翌朝、タツキはいつものルーティンをこなし、流星の滝との中継地点であるハジツケタウンを目指していた。
捕獲とバトルを繰り返しながら進んで行くと、辺りにはえんとつやまから降る火山灰が積もりはじめる。
(感覚的にフエンタウンの方が火口に近いと思ってだけど、火山灰が積もってるって事はこっちの方が近いのかな。ゲームの時も画面ではわからない高低差があったのかもしれないな。)
と考えながら進んで行く。
手持ち達のレベリングも順調でビブラーバはレベルが40を超え、その他は50を超えた所だ。
フェルのいやしのはどうは、きずぐすり系統の節約に役立っている。
あらかた捕獲を終え、近くのバス停からハジツケタウン行きのバスを待つ。ゲームでは基本的に町と街の間には民家などはなかったが、この世界ではそんな事もなく道中にいくつかバス停があるためとても役に立つ。
ハジツケタウンに着き、バスを降りる。
ポケモンセンターで回復をお願いする。早くに出発した事もあり、未だ昼前。少し早めの昼食を摂る。
回復が終わったポケモン達と触れ合い、ポロックをポケモン達に渡し、少し休憩を入れる。
休憩を終えるとポケモン達をボールに戻し、流星の滝へ向け出発する。
今度は、初めからバスを使い移動。流星の滝は一部観光地化されており人もそこそこ多かった。
流星の滝の内部を探索しながら進む。大きな水脈などはビブラーバの背に乗り進んで行く。
(タツベイも捕獲したいし、流星の民の集落にも興味があるんだけど。)
と考えていると、足元が僅かに揺れている事に気付く。
(滝でも近いのか?でも音は聞こえないしな…。)
と思っているうちにどんどん揺れは大きくなっていく。
(地震か?だとしたら拙い!)
流星の滝は鍾乳洞の様になっており頭上には鍾乳石が幾つもあるため、落下でもしてきたら一大事である。
タツキはすぐさま手持ちをボールから出し、臨戦態勢をとらせる。
次の瞬間大きな揺れと共に頭上から鍾乳石が落ちて来る。
すぐさまグライオン以外のメンバーに大きな鍾乳石を砕かせ、グライオンのまもるを使い砕けた破片を防ぐ。
洞窟の奥で大きな音とポケモンの声が大きな聞こえてくる。
少しすると揺れが収まり、辺りは落ちてきた鍾乳石の破片でいっぱいになる。
幸い、指示が早かった為かタツキ達一行に怪我などはない。
自分達に怪我がない事を確認したタツキは、大きな音がした方へと向かっていく。ポケモン達も辺りを警戒しながらタツキの後を追う。
落石を乗り越えて進んだ先には惨状が広がっていた。
確認出来るだけで四体のボーマンダが落石の下敷きになっており、夥しい量の血がクリーム色の大地を真っ赤に染めていた。
タツキはすぐに落石を退かそうと近づくも、一体のボーマンダがタツキに向かい鋭い牙を剥き出し威嚇してくる。それを見てタツキのポケモン達が臨戦態勢をとる。
タツキは自身のポケモン達を手で制し、落ち着かせる。
「危害は加えない。お前も他の仲間も今のままだと死んでしまう。人間の作った薬で抵抗があるかもしれないが手当てをさせてくれ!」
尚もタツキ達に向け威嚇を続けるボーマンダ。
「なら、ポケモン達は下がらせる。俺だけがお前の近くに行く。ただしある程度手当てをしたら岩を退かしたい。そうなると俺だけの力じゃ難しい。その時は俺のポケモン達の力を借りる。俺には、お前達を見捨てて行くことは出来ない。」
そう口にするタツキにボーマンダも威嚇を解き、ぐったりと地面に横たわる。
その姿を見てタツキはポケモン達に良いと言うまで待機だと告げ急いでボーマンダに近づく。
もう少しでボーマンダのところまで、という所でボーマンダの下に隠れていた一匹のタツベイがタツキの左腕に噛みつく。
衝撃と痛みでタツキの表情が歪む。その姿を見てタツキのポケモン達はタツキに近付こうとするも、痛みに顔を歪ませながらタツキが目線で来るな!とポケモン達の動きを制する。
タツキのポケモン達もタツキの表情を見て、動きを止めるもタツベイを射殺さんばかりの視線で睨み付ける。
タツキは痛みに耐えながらタツベイに話しかける。
「タツベイ。仲間に近づく俺が信用ならない事はわかる。だが、今ここでお前や動ける仲間達で傷付いた仲間を救えるか?あの大きな岩を動かせるか?それがどれだけ難しい事かお前も良くわかってる筈だ。じゃなきゃ、お前の力で俺の腕は噛みちぎられている筈だしな。それが分かってるからこうやって危害を加えればどうなるかを俺に教えるために噛み付いて来たんだろ?それにお前は俺ポケモン達と自分の力の差もわかってる。だから、俺を攻撃して自分が倒される事で他の仲間達を大人しくさせようとした。お前は強いよ。非常事態と言っていいこの場で自分の力を正確に認識して、この場をまとめる為に犠牲になろうとした。俺がお前達を助けてやる。皆んなとは言えない。俺には、そんな力ないからな。でも出来るだけで多く助けてみせる。お前は俺の後ろで見張ってればいい。俺が変な事したら遠慮なく俺を攻撃すればいい。それが終わったら、次にこんな事が起こった時にお前が皆んなを助けられるくらい強くなればいい。お前なら絶対になれる。」
タツキの話の途中からボロボロと泣き出すタツベイ。
ーーー ーーー
