……これは、……夢か……。
たまにだが、今自分が夢を見ていると自覚できることはあるよなあ、と取り留めのないことをボーっとした頭で考える。
「貴様に金になる仕事をやろう。ある機関からの依頼だ。実験の被験者になって貰う」
……これは……確か、フラニカと出会った日の記憶か……。
「ま、俺に言わせれば被験者というよりかは生贄、だがな。せいぜい頑張りたまえ」
そう言って彼は手を振ると、控えていた機関の者がやって来た。
……そして俺たちは、あの薄暗く血生臭い、悪夢の実験場へと連れられたのだった。
まあ、仰々しく実験などとは言っているが、言ってしまえば、ただのモンスター退治だった。
だがそこは流石、謎の機関の実験モンスター。どれもこれも強力なモンスターばかり。
……というか、所謂外なる神、宇宙から来たモノ、領域外の神。そんな連中ばっかで恐ろしい。
何やってんの、こいつら……。
……とりあえずまあ、仲間たちと協力し一体ずつ確実に撃破していくことで、何とか殲滅していったのであった。
……ってな感じで。そこそこ順調にこの実験をこなしていった訳なのだが……。
一つ、この戦いの中で自分たちの問題点が浮き上がってきた。
それは、圧倒的な耐久不足……! ソフィはまだしも、イルミカとコトルシィの耐久力はかなり低く、ソフィや自分ですら、決して耐久力があるとは言えなかった。
この実験場の強力なモンスターの攻撃は、この低耐久パーティには中々キツイものがあった。
……だからこそ、耐久面に優れた、それこそ外なる神のような強力な仲間が居ても良いかもしれない、と思うようになっていたのだ……。
――――――
……戦いの中で1体、不思議なモンスターと出会った。
そのモンスターは、シュブニグラスと言ったか。
シュブニグラスならば、今回の戦いでいくらでも倒して来たのだが……。
……しかし、そのシュブニグラスは何かが違った。
他のシュブとは違い、召喚するモンスターが妹限定、というのは分かりやすい違いだったのだが。
……それよりも、何か…………どこか、人間味があるというか、……心を感じた、ような気がした。
そのシュブニグラスには逃げられてしまった。なんだかその逃げという行為にも、単純な痛みや死への恐怖とは違った、何かを感じたのだが……。
それはさておき、先程のシュブニグラスを探しながらから残りのモンスターを殲滅していく。
幸いなことに妹を召喚するシュブニグラスはほとんど居なかったので、間違えることは無かったな。
……さて、そんなこんなで残るモンスターは1体。
なんか研究者連中が怒りを露わにしてるが、まあどうでも良いだろう。
なんか、喜んでる奴も居るが……はあ、研究対象として見られるのはいい気はしないな。
血生臭い臭いに包まれて、例のシュブニグラスと対峙する。あのシュブは、妹を幾体も召喚して抵抗した……が、その甲斐も虚しく、そのシュブニグラスはあっという間に追い詰められてしまった。
『………………っ……』
…………やっぱり、このシュブニグラスには心がある。他のモンスターとは、違う。
今のコイツから感じられるのは、悲しみ。退屈。諦め。残念。……そして、孤独――。
――――なあ、お前……仲間になる気はないか?
『………………? ………………』
何だか、じっと見つめられている気がする。
それはまるで、このシュブニグラスに観察されているかのようだった。
しかし、このシュブニグラスの観察の眼は、外野からあーでもないこーでもないと言ってくるあの研究者どもとは、全く異なっていた。
……俺自身を、見定めている。そんな、曇りなき眼をしている気がした。
『……………………』
…………やがてそのシュブニグラスは、ショートテレポートを使って何処かへ消え去ってしまった。
……でもあのシュブニグラスは、きっとまた戻ってくる。何となく、そんな気がした。
――――――
しばらくすると、物陰からひょっこりと桃色の髪の少女が現れた。
……多分、この少女があのシュブニグラスなのだろう。……眼が、同じような気がした。
「…………あなた……強い……? へんな人……人? ねこ……?」
……まあ、猫ではあるが……。
たどたどしい口調で尋ねてきた少女は、何を考えているのか分からないと感じる程、無機質な表情だった。
しかし、その言葉と眼には、あの時と同じように確かな感情が感じ取れたのだった。
「……あなた、オモシロそう……でも、みんなたおした。……わたしも……たおす?」
……その言葉は、こちらの真意を確かめる為の物だろうか。彼女には、全く敵意は無いようで、むしろ好奇心を抱いている、といった感じがした。
だとするのなら、もっとコミュニケーションを取ってみても良いかもしれない。
