ぬしが帰ってこなくなった。
……いや、これだけだと語弊が生まれる気がするのじゃが……。
現在ぬしは、大量の金を稼ぐ為に月単位で交易をしておるらしい。確か、安全な交易道を作り出して、大量の交易品を時間を掛けながら売買してるとかなんとか。
わらわたちもついて行くことはあるのじゃが、最近はもっぱらぬし一人で交易をし、わらわたちはぬくぬくと留守番をしておるという訳なのじゃ。
「……いや、それにしてもエグい金額だったよねアレは。交易ロードのゴリ押し具合も相まって、バカなんじゃないの? って素で言っちゃったね」
……まあ、くろのその反応は当然じゃな……。
時間が掛かるとは言え、金銭感覚完全に狂うレベルじゃからのう……。
「金使いは豪快になったよね。まあ、そのお陰で良いアイテムも手に入るようになったし、ボクらの訓練費も潤沢になって強くなれてるんだけどね」
金は全てを解決する、という言葉もあるが意外と当て嵌まったりしてのう。
この世の全ては金と力と愛で出来てるからのう!
あと、時間と娯楽とその他諸々じゃ。
「数行で矛盾するのはやめたまえ」
てへぺろ。
「……まあ、そんなことより今日も色々付き合ってくれないかい? どうせヒマなんだろ、ユキ」
ふむ、それなら今日はぱそこんの二人用遊戯でもやるかのう? くろは協力して探索するやつと、車で競争するやつ、どっちが良いかのう?
「んー、今日は競い合いたいキブンかな。そっちのマルマルカートの方で頼むよ」
了解じゃ、くろは操作機の準備頼むぞ〜。
「はいよ。……それにしても、シュトは良い土産を持ってきてくれたね。確か、アクリテオラで作られた最新のコンピュータだよね、このノートパソコンとやらは」
あまり機械には詳しくないのじゃが……ぬしが言うには確か、元々は計算器だったと言ってたかのう。それが、こんな多種多様な娯楽の詰まった便利な機械になるとはのう……。
「これ一台でゲームも動画も、果てには読書までできるからね。お陰でシュトが居なくても退屈しなくて良いね」
くろの言う通り、何でもできるこのぱそこんのお陰で、わらわたちはぬしの居ぬ間もだらだら楽しくやっている訳じゃった。
主にぱそこんを使ってるのは、わらわとくろ、それにめのうかの? あとは頭を使うやつの時はおこともたまに来たりするのう。
「トルシィは頭が良いからね、そういうゲームが得意なのは当然だね。……ま、流石にこのボクには負けるけどね」
そう言って自信満々な顔を見せるくろ。
頭脳遊戯の時は大体、おこととくろの一騎打ちとなるのじゃ。くろはこう言っておるが、おこととくろの実力は拮抗していて、勝率も半々くらいじゃな。
ちなみに、わらわは一戦も勝てておらぬ……でもこれは仕方ないじゃろう!?
「今の所ボクの方がトルシィより二勝しているからボクの方が上なのは明白だろう?」
おお、おお……流石はくろじゃのう。天才じゃのう憧れるのう。
「ははっ、当然だね」
……何だかんだでくろも、負けず嫌いで子供っぽい可愛らしい所もあるんじゃよなあ……。
「……むっ何だいその目はやめたまえ。ほら、そんなことより早くゲームを起動したまえ。コントローラーはもう用意し終わっているよ」
おお、そうじゃった。それじゃあぽちっとな。
車の描かれた絵を矢印で押してみれば、画面いっぱいに遊戯画面が映し出される。
派手な演出と共に幾つもの車たちが画面を縦横無尽に駆け回り、やがて、でかでかと題名が映し出された。
「さあさあ、二人対戦モードに行こうじゃないか。ccは150でアイテムは通常仕様、ステージはランダムセレクトでCPU込みで8人で良いかユキ」
急に早口で片仮名ましましの呪文を唱えるくろ。
少し前のわらわだったら、速攻で理解を放棄する所じゃったが、遊戯の知識を習得しておる今なら解読も可能じゃ!
しーしーは大体車の速度のことで、あいてむは競争時に使える補助・妨害の道具。すてーじは舞台でらんだむとは乱数や無作為のことじゃの。
そして、しーぴーゆーとは機械が自動で操作する敵役のことじゃ! ふっふっふ、いつまでもわらわを片仮名の分からない化石だと思わぬことじゃな!
