葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~ 作:Amisuru
新章開始です。
今後は基本こんな雰囲気で進めつつ、要所要所で序章の空気に戻るような作風になるんじゃないかと思います。
ですので今回が実質的な第一話のようなものだと思っていただければ幸いでございます。
ワートリはじまるよ~
西から昇ったお日様が東へ沈む
――ついにこの日が来た、と言わせてもらおう。
「ボーダー本部長、忍田真史だ。君たちの入隊を歓迎する」
体育館――いや体育館って表現は違うか? でも他にこの空間に相応しい呼称が思いつかない。とにかく体育館的な広間に集められた我々訓練生一同は、各員直立不動のいかにも軍人らしい姿勢を取り、壇上から放たれる声に耳を傾けている。
忍田真史。その肩書は本人の語ったとおり、ボーダー本部長。いわゆる『現場』の
「君たちは本日C級隊員……つまり訓練生として入隊するが、三門市の――そして人類の未来は、君たちの双肩に掛かっている」
それにしても、訓練生とはいえこうしてボーダー隊員の制服を着て、他の隊員達に混ざりながらお偉いさんの演説を聞いてみると、なんというか――感慨深い。まだ何も始まっていないのだが、ようやくここまで来られた、という気分になってくる。
『――まあ、
ほんとそれな。
年が明け、今や日付は1月
あ、そうそう。ボーダー専属のお医者様に診てもらった結果、僕の
他に何もないの? 相手の感情が
何となく相手が嫌なことを考えてたらモヤっとしたものが
どうやらボーダー的にはもっとこう、戦闘面で役に立つ
「日々研鑽し、正隊員を目指してほしい」
『……なーんか間接的に私がディスられてるような気がする』
は? いや待て、そういうことになるのか? 僕の
『ふーん、私のことめんどくさいとか言っちゃうんだー、ふーん。訓練中にいきなり
その反応が既にめんどくさいっていうかそれは普通に洒落にならないので止めていただきたい。
さて、僕は現在トリオン体で入隊式に参加している訳なのだが、その外見は相変わらず
けれど僕は、それで陽花の身体を無理矢理弄って
……あるべき
「君たちと共に戦える日を待っている」
『うふふ、優しい優しいお兄ちゃん……でもね? それを言うなら、
――いいや、
『ああ……おかしな部屋に住んでるせいでお兄ちゃんがすっかりオカルトに染まってしまって……妹は兄の将来に一抹の不安を感じます……よよよ』
そういうおまえのキャラ付けも相変わらず安定しないな。生後2週間なだけのことはあるわ。
おかしな部屋と陽花は口にしたが、とりあえず今のところ、
ああでも、"この部屋では考えたことを隠すことはできない"の方は依然として機能しているな。僕一人にだけ。不公平に。
『ていうかそれ、部屋の中に限った話じゃないしね』
ちくしょう。
語るべき事柄は二つ。受付の女性が姿を消したことと、部屋の向日葵は今日も元気に咲き誇っていますよということ。
"それじゃあね"と書かれていたとおり、あの文章を読み終えた後に受付へと降りてみると、そこにいたのは至って平凡な『失礼だね』確かに。とにかく何ら変わったところのないボーダー職員さんで、あのもさもさした髪型の女性の姿は何処にもなかった。
最後まで謎の多い存在であったが、僕がやりたいのはその謎を解き明かすことではない。故に、彼女の話はこれで終わりだ。もう二度と会うこともないだろう。
問題は彼女の置き土産、花瓶に生けられた一輪の花の話だ。例の日から2週間ほどが経過したと先にも述べたが、切り花の向日葵というのはせいぜい1週間も持てばいい方で、その倍ともなればすっかり花弁は削げ落ち、茎も腐って、見るも無残な有様に成り果てていてもおかしくない時間が経っているのである。
ところが我が家の
とにかくそういうワケで、依然としてささやかな
近況報告、おわり。
「私からは以上だ。この先の説明は嵐山隊に一任する」
『……ところでお兄ちゃん、さっきから誰に向けて喋ってるわけ?』
さあな……そこんとこだがおれにもようわからん。
『うそだろ承太郎』
いやホントに。
……というか、おまえは一体どこでどうやって読んだんだ、ジョジョ?
脳内漫才を続けている間に忍田本部長が壇上から消えていた。何を言っているのかわからないと思うが僕にも『ジョジョはもういいよ』せやな。
えーと何だって? 本部長は最後になんて言っていた? "嵐山隊に一任する"だっけか。
嵐――嵐山隊か!
オペレーターの
……綾辻さん抜きだと、男三人で意外と華に欠けるな嵐山隊。こんな感想を抱いてしまうのは、最近我が家にもささやかな彩りが添えられたせいだろうか?
