タツキが講義で三値を語ってから三日。タツキがホウエン地方へ来てから三週間が経とうとしていた。
三値の講義の翌日からタツキの知っている限りの変化技の効果を説明していった。
数年後、とあるトレーナーが父の研究のサポートをしながらバトルで華々しい結果を残す事になる。インタビューで強さの秘訣を聞かれた彼女は「お兄ちゃんがわかりやすく教えてくれたから。」と答えるが彼女に血の繋がった兄がいないことはわかっていた為、質問をしたアナウンサーが首を傾げる事になるのはまた別のお話。
タツキ達神原家はホクリク地方へ戻る為にミシロタウンでの別れを済ませ、トウカシティに来ていた。
飛行機の時間までまだ余裕があり、時間を潰す為に初日に入ったカフェを訪れていた。
「店長さん。また来ました。」
と店内に入り、カウンターで仕事をしていた店長に話しかけるタツキ。
「いらっしゃい。ってあの時のボウズか⁈」
店長もタツキの事を覚えていたよう驚きながら席は案内してくれる。
「で、どうだ?順調か?」
と聞かれ、タツキはバッジケースを見せる。それを見て店長が再度驚く。
「強いとは思ってたがこうも早く集めてくるとはな。チャンピオン大会楽しみにしてるぜ。チャンピオン大会に出たやつが来てたとなれば客足も伸びる筈だしな。勝ち上がってくれよ!ついでに後でサインでもくれよ。」
とニヤリと笑いながら話す店長。
「店長もなかなか悪い人ですね。」
「なに、客商売だからな。客を呼ぶ為には策も必要だ。」
と笑いながら注文をとり、カウンターへ戻って行く。
ゆっくりとお茶の時間を楽しみながら飛行機の時間を待つ。
両親やミオリもここのコーヒーやケーキの味が気に入った様で自宅の近くにあれば通いたいくらいだと言っていた。
飛行機の時間が近づいてきた為、店を出て空港へ向かう。
店長からサインを頼まれたが、チャンピオン大会の後でと約束しその場を後にする。
大きな荷物を空港のカウンターで預け、飛行機に乗り込む。
(あと二時間もすればホクリク地方か。なんだか色々あった三週間だったな…。次は10月、チャンピオン大会か。まずは予選を突破しないとな。)
とタツキはホウエンでの事を振り返り、次の目標へと頭を切り替えて行く。
二時間程の空の旅を終え、タツキは三週間ぶりにホクリク地方の地を踏んでいた。
(今日は移動だけって言っても疲れたし、色々始めるのは明日からだな。)
と父が運転する車で自宅へと戻るのだった。
翌日、タツキは前世でも入っていた地元のサッカークラブに見学に来ていた。
前世では五年生の時に一つ上の近所の友達がやっているから、とサッカーを始めたが上手くなりたいと言うより楽しくやりたいと思っていた。しかし、サッカークラブには五年生がタツキのみで後にもう一人入ってくるのだが、六年生になると同時に上手くもないのにキャプテンになってしまったのだ。
タツキは楽しくサッカーをしたいと思っていてもキャプテンとして試合の出場数が増え、自らの能力以上の活躍を求められた。しかしもともと上手くはなかった為、周囲の期待と自らの能力の差に精神はどんどん追い込まれていった。勝つ為には自分は出ない方が良い。しかし、チームとしてキャプテンは出さなければいけないと考えられていたのだろうか?必ず毎試合出場し、思うような活躍を出来ずベンチで監督・コーチ達、仲間、保護者からの落胆の目を向けられる。そんな生活を一年半程続け、遂にタツキの心は折れてしまった。監督やコーチ達に目も合わせられず、すみません。と小さな声で頭を下げ、クラブを辞めたのだ。
そんな前世を思い出し、タツキはこれからの考えをまとめる。
まず、はっきりと監督にこのチームに入る目的を伝える事。次に自分は六年生になってもなにがあってもキャプテンはしない事。学年を考慮しての出場機会はいらない事。これをしっかり伝えよう。
今後の素早い情報処理、決定力、足腰のトレーニングに体力の増加。それがこの世界のタツキがサッカーに求めている事である。
人生をやり直していて、サッカーが上手くなっていてもタツキはポケモンの研究者になる事が第一優先なのであった。
一緒に見に来ていた母にもサッカーをする目的をしっかりと伝えてある為、特に心配する事はないと思う。
「はじめまして。私がこのサッカークラブの監督をしている玉井です。」
「はじめまして。神原タツキです。来週からよろしくお願いします。」
「来てくれるんだね。君は四年生だって聞いているけどうちのチームには四年生はいなくてね。君が入ってくれて良かったよ。」
やはり、この世界でもタツキと同い年の子はいないらしく、このままだと前世の二の舞になりかねない。
「すみません、監督。初めにお願いがあるんですけど。」
「お願い?なんだい?」
そう聞く監督にタツキは自身の考えを告げた。
「なるほど…。判断力や体力作りの為か。正直に言うと純粋にサッカーを楽しんで貰いたいって気持ちもあるけど、そう言う考え方もあるんだね。…わかった。神原君の思うようにやってみなさい。どんな理由があれ、サッカーをプレイする事に変わりはないからね。」
「初めて来て、我儘なお願いをすみません。」
「いや、気にしないでくれ。確かに人気の野球なんかよりもサッカーの方が君の考え方には合っている気がするよ。それに今は、君みたいにポケモンを育てる事に熱中する子供達が増えているのも事実だ。これを機にサッカーを第一に楽しむって部門とサッカーを通して他の能力を伸ばすって部門があっても良いかもしれないね。そうすれば、サッカーが好きな子もポケモンの事を考えるきっかけになるかもしれないし、その逆も考えられる。」
と言うと。来週から待ってるよとコーチの所へ歩いていく。
それを見送るとタツキは母と自宅へ帰るのだった。
ーーー ーーー
玉井監督は、タツキと別れコーチ陣と話をしていた。
「さっき、来週から入会したいと言う子供と会って来たんだが、その子が面白い事を言っててな。」
「プロと試合したいとか言われました?」
コーチの一人が笑いながら聞いてくる。
「いや、サッカーは好きだがそれよりもポケモンが好きらしくてな。ポケモンバトルで必要な瞬間的な情報の処理や判断力、体力をつける為に攻守混合型のスポーツであるサッカーをしたいと言ってきた。」
「まぁ、確かに野球とかと比べたらサッカーは走り回ってますし、判断力とかもつくと思いますね。その子本当に子供ですか?」
「今年四年生だそうだ。その話を聞いて、これはアリだと思ったんだ。」
「アリですか?」
「そうだ。今、子供達はポケモンに夢中だろ。だからポケモンバトルで必要な力をつける為にサッカーをしないか?と呼びかけるんだ。」
「なるほど!そうすればポケモンバトルにしか興味のなかった子が通って来るかもしれませんね。」
「そう言う事だ。それにサッカーをしていればサッカーそのものも好きになるかもしれないだろ?」
「ですが、俺たちそんなにポケモンの事知りませんよ。」
「そこは、うちの息子が知り合いにブリーダーになった友達がいると言っていた。手伝ってもらえないか聞いてみるさ。」
と今後のクラブの展開を話すのだった。その成果は、翌週にはポスターとして地域に配られ新たな参加者を集めるのだった。