「うわぁぁああああエヘ様ぁぁああああ!!」
……シュトが狂った。
まあシュトが狂信者なのは元から知っているんだがね。
ボクがこっちに来た時も、狂信者らしく相当荒ぶっていたとソフィから聞いたことがある。
ただ実際にシュトが狂信者しているところを見たのは今日が始めてだったから、ボクは普段の彼と現在の彼とのあまりの差に正直ドン引いている。
「あ、あの……お姉様……? マスターがバグってしまったのですがこれは大丈夫なのでしょうか……」
最近仲間になったコトルシィは本気で心配そうにシュトを見ている。
ボクの場合は予めそういう人であるという知識は持っていたからドン引き程度で済んでいるけど、前知識無しでこの変わりようを見た時の反応は、まあ想像に難くないだろう。
「心配しないでコトちゃん、これがあの人の正常よ」
「……理解不能」
……その反応は間違っていない。間違ってはいないがもう少しこう、なんというか手心を加えてやったげてもいいんじゃないかな……と、あまりにもあんまりな物言いのコトルシィに言いたくなってしまった。
「はあ……エヘ様ぁ……あぁっエヘ様ぁ……」
……手心を加える必要はないかもしれない。
「……あはは……そうねぇ確かにこれはちょっと理解出来ないかもね」
ソフィは昔からシュトと一緒にいるらしいから彼のことはよく理解しているのだろう。
それにソフィはシュトと結婚している。やはり夫婦同士であるからこそ分かることもあるのかもしれない。
……ただまあ今のシュトのアレには流石のソフィも苦笑いをしていた。
でもソフィは苦笑いを切り上げてコトルシィの頭に手を置くと、そっと諭すように話し始めた。
「……でもいい? 人っていうのはね、たとえ理解出来ないものでも受け入れることが出来るものなの。
この人はそういう人なんだって、ありのままなその人を受け入れられるの。
それはコトちゃんにとってきっと大切なことだから、ちゃんと覚えておいてね。今はこの意味が分からなくても、いつかきっと分かる日が来るから」
「…………はいっ! お姉様っ!」
感極まった顔でソフィの手を取るコトルシィ。優しく諭すソフィのまるで聖母のような姿に感動したんだろうね。
しかし今のソフィは本当に聖母のようだ。
全てを包み込んでくれるような、そんな優しさをボクはソフィの言葉から感じた。
流石年長者だなと思ったところで、ソフィがボクたちの中で一番年下であるということを思い出した。
……ボクもかなりソフィの『お姉ちゃん』に毒されていたようだね。
「さ、私たちはお家であの人の帰りを待ちましょう。
ああなったらあの人はしばらく黙々とし続けちゃうからね。
……まあそういう真剣な所が好きなんだけどね」
そういって微笑を浮かべるソフィ。
確かにボクの主であるエヘカトル様をあそこまで大事にしているっていうのはまあ悪い気はしない。
……限度というものはある気はするが。
「あの人は私たちのことをホントに大事に思ってるの、あんまりそういう素振りは見せようとしないけどね。
だから安心してあの人の帰りを待てるのよねー。
……まあ長めの休暇が出来たと思えば良いんじゃないかしら! ゆっくりと待ちましょう、ね?」
両手を合わせ優しく微笑むソフィ。
ソフィのそういう余裕のある姿が、ボクからするととても大人に見えるんだよね……。
ソフィは本当に不思議な少女だ。ボクよりもずっと年下な筈なのに、なぜこんなにも余裕を持てるのだろう。
ボクなんかと比べられないくらいソフィは良く出来た人だ……ずっと一緒に暮らしてきて、ボクは心からそう思っていた。
「……それに、これはチャンスよね……! 今日からしばらくシュトさんが居ないってことは、私たちだけの生活ってことよね!! じゃあこれを機会にいーっぱい女の子だけの秘密のお話をお姉ちゃんとしようね、イルちゃんコトちゃん!!」
……うん、これさえなければなあ……。
突如として興奮しだすソフィと、なぜか嬉しそうなコトルシィを見て、ボクはこれから起こるであろう平穏とはかけ離れた日常を予期しため息を一つ吐くのであった。
――――――
ソフィとコトルシィの作り出す賑やかな空間を抜け出したボクは、暗い自室で一人考え込んでいた。
……それにしてもソフィは、本当にシュトとお似合いだな……。
突然興奮し出す所もなのだけど、どちらもなんだかんだで根は優しく落ち着いていて、だからなのか二人の間に流れる空気はとても大人なものに思えた。
……ボクには到底間に入ることなんてできない。
本当に、ソフィが羨ましいなって思う……。
ボクはそっとベッドに横たわり、そんな考えから背けるように眼を閉じるのだった。