葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~   作:Amisuru

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新章開始です。
今後は基本こんな雰囲気で進めつつ、要所要所で序章の空気に戻るような作風になるんじゃないかと思います。
ですので今回が実質的な第一話のようなものだと思っていただければ幸いでございます。
ワートリはじまるよ~




season0.5~C級隊員編/Child's Play~
西から昇ったお日様が東へ沈む


 

 

 ――ついにこの日が来た、と言わせてもらおう。

 

 

「ボーダー本部長、忍田真史だ。君たちの入隊を歓迎する」

 

 

 体育館――いや体育館って表現は違うか? でも他にこの空間に相応しい呼称が思いつかない。とにかく体育館的な広間に集められた我々訓練生一同は、各員直立不動のいかにも軍人らしい姿勢を取り、壇上から放たれる声に耳を傾けている。

 忍田真史。その肩書は本人の語ったとおり、ボーダー本部長。いわゆる『現場』の頂点(トップ)であり、僕達ボーダー隊員を使()()人の中では最高位の存在と言えるだろう。最高司令官の城戸政宗氏は組織そのものの長であるから、もはや雲の上の御方と言ったところだ。僕如き木っ端隊員が関わる機会など永久に訪れまい。

 

 

「君たちは本日C級隊員……つまり訓練生として入隊するが、三門市の――そして人類の未来は、君たちの双肩に掛かっている」

 

 

 それにしても、訓練生とはいえこうしてボーダー隊員の制服を着て、他の隊員達に混ざりながらお偉いさんの演説を聞いてみると、なんというか――感慨深い。まだ何も始まっていないのだが、ようやくここまで来られた、という気分になってくる。

 

 

『――まあ、()()あったからね』

 

 

 ほんとそれな。

 年が明け、今や日付は1月8日(ようか)。『私の日だね』やかましいわ。()()()から大体2週間ほどが経過した訳だが、その間も僕はボーダー本部へと休みなく通い詰め、仮入隊の立場で体験できることは一通りこなしてきた、と思う。といっても所詮は仮入隊、那須さんとウィルバー氏に教わった以上の知識は特に得られなかったけれども。

 あ、そうそう。ボーダー専属のお医者様に診てもらった結果、僕の副作用(サイドエフェクト)に正式な呼び名が付いた。『感情視認体質』。そのまんまだ。人の気持ちが理解る。()()()()

 他に何もないの? 相手の感情が()()()()()()()()()()とか、誰かに殴られそうになったとき、()()()()()()()()()()()()()()()()()とか――みたいなことを聞かれたりもしたが、そんな便利な力があるならむざむざ父親にボコられることもなかっただろう。

 何となく相手が嫌なことを考えてたらモヤっとしたものが()えるし、良いことを考えてたらキラキラ眩しく()えるとか、その程度のものだ。実にふわっとしている。

 どうやらボーダー的にはもっとこう、戦闘面で役に立つ副作用(サイドエフェクト)を僕に期待していたようだ。申し訳ありません、期待に応えられないことに定評のある男で。

 

 

「日々研鑽し、正隊員を目指してほしい」

『……なーんか間接的に私がディスられてるような気がする』

 

 

 は? いや待て、そういうことになるのか? 僕の副作用(サイドエフェクト)トリオン器官(陽花)によって生み出されているのだから、副作用(サイドエフェクト)への文句=陽花への悪口ってことになってしまうのか? うーん、この無駄にめんどくさい僕の人体構造……。

 

 

『ふーん、私のことめんどくさいとか言っちゃうんだー、ふーん。訓練中にいきなりトリオン体(変身)を解除されても泣いちゃダメだよお兄ちゃん』

 

 

 その反応が既にめんどくさいっていうかそれは普通に洒落にならないので止めていただきたい。

 さて、僕は現在トリオン体で入隊式に参加している訳なのだが、その外見は相変わらず()の――もとい、大庭陽花(いもうと)のものになっている。ウィルバー氏もちらっと言っていた通り、身長や体重など手を加えることで生身との違和感が大きくなる要素でなければ、トリオン体の外見はある程度自由に調整できるとお医者様からも教えてもらった。