「別に思ってはいないけど。それはそれとして相も変わらずカタカナは喋れないよね」
……ぬぅ、それは……あれじゃ、意味は理解できても思い浮かんでくるのは全部和語か平仮名になってしまうというかのう……。
「……まあ、そういうのは良くあるよね。ボクも新規の魔法薬学を勉強している時に覚えが……」
遠い目をしてどこかを見つめるくろ。その後ろ姿には哀愁が漂っておった……。
……って、そんなことより遊戯じゃ遊戯! はよう設定せなければ! 超速で捜査機を動かし設定を終える。これで対戦の準備は完了じゃな!
「うーん、いつみても理解できないレベルの操作速度だねユキ……そのコントローラー入力の速さと正確性をもっと活かせば良いのに……」
まあ、元々速度が超越した高さじゃから当然じゃな! 入力中なんて画面が止まっておるように見えるわい!
「……それ、普通負ける要素無いよね……? 特にアクション系の対戦ゲームは……」
……悪かったのう、操作下手で……!
どんなに画面が止まって見えておっても、その場面に最適な動きを判断できるかと言ったらそうでもないのが現実ぞ……。
……まあ、そんな訳でわらわは、普通に操作の上手いくろと勝敗が拮抗しておるという訳なのじゃ。
「何だかんだ、アドリブ力はあると思うけどね。割と持ち堪えてるし」
うむ、とりあえず褒めて貰えたということで鞘に納めよう。……なんか、操作下手は全力で肯定された気もするがのう……。
「そんなことよりさっさと始めようじゃないか。機体はお互いいつものだろう?」
ふむ、それもそうじゃの。
いつもの機体を選び、舞台も設定して、準備完了!
それじゃあ、遊戯開始じゃ!
――――――
「ハハハ、随分と不用心なトップが居たものだね。後ろが疎かだよ?」
明らかに自動追尾の紅亀を持って後ろに迫るくろ。こちらにそれを防ぐ道具は……存在せぬ……。
「ははっ、それじゃあさよならだ」
ぬううう、くろめえええええ!!
「ククッ、負け犬もとい負け猫の遠吠えほど耳に心地良い物は無いねェ? ハハハハ、ボクがゴールする瞬間をそこで指をくわえて見ているがい――」
ずどーーーーん。
くろが勝利を確信してわらわを煽りつつ、最終周を走破しようとしたその瞬間、背後から一位を刈り取る蒼亀が突撃し煽り黒猫を吹き飛ばした。
ざまあないのう!? のぅのぅ? 今どんな気持ちじゃ!? 勝利を確信した瞬間に敗北が確定して……どんな気持ちじゃ!?
「……まあ、キミも爆風に巻き込まれてるから暫く動けないんだけどね」
追いつけ追い越せの心意気でくろに近付いたのが不幸してしもうた……。
……じゃが、動けないのはくろも一緒……! どちらが先に動けるかの勝負という訳じゃな……!
「まるでガンマンの決闘みたいだね? 瞬発力じゃ負けるが、ボクの集中力と操作テクを甘く見ないことだね……!」
……望む所……!
………………。
「……………………」
――先の派手な乱闘とは打って変わって静寂と集中。動き出せるその瞬を捉え、最高速を叩き出す。
ただそれだけを考えてわらわたちは、最大の集中力と瞬発力を持って感覚を研ぎ澄ませた。
……三、二…………いま!!
「――1、ここだ!!」
くろがわらわより少し遅れて発する。
……が、その遅れこそが最高速を引き出す術なのだろう。上がり続ける加速度を持って、くろは徐々にわらわを追い上げていく……!
……じゃがしかし、わらわは負けん!
わらわには先に走り出した圧倒的優位性があるのじゃからな!
