語りだす。
「ワタシは、マスターのことを心から慕っております。それは、マスターがワタシの創造主であり、従事すると決めた相手だからです」
「マスターはワタシのマスターである為、マスターは絶対です。マスターが最優先であり、マスターの命令であれば何でもします。それこそが、ワタシの使命だからです」
……普段からお姉様お姉様言ってたけど、それでもシュトの存在は大きいみたいだね。
「勿論、お姉様も大切であり絶対です。お姉様はワタシの愛する人ですから。これは自分の意志です。勿論、マスターの命令が最優先事項です。……マスターからは、お姉様の方を優先しても構わないと言われていますが」
ふむ、まあトルシィは自由意志がしっかりあるからね。それはシュトも理解してるし尊重しているってことだろうね。
シュトが命令することは滅多にないだろう? トルシィ。
「そうですね。ほぼ、……いえ、考えてみれば戦闘時を除けば一切命令されたことはありませんね。ワタシは、いつでも命令して頂いても構わないと言っているのですが」
そういうことはしたくない、って言うのがシュトだからね。それだけ、トルシィのことを大切にしてるってこった。
「はい、それは感じております。ワタシは大切な仲間で、道具のような扱いは絶対にしたくない、と仰ってました」
そう語ったトルシィの表情は、どこか温かく柔らかいものであった。
……ふふっ、それは良かったね。
「……ええ……はい。……と、言う訳で。ワタシにとってのマスターとは絶対的な主人である、という認識でした」
……過去形、かい? 今は違う、という認識であってるかな。
「今も先程の認識はあります。ただ、それ以外にもあります。ワタシは、読書などから知識を得ることが好きです。その中で分からないことがあれば、ワタシはマスターに疑問を投げかけます。それに対し、マスターは真摯に向き合って応えてくれます」
「ワタシにとってマスターは、ワタシが疑問を持った時、どうすればいいか分からなくなった時、迷ってしまった時、ワタシに心から向き合ってくれて、相談に乗ってくれて、そしてワタシを導いてくれる。そんな、師のような存在でもあります」
師、か……。確かに、導く者という側面はあるかもしれないね。
「マスターからは様々なことを教わりました。ワタシだけでは理解できなかった知識も沢山ありました。ワタシの考え方を大きく変える程の大切なことも、沢山教わりました」
「マスターが居なければ、現在のワタシは存在できません。もしマスターが居なくなってしまえば、ワタシはどう生きていけば良いか分からなくなってしまいます。それ程までに、マスターという師は、ワタシに無くてはならない存在なのです」
そうか……トルシィ、キミという存在にとってのシュトは、主人以上の特別なものなんだね。
「……ただ、あと、それとは別に、どの認識とも外れているような出来事がありまして……」
ほう……? それはどんなものなんだい?
「……えっと、何というか、……何故か、マスターから指輪を頂き、婚約の意味では無いと否定された時、……何故だかは分かりませんが……どこかで、残念に思うワタシが居ました……。何故かは分かりませんが……」
……それは、…………どうなんだろうね、トルシィ。
「……分かりません……」
……所で、そんなシュトに対して、キミは普段どんな感情を覚えるんだい?
それも、良かったら聞かせてくれないかい。
「分かりました。……そうですね、マスターと関わっていて覚える感情ですか……。例えば、信頼感というものは覚えます。マスターには絶対の信頼を抱いていますからね。それに伴って、安心感もマスターと一緒にいると覚えますね」
安心感、か。
「はい、胸中が温かくなります。マスターとそばに居るだけで安心しますし、もっと近くに居たいと思います。ただ、実際に近づくことはあまりありませんが」
ん……? それはなぜなんだい? トルシィ。
「あくまでマスターはマスターなので。適正な距離というものが存在しています。おいそれと距離を近づけることは良くないでしょう」
んー、それはどうなんだろうね? トルシィの好きなようにやれば良いと思うんだが。
「……そうですかね。考えておきます……。……他には、マスターに疑問を投げかけて、それに応えて頂いた時は、多分……嬉しく思いますね」
多分……なのか。確証は無いみたいだけど、なんで嬉しく思うか、聞かせてくれるかい?
「ええ、いいですよ。ヨルの言う通り、確証がある訳では無いですが……恐らく、ワタシに対して真剣になって向き合ってくれていることが、嬉しく思うのかもしれません」
キミのこと、ちゃんと見てくれているってことだからね。そして、キミのことをとても大切にしてくれているって、とても伝わってくる。
だから、嬉しいってことかな……?