 けれど僕は、それで陽花の身体を無理矢理弄って()へと戻そうとは思わなかった。陽花の言う通り、トリガーがトリオン体の構築対象に僕ではなく陽花を選んだのであれば、少なくとも身体面に関してはそれに倣うべきだと思ったからだ。

 ……あるべき性別(かたち)を他人の意思で歪められるっていうのは、()()()()しな。うん。

 

 

「君たちと共に戦える日を待っている」

『うふふ、優しい優しいお兄ちゃん……でもね? それを言うなら、頭脳(コントロール)も立派なカラダの一部だと思わない?』

 

 

 ――いいや、(コントロール)はあくまで僕のものだ。ここに関しては譲れない。僕の絶対防衛線(ボーダーライン)だ。

 

 

『ああ……おかしな部屋に住んでるせいでお兄ちゃんがすっかりオカルトに染まってしまって……妹は兄の将来に一抹の不安を感じます……よよよ』

 

 

 そういうおまえのキャラ付けも相変わらず安定しないな。生後2週間なだけのことはあるわ。

 おかしな部屋と陽花は口にしたが、とりあえず今のところ、ROOM303(3 0 3号室)は僕らにとって不都合となる異常性を発揮してはいない。牙のように見えた壁の模様が本物の牙になって噛みついてきたりとか、表のメモ(ルール)の取り消し線がいつの間にか消えていたりとかそういうこともなかった。

 ああでも、"この部屋では考えたことを隠すことはできない"の方は依然として機能しているな。僕一人にだけ。不公平に。

 

 

『ていうかそれ、部屋の中に限った話じゃないしね』

 

 

 ちくしょう。

 語るべき事柄は二つ。受付の女性が姿を消したことと、部屋の向日葵は今日も元気に咲き誇っていますよということ。

 "それじゃあね"と書かれていたとおり、あの文章を読み終えた後に受付へと降りてみると、そこにいたのは至って平凡な『失礼だね』確かに。とにかく何ら変わったところのないボーダー職員さんで、あのもさもさした髪型の女性の姿は何処にもなかった。()()()()()()、ということだろう。

 最後まで謎の多い存在であったが、僕がやりたいのはその謎を解き明かすことではない。故に、彼女の話はこれで終わりだ。もう二度と会うこともないだろう。

 問題は彼女の置き土産、花瓶に生けられた一輪の花の話だ。例の日から2週間ほどが経過したと先にも述べたが、切り花の向日葵というのはせいぜい1週間も持てばいい方で、その倍ともなればすっかり花弁は削げ落ち、茎も腐って、見るも無残な有様に成り果てていてもおかしくない時間が経っているのである。

 ところが我が家の太陽の花(sunflower)、今朝もすこぶる満開であった。枯れるどころか老いて益々盛ん、といった感じである。『老いてないから。新鮮だから。玉のようなお肌だから』いや、陽花(おまえ)の話じゃなくてね。

 とにかくそういうワケで、依然としてささやかな()()を抱えながらも、僕らは無事に年を越え、新たなる物語(いちねん)の始まりをこうして迎えられていますというお話でした。

 近況報告、おわり。

 

 

「私からは以上だ。この先の説明は嵐山隊に一任する」

『……ところでお兄ちゃん、さっきから誰に向けて喋ってるわけ?』

 

 

 さあな……そこんとこだがおれにもようわからん。

 

 

『うそだろ承太郎』

 

 

 いやホントに。

 ……というか、おまえは一体どこでどうやって読んだんだ、ジョジョ?