『うふふ』
――花の話な、花の。
生嵐山隊を前に興奮を隠せないのか、訓練生達の間でも何やら"ざわ……ざわ……"といった感じのどよめきが起こっている。お茶の間デビューから半年程度ながら流石の人気だ。ひょっとしたら第2第3の
「さて。これから
……いやあ、さっきは勢いで華がないだなんて言ってしまったが、こうして間近で拝んでみると周りが騒いでいる理由もワカるような気がするよ。
爽やかを絵に描いたようなその人が口を開くと、訓練生達の意識は吸い寄せられるように彼へと向いていく。まさしく嵐の中心、という感じの
「
佐鳥。ああそうだ思い出した佐鳥賢だ。嵐山さんの横で親指をくいっと立てて自分を指しているドヤ顔マンの名前は。
さて、嵐山さんの説明に従い周囲が散り散りになり始める中、依然として僕はその場にぼっ立ちしながら考えていた。
――
せっかくウィルバー氏に勧めてもらったのだからとりあえずはこいつを使っていこうということで、僕は初期トリガーに
で。銃型トリガーを使わないで弾丸を飛ばす僕みたいなタイプは
「――あ、いたいた。彼がそうよ」
「……
――その機動戦艦の女艦長を務めていそうな声は! 詳しくないけど!
「那須さん!」
「ええ、那須さんよ。あけましておめでとう、大庭くん」
「あけおめ」
「ことよろ」
「那須先輩がことよろって言った……!?」
「そんなに驚くことかしら茜ちゃん」
「すっ……すみません! 那須先輩の口からそんな言葉が出てくるだなんて思ってなかったので、不意を突かれたと言いますかその」
「そう。いい機会だから知っておいてちょうだい。私はことよろと言える女だと」
「は、はい! 『日浦は基本的に何も知らないやつだよな』とかよく言われるので、ボーダーではそういうこと言われないように頑張ります! 那須先輩はことよろと言える女、那須先輩はことよろと言える女……」
その知識生きていく上で何か役に立つことってあります? そうツッコミたい意識をぐっと抑えつつ、僕は那須さんの隣でぶつぶつと呟いている女の子へと視線を向けた。
元気で活発な印象を与えるツインテールの上にハンチング帽を被った、やや小柄な背丈の娘だ。那須さんのことを先輩と呼んでいたから僕にとっても後輩に当たる訳だが、そういう認識を踏まえてから見ると、なんとなく『後輩女子』的なオーラが漂って見えなくもない。
明るく前向きな心を胸に宿した、"頑張れ!"って感じの女の子だ。『お兄ちゃんヒロアカも好きだよね』だからおまえはおまえで何処からそういう漫画知識を得ているんだよ。僕の脳内本棚か? 借り物だらけだぞ。
「紹介するわ、大庭くん。
「は――はじめまして、日浦です! えーと、那須先輩からお噂はかねがね……」
「ああ、はじめまして。大庭葉月です。どういう風に聞いてるのかな、僕のこと」
「『ほげえええ……』って言ってあげると元気になるって聞きました!」
「なるほど。いいかい日浦さん、その女の言うことはもう二度と信用しなくていいからね」
「はい! ……ええ!?」
「純粋なんだね」
「かわいいでしょう?」
「そうだね。裏表のないとても良い子だ。
「あら、嘘は言っていないでしょう? 怒りだって立派な気力の源だもの」
「どうせならもっとポジティブな感情を引き出してくれる言葉が欲しいところだ」
「『がんばれ♡ がんばれ♡』みたいな?」
「それはもう古いかな。最近は『ざぁーこ♡ ざぁーこ♡』っていうのが流行りらしいよ。詳しくないけど」
「雑魚って言われると元気が出てくるの?」
「世の中には普通じゃない人が沢山いるってことだよ」
僕みたいにね。
……いや、この流れで僕を引き合いに出すと、まるで僕にそっちの気があるみたいじゃないか。なしなし、今の喩えはなし。『ふふふ……良いこと聞いちゃった……』なしって言ってんだろ。
「どぅわああ~……勉強になります。『ざぁーこ♡』って言われると元気になれる人もいる……」
「茜ちゃん。そのひとの言うことはもう二度と信用しなくていいからね」
「誰も信じられない!?」
「純粋過ぎるのも考えものだなあ」
「それでも私達は、この純粋さを守っていかなければならないのよ大庭くん」
「あっはっは。自分らホンマおもろいなあ、おまけにみんなカワイイし」
『うふふ。お兄ちゃん可愛いって』
「おまえの顔だろ、おまえの――うん?」
なんかしれっと『俺も混ぜてよwww』的な勢いで割り込んできた関西人がいる。
声のする方に視線を向けると、日浦さんとはまた別の帽子頭がそこにいた。いや、帽子っていうよりサンバイザーっていうのかなこれは? 上から髪見えてるし。ついでに言うと、バイザーの下にはイケメンの顔が隠れていた。俗に言う泣きボクロが右目の下についている、飄々とした笑みの男の子だ。歳は僕らと同年代かな、多分。
「ども。おれな、ボーダーにスカウトされてはるばる大阪くんだりから
