葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~   作:Amisuru

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名札むしりにマッハで飽きたので続きを書きました。
こうやってサボるから後々素材が足りないっつって泣く羽目になるんだよなあ……。


ふたりはコアデラ!

「改めて――攻撃手(アタッカー)組と銃手(ガンナー)組を担当する、嵐山隊の嵐山准だ。まずは、入隊おめでとう」

 

 

 ありがとうございます。

 

 

「忍田本部長もさっき言っていたが、君たちは訓練生だ。B級に昇格して正隊員にならなければ、防衛任務には就けない。じゃあ、どうすれば正隊員になれるのか。最初にそれを説明する。各自、自分の左手の甲を見てくれ」

 

 

 『2500』

 この数字の意味なら、那須さんに教わったので既に知っている。けれどせっかく嵐山さんが丁寧に説明してくれているのだから、今はただただ彼の言葉に耳を傾けるとしよう。

 

 

「君たちが今起動させているトリガーホルダーには、各自が選んだ戦闘用トリガーがひとつだけ入っている。左手の数字は……君たちがそのトリガーを、どれだけ使いこなしているかを表す数字だ。その数字を『4000』まで上げること。それが、B級昇格の条件だ」

 

 

 ちら、と隣に視線をやると、『3500』と刻まれた手の甲をこちらに見せつけてドヤ顔しているお美しいお嬢さんがいらっしゃいました。高っ。

 

 

「ほとんどの人間は1000ポイントからのスタートだが、仮入隊の間に高い素質を認められた者はポイントが上乗せされてスタートする。当然その分、即戦力としての期待がかかっている。そのつもりで励んでくれ」

「……ですってよ、3500のお嬢さん」

「期待に添えるよう全力を尽くします、とだけ言わせてもらうわ」

 

 

 これっぽっちもプレッシャーを感じてはいないようだ。流石の度胸。

 那須さんが関わっている研究(プロジェクト)の成果を証明するにあたって、彼女の初期ポイントはある程度の下駄を履かされているという話は聞いていた。しかし3500ともなれば、これはもうさっさと訓練生(C級)など卒業して正隊員(B級)になってしまいなさいというお上の意向が透けて見える。実質上の飛び級扱いだ。

 とはいえ、この数字がただのこけおどしではないことを僕はもう知っている。僕らの周りで那須さんの数字に気付いてざわざわしている子達も、すぐに僕と同じ理解に至ることだろう。そういう確信がある。

 

 

「ポイントを上げる方法は二つある。週2回の合同訓練でいい結果を残すか、ランク戦でポイントを奪い合うか。――まずは、訓練のほうから体験してもらう。ついて来てくれ」

 

 

 あ、結局僕らも移動なのね。これで廊下出たら未だに行く先分からないで彷徨ってるおっきーと日浦さんがいたりしないか心配だ。

 

 

『迷子の迷子の子猫(あかね)ちゃん、あなたのお家はどこですか?』

 

 

 そりゃ三門市のどこかだろう。

 彼女がボーダー隊員である限りは。

 

 

 

 

「さあ、到着だ。まず最初の訓練は……」

 

 

 嵐山さんに連れられた僕らが辿り着いたのは、半透明の高い壁天井に覆われた客席付きの訓練場であった。訓練生(ルーキー)の様子を確かめに来たのか、客席には正隊員と思われる私服姿の少年少女がちらほらと見受けられる。

 あ、陽介もいた。例のマフラーの人と一緒だ。公平はまだ出張から帰ってきていないのかな? 手でも振ったら気付いてくれるだろうかと一瞬考えたが、この顔(トリオン体)でそういうことやると誤解を招く恐れがあるな。大人しくしておこう。というか仮入隊の間に説明しておけばよかったな。

 それから客席をざっと見回して、()()の姿も探してみたのだが――どうやら来ていないようだ。

 ……ま、まあ、まだ正式なチームメイトって訳でもないしね。うん、期待なんかしてなかった。期待なんかしてなかったぞ。

 