 

 

 

 

 

 

 

 脳内漫才を続けている間に忍田本部長が壇上から消えていた。何を言っているのかわからないと思うが僕にも『ジョジョはもういいよ』せやな。

 えーと何だって? 本部長は最後になんて言っていた? "嵐山隊に一任する"だっけか。

 嵐――嵐山隊か! 広報部隊(ご当地アイドル)の! おお、気付けばもう訓練生(僕ら)の前に姿を現しているじゃないか。隊長の嵐山さんに、名前を失念してしまったが眠たげな目つきが印象的な子とヘラヘラドヤ顔二丁狙撃銃(ツインスナイパー)! 『銃持ってないじゃん』いやいつもは持ってるんだよホントだよ。

 オペレーターの綾辻遥さん(ジャイアン)は不在か。確か、オペレーター志望の子は別の会場に集められているとか()()が言っていたような気がする。きっとそっちの案内役(ナビゲーター)を務めているんだろう。

 ……綾辻さん抜きだと、男三人で意外と華に欠けるな嵐山隊。こんな感想を抱いてしまうのは、最近我が家にもささやかな彩りが添えられたせいだろうか?

 

 

『うふふ』

 

 

 ――花の話な、花の。

 生嵐山隊を前に興奮を隠せないのか、訓練生達の間でも何やら"ざわ……ざわ……"といった感じのどよめきが起こっている。お茶の間デビューから半年程度ながら流石の人気だ。ひょっとしたら第2第3の広報部隊(アイドル)を目指して入隊した子なんかもいるのかもしれないな。

 

 

「さて。これから入隊指導(オリエンテーション)を始めるが、まずはポジションごとに分かれてもらう」

 

 

 ……いやあ、さっきは勢いで華がないだなんて言ってしまったが、こうして間近で拝んでみると周りが騒いでいる理由もワカるような気がするよ。

 爽やかを絵に描いたようなその人が口を開くと、訓練生達の意識は吸い寄せられるように彼へと向いていく。まさしく嵐の中心、という感じの風格(オーラ)を持っていた。

 

 

攻撃手(アタッカー)銃手(ガンナー)を志望する者はここに残り、狙撃手(スナイパー)を志望する者はうちの佐鳥について訓練場に移動してくれ」

 

 

 佐鳥。ああそうだ思い出した佐鳥賢だ。嵐山さんの横で親指をくいっと立てて自分を指しているドヤ顔マンの名前は。

 さて、嵐山さんの説明に従い周囲が散り散りになり始める中、依然として僕はその場にぼっ立ちしながら考えていた。

 ――射手(シューター)はどこへ行けば?

 せっかくウィルバー氏に勧めてもらったのだからとりあえずはこいつを使っていこうということで、僕は初期トリガーに炸裂弾(メテオラ)を選んだ。拳銃型(ハンドガン)突撃銃型(アサルトライフル)擲弾銃型(グレネードガン)など様々なスタイルを選択できるようだったが、そこも捻らずに(他と比べれば)使い慣れた豆腐型(キューブ)だ。

 で。銃型トリガーを使わないで弾丸を飛ばす僕みたいなタイプは射手(シューター)と呼ばれるポジションに属するのだとウィルバー氏からは教わっているのだが、その射手(シューター)に対する言及がない。ついでに言えば特殊工作員(トラッパー)無視(スルー)されている。忘れていないぞスイッチボックス。おまえのせいで僕は2回もお手軽無理心中する羽目になったんだからな。『もぎゃあああ……』うるさいよそこ。

 

 

「――あ、いたいた。彼がそうよ」

「……()、ですか? うーん、ホントに女の人にしか見えないですねえ……おまけにかわいい……どぅわあああ……」

 

 

 ――その機動戦艦の女艦長を務めていそうな声は! 詳しくないけど!

 

 

「那須さん!」

「ええ、那須さんよ。あけましておめでとう、大庭くん」

 

 

 狙撃手(スナイパー)組が他所に移って人の波が割れた影響か、ようやく見知った顔と出会うことに成功した。相変わらずの薄い微笑みを湛えている那須さん。あれから何度か病室へと趣き顔を合わせてはいたが、正式入隊前の最終的な身体検査やら何やらで忙しくなるからと、今年に入ってからはまだ顔を合わせていなかったのだ。というわけで、まずはこちらも新年のご挨拶から。

 

 

