夏休みが終わり、二週間が過ぎた。タツキは放課後は友達と遊び毎週末は午前中にサッカークラブ、午後からポケモンの育成をして夜に集まった情報をまとめる。といった一週間予定がビッシリの多忙な生活を送っていた。
元々、タツキの家は小学校から2キロ弱。年に一回の学年別のマラソン大会では同じ地区の男の子達が上位に名を連ねる。タツキも毎年5位以内を記録しており、体力はある方だった。それでも今後の事を考えサッカークラブに入ったのだ。
サッカークラブも新たに知り合いのブリーダーの力を借り、ポケモンコースなるものを開講。ブリーダーの話を直に聞ける事と体力作りと言う観点から徐々に人気が出て来ている。
タツキはポケモンコースが出来てからも基本的にはサッカーコースの練習に参加しており、前世の経験などから今ではチーム上位の選手となっていた。
前世ではDFだったか、今回は判断力を鍛える為、MFとして前線へパスを供給している。
いつもの様に練習を終え、帰り支度をしていると
「来年の夏の合宿どこだろうな?」
と話だし、周りが色々な地名を出していく。
「夏休みに合宿に行ったの?」
「そうか、神原は夏休みの終わりに入って来たからわからないもんな。」
「今年は、トチギ県のニッコウシティに行ったんだぜ!」
と別の上級生が教えてくれた。
「来年は神原も一緒だもんな。どこが良い?」
とキャプテンが聞いてくれるが、来年の夏休みはシンオウ地方へジム巡りをしに行こうと考えており、早々に行かない事を伝えた方が良いと思い予定を伝える。
「俺は来年の夏休みにシンオウ地方に行こうと思ってるから、合宿は行かないかな。」
するとその場にいた大半の子供達が首を傾げる。キャプテンもよくわからない。と言った顔をしながらタツキに聞く。
「シンオウってまた遠い所に行くんだな。親戚とかか?」
「いえ、ジムを巡ろうかと思ってまして。」
タツキがそう言うと周りが騒がしくなる。
「ジム巡りって、俺たちみたいな小学生には早くないか?」
と他の上級生が口にするも周りの子供達は年齢からポケモンバトルが好きな子が多く、さらに騒がしくなる。
「実は、この前の夏休みでホウエン地方に行ってたんですよ。」
タツキの発言に周囲は更に騒がしくなる。
するとキャプテンが周りを静かにさせてから聞いてくる。
「ジムを周って来たのか?よく行く気になった。遠かっただろ。」
「遠いと言っても飛行機ですぐでしたし、そんなに負担はなかったですよ。ジムもしっかり周って来ました。」
タツキはサムズアップしながら伝える。
「それでもジムは大変だったんじゃないか?」
「ん〜、そんな事もなかったですよ。道中しっかりポケモン達の育成もしてましたから。」
「そんな事より、バッジはどうなんだよ!!」
前世ではタツキより上の代が抜けた後にエースとなる同じ地区に住む下級生が興奮気味に聞いてくる。前世ではサッカー一筋だったがこの世界ではポケモンにも興味があるらしい。
「バッジは一応全部揃えたよ。」
そのタツキの話を聞いてその場はお祭り騒ぎになり、監督達や自身の子供を迎えに来た保護者が駆け寄ってくる。
「どうした?そんなに騒いで。」
声をかけて来た監督に下級生達の興奮が爆発する。
「監督!神原バッジ集めたんだって!」
「しかも全部な全部!」
「ホウエンだって!」
「やばくね!やばくね!」
「あぁー!一斉に喋るな!よくわからん!一回落ち着け!」
「神原が今年の夏休みにホウエン地方でバッジを揃えて来たらしいんです。それで皆んなが騒ぎ出して。」
キャプテンが代表して状況を説明する。
「バッジを全部⁈本当か、神原!」
「はい。小さな頃からの夢だったので。」
タツキの話を聞いた監督がある事を思い出す。
「バッジを全部集めたって事は、チャンピオン大会に出るのか?」
周りのみんながゴクりと生唾を飲み込む。
「エントリーはしてきたので10月から少し向こうに行かないとなんです。」
タツキがチャンピオン大会に出ると聞き、またもや周囲はお祭り騒ぎになる。
その話を聞いていた保護者達も「こりゃ、壮行会しないとだ!」などと言い始め、タツキは言わない方が良かったかもと思うのだった。
子供の口は思いの外軽く、なんとなくの口止めはしていたが翌日学校へ行くとタツキの事は既に学校中に広まっており、朝からクラスメイト達に話を聞かれたり、他のクラスの子達が廊下から教室を覗いて来たりとタツキは本格的に言わない方が良かったと思ってしまう。
(面倒だけど後からバレるより良いのか?わからん…。)
放課後、帰ろうとしていると校内放送で職員室まで呼び出されるタツキ。
(大会の事でなんか言われんのかな?)
