身内の物ですが、よろしければ楽しんでいただければと。
イリヤとそのギルドメンバーのお話です。
「あー……」
少女――イリヤ・オーンスタインは暇であった。
ギルドメンバーのみんなは出掛けており、不在。
話し相手もいない、かなり暇を持て余していたのである。
「仕方あるまい……」
ひょいっと玉座から降り、歩き始める。
目的地は1つ。
彼女の眷属が住むギルドハウスである。
「おらんじゃと……?」
なんと、今日はいつも女の子で賑わっているギルドハウスにも人がいないというのだ。
受付の眼鏡の女性に言われたから間違いない。
「ぐぬぬぬ……」
暇を持て余してここに来たというのに、これでは暇を潰せない。
仕方がないから帰ることにした。
「――占いはいかがですか? ……おや、イリヤさん?」
とぼとぼと歩いて帰る最中、ふと聞き慣れた声が聞こえてきた。
シノブであった。
何やらいつも以上に怪しげな格好をしているな、とイリヤは思った。
「何じゃ、こんなところで占いとな」
「ええ、占いです」
「……客、来ておらんじゃろ」
「ええ、来てません」
何せ裏路地の奥の奥だ。
こんなところでは精々がチンピラがたむろするくらいだろう。
占いを好むであろう妙齢の女性が来ることはない。
「仕方ないのう……わらわが客じゃ、はよう占うのじゃ」
「はぁ……いえ、占いますけど」
水晶の代わりにドクロを使い、占い始めるシノブ。
そういえばあれ父親とか言っていなかっただろうか、と思い返すが即座に思考の隅に追いやる。
今は関係ない話である。
「恋愛運はやや上向き、金運は0。ラッキーアイテムは赤いハンカチだ」
「まともじゃ……」
至ってまともな占いだった。
何やらスケベな父親だったと覚えていたが、違ったのだろうか。
ああいや、妙齢の女性が趣味だったか。
だから少女の身体のままの自分には無反応だったのか、と考えたところでイラっと来たイリヤ。
「帰る!」
「あ、5ルピです」
「金をとるのか!?」
「商売ですので」
「ぐぬぬ、わらわのお小遣いが……」
いつも渡されるお小遣い。
僅かとはいえ減ってしまい、ぐぬぬとなるイリヤ。
まあ眷属の為に使ったと思えば安いものだ。
実際安い。
そう言い聞かせるイリヤであった。
「ん……?」
ふと街角に目をやると、そこにはじっと服を見ているヨリがいた。
何やら熱心に見つめているので、その視線の先へと目をやった。
そこにはふわっふわひらっひらの少女少女した服が飾ってあった。
「ほうほう……こういう服が好みかの?」
「うん。でも似合わないかなぁ……ってイリヤさん!?」
ズダダダ、という勢いで逃げ出そうとするヨリ。
それを襟を掴んで防ぐイリヤ。
しばらくじたばたと暴れていたヨリだったが、観念したのかがっくりと肩を落として動きを止めた。
「はぁ……アカリにも気付かれないように来たのに。まさかイリヤさんにバレるなんて……」
「そんなに嫌なもんかのう……?」
イリヤの台詞に、ブンブンと首を横に振るヨリ。
嫌というわけではないらしい。
とはいえこのまま放置するのも何やら居心地が悪い。
イリヤは少々思案してから、おもむろに口に出した。
「よし、わらわがその服買ってやろう」
「えっ?!」
「女に二言はないのじゃ!」
「じゃあアカリはこれが欲しー」
「よいぞよいぞ! ……ん?」
ふんぞり返っているイリヤだったが、背後から聞こえた声に振り返る。
するとそこには、手をひらひらさせて笑っているヒカリがいた。
「アカリー!?」
「お姉ちゃんをつけてたら面白いことになってたからつい」
あははは、と笑いながら、アカリはイリヤの腕をとる。
そして上目遣いで目をうるうるさせながら言う。
「お願い、買ってぇー」
