「はじっめ、ちょろちょろ……♪ な~か、ぱっぱ……♪ あかっご泣いても、蓋とるな~……♪」
「ギャウギャウッ! クゥンッ!」
「ダメですよ。もう少しで出来ますので」
周りの騒がしさに少年の意識が覚醒する。目を開けると、白い花の髪飾りを身につけた、幼い顔立ちと先が尖った耳が特徴的な少女が此方の顔を覗いていた。
「お目覚めになられましたか、主さま」
主様とは自分の事なのだろうか、と疑問符を浮かべながらも体を起き上がらせ、周りを確認する。
場所は木々に囲まれた小川の岸辺。太陽の光が乱射し、流れる水がキラキラと輝いている。
彼らの近くにはお米を炊いているであろう竹飯ごうとそれに手を伸ばそうとする小さな赤いドラゴンがいた。
「ああ、ダメです。お腹が空いているのはわかりますが、もう暫しお待ちを」
少女はドラゴンを優しく抱き寄せると、ドラゴンは少女の元から離れ、少年の頭の上に乗る。
「ガウッ!」
「どうやら主さまの方がよろしいみたいですね」
「あるじさま……?」
「えぇっと……不躾ではございますが、主さまとその子のお名前をお聞きかせ願えますか?」
「名前…………────」
頭の中のほぼ真っ白に近いキャンパスから僅かにある記憶を頼りに、少年は自分とドラゴンの名前を思い出す。
「ユウキ、ジーク───僕の名前はユウキ。この子は、ジーク」
「ギャウッ!」
少年……『ユウキ』の言葉に反応して、ドラゴン……『ジーク』は手を挙げる。それを見た少女はホッと胸を撫で下ろした。どうやら、彼らが彼女の探し人で間違いないようだ。
「改めて、自己紹介を……わたくしは偉大なるアメス様によって派遣されたガイド役。名をコッコロと申します。おはようからおやすみまで、揺り篭から棺まで、誠心誠意お世話するのがわたくしの役目でございます」
「ギャウ……?」
「コッコロ……」
「はい。アメス様からの託宣によると、主様は『ほとんどの記憶を失っている』ようなので……訳が解らない状態でしょうけど……わたくしがお導きしますので、どうか御安心を」
そう言って、太陽のような暖かみのある笑みを見せる『コッコロ』。
そんなときだった。
くぅ……と腹の虫が鳴く音と共に『お腹空いたぁ……』と空腹を訴える声が聞こえてきた。
「はい、心得ております。ちょうど、お昼時ですしね。主様がお目覚めになられたら、召し上がっていただこうと……わたくし、ごはんを炊いておりましたから───」
次の瞬間、
「うわぁい、ごは~んッ!」
「え、あの、えっと……」
それはほぼ一瞬の出来事だった。
茂みからユウキと同じくらいの背丈の夕焼け色の長髪が特徴的な、ティアラと武具を身につけた少女と、白い鎧を身につけた、少女より一回り小さな赤い竜が現れたかと思えば、彼女達が炊けたばかりのごはんを瞬く間に食べ尽くしたのだ。
「もぐもぐもぐっ♪ ンま~いッ! 生き返るぅ~ッ。ごはんは命のコアッ!」
「…………どちらさまでしょうか?」
「だれ……?」
「クゥ……?」
「もぐもぐもぐっ、ごっくんっ♪ ふぅ、食べた食べたッ! いやぁ、助かっちゃいましたッ! 見ず知らずのわたしたちにごはんを恵んでくれるなんて、いい人たちですねッ!」
「いや恵んだというか、気づけば食べられていたというか……あぁっ、主さまたちのために作ったご飯が一瞬で消え失せましたよ? な、何者なんですか、あなた方は?」
「わたしですか? わたしは……いや、それよりも。あの子、あなた達の知り合いですか?