 

『おー、よしよし。よしよーし』

 

 

 やめろ。生後2週間の癖に母性を感じさせるような声で兄の心を慰めようとするのはやめろ。

 

 

「――対近界民(ネイバー)戦闘訓練だ。仮想戦闘モードの部屋の中で、ボーダーの集積データから再現された近界民(ネイバー)と戦ってもらう」

 

 

 嵐山さんがそう告げると、訓練生の間で軽いどよめきが起こる。気持ちは理解らないでもない。まだ碌に武器(トリガー)の使い方も習っていないうちから即実戦とは、ボーダーの教育方針というのは思いの外スパルタ路線であるようだ。ある程度とはいえ、的当て(バド狩り)の前に弾丸トリガーの知識を叩きこんでくれたウィルバー氏は優しかったな。年が明けてもお元気でいらっしゃるだろうか。

 

 

「仮入隊の間に体験した者もいると思うが、仮想戦闘モードではトリオン切れはない。ケガもしないから思いっきり戦ってくれ」

自爆しても(ほげっても)安心だものね」

「だまらっしゃい」

「今回戦ってもらうのは、『初心者(ビギナー)レベル』の相手……君たちも見たことのある、大型近界民(ネイバー)だ」

 

 

 キィィィイ……という転送音と共に、訓練場にいつぞやの巨大一つ目うさみみが現れる。

 お久しぶりですバムスター君。先日はお世話になりました。

 

 

「訓練用に少し小型化してある。攻撃力はないがその分、装甲が分厚いぞ」

 

 

 なるほど、言われてみれば確かにこの間の子よりもやや小さく感じる。

 しかしさらっと『大型近界民(ネイバー)』だなんて紹介されているけど、君って本当はただのロボット(トリオン兵)なんだよなあ。正隊員になれば教わること、ウィルバー氏はそう言っていたけれど――本当の近界民(ネイバー)の正体というのも、その時になったら教えてもらえるんだろうか? まあ、今はどうでもいいか。

 

 

「制限時間は一人5分。早く倒すほど評価点は高くなる。自信のある者は高得点を狙ってほしい」

 

 

 ほほう、タイムアタック方式ですか。早解き()()が条件。なるほど。

 装甲の厚いバムスター君。僕の装備は炸裂弾(メテオラ)。相手の情報、そして那須さんとウィルバー氏から学んだことを活かして、今の僕に叩き出せる最高の記録を狙っていく。那須さんほどではないとはいえ、僕だってそれなりにポイントを上乗せされての挑戦となるのだ。この左手の数字(2500ポイント)に相応しい結果を残さないとな。

 

 

『最初のうちからそんなに気負ったってしょうがないと思うけどなあ』

 

 

 浅学な妹に兄が一つ格言を教えてやろう。

 何事も最初が肝心なので多少背伸びするくらいが丁度良い、だ。

 

 

『銀魂じゃん』

 

 

 だからなんで知ってんの? お兄ちゃんより詳しくない?

 

 

「説明は以上! 各部屋始めてくれ!」

 

 

 嵐山さんの号令と共に、部屋の外から銃撃音やら爆発音やらが鳴り始める。そうか、訓練生の数が随分減ったと思ったら部屋ごとに班分けされていたのか。あれじゃあもしかしたら巡り合わせが悪かっただけで別の部屋にカゲさん達が見に来てる可能性も『他人に願望は抱かない(キリッ)』クソァ!!