「あけおめ」

「ことよろ」

「那須先輩がことよろって言った……!?」

「そんなに驚くことかしら茜ちゃん」

「すっ……すみません! 那須先輩の口からそんな言葉が出てくるだなんて思ってなかったので、不意を突かれたと言いますかその」

「そう。いい機会だから知っておいてちょうだい。私はことよろと言える女だと」

「は、はい! 『日浦は基本的に何も知らないやつだよな』とかよく言われるので、ボーダーではそういうこと言われないように頑張ります! 那須先輩はことよろと言える女、那須先輩はことよろと言える女……」

 

 

 その知識生きていく上で何か役に立つことってあります? そうツッコミたい意識をぐっと抑えつつ、僕は那須さんの隣でぶつぶつと呟いている女の子へと視線を向けた。

 元気で活発な印象を与えるツインテールの上にハンチング帽を被った、やや小柄な背丈の娘だ。那須さんのことを先輩と呼んでいたから僕にとっても後輩に当たる訳だが、そういう認識を踏まえてから見ると、なんとなく『後輩女子』的なオーラが漂って見えなくもない。

 明るく前向きな心を胸に宿した、"頑張れ!"って感じの女の子だ。『お兄ちゃんヒロアカも好きだよね』だからおまえはおまえで何処からそういう漫画知識を得ているんだよ。僕の脳内本棚か? 借り物だらけだぞ。

 

 

「紹介するわ、大庭くん。くまちゃん(私の友達)の後輩で、日浦茜ちゃんっていうの。仲良くしてあげてね」

「は――はじめまして、日浦です! えーと、那須先輩からお噂はかねがね……」

「ああ、はじめまして。大庭葉月です。どういう風に聞いてるのかな、僕のこと」

「『ほげえええ……』って言ってあげると元気になるって聞きました!」

「なるほど。いいかい日浦さん、その女の言うことはもう二度と信用しなくていいからね」

「はい! ……ええ!?

「純粋なんだね」

「かわいいでしょう?」

「そうだね。裏表のないとても良い子だ。()()()()()()()よ。で、そんな後輩にあることないこと吹き込んで、君の心は痛まないのか那須さん」

「あら、嘘は言っていないでしょう? 怒りだって立派な気力の源だもの」

「どうせならもっとポジティブな感情を引き出してくれる言葉が欲しいところだ」

「『がんばれ♡ がんばれ♡』みたいな?」

「それはもう古いかな。最近は『ざぁーこ♡ ざぁーこ♡』っていうのが流行りらしいよ。詳しくないけど」

「雑魚って言われると元気が出てくるの?」

「世の中には普通じゃない人が沢山いるってことだよ」

 

 

 僕みたいにね。

 ……いや、この流れで僕を引き合いに出すと、まるで僕にそっちの気があるみたいじゃないか。なしなし、今の喩えはなし。『ふふふ……良いこと聞いちゃった……』なしって言ってんだろ。

 

 

「どぅわああ~……勉強になります。『ざぁーこ♡』って言われると元気になれる人もいる……」

「茜ちゃん。そのひとの言うことはもう二度と信用しなくていいからね」

「誰も信じられない!?」

「純粋過ぎるのも考えものだなあ」

「それでも私達は、この純粋さを守っていかなければならないのよ大庭くん」

「あっはっは。自分らホンマおもろいなあ、おまけにみんなカワイイし」

『うふふ。お兄ちゃん可愛いって』

「おまえの顔だろ、おまえの――うん?」

 

 

 なんかしれっと『俺も混ぜてよwww』的な勢いで割り込んできた関西人がいる。

 声のする方に視線を向けると、日浦さんとはまた別の帽子頭がそこにいた。いや、帽子っていうよりサンバイザーっていうのかなこれは? 上から髪見えてるし。ついでに言うと、バイザーの下にはイケメンの顔が隠れていた。俗に言う泣きボクロが右目の下についている、飄々とした笑みの男の子だ。歳は僕らと同年代かな、多分。

 

 