「「あの子?」」
「ギャウ?」
そう言って、少女が上流の方を指差す。見れば、可憐な華の杖を持った桃色の髪色の一人の女の子と彼女を追う大量のキノコ型魔物が此方に向かって走って来ていた。
「きゃああッ、助けて~ッ! 魔物が、大量の魔物が追ってくる~ッ!」
「おや……何だか、えらいことになっていますね。ど、どうでしょうか、主さま?」
「魔物の群れはこっちに向かってきますし、無視は出来ません。ちゃちゃっと片付けて来ますので、二人は安全な所に逃げてください」
次の瞬間、少女はその細い足から想像もつかないほどの脚力で駆け出し、女の子の頭上を軽々飛び越え、魔物達の前に立ちはだかった。
だが、見るからに数に差が有りすぎる。
それを見たユウキは立ち上がり、少女の元に駆け出し、彼の意図が分かったコッコロも杖槍を手に彼の後を追いかけた。
「あなたたちは───」
「えっと……お腹ペコペコのペコリーヌさま、と仮に呼ばせてもらいますね。乗り掛かった船でございます。共に窮地を脱しましょう」
「おや? 『ペコリーヌ』ってわたしの事ですか。可愛いアダ名を付けられちゃいました。ヤバいですね☆ でも……───あなた達の気持ち、嬉しいですッ!」
『キノォォォォッ!!』
キノコ型の魔物たちの内数体が少女……『ペコリーヌ』に向かって走り出し、攻撃を仕掛ける。
ペコリーヌはそれらを軽々といなすと魔物達の頭上へ飛び上がり、群れの中心に剣を振り下ろす。するとその細腕では考えもつかないほどの衝撃波が起こり、あっという間に群れの約三分の一を倒して見せた。
「───光のご加護を」
一方、その傍らではコッコロが自身の力を使い、ユウキを強化していた。
「主さまの素早さを上げました。いざ、参りましょうッ!」
「うん。……───はあああああッ!」
剣を構え、魔物に切りかかるユウキ。
だが───
「ナメコッ!」
「ふぎゅッ!?」
「んんッ!?」(°×° )!?
「ギャu「シメジッ!」───ギャピッ!?」
「あ、主さまッ! ジーk───」
魔物の振り下ろした拳で吹き飛ばされてしまうユウキ。ジークが彼をも他の魔物に簡単に取り押さえられてしまった。
ユウキを助けようと彼のもとへ向かおうとするが、横から襲いかかろうとする別の個体に気づかずにいた。。
「危ないッ!」
「───ッ!?」
女の子の声で気づいた時には既に遅し。魔物が持っていた、錆び付いた剣が彼女に襲いかかった。
吹き飛ばされたユウキは体を襲う痛みに顔をしかめながら起き上がると、ちょうどコッコロが魔物に襲われる瞬間を目にした。
次の瞬間、彼の頭の中にある光景がフラッシュバックする。
誰かも分からない。
顔も分からない。
だけど、大切な人を守れなかった、そんな光景を。
───嫌だッ!
そう思った時、彼は自然と走り出していた。
ギリギリのところでコッコロと魔物の間に入り込み、魔物の剣を自分の剣で受け止めた。
「主さまッ!?」
「…………る……───絶対に、守るッ!」
───次の瞬間、運命の歯車は動き始めたのだった。
ユウキの左目に魔方陣が刻まれ、彼を中心に大きな魔方陣が展開される。その光は戦っていたペコリーヌたちに力を与えた。
「これは……すごいですッ! 力が溢れて来ますッ!」
「アメスさまの神託通り……なんと神々しい。これが主さまだけの力───プリンセスナイトの証ッ!」
彼の光、プリンセスナイトの力は彼女たちにだけではなかった。
「グ、グルアアア───」
取り押さえられていたジークの体が光に包まれ、その光はどんどん大きくなり、自身を取り押さえていた魔物を吹き飛ばす。やがて、ユウキたちの何倍も大きくなった光の球体から一頭の赤い竜が生まれた。
「ガルアアアアッ!!」
「こ、今度はなにッ!?」
「あの小さなドラゴンちゃん、大きくなっちゃいましたよッ!?」
「これがジークの本来の姿……古の竜『龍皇ジークフリード』なのですねッ!」
「いくぞ、ジークッ!」
「ガルアアアッ!」
ジーク……いや。ジークフリードは雄叫びをあげると、その雄々しき翼をはためかせ、強風を巻き起こす。強風で魔物たちがまともに動けなくなった所に、ジークフリードは全力の火焔放射を放つ。
魔物たちは避けることも叶わず、皆が美味しそうな焼きキノコとなって絶命したのだった。