「ああ、どうも。大庭葉月です」
「那須玲です」
「ひ、日浦茜です! よろしくおねがいします!」
「ああ、帽子の子――日浦ちゃんはええけど、そっちの二人はタメ口で頼むわ。15やろ? おれと同い年や。女の子のトシだけは外さないようにしてんねん、そこでしくじると面倒やねんな」
「歳は確かに合ってますけど、僕は男ですだよ」
「あっはっは。
さらりと笑い飛ばされてしまった。いやまあ、そりゃそういう反応にもなるよな。実際に身体の方は完全に
それにどうやら、彼のお目当ては僕ではなさそうだ。隠岐孝二は自分と同じ帽子頭の女の子へと視線を移して、柔和な笑みを浮かべたまま口を開いた。
「日浦ちゃん。自分
「は、はい! そうです! なんでわかったんですか!?」
「仮入隊ん時な、
「はえ~……帽子にそんな効果あったんですね、わたし全然知りませんでした……」
「あれ、ひょっとしてただのオシャレなん?」
「は、はい。お恥ずかしながら……その、帽子集めが趣味なんです、わたし」
「ええ趣味やん。何も照れることないで。で、そんな日浦ちゃんから見ておれの
「い、いえいえいえ! ダサいなんてことないです! よく似合ってます!」
「おおきに。でな、そんな日浦ちゃんに一つ教えてあげよう思って声掛けたねんけど」
「は、はい。なんでしょう?」
「
「――へ?」
「佐鳥くんやっけ? あのドヤ顔くんの名前。それに連れられてドナドナド~ナ~やわ。残っとるのおれら二人だけ」
「どぅっ……どぅわああああああああああああ!?」
「日浦ちゃんておもろい悲鳴あげる子やなあ」
それは僕も思っていた。しかし日浦さん、
見るからに落ち着きを失ってわたわたとし始める日浦さん。そんな彼女を愉快そうに眺めている隠岐孝二。置いてけぼりを食らったのは彼も同じの筈なのだが、随分と態度に余裕がある。
まあ、彼が何ゆえに会場に残り日浦さんへと声を掛けたのか、何となく僕は察しが付いていた。普通なら何だこのチャラ男丸出しのナンパマンはと警戒するべき場面なのかもしれないが、そういった下心は一切
「まあ、ごめんなさい茜ちゃん。私が引き留めちゃったせいよね」
「い、いえいえ! 那須先輩のせいじゃないです! わたしがぼけっとしてたのが悪いんです! どぅわわ、どうしましょう……?」
「ま、向こうに着いたらこう言えばええやろ。『すみません、この人にナンパされてたせいで遅刻しちゃいました』って」
そう言って自分を指差す隠岐孝二。やっぱりそういう目的だったのか。気配りの出来る男だな。地元じゃさぞかしモテたことだろう、ルックスもイケメンだし。『マウンテン・おっきー』確かに帽子被ってるけれども。
「え、ええ!? それはダメですよ! 隠岐先輩は叱られる理由ないじゃないですか!」
「さっさと日浦ちゃんに声掛けないで、足止めてきみらの話聞いとった時点でおれも同罪やって」
「ぐむむぅ……し、しかしぃ……」
「そういうことなら、普通に二人で怒られればいいんじゃないかな」
「そこは男に見栄張らせてや大庭ちゃん」
「隠岐くん一人を悪者にしたら日浦さんの方に立つ瀬がないでしょ。あとお願いだからその呼び方だけはやめて下さい。やめろ」
『私もなんかおばちゃんみたいでいやー』
「
「どこにラドンがおんねん。てか、おれもくん付けで呼ばれるんは正直微妙やわ。もっとフランクに呼んでくれてええで」
「じゃあおっきーで」
「あっはっは、大阪でも友達からはそう呼ばれとったわ。この名字やとそうなる運命なんやなあ。ま、そんな感じで頼むで、づっきー」
「そう来たかー」
づっきー。ズッキーニみたいな綽名を付けられてしまった。まあ葉月ちゃんとか呼ばれるよりは万倍マシか。その呼び方は
『……そうなの?』
そうなんだよ。
まあなんだ、僕らにはもう関係のない話だ。忘れてくれ。
「んじゃま、二人仲良く怒られに行こか日浦ちゃん」
「わ、わたし出来る限り隠岐先輩が怒られないようフォローしますから! そこは譲りませんからね!」
「あはは、日浦ちゃんはええ子やなあ。きっとみんなから好かれると思うで」
「その、ありがとうおっきー君。茜ちゃんのこと、よろしく頼むわね」
「綽名にくん付けってまた随分な
あ、おっきーのチャラ男パワーをもってしても那須さんをちゃん付けすることは叶わないのか。凄いぞ那須さん。強いぞ那須さん。
日浦さんを引き連れて、駆け出すわけでもなくテクテクとマイペースに会場の出口へと向かっていくおっきー。「ところで、ドヤ顔くん達ここ出た後どっち行ったんやろなあ」「どぅえっ!?」なんか去り際に不安になる会話が聞こえたような気もするが、まあきっと大丈夫だろう。たぶん。メイビー。
『信じて送り出した茜ちゃんが佐鳥の変態(技量的な意味で)訓練にドハマリしてドヤ顔ツインスナイプに目覚めて帰ってくるなんて……』
いきなり人の頭の中に訳わかんないネタぶっ込んで来るのやめてくれません?