 我が部屋の訓練生は全部で5人。僕と那須さん、それから男子の隊員が3名だ。何となく男性陣と僕らの間に距離を感じるのだが、これは(外見的には)女子が相手だからということで遠慮されているのだろうか? ダイジョーブだよ、僕男だよ、コワクナイヨー。

 

 

「――さて。それじゃあ誰から行く?」

 

 

 あ、嵐山さんが喋った。『今までもずっと喋ってたじゃん』いやそうなんだけどさ、なんとなく台詞に()()()()()()()があったというか、毎回入隊式の度に同じこと言わされてるんだろうなあ的なテンプレ臭を感じたもんだから驚いてしまった。忍田本部長からも似たようなものを感じたな、そういえば。

 那須さんと顔を見合わせる。レディファースト、ということで彼女に先陣を切ってもらうこともちらりと考えた。あと正直に言うとバムスター君の硬さがどれだけのものか判らないので、誰かに試し切りしてもらいたいなあという打算もちょっぴりあったりした。が、

 

 

『踏み台の役を女の子に押しつけるのは男らしくないよねー』

 

 

 ですよね。

 ということで大人しく一番槍に名乗り出ようとしたところで、

 

 

「はい! オレオレ! オレが最初にやりまっす!」

 

 

 明るい色の前髪をツンツンと尖らせた少年が、勢い良く挙手をして嵐山さんの前へと躍り出た。おお、誰かは知らないがやる気満々だな。

 

 

「元気な子だな! それに度胸もあるようだ! 君、名前は?」

「うっす! 小荒井登っす! 友達(ダチ)からは気軽にコアラって呼ばれてます! こいつは呼ばないけど」

「オレの話はいいだろ、別に……あ、奥寺常幸です。よろしくお願いします」

 

 

 前角(コアラ)くんの隣で、軽い会釈をする黒髪の後角(奥寺)くん。何とも対照的な二人である。ボーダーに入る前から付き合いがあるっぽいな。べたべた仲良しこよしって感じの関係ではなさそうだが、男同士の友人関係というのはそういうものだろう。ソースは陽介と公平。『そこは自分も含めなよ』……おお? ああ、うん。

 

 

「よし! コアラ、君が一番手(トップバッター)だ。その次に奥寺くん。それでいいかな?」

「え? いや、オレはもう少し後でも……」

「おまえ毎回そうやって様子見するよなー。せっかくボーダー入ったんだからそろそろ変えろよ、そういうとこ」

「……オレはおまえと違って慎重なんだよ。そうやってノリと勢いだけで突っ走ってると、いつか痛い目見るぞ」

「いつかっていつだよ?」

「ひょっとしたらこの後すぐかもな」

「んなワケあるか!」

「中々に切れの良い返しだな奥寺くん! その切れ味を近界民(ネイバー)相手にも出せれば言うことなしだ! コアラも、その負けん気は仲間じゃなくて近界民(あっち)にぶつけてくれ。いいかな?」

「おお、モチロンっすよ!」

 

 

 なんか早速言い争いになりかけてた空気を嵐山さんが強引に纏めていった。毎回こういう感じで癖の強い新入隊員たちをパパっと纏めながら入隊式の進行役を務めているのだろうか。頭が下がる思いである。

 ふんすと鼻息荒くバムスター君と対峙したコアラ君が、()()()()()()()()()()()()()()。そう、コアラ君と奥寺くん、そしてもう一人の男子隊員。彼らは皆、ジャパニーズ・サムライの如く帯刀していたのである。ボーダーにはこういう武器(トリガー)もあるのだなあ。ちょっとそそられる。扱える気はまるでしないのだけれど。

 

 

『1号室、用意』

 

 

 訓練室にノイズ混じりの男性の声が響く。誰の声かは判らない。

 両手で握った刀を自分の身体の中心に据え、バムスターへと突きつけるように構えるコアラ君。俗に言う正眼の構えというやつだ。剣道の基本フォームですね。

 

 

『始め!』

「おらっしゃあああああああああ!!」

「どんな掛け声だよ……」

 

 