「ども。おれな、ボーダーにスカウトされてはるばる大阪くんだりから三門(こっち)へと越してきたねん。隠岐孝二や、よろしゅーな」

「ああ、どうも。大庭葉月です」

「那須玲です」

「ひ、日浦茜です! よろしくおねがいします!」

「ああ、帽子の子――日浦ちゃんはええけど、そっちの二人はタメ口で頼むわ。15やろ? おれと同い年や。女の子のトシだけは外さないようにしてんねん、そこでしくじると面倒やねんな」

「歳は確かに合ってますけど、僕は男ですだよ」

「あっはっは。三門(こっち)やとそういう冗談もアリなん? 進んどるなあ」

 

 

 さらりと笑い飛ばされてしまった。いやまあ、そりゃそういう反応にもなるよな。実際に身体の方は完全に陽花(おんな)のものなのだから節穴という訳でもなし。換装解いたら一発なんだけど、入隊式の真っ最中に生身に戻るのもなあ。集会中に突然服を脱ぎ出すようなものだ。悪目立ち待ったなし。

 それにどうやら、彼のお目当ては僕ではなさそうだ。隠岐孝二は自分と同じ帽子頭の女の子へと視線を移して、柔和な笑みを浮かべたまま口を開いた。

 

 

「日浦ちゃん。自分狙撃手(スナイパー)志望やろ?」

「は、はい! そうです! なんでわかったんですか!?」

「仮入隊ん時な、狙撃手(スナイパー)やりたいなら日差し除けに帽子被っとくと捗るって教わってんねん。せやからおれもこんなん被ってるんやけど、日浦ちゃんもそのクチやったみたいやな」

「はえ~……帽子にそんな効果あったんですね、わたし全然知りませんでした……」

「あれ、ひょっとしてただのオシャレなん?」

「は、はい。お恥ずかしながら……その、帽子集めが趣味なんです、わたし」

「ええ趣味やん。何も照れることないで。で、そんな日浦ちゃんから見ておれのバイザー(帽子)はどう? ダサない?」

「い、いえいえいえ! ダサいなんてことないです! よく似合ってます!」

「おおきに。でな、そんな日浦ちゃんに一つ教えてあげよう思って声掛けたねんけど」

「は、はい。なんでしょう?」

()()()()()()()()()な、もうとっくにこの会場から出ていってしもたで」

「――へ?」

「佐鳥くんやっけ? あのドヤ顔くんの名前。それに連れられてドナドナド~ナ~やわ。残っとるのおれら二人だけ」

「どぅっ……どぅわああああああああああああ!?」

「日浦ちゃんておもろい悲鳴あげる子やなあ」

 

 

 それは僕も思っていた。しかし日浦さん、狙撃手(スナイパー)志望だったのか。普通に僕らと雑談してるから攻撃手(アタッカー)銃手(ガンナー)のどっちかだと思っていた。狙撃手(スナイパー)っていうのは感情を殺せる仕事人みたいな性格でないと務まらないポジションだという偏見があるのだが、日浦さんはその……大丈夫だろうか? 出だしからこれなのでついつい老婆心が働いてしまいそうになる。

 見るからに落ち着きを失ってわたわたとし始める日浦さん。そんな彼女を愉快そうに眺めている隠岐孝二。置いてけぼりを食らったのは彼も同じの筈なのだが、随分と態度に余裕がある。

 まあ、彼が何ゆえに会場に残り日浦さんへと声を掛けたのか、何となく僕は察しが付いていた。普通なら何だこのチャラ男丸出しのナンパマンはと警戒するべき場面なのかもしれないが、そういった下心は一切()えなかったので。

 

 

「まあ、ごめんなさい茜ちゃん。私が引き留めちゃったせいよね」

「い、いえいえ! 那須先輩のせいじゃないです! わたしがぼけっとしてたのが悪いんです! どぅわわ、どうしましょう……?」

「ま、向こうに着いたらこう言えばええやろ。『すみません、この人にナンパされてたせいで遅刻しちゃいました』って」

 

 

 そう言って自分を指差す隠岐孝二。やっぱりそういう目的だったのか。気配りの出来る男だな。地元じゃさぞかしモテたことだろう、ルックスもイケメンだし。『マウンテン・おっきー』確かに帽子被ってるけれども。