「無駄だよ、最高加速のボクには勝てない! 勝つのはこのボクさ!!」
闘いは激化し最高潮まで加熱。
お互い強く操作機を握りしめ、画面に深く視線を突き刺し……。
……そして、その熱き闘いの勝敗を決す、終着点を表す線に今、触れ――。
「――――メノも仲間にいれ……あっ」
――がったん。
……嫌な衝撃音が響く。
――それはただ、虚空から現れた少女が机に足をぶつけた、その程度の音じゃった。
……しかし……精密機械であるぱそこんの、しかも複雑そうな遊戯となれば、その衝撃音がわらわたちにとってどれだけ恐ろしいものなのかは明白で……。
つまる所、ぱそこんが遊戯終了直前で固まってしまった。
「…………完全にフリーズしてるね……」
……………………。
「…………………………」
「………………ふたりとも、ごめんなさい……。あと、ふたりだけズルいからメノとも遊んで!」
しょんぼりと暗い顔をしためのうは、瞬刻先にはぷんぷんと怒って、そして最後には満面の笑顔で強請ってくる。
……ふむ、ころころと表情が変わって面白くてかわいいのう……。
「…………ま、こうなってしまったら仕方ない」
そうじゃな。……それに、めのうを仲間外れにしてしまってたからのう……。
それでは次からはめのうも一緒にやろうぞ?
くろも、当然良いだろう?
「異論は無いよ、丁度ユキとだけやるのにも物足りなさを感じていた所だ。フラニカ、ボクとユキを倒せるかな?」
「二人ともありがと。まかせて、全員ボコボコにする!」
キラキラとした笑顔で宣言するめのう。
……いや、これそういう遊戯じゃないからの……?
「ほい、コントローラー持ってきたよ。セットしてあげるから」
「わーい♪ ありがとー」
……そんなこんなで二人の真剣勝負は、愉快で楽しき和気藹々へと早変わりしたのであった。
――――――
「……おー、ドンドンすすめーなぎたおせー」
背後から、風を切り人を薙ぎ倒す音が迫ってくる。走車競争に突如として乱入してきた凶器の弾丸は、めのうを乗せてわらわたちを追い抜かんとす。
「……いや、普通にマズイねこれ……! 無敵自動高速操縦のKILLER(コイツ)を使われたら流石のボクらでも太刀打ちできないし」
このあいてむは、確かわらわたちのような高順位の者たちでは入手ができないのじゃったか……。
めのうはまあ、わらわたちに比べると操作が上手く無いからの。でもだからこそ、こういう強力なあいてむを出せる訳で……。
「ふふん、どー? メノ、強い?」
うむ、強い……!
めのうは、あいてむを使うのが上手いのう。
「一番使われて欲しくない時にアイテム使ってくるからなあフラニカ……中々に侮れないね……! ってああ!?」
めのうの放った自動追尾の紅亀が、くろの機体を捉え宙に飛ばした。
「ルミカばいばい……! ふんふん、やっぱりメノつよい……♪」
「くっそう……すぐにでも追いついてやる……!」
現在の順位は、わらわが一位でめのうがくろを抜いて二位、そしてそのくろは三位といった感じじゃ。
何だかんだ、めのうも他のしーぴーゆーから一歩飛び出せている辺り、技術も悪くは無いと思うの。
……まあ、正直わらわたちがめのうに合わせている部分もあるのじゃが、しかし、あいてむの使い方が上手いというのもお世辞などでは全く無い。
「むー、らんちー考えごと? 今しょーぶの最中。メノ、らんちーのこと抜いちゃうよ?」
「おいおい、フラニカ。ボクを忘れてはいないかい? ユキに気を取られてたら、このボクがすぐにでも追いついて」
「まけねこのとーぼえー」
「んなっ!?」
仲良く楽しく煽り合うめのうとくろ。
仲良く喧嘩できるのは気を許している証拠じゃな。
……こういう関係はとっても気持ちが良いものじゃなあ……。
「おらっ! 翠亀くらえ!」
「当たらなければどーとゆーことはなーい!」
もしかしたらそんな関係こそ、わらわがずっと求めていたもので、とっても大切な……。
『あっ』
突然、めのうとくろの声が重なったかと思うたら、画面に衝撃が走りくるくる回りだす。
めのうを狙ってくろが投げた翠亀が、どうやらわらわに直撃したようで。
めのうとくろの機体が、横を走り抜けていくのを感じる。
……ふむ、……ぬしら、……覚悟はできておるかの?