 まあそう言うな奥寺くん。気合の入れ方は人それぞれだよ。

 コアラ君とバムスターの相対距離は約2m、いわゆる一足一刀の間合いだ。即ちコアラ君は一歩踏み込むだけでバムスターに一撃を叩き込める。コアラ君はその初撃を、眼前に壁の如く聳え立つバムスターの腹部へと打ち込んだ。勢い良く振りかぶってからの袈裟斬りであったが、一刀で両断できるほどバムスター君はやわではなかったようだ。装甲にやや傷が付いたくらいで、依然としてピンピンしている。

 

 

「げっ、こいつ硬ぇ!」

「嵐山さんの話聞いてなかったのかよ! 攻撃力がない分、装甲が分厚いんだって!」

「いや、聞いてたけどここまで効かねーなんて――」

 

 

 あ、バムスター君が怒った。『()()()の?』いや視えないんだけど、なんかそんな感じがする。

 四足歩行の巨体が左の前足を高々と持ち上げ、コアラ君の頭上に影を生み出す。え、踏むの? 踏んじゃうの? ――踏んだ!

 

 

「うわあ!?」

 

 

 間一髪、横っ飛びに避けたコアラ君を掠めるように怪獣(バムスター)の左足が重々しく地面に降ろされて、訓練室を軽い地響きが揺らす。

 ……おお。今更ながら、ボーダー隊員というのはこんな感じの()()()退()()が仕事なんだよなあ。(バド)を相手に好き放題やってた時には気付けなかった、『敵』と向き合う感覚にようやくありつけたような気がするぞ。

 

 

「ああ嵐山さん!? こいつ反撃してきたんすけど!」

「攻撃力がないとは言ったが、()()()()()とは一言も言ってないぞー」

 

 

 コアラ君の抗議に爽やかスマイルで応対する嵐山さん。ファンの女の子が見たら黄色い歓声でも上げそうな良い笑顔なのだが、コアラ君には畜生の笑みにしか映っていないであろう。ボーダーの顔こと嵐山准、まさかのドS疑惑である。

 

 

「ていうかこれ、攻撃力ないって言っても踏まれたら一発アウトなんじゃ……」

「ほら、後ろまた来てるぞ! さっきも言ったが君の敵は俺達じゃなくて近界民(ネイバー)だ、コアラ!」

「え――どわぁ!!

 

 

 ああっと、こあらいくんふっとばされた!! 助走を付けての全力突進が背中に直撃だ。いや、思ったよりも凶暴だなこの撃破目標(バムスター君)。まともにやったら秒殺は結構難しそうだぞこれは。

 

 

「い、痛……くねえ?」

「仮想戦闘モードだからケガしないって言われてただろ……」

「――ってことは気にせず斬り放題じゃねーか! おっしゃ、気ぃ取り直していくぜぇえええ!」

「あ、このバカ! そんな迂闊に近寄ったらまた――」

「どわあああああああ!!」

「……ダメだこりゃ」

 

 

 意気揚々と斬りかかっては再度吹っ飛ばされるコアラ君の姿を見て、溜息を吐く奥寺くん。とはいえ、ダメージ0ならビビる必要ないじゃないと即座に切り替えられるその前向きさは見習いたいところだ。『単なる猪突猛進って言わない?』いやいや、これはこれで一つのアプローチだよ。

 その後、執拗に初撃と同じ箇所を狙い続けたコアラ君の執念が実ったのか、ぶった斬っては吹っ飛ばされてを繰り返した末に、とうとうバムスター君のお腹が裂けた。傷口から黒い煙がぶしゅっと吹き出し、ズズン……と大きな音を立てて、その巨体が地に倒れ伏す。『やったか!?』おい、フラグを立てるな。

 

 

『1号室終了。記録、1分18秒』

「っしゃあ!!」

「ゴリ押しかよ……」

 

 

 快哉を叫ぶコアラ君と、そんな彼を呆れたように眺めている奥寺くん。確かにまあ、コアラっていうかゴリラだったな、問題の解決手段