「ええ、恐らくはそうかと。……そして、この前は……マスターから本当に大切なことを教わって、ワタシの悩みを、根本の所から教えて頂き解決してくれました……。……その時、……マスターに対して、……どうしようもなく、嬉しく思いました……」
……そっか……。それは、良かったね……。
目を閉じて、その時のことを思い返しているのか、彼女の口元はかすかに微笑みを浮かべていた。
「……それで、何故かは分かりませんが……、……ワタシ……マスターに、抱きついてしまいました……」
…………。
………………?
………………!?
えっいや、急だね!? 確か、適正な距離がどうとか……。
「いえ、いや……これは、まあ……何といいますか…………なんだか、気が付いたらやってしまっていたという感じで、嬉しさの気持ちがいっぱいになって、そしたら……って感じで、とにかく、無意識な行動でして……」
……トルシィのやつ、これってだいぶラブ入ってないかい……? そのままキスしてああしてなんやかんやでエンディングなんじゃないかい……!?
……えっ……と、そ、それでどうなったのかな……?
「あっ、はい。そしたら抱きしめあって、そのままベッドに行きまして……」
うぇっ!? ベッドイン!? えっちょっと……どこまで大胆に行ったんだいキミ!?
「…………? ……すみません、よく分かりません」
……分からない振りかい? カマトトってやつかい? まったく、どこでそんなのを覚えてきてしまったん――。
「――いえ、いや、あの……本当に意味が分からないのです。ヨルの思考が……」
えっ? いやだって、心の底から嬉しくて抱きしめて抱きしめられてそのままベッドに行ったらそりゃあその後の展開なんて……。
「……えっと、そこまで行ったら、二人共眠りに落ちるまで、ずっと抱きしめ続けました」
………………。
…………えぇ? もしかして、ただ寝ただけ……?
「はい。寝ただけです」
……シュトから、なんか他にもなんか……何というか……されなかったのかい……?
「全く」
……あ……、あ、そう……。
「……ヨル、あなた……」
……!? いやまてまてまてまて!!
これは普通の反応じゃないか!?
「……よくわかりませんが、普通に寝ただけです。ワタシは抱きしめられている間、とっても温かな気持ちになりましたし、安心して、すぐ眠れました」
…………なんか、父娘みたいだな……。と心の中で呟く。
「あ、で、えっと……そのとても温かな気持ちというのが、ワタシが覚えた感情ですかね……。……これは、よく正体が分からないのですが……」
……えっ、それ恋心じゃないのかい?
「お姉様とのデートの計画中に、マスターへ恋心を抱く訳ないのでそれは不適切かと」
いや、いいんじゃないの? みんなn股上等してるんだし……。
「いえ、それ以外の可能性もありますし……。ワタシは、マスターに褒められたりマスターのお役に立てた時、とても大変嬉しく思うのですが……もしかしたらそれかも……?」
……うーん、それは普通にマスターから認めて貰えた、マスターの役に立てたっていうことへの喜びな気がするなあ。
「あっ、あと……うーん……でも……」
頑なに恋愛感情ではないと言い張るトルシィ。
まったく、こまったもんだね
「…………ワタシ、マスターから愛情を注いで貰っていて、本当に大切にして貰っているっていうのは分かっています。それを実感した時に、なんだか嬉しくて……あと……温かくて……」
……うーん、ボクが思うに、その温かさこそが恋愛感情なんじゃないのかな?
というか、その前の褒められてどうこうでも、温かくなったんじゃないかい?
「……まあ、確かに……思い返してみれば……最初の方の記憶では全く見受けられませんが、最近の方の記憶ではかなり温かいと感じるようになってますね」
やっぱり、恋愛感情では……?
「いや、えっと……えっと………そうではなくて……ですね……」
だんだんと口調がおかしくなってくるトルシィ。
ちょっと珍しいね……。
「……ワタシにとって、マスターとしてのマスターと、師としてのマスター、がいて、自分の抱いてるこの温かな感情は……えっと、……父性なんじゃないかと……」
トルシィのその言葉で、ボクの思考にブレーキが掛かり、じっくり反芻するようになる。
…………そうかあ……父性、……かあ…………。
……うーん、否定はし切れない……。
「ワタシにとって、導いてくれる存在であるマスターは師のようであり、兄のようであり、父のようである、とそんな風に思っているのかもしれません。まだ良く分かってませんが」
父性と恋愛感情の混同、というものだろうか。難しい所だね。それで悩んでいたのかい?
「ええ、はい……分からなくて……どっちなのか知りたくて、本も読み漁りました。それでも理解できなくて……」
うーん、そこら辺はボク専門外だからねぇ……。
……分かった、そっちは一旦置いといて、逆にシュトからはどう思われていると思う?