 

 

「え、ええ!? それはダメですよ! 隠岐先輩は叱られる理由ないじゃないですか!」

「さっさと日浦ちゃんに声掛けないで、足止めてきみらの話聞いとった時点でおれも同罪やって」

「ぐむむぅ……し、しかしぃ……」

「そういうことなら、普通に二人で怒られればいいんじゃないかな」

「そこは男に見栄張らせてや大庭ちゃん」

「隠岐くん一人を悪者にしたら日浦さんの方に立つ瀬がないでしょ。あとお願いだからその呼び方だけはやめて下さい。やめろ」

『私もなんかおばちゃんみたいでいやー』

陽花(ラドン)もそうだそうだと言っています」

「どこにラドンがおんねん。てか、おれもくん付けで呼ばれるんは正直微妙やわ。もっとフランクに呼んでくれてええで」

「じゃあおっきーで」

「あっはっは、大阪でも友達からはそう呼ばれとったわ。この名字やとそうなる運命なんやなあ。ま、そんな感じで頼むで、づっきー」

「そう来たかー」

 

 

 づっきー。ズッキーニみたいな綽名を付けられてしまった。まあ葉月ちゃんとか呼ばれるよりは万倍マシか。その呼び方は()だった頃に聞き飽きてるからな。

 

 

『……そうなの?』

 

 

 そうなんだよ。

 まあなんだ、僕らにはもう関係のない話だ。忘れてくれ。

 

 

「んじゃま、二人仲良く怒られに行こか日浦ちゃん」

「わ、わたし出来る限り隠岐先輩が怒られないようフォローしますから! そこは譲りませんからね!」

「あはは、日浦ちゃんはええ子やなあ。きっとみんなから好かれると思うで」

「その、ありがとうおっきー君。茜ちゃんのこと、よろしく頼むわね」

「綽名にくん付けってまた随分な()()()やなあ……ま、これはこれでアリか。引率役、任されたで那須さん。ほな、また」

 

 

 あ、おっきーのチャラ男パワーをもってしても那須さんをちゃん付けすることは叶わないのか。凄いぞ那須さん。強いぞ那須さん。

 日浦さんを引き連れて、駆け出すわけでもなくテクテクとマイペースに会場の出口へと向かっていくおっきー。「ところで、ドヤ顔くん達ここ出た後どっち行ったんやろなあ」「どぅえっ!?」なんか去り際に不安になる会話が聞こえたような気もするが、まあきっと大丈夫だろう。たぶん。メイビー。

 

 

『信じて送り出した茜ちゃんが佐鳥の変態(技量的な意味で)訓練にドハマリしてドヤ顔ツインスナイプに目覚めて帰ってくるなんて……』

 

 

 いきなり人の頭の中に訳わかんないネタぶっ込んで来るのやめてくれません?

 それにツインスナイプとか言ってるけど、彼のアレはテレビ向けのファッションだろう。まさか実戦でも二丁構えてぶっ放してるとか思ってないだろうな。そんなん出来たらそれこそ変態だよ、変態。佐鳥賢は変態(風評被害)。

 

 

「あ、そうだ那須さん。那須さんは当然、初期トリガーは豆腐型(キューブ)変化弾(バイパー)だよね?」

「ええ、今のところそれしか扱えないもの。炸裂弾(メテオラ)にもちょっとだけ興味はあるけれど」

「ってことは僕と同じで射手(シューター)なワケだ。あのさ、嵐山さんの説明で射手(シューター)がスルーされてたと思うんだけど、僕らもここに残ってていいのかな」

「ああ、ウィルバーさんも私もうっかりしていたわね。射手(シューター)というのは本来独立したポジションじゃなくて、『銃型トリガーを使わない銃手(ガンナー)』のことを指しているのよ。だから厳密に言えば、私達のポジションは銃手(ガンナー)なの」