「失礼します。」
「あ、タツキ君。こっち。」
とタツキを手招きするのはタツキの担任だった。
タツキが担任の元へ行くと他の先生達と一緒に会議室へと連れて行かれる。
会議室には校長もおり、これから会議が行われるらしい。
「それでは、これより体育大会についての会議を始めます。」
どうやら今回呼ばれたのは9月の後半にある町内の小学校対抗の体育大会の話し合いをする為らしい。
会議の内容もタツキが聞いても特に問題のなさそうなものであった。
タツキの通う小学校では同じ町内にある他の4つの小学校と5・6年生のみの体育大会が年に一回行われるのだ。
種目は通常の陸上大会とほぼ同じで唯一違う部分はポケモンバトルがある事。各校各学年で一人ずつ選手を選出し手持ちポケモン一体でのトーナメントバトルが行われる。
会議が始まり、ポケモンバトル部門についての話になる。
するとタツキは校長から話しかけられる。
「神原君。今日の朝から学校中で噂になっているのは君も知っていると思うが、噂の内容は本当かな?」
「僕がホウエン地方のチャンピオン大会に出るって話ですか?」
「その噂で間違いないよ。本当なのかな?」
「はい。この夏休み中にホウエン地方へ行ってエントリーして来ました。」
「それは、おかしい。私たちも噂を聞いて協会のホームページで調べたんだが君の名前がないんだよ。」
と校長が口にする。
それを聞いたタツキは驚いて立ち上がってしまう。
「そんな…。しっかりとエントリーした筈です。」
とタツキが言うとパソコンを持って来ていた先生がホウエン地方ポケモンリーグ協会のホームページを見せてくれた。
エントリー名簿を見るがホクリク地方からのエントリーは確かになかった。タツキがよく画面を見ているとある事を思い出す。
『まだ目立ちたくないと言うなら出身地をここ、ミシロにすれば良いじゃないか。そうすればまだ少しの間は目立たずに済むと思うよ。』
オダマキ博士からの提案があり、出身地をミシロタウンで申告した事を思い出した。
「すみません。ミシロタウンに知り合いがいてそっちでエントリーした気がします。」
ホームページを見ていた先生がすぐに確認する。
「あっ!ありました。ミシロタウン出身の神原タツキ。これかな?神原君?」
「これ僕のトレーナーIDです。」
確認の為、トレーナーIDを記載しているカードを先生に渡す。
先生はパソコンの画面とタツキのカードを交互に見て
「間違いないです。しっかりエントリーされてます。」
(いくら出身が違うとは言え、同姓同名がいる事に疑問はなかったのか?まぁ、確証が得られるまで迂闊な事は言えないか。)
と思うタツキ。
それを聞いて他の先生達もざわつく。
いくら教師とはいえ、大半の人がポケモンバトルが強いかと聞かれれば首を傾げる事だろう。
つまり、チャンピオン大会に出た事がある人は貴重な人材で教師で出場経験がある人の方が少なく、いたとしても名門私立で教師をしている人が多数である。
そんななか、自分達が赴任している学校の生徒がチャンピオン大会に出場すると聞けば騒がしくなるのも頷ける。
教頭がざわついていた先生達を静かにさせ、校長が話始める。
「神原君、疑ってしまって悪かった。」
小学四年生に素直に頭を下げ謝る校長に驚くタツキ。
「いえ、良いんです。これで僕もみんなから嘘つき呼ばわりされなくて済みます。」
頭を下げる校長にそう声をかけるタツキ。
校長は頭を上げ、再度ありがとうと言うと、タツキにお願いがあると言う。
「実は今日神原君に来てもらったのは、あと二週間もしない内にある5・6年生の体育大会についてお願いがあったからです。神原君は出場しませんが、チャンピオン大会に出る程の人です。5・6年生の為に大会まで放課後の練習に参加してコーチと言う立場で力を貸して欲しいのです。神原君が嫌と言えば無理にお願いはしません。」
との事。タツキは悩みながらもどうせあと二週間もないし別に断る程の事じゃないと考え、校長からのお願いを聞く事にした。
「放課後にポケモンバトルについて話をしたりするくらいだったら大丈夫です。」
「本当かい?助かるよ。正直言うと普通の陸上競技なら先生達でも教える事は出来るんだけどポケモンバトルとなると難しいところがあってね。先生の中にも経験がある人は多いんだけどチャンピオン大会となると私立でもない限りいなくてね。こんな事を生徒にお願いするのもどうかと思うが、よろしくお願いしますね。」
と言う事でタツキは体育大会までの放課後に選手に選ばれた生徒にポケモンバトルを教える事になった。