「……マスターから見た、ワタシ……ですか……?」
うん、そうさ。シュトからどう思われているのか、考えたことある?
「考えたことは……そんな無かったと思います。でも、なんとなくですが……マスターからの愛情は、娘や家族、生徒といった者たちに対するものと同じような気がしてならないのです」
……あー、シュト、そういう所あるからなあ……。
「大切な仲間だから道具扱いはしない! と言われて、とても心が温かくなりました。……けど、これは仲間だから、……マスターにとっての仲間は家族と言っても過言ではないので、家族扱いを受けている、と思いますね」
ま、それがシュトの良いところだね。
ボクらを家族って迷いなく言ってくれるのはホントに嬉しいよね。
「……結論から言えば、ワタシはマスターから、家族であり生徒のようであり娘のようであり、妹のような存在なのではないかと推測します」
……そこに、恋愛的な要素は無いのかい?
「……感じられません」
…………それは、キミが感じ取れてないだけだったり……?
「それは…………そう、かも……しれませんね」
……なるほど、ね……。
……よし、そうと決まればそんなキミにピッタリの本を渡そう。
「……どんな本なのでしょうか……? ……楽しみですね」
ふふっ、任せておきたまえよ。
期待に応えるべく、あの例の本の置き場を思い出そうとする。
確か……あの棚の一番下の奥の二段目の真ん中辺りに……。
「……それでは、その本を取りに行く為にとりあえずここはお開きにしますか?」
……ん? あっそうだね。
適当に片付けちゃうか。
チョコレートも……ってあっ、冷めてる……。
「ワタシは温かいうちに飲みきれましたよ。とても美味しかったです、ヨル……♪」
ん、そうかい? そう言ってボクは冷めきったチョコレートを飲み干して、トルシィと二人、わが家の自室へと向かうのだった。
――――――
「……これが、ヨルの言っていた本……ですか」
トルシィが、ボクの渡した小悪魔系少女漫画、その表紙をマジマジと見詰めていた。
この本には、思わせぶりな態度、というものが沢山出てくる。
それを実践してシュトの反応を見れば、自ずとシュトからの気持ちも見えてくる、という訳だ。
さあ、これを読んで実践するのだよ、トルシィ。
「……………………」
……ん? どうしたんだい? トルシィ、黙りこくったりして。
「………………。……ヨルも、このような本を読むのですね……少し、意外性を感じました」
……そのトルシィの言葉で、ボクは冷静に状況を考えてしまった……。
「…………ヨル……? どうかなされましたか……?」
…………あっえっ、えっと……いや、あの、そうじゃなくて、なんていうか……えっとぉ……あっとぉ……。
…………そう! これは、好きな作家さんが少女漫画を書いていたと聞いて買ってみたやつで……べつに、ボクが好き好んで買った本という訳ではなくてでね……?
「でも、その棚の下段の奥の二段目の列は全て少女漫画というカテゴリーの物だったと記憶しておりますが」
うみゃあ!?
……その記憶、一刻も早く消したまえ……。
「あ、はい。記憶から消滅させます」
…………あっ……いや……うん……とりあえず、……深呼吸しよう……。
…………ふう、……少し落ち着いた……。
……とりあえず、記憶の消滅まではしなくていいから、……その代わり、今のは誰にも言わないでくれないかい……? おっけー?
「あ、はい。分かりました」
………おっほん……話を戻そうか……その漫画を参考にシュトに思わせぶりな態度をしてシュトの反応を記録してみるといい。
そうすれば、自ずとシュトからの気持ちが分かるようになる筈だから。
「はい、わかりました。ありがとうございます、ヨル」
あ、後のことは自分で考えるといい。 まあ、言われなくてもそうする気なんだろうけども。
「はい、そうですね。……ここから先は自分だけで考えて、決めようと思います」
固く結んだトルシィの表情に、ボクは必ず上手くいくだろうという予感を覚えた。
「相談に乗って頂き、本当にありがとうございます…………いえ、ありがとう、ヨル」
最上級の親しみが込められたトルシィの微笑みに、ボクはなんだかこそばゆくなった。
「……ワタシ、ヨルの親友で本当に良かったって、思います」
…………ふふっ、こちらこそ……キミの親友で良かったと思うよ。
……さ、またいつでも、ボクを頼りに来てくれたまえ。親友の頼みとあらばいつだって、さ。
「ふふ、頼りにしてますね、ヨル……♪」
明るいトーンの言葉と共にやって来たトルシィの楽しげな微笑みに対して、ボクのこの嬉しさを表すように、楽しげな微笑みを我が親友へと返していくのであった。