「あ、そうなんだ。銃手(ガンナー)から派生して生まれたポジションなのかな?」

「どうなのかしら――何にせよ、大抵の場合は別のポジションとして扱われるんじゃないかしら? 個人戦のランキングなんかでも、銃手(ガンナー)1位と射手(シューター)1位は分けて語られるって聞いているし」

 

 

 なるほど。ということは一緒くたにして扱われている今回が例外というわけか。

 『基本的に何も知らないと言われる』日浦さんは自分のことをそんな風に言っていたが、知識を貪欲に身に着けていかなければ置いていかれてしまうのは僕も同じことだ。仮入隊期間のおかげで今日初めてトリガーに触れるような隊員よりはアドバンテージがあるだろうが、僕とて生まれたての訓練生(ひよっこ)。あらゆる知識を無駄にすることなく、身に着け、蓄え、糧としていこう。

 

 

『意識高い()なんだね、お兄ちゃん』

 

 

 系を付けるな、系を。

 ――さあ、とにかく今日から、正式なボーダー隊員生活の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……見たか? 水上。いきなり女の子らに粉かけていきよったで、隠岐(あいつ)

「しかも一人お持ち帰りしていったっすね」

「ありえんやろ……俺が同じように話しかけたら間違いなく即警察(サツ)呼ばれてそのままお縄やん……あれがイケメン無罪ってやつなんか……?」

「まあ、確かに今のイコさん不審者呼ばわりされてもしゃーない見た目してますけどね。どしたんすかそのゴーグル」

「ボーダー入ったらあのアラシヤマって奴みたいにテレビとかがんがん出まくれるんやろ? スカウトの人にビデオ見せられたからよう知っとるで。せやけどカメラの向こうの人と目ぇ合わせんの恥ずいやん。せやからゴーグル(こいつ)で目線隠してな、見つめ合いっぽくならないように演出すんねん。気分はさながらイレイザーヘッドや」

「アラシヤマさんとこが広報部隊いうて特別扱いされとるだけで、ヒラ隊員やと特にそういうんはないって聞いとりますけど」

「は? うせやん? せやったら俺どうやってテレビ映ったらええの? オトンとオカンと祖父(じい)ちゃんにも俺の活躍お茶の間から応援しとってや言うて出てきたんやけど俺」

「アラシヤマさんと仲良くしとったらワンチャン部隊(チーム)に入れてくれたりするんやないですか」

「それや。おまえ天才やな水上。確か俺とタメやって聞いとるし、式終わったらアラシヤマに全力で絡みに行くわ。頬っぺたとかガンガン突っついたろ」

「その押しの強さを女子相手にも出せないもんっすかねこの人は……」

「アホ抜かせ、このシャイが服着て歩いとるような男になんつう無茶振りすんねん。いやホンマ、シャイで辞書引いたら用例の三番目くらいに『生駒達人のようにシャイ』とか載っとるから。今度見てみぃや」

「ナポレオンの持ってる辞書よりも役に立たなそうっすね、それ」

「まあとにかく隠岐や。あいつホンマ許せへん。俺もあいつみたく女の子とお喋りしたいねん」

「嫉妬丸出しやないですか」

「『モテたい』は男の共通願望やろが! しかも隠岐(あいつ)が唾つけた子らの顔見とったか? 三人ともごっつうレベル高かったやん。特にあのショートボブの子がめっちゃいい。可憐って言葉を絵に描いたような見た目しとるで」

「イコさんの口から可憐とかいう単語が出てくるとそれだけでギャグになるからズルいっすわ」

「言うほどか? 可憐も華麗もカレーも大して差ぁないやろ。俺の好きなカレーの話したろか?」

「2年後くらいに興味あったら聞かせてもらいますわ」

「ナスカレー……」

言うんかい!! ……あー、まあ2年もしたら忘れとるやろ多分……」

 

 






BBF2が世に出たら即破綻する大捏造その1。
こんな感じでバンバン嘘ついていきますが宜しければ次回以降もお付き合い下さい。
次回は入隊式名物、かわいそうなバムスター君編。
妖怪名札むしりになるお仕事で忙しいので更新が空くかもしれませんが多分他所も似たような感じだと思うので私は謝らない。

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