「……別にいいんじゃが、見た目幼女のわらわにねだる年上に見える女児にしかならんな」
「えー別に困らないしー」
「私の世間体が大変だよぉ!」
アカリの行動を必死に止めるヨリ。
心なしか泣いているようにも見える。
というか妹が幼女にたかっている様子なんて見たくないだろう。
「とりあえず買う、買うから離れるのじゃ!」
「はぁ……」
それぞれのプレゼントを買うと、お礼もそこそこに退散していく2人。
何やら予定がある様子。
それもそうか。
そうでなければギルドマスターであるイリヤを放っていなくなるはずがない。
と思う。
気がする。
「しかし……何やら疲れた……」
結構なイベントに巻き込まれたのだ。
それもそうだろう。
「この分だとミヤコも何かやらかしているのではあるまいな……?」
と思ったものの、街中にはミヤコの姿はない。
いや、別に探しているわけではないのだが。
ただなんとなく、ここまで来たらコンプリートするのだ筋ではないかと思ってしまっただけである。
しかし、探せど探せどミヤコはいない。
仕方なく、イリヤはアジトへと帰るのだった。
「もーどこ行ってたの! ミヤコは探してたの!」
帰ってみると、なんとミヤコがいた。
いや、いるのはおかしくないのだが。
何やら大きなプリンを持って仁王立ちしていたのである。
「いつもはミヤコが食べちゃうところなの! でも、今日はプレゼントなの!」
「なんと!」
ミヤコが人にプリンをあげるとは、意外というかあり得ないとい事態である。
まさかの大事件か。
もしくはドッキリか。
辺りを見渡すがそれらしい様子はない。
「ミヤコは聞いたの! 今日はお前の誕生日だって」
「……たん?」
「だからお祝いするの! プレゼントなの!」
自分が貰って一番嬉しい物をプレゼントする辺り、性格が出ているというかなんというか。
その様子に、イリヤは少し笑ってしまった。
「むう、なんだか納得いかないの!」
「いや、嬉しいんじゃがな。だたちょっとこう、変な感じがの」
「失礼なの!」
正直に話すと、それはもう怒った様子でミヤコはイリヤに詰め寄った。
プリンは崩さぬようにだが。
「とにかく! プレゼントを受け取れなの! こんなこと1年に1度しか起こらないの!」
「……おや、先を越されてしまいましたか」
振り返ると、そこにはシノブがいた。
特に気負った様子はないが、何やら手元には小さな箱があった。
「こちら、わたしからの誕生日プレゼントです。受け取ってください」
「娘が1時間もかけて選んだ一品だぜ! 喜んで使え!」
「お父さん、余計なこと言わない」
小箱を受け取り開けてみると、中には綺麗に折りたたまれた赤いハンカチが。
なるほど。
これがラッキーアイテムか。
少し笑ってしまった。
「あーあ、みんな集まっちゃってるよー! お姉ちゃんが遅いせいだよー!」
「仕方ないでしょ!? 誤魔化すのも大変だったんだからね!」
言い合いながら駆け寄ってくるのはヨリとアカリの姉妹だ。
何やら服を2つ抱えている。
それぞれ同じ装飾のものだが、サイズが違っていた。
「これがぁ、大人の時の服でー。こっちが小さい時の服!」
「あの時買ってもらってから同じ服探してたのよ。お、お揃いとか気にしてるわけじゃないんだけどね!」
と言いながらも、ちゃっかり同じ服を用意しているのだろう。
妹の方が。
そんな想像をしながら、イリヤはまた笑った。
「ふ、ふはははは! よいな! こういうのは!」
嬉しくて、大きく笑ってしまった。
その様子を見て、他のギルドメンバーも一緒になって笑うのだった。
「ところで、誰から誕生日の話を聞いたんじゃ?」
「え、お兄さんからだけど」
「何故こういうことばかり覚えておるんじゃ……」