「い、いやこれはたまたまというか……? いや、ほんと……なんか、さ?」
「逃げるがサンジューロッケー!」
「それを言うなら、三十六計逃げるに如かず、だろう!? でもまあ、こればかりはフラニカに同意だね。逃げるが勝ちさ!」
……ふっふっふ、わらわの超速を舐めておるようじゃな……?
「ははっ、リアルでどれだけ早かろうが、レースには何の影響も無いのだよ! 残念だけど、諦めることだね!」
「あきらめろー♪」
……む、今回手に入ったあいてむは忌々しいあの翠亀か……。もっともこれは、通常の三倍の量を周囲に展開させる三倍翠亀じゃったが。
……じゃが、丁度いい。あの小娘らを叩きのめすにはこれで充分じゃ……!
……わらわの速度を、限界まで解放する。
わらわの速度は、神をも超える超速。
超速の猫神と呼ばれたわらわの力、思い知らせてやろうぞ……!
「…………はー、いやはや、流石にここまで来ればもうボクの勝ちは確定だね」
「もー、ルミカ! メノもいる、わすれないで! メノだって、ルミカ抜いてトップになる!」
…………ふむ、くろとめのうとの差は機体が三、四つ分ほどかの……?
……これは、普通にやってたら追い付けない差じゃな。なにせ、もう最終盤じゃからのう。
「ふっふっふー、どうしたの、らんちー。さっきからずーっと、ダンマリしてる、よ♪」
「クククッ、おいおい、その翠亀でどうしようと? これ以上順位落ちたく無いからって守りに入ったのかい? それとも、まさか……これでボクたちを……? アッハハハ、それは傑作だねぇ♪」
何を言っているのか全然分からぬ、間延びし過ぎた外野の声を一切無視する。
そして、極限までゆっくりになった世界でわらわは、的確にかつ着実に、操作機の入力を行っていく……。
まずは、くろの真後ろ、ちょっと遠くくらいの辺りに付く。
そうすれば、きっとくろは……。
「……うん? もしやキミ、ボクに翠亀を当てる気かい!? いやいやいや、こんな分かりやすい位置、すぐにかわせて――」
と、なるだろう。
だから、まずひとつ目をくろの真後ろに向けて投げる。
……そして、くろは投げられた翠亀に反応して、避ける。
じゃがその動作を予め、操作機を入力するくろの指を見て予測。
恐らく、くろにとっての一秒先にくろの機体が居るであろうその方向に向け、わらわはふたつ目の翠亀を放った。
「――って!? えっちょっまっ!! 連撃!?」
驚愕した表情で固まったくろと、大きく宙に舞うくろの機体。
ふっふっふ……どんなもんじゃい! これがわらわの実力じゃ……!
……と、おっと、忘れる所じゃった。
めのうの処理もしなければならないのだったな。
……ここは、壁ありで直角に曲がる道路か……。
「……あれ? ルミカ、どうした――」
どうやらその表情は、まだ事態を把握できてないようじゃのう? それならば、都合がよい……。
さてこの角度から左の壁の方に翠亀を当てれば、跳ね返った翠亀は斜め前方奥の壁に当たり……。
「……? らんちー、いつの間に……あれ、どこ投げて……?」
あとは、しばらく様子を見て……ふむ、操作機を見る限り、めのうは場所を変えずに道路の右側を走っておるようじゃな。判断が遅いのう?
ふふよし、それならば少し下がってわらわを意識させないようにし、めのう自ら罠に掛かりに行くのを待とうぞ。
「……っ!? ええ……!? なに、なんで……!? 翠亀、なんでめのまえから!?」
……くっくっくっ作戦大成功……!
さっきのやり取りの中で機体が進む時間や翠亀の進む時間を把握できて良かったのぅ……!
お陰で跳ね返りを利用して、めのうの前方から翠亀の奇襲を仕掛けることができた……!!
ふはははははは、こ・れ・ぞ!
わらわの、超速の猫神の、本気じゃあ!!
「おかしい……ボクは確かに避けた筈なのに……自動追尾だった……? いや、そんなはずは……」
「あれ……? なんで、なんでー!? もーー……なんでメノのまんまえから翠亀くるのぉ……!?」
――速度抑制。通常速度への帰還。
再び世界は速さを取り戻し、哀れな少女たちの慌てふためく様がばっちり再生される……!
その甘味な音楽を背景にしながら、わらわは終焉の祝福へと辿り着いたのであった……!