……今の所、お前を倒す気は無い。ま、仲間にならないか、なんて言ったんだから、元より問答無用で倒すつもりなんて無いんだが。
「あなた……なんでわたし、死なせない? みんな、死なせちゃったのに」
……そうだな、それは…………お前に、感情を感じたから、かな。他のモンスターたちには無い、心、みたいなモノが。
「…………わたし、……ずっと、退屈だった。楽しいこと、したいのに……みんなムシして……みてる人たち、みんなわたしのことみてなくて」
……退屈、か……。
「うん、わたし……もっと楽しいこといっぱいしたいのに。でも、だれもわたしをみてくれない。わたし、ずっと、ひとり」
…………お前はずっと、孤独、だったのか……。
「……でも、あなた。わたしを、みてくれた。わたしを、わたしにしてくれた……。だから、あなたのことが、気になる……」
……そうか……。
「……それに、あなたとっても、へんな人。……とってもオモシロそうで、楽しそう。……だから、……」
「……わたし、あなたについていきたい……いい?」
……ああ、勿論だ……。
俺の仲間に、なってくれ。
「……うん、……これから、よろしく……♪」
――――こうして……実験場で出会ったシュブニグラスの少女フラニカ・メノウィは、俺の大切な仲間になった――。
――――――――
……夢から、醒めたような感覚がした。
まあ、実際にはまだ眠りについているようではあったが……。
あの出会いから、かなりの時間が経ったもんだ。
フラニカは、あれから色んなものを見て、色んなものを感じて、変わった所もあるし、変わらない所もあった。
…………あの時のフラニカは、いつも退屈で、孤独であったらしい。
……今のフラニカは、果たして幸せなのだろうか。
『……………………』
…………? 何か、今気配が……?
……よく感覚を研ぎ澄ませてみれば、誰かが近づいてくる気配がする……。
この感じは、……フラニカか……?
フラニカは、寝ている俺のそばへと、フラフラと近づいて来ている、そんな感じがする……。
……きっと、一緒に寝たい、とかそんな感じだろうか……。……まあ、別にいいか……。
フラニカの気配が隣になって、ほんの少し寒くなって隙間ができて、そこの隙間を温かなフラニカに埋められて――。
『――――おい、アンタ』
その直後、背後から冷たい気配を感じた。どこまでも冷たく、鋭い、殺気。
…………何者だ?
『――わたしのフラニカを、退屈にしたら。不幸にしたら。わたしはアンタを殺すから。覚悟しろよ』
…………ああ、そうか……。お前はフラニカが言っていた……。
……はあ……。……うるさい。……お前になんて言われようが、そんなもん、関係無い。
『――ハア? おい、アンタ。今ここで死にたいのか?』
黙ってろ。
俺は、フラニカを幸せにする。退屈になんてさせやしない。絶対に、だ。
だから、お前がとやかく言うんじゃない。俺は俺がやりたいようにやる、ただそれだけだ。
『…………フンっ、……この外なる神であるわたしに舐めた口利くのは気に入らないけど。……まあ、骨はあるな』
どうも。
『……ハア、分かったわ。……良いよ、認めてあげる。でもそれはそれとして、メノを不幸にしたら個人的にお前を殺す。覚えておけ』
……ずいぶん、妹想いなんだな。
『……………………』
……冷たい殺気が落ち着いてきたからか、フラニカの温かな気配が段々と意識できるようになってきた。
……まあ、そうだな。今度は、面と向かって話をしようじゃないか。
フラニカを想う者同士、な。
『…………ええ、今日の所はおさらばするわ。……また、いつか会いましょ』
…………そうして、彼女の気配は姿を消した。
……まあ、今回はこんな雰囲気でのファーストコンタクトとなってしまったが……。
彼女がどれだけフラニカを大切にしてるのかは、とても伝わってきた。……だからこそ、次会う時はお互いちゃんと話せて、そして良い関係になれそう。
……根拠はそんなに無いけど、そんな予感がした。
…………ちょっとだけ、フラニカを抱きしめる為に、起きようかな。
――――――
「…………しゅー様……? 起きちゃった……? ごめんなさい?」
…………ううん、大丈夫。
「そっか、…………んっ。……しゅー様、なんでぎゅってしたの?」
………………。
…………なあ、フラニカ……。……今、幸せ?
「…………うん……! とっても、……とーっても、メノ、しあわせ、だよ……♪」
……そっか、それは……良かった。
「…………しゅー様は、今……しあわせ?」
……ああ、とっても。幸せだよ。
フラニカのおかげ、だな。
「……えへへ、しゅー様すき」
……そうして二人は、抱き合い温かめ合い、しあわせに包まれて眠りにつくのであった。
「……しゅー様、おやすみなさい……♪」