俺は群れのタツベイの中で常に最強だった。コモルーに進化した兄や姉達には勝てなかったが同じタツベイには負けたことがなかった。このまま成長すれば父や母の様に強くなれると思っていた。父や母達大人は空を自由に飛べ自分達では到底敵わない様な敵にも難なく勝っていた。自分もそんな大人になりたいと憧れた。しかしいきなり地面が揺れたかと思えば、憧れた父や母が地面に横たわり血を流していた。自分は母に守られて生きていた。母や兄弟達を護りたいと思っても自分の力じゃどうしようもない事がすぐにわかった。自分は強いと思っていた。母も強いと思っていた。しかし、それ以上に自然は強かった。誰も悪くない。仕方がなかった。自然には勝てるわけない。諦めそうになった。
そんな時に1人の人間が来た。
そいつが近付いて来ようとするのを母が止めた。人間の側にいた奴らが母に襲い掛かりそうになったが人間が止めた。
他の仲間達が気付いているかわからないが人間の側にいる奴らは強い。きっと大人達と同じくらいの強さがあると思った。それは、大人達の様な雰囲気をしていたから。何故か、あいつらと戦ったら負けると思った。
横を見ると産まれたばかりの弟達が人間に向かって牙を剥いている。弟達はまだあいつらの強さがわかる程産まれてから時間が経ってない。このままじゃ誰かが突撃して行きかねない。
考え事をしているうちに母と人間の話が終わった様で人間が近付いてくる。それを見て隣の弟が人間に向かって飛び出そうとした。俺は、そいつを押し除け人間に向かって走る。
俺があいつらに倒されれば弟達もあいつらの強さがわかる筈。弱い俺が仲間を護るにはこんな事しか出来ない。そして俺は人間に噛み付いた…。噛み付いてしまった。自分を襲う痛みはない。目の前には痛みに顔を歪ませる人間がいた。必要以上に傷つけない様、力加減をして噛みつく。いつまで経っても痛みが来ない。人間を見ると目が合った。
人間は俺のした事をわかってた。人間は言った。俺が強いと。人間は言った。自分を見張ってろと。人間は言った。俺達を助けたいと。人間は言った。次の為に強くなれと。
そして優しく撫でてくれた。産まれたばかりの頃母がしてくれた様に。
俺は気がつくと泣いていた。
俺はこの人間なら信じても良いと思った。この人間をもっと知りたいと思った。
そう思うと俺は人間の腕を離し、自分の付けた傷を舐めていた。
ーーー ーーー
ボロボロと泣いていたタツベイがタツキの腕を離し傷を舐める。
タツキもタツベイの行動に驚きながらも目の前の惨状に視線を戻す。
タツキのポケモン達も近付いて来るがタツベイに攻撃を加えるつもりはないらしい。
フェルがよりタツベイに近付く。それを見てタツベイの身体が強張るがタツキが大丈夫と伝える様に頭を撫でると強張りが幾分か解れる。
フェルがタツキの傷口に手をかざし念の様なモノを送ると次第に傷口が塞がり痛みも引いて行く。
タツキが驚いてフェルの顔を見るとフェルはタツキの顔を見て微笑む。
(これは、癒しの波動?人にも効果があるのか…?いや、そんな事より今は、ボーマンダ達を!)
痛みの引いたタツキはすぐにボーマンダへ近付くと持っていたすごい傷薬を患部に使いながらげんきのかけらをボーマンダに食べさせる。
ボーマンダの身体の上の岩を手持ち達に退かしてもらう。
徐々に出血も収まり始める。ボーマンダの手当てをフェルに頼み、他のボーマンダの所へ向かう。
しかし、他のボーマンダは落石が頭や首、体の中心部を貫いており既に息がなかった。
唯一生きていたボーマンダの所へ向かいその事を伝える。
「すまない。他のボーマンダ達は既に息がない。」
その報告を聞き
「グキャァ」
と一鳴きする。まるで気にするなとでも言うかの様に。
ボーマンダの身体の下には、三体のコモルーに六体のタツベイ、四つのタマゴが確認出来た。皆無傷で大人しくしていた。
「お前が護った奴らは全員無事みたいだぞ。そこで相談だ。ここで出来る手当てはこれで精一杯だ。本職に任せないと後は回復するかわからん。」
タツキの言葉をボーマンダ、その他の仲間達が静かに聞く。
「治療が終われば逃す事を約束する。ボールに入ってくれないか?そうすればしっかりとした設備で治療が出来る。お前たちの意思を無視してそのままにはしない。必ず逃すと約束する。」
真剣なタツキの目を見るボーマンダ。
そこにタツキに噛み付いたタツベイがボーマンダの前に出る。
「ギャー、ギャべベイ!」
真剣な眼差しでタツベイを見るボーマンダ。
すると目を瞑りタツキの方へ頭を差し出すボーマンダ。
その姿を見たタツキはボーマンダの頭にモンスターボールをそっと当てる。ボーマンダが光となりボールの中に吸い込まれていく。
それを見てコモルーやタツベイ達もタツキに頭を差し出して行く。
最後にタツキに噛み付いたタツベイもボールへ入れると、流星の滝の出口へ向かって走り出す。
ボーマンダは止血出来たとはいえ既に大量の血液を失っているしそれまでの怪我も酷いものだった。
すぐにポケモンセンターに行かねばもしもが考えられる。
流星の滝を出るとそこは人でごった返していた。
先程の地震で多くの怪我人が出ていたようだ。
(こりゃ、ハジツケタウンのポケモンセンターも似た様なもんだな。少し遠いが安心して預けられるポケモンセンターがいい。)
そう言うとビブラーバの背に乗りミシロタウンへ向かい空を飛ぶのであった。