――――――――
「――ズルだあ!!」
「ずるだー!」
ははは、すまんのう! つい、むきになって速度解放してしもうた〜♪
「キミが速度を限界まで上げたら、誰も対応できる訳ないだろうが!? このチーターめチーター!」
「チーター! ジャガー!」
ええいうるさい! 勝ちは勝ちじゃぞ!
……あとめのう、それはまた意味が違って……。
「……じゃあ、ライオン?」
それも違うのう。
わらわは、そう!
超速の猫神、日乃雪 蘭香様じゃ!
「あーはいはい、すごいすごい流石かみさま」
「らんちーすごい! らんちーいずごっど!」
ふふん、もっと褒め称えよ!
「……こら、フラニカが普通に褒めるからユキが調子乗った」
「……えー? でもらんちーホントにすごい。ルミカも見たでしょ?」
「…………いやまあ、確かに凄かったけどさあ……?」
「ルミカ素直じゃない。もっとほめろー」
その通りじゃもっとわらわをほめろー!
「ふたりとも結構ウザい…………はあ、まあ完敗だよ。流石はユキだね。……だいぶズルイけど」
一言余計じゃわ!
……まあ、くろもめのうも本当に上手かったとわらわは思うぞ?
というか、わらわが速度解放しなければ普通に負けてたろうし。
「……そーいえば亀に当たる前、らんちーずっと考え事してたよね? 何かんがえてたのー?」
……えっと確かあの時は、二人との遠慮の無さや親しさを感じて、そういう関係になれたことの嬉しさを噛み締め――。
――いやいや、流石にこれは言えぬぞ!? わらわ、恥ずか死してしまうわ!?
「……? どうしたの、急に黙って怪人ひゃくめんそーして」
「怪人扱いはやめたまえフラニカ。……ただ、まあ……なーんか、人に言えないようなこと考えてたみたいだねえ?」
えっ!? な、なんのことじゃか……。
「ふーん、ふーん、らんちーふーん……」
「…………よし、フラニカ。やれ」
「おっけー! おー! らんちーかくごー!」
うわぁっ!? 急に飛びかかってくるなあ!?
ちょっやめ、どこ触ってあひゃ!? くっくすぐった! やめ、やめぬかめのう!!
「ははは、ユキが何考えてたか喋るまで止めるんじゃないぞ〜」
「はけー! はけー!」
あひゃひゃ、ひぃー! や、やめ、ほんとやめ!
――がちゃっ。
めのうにくすぐられ、身を悶えさせながらも、わらわの優秀なこの白耳はその音をしっかり拾っていた。
……この音は……おい、おぬしら、ぬしが……ってあひゃ! や、やめ! めのう、やめ、一回話を聞いて!
「えー、まだはいてないー」
いや聞け! 今ぬしが帰ってきた! その音がしたからわらわをくすぐるのやめい!
「おいおい、苦し紛れの嘘とは見苦しいなあ? フラニカ、止めるんじゃ――」
「あっ! しゅー様帰ってきた! しゅー様ー!」
くろの静止も振り切り、めのうはわらわに飛びつくのを止めると、とてとてと玄関の方へと走り去っていった。
「……ああ、行っちゃった。……まあ、どうやら。キミの言ってることはホントだったみたいだね」
……はあ……はあ……。
……ぬー、わらわに言うことは……?
「疑ってゴメンよ、ユキ。それはともかく、ボクらもアイツを出迎えてやろうじゃないか」
……そうじゃの。
それにしても全く、何日、何月ぶりの帰宅じゃ。
「ホント、困った主人だね。これは何かちゃんと埋め合わせをして貰わなくちゃいけないねえ」
……それじゃあひとまず、わらわたち三人と遊戯して貰うのはどうじゃ?
「……くくっ、それは良い。アイツが訳も分からずボコボコにされる姿を見るのはとてもとても愉快だろうね」
ははは、そりゃあ傑作じゃろうな!
よし、それでは行くとしようかのくろよ!
「はいはい、早くアイツのとこに行って、存分に弄んでやろう――もとい、遊んで貰おうか♪」
――こうして帰ったばかりの我らがぬしは、日が落ち月が顔を出すまで、長く楽しく我らにぼこぼこにさせるのじゃった……。