これがボクの斬魄刀や。射殺せ―― 作:13kmや
覚悟せよ――臆せば死ぬぞ。
状況は絶望的だ。レユニオンによる圧倒的な数の暴力によって磨り潰される。それがロドスのオペレーターに訪れる最期。
ああ、しかし、それでも彼らは諦めない。
苦境においてなお損なわれないその精神の在り方は、眩いほどに輝いている。
――素晴らしい
この光景を知っていた。
だが、こうして直接目にすると、知っているようで知らなかったのだと理解を改めざるを得ない。緩やかに死に向かうこの世界で当事者として生きてきたというのに、自分は彼らを色眼鏡という名のフィルターを介して見ていたことに今になって気付かされた。
彼らが輝いてみえるのは主役だからではない。
輝いているから、輝けるから、彼らは主役なのだ。
刮目せよ。
彼らの魂の輝きを。絶望を乗り越えて見せるという強い意志を。未来を切り開こうとする人間のみに許された覚悟の籠った眼を。
理解した。
彼らは絶望を踏破する人間だ。未来を切り開く英雄だ。死に瀕した世界の希望だ。
人の輝きを見せつけられ、思わず拍手喝采してしまいそうになるが、どうにか堪える。
自分はそんなキャラじゃないのだ。冷静に、飄々とした態度を心掛けろ。
心を落ち着かせようと、脳内で自分に語りかける中、己の感覚が状況の変化を感じ取った。
――熱。物理的な温度の変化。自然現象とは異なるそれが意味するものは、つまり
瞬間、光がほとばしった。同時に、更なる高熱が周囲を嘗め回す。有象無象の区別なく、放たれた火焔はあらゆるものを炭化させる。その下手人を取り囲むように、炭化した物体が周囲に佇んでいた。それらは建物であり、乗用車であり、木々であり、人であった。この惨状を齎した怪物は静かに佇み、ロドス各員を無表情に見やる。
地獄の具現を前に垣間見えるレユニオンの狂気。
彼らは、同胞の死体をも焼き尽くす存在に何ら疑問を抱いていないのだ。そのことがこの上なく恐ろしく、悼ましかった。
これがレユニオン。世界が見捨てた感染者たち。
巡り合わせが異なれば、ロドスのオペレーターの多くも彼らの側に立っていたかもしれない。
――狂気を纏った死兵の集団か。なるほど、軍が手をこまねくのも無理はない。
チェルノボーグの陥落はなるべくしてなったということや。それにしても、
死を恐れぬ兵隊による数の暴力。レユニオンの持つ群の脅威。だが、今ここにはそれ以上に恐ろしい個の脅威が存在する。
――あれが暴君か。……ああ、こら、あかん。天災を人の形に押し込めたようなもんや。
今のロドスの手に負えへんわ。
レユニオンを統べる暴君にして火焔そのものと評されるタルラが、ついにオペレーターの前に姿を現した。そこにいるだけで周囲を灼熱に変える暴君は、そこにいるという事実だけでさえ彼らを蝕む。
しかし、彼女の本領はこんなものではない。今この瞬間彼らが灰へと変じていないのは、ひとえに彼女の気まぐれである。
ロドスに興味がある。だから、少し話をしてみよう。
たったそれだけの要因が彼らの壊滅の危機を救う命綱と化していた。
気まぐれが命を刈り取る。故に暴君。
距離を過てば一切が灰燼と化す。故に火焔。
彼女を前に迂闊な行動を取ることが死を招くと、オペレーター全員が理解していた。空気が張り詰めるような緊張が広がる。圧倒的な力量差のある双方の睨み合いは、まるで人間と神との対峙に近かった。程なくして、ロドス代表のアーミヤとレユニオンを統べるタルラの会話が終わった。
ロドスは同胞を殺した。だから、ロドスを殺し尽くす。
タルラの主張は単純明快。それはもはや会話ではない。上から下へ、決まりきった結論を告げる様はあたかも神の啓示の如く。
そして、暴君は牙を剝く。
熱が高まる。空気が乾く。建物に罅が浮かぶ。道路に亀裂が走る。そして、暴君の手に絶望が具現した。
製薬会社ロドスとは、主人公である「ドクター」が所属する組織のことだ。そして、「プレイヤー」は「ドクター」として物語を進めていく。それが「アークナイツ」というゲームのざっくりした説明だ。