それにツインスナイプとか言ってるけど、彼のアレはテレビ向けのファッションだろう。まさか実戦でも二丁構えてぶっ放してるとか思ってないだろうな。そんなん出来たらそれこそ変態だよ、変態。佐鳥賢は変態(風評被害)。
「あ、そうだ那須さん。那須さんは当然、初期トリガーは
「ええ、今のところそれしか扱えないもの。
「ってことは僕と同じで
「ああ、ウィルバーさんも私もうっかりしていたわね。
「あ、そうなんだ。
「どうなのかしら――何にせよ、大抵の場合は別のポジションとして扱われるんじゃないかしら? 個人戦のランキングなんかでも、
なるほど。ということは一緒くたにして扱われている今回が例外というわけか。
『基本的に何も知らないと言われる』日浦さんは自分のことをそんな風に言っていたが、知識を貪欲に身に着けていかなければ置いていかれてしまうのは僕も同じことだ。仮入隊期間のおかげで今日初めてトリガーに触れるような隊員よりはアドバンテージがあるだろうが、僕とて生まれたての
『意識高い
系を付けるな、系を。
――さあ、とにかく今日から、正式なボーダー隊員生活の始まりだ。
「……見たか? 水上。いきなり女の子らに粉かけていきよったで、
「しかも一人お持ち帰りしていったっすね」
「ありえんやろ……俺が同じように話しかけたら間違いなく即
「まあ、確かに今のイコさん不審者呼ばわりされてもしゃーない見た目してますけどね。どしたんすかそのゴーグル」
「ボーダー入ったらあのアラシヤマって奴みたいにテレビとかがんがん出まくれるんやろ? スカウトの人にビデオ見せられたからよう知っとるで。せやけどカメラの向こうの人と目ぇ合わせんの恥ずいやん。せやから
「アラシヤマさんとこが広報部隊いうて特別扱いされとるだけで、ヒラ隊員やと特にそういうんはないって聞いとりますけど」
「は? うせやん? せやったら俺どうやってテレビ映ったらええの? オトンとオカンと
「アラシヤマさんと仲良くしとったらワンチャン
「それや。おまえ天才やな水上。確か俺とタメやって聞いとるし、式終わったらアラシヤマに全力で絡みに行くわ。頬っぺたとかガンガン突っついたろ」
「その押しの強さを女子相手にも出せないもんっすかねこの人は……」
「アホ抜かせ、このシャイが服着て歩いとるような男になんつう無茶振りすんねん。いやホンマ、シャイで辞書引いたら用例の三番目くらいに『生駒達人のようにシャイ』とか載っとるから。今度見てみぃや」
「ナポレオンの持ってる辞書よりも役に立たなそうっすね、それ」
「まあとにかく隠岐や。あいつホンマ許せへん。俺もあいつみたく女の子とお喋りしたいねん」
「嫉妬丸出しやないですか」
「『モテたい』は男の共通願望やろが! しかも
「イコさんの口から可憐とかいう単語が出てくるとそれだけでギャグになるからズルいっすわ」
「言うほどか? 可憐も華麗もカレーも大して差ぁないやろ。俺の好きなカレーの話したろか?」
「2年後くらいに興味あったら聞かせてもらいますわ」
「ナスカレー……」
「言うんかい!! ……あー、まあ2年もしたら忘れとるやろ多分……」
BBF2が世に出たら即破綻する大捏造その1。
こんな感じでバンバン嘘ついていきますが宜しければ次回以降もお付き合い下さい。
次回は入隊式名物、かわいそうなバムスター君編。
妖怪名札むしりになるお仕事で忙しいので更新が空くかもしれませんが多分他所も似たような感じだと思うので私は謝らない。