しかし、ゲームとして遊んでいたときと今の状況は異なっている。明確なシナリオに沿って物語――言い換えるならば世界の歴史だろうか――が刻まれていくのならば、自分というイレギュラーな存在はただ在ることすら許されないからだ。まあ、格好つけてそれっぽいことを考えてみたが、これが正しいとは限らない。それでも、自分が納得できているからこれでいいのだ。
それに、自分が二つ名持ちであることも根拠の一つになっている。そう、あれは若かりし頃だった。源石?鉱石病?天災?あっ……(察し)ふーん、したことでこの世界がアークナイツの世界だと認識し、自棄になっていろいろやらかしてしまったのだ。今となっては黒歴史である。アークナイツは割と人類詰んでね?な世界観だから、かつての自分が取り乱すのも無理はないと思うが、それにしたってもう少しやりようはあったんじゃないかと今なお後悔というか羞恥の念に駆られることもある。だが、その結果二つ名が付き、固定されたシナリオという存在を否定する要素を得たのだ。端役に二つ名なんて付かないしね。
だからこそ、疑問が湧いた。ゲームのシナリオのように物語が固定されていないのならば、ロドスとドクターはどうなるのだろうか。あらゆる作品において、主人公はおおよそ世界を救うものだ。主人公がいれば敵が凶悪でもなんとかなる。いわば最後の砦。しかし、その考えは物語が絶対的であること、すなわち、シナリオが固定されているという前提に基づくものだ。そして、その前提は覆された。
あー……うん。まずいかもしれない。
彼は焦った。
ロドスとドクターがいればレユニオンとか余裕っしょ、勝ったな風呂入って来る。という未来予想図に暗雲が立ち込めてきたからだ。
悩み始めて一週間が経ったとき、彼の脳裏に電流が走った。
そうだ、チェルノボーグに行こう。考えても分からないなら見に行けばいいよね。ゲーム序盤のドクター救出作戦に居合わせれば、主人公勢の運命力が分かるっしょ、たぶん。
こうして彼のひとまずの目的が定まった。
原作開始まで後何年かかるかを一切考慮していない、愚か者の姿がそこにはあった。
「滅せよ」
放たれた火焔は死の息吹そのものだ。何もしなければ私たちは滅ぶ。消えてしまう。頼れる仲間が、築いてきた信頼が、積み重ねた研鑽が、ロドスでの思い出が、一切の区別なく灰燼に帰すなんて、そんな結末は認められない。
アーツを起動する。黒き力の奔流が、火焔を押し留めている。王を守護する騎士のように、黒の奔流は仲間を守る漆黒の盾と化していた。
一人も犠牲にしたくない。その祈りが、彼女のアーツに力を与えているかのようだ。
しかし、火焔の勢いは収まらない。盾ごと燃やせばそれで済むと言わんばかりの力技。そして、ついに黒き障壁に火が移った。
身体が重い。アーツの酷使で装備の耐久に不安が募る。それでも、気力は尽きてない。
だから、まだだ。
力を振り絞る。もう二度と大切な人を目の前で失いたくはないから。
決死の覚悟で敵を見据える。
「素晴らしい」
僅かに口の端を吊り上げ必滅の焔を操る暴君は、愉悦に染まった声音で呟いた。
それは、並び立つ者のない強者が思わぬところで己に伍する実力者を見つけたかのようであり、極上の獲物を前に牙を砥ぐ肉食獣のようであり、戦に快悦を見出す破綻者のようでもあった。いや、正しいものなど一つもないのかもしれない。
ただ、確かなことが一つある。それは、タルラがアーミヤに意識を集中させてしまったという事であり、周囲への警戒が僅かながら薄れてしまったことである。
その隙を、蛇は逃さない。
――射殺せ
「神鎗」
迫る凶刃。鮮血が舞った。
神鎗。一発ネタ。
文字通り、ネタとしても所見殺しとしても一発。
1+1=2。即ち此れ二の打ち要らず。
殺傷力特化だが、OPB(オサレポイントバトル)での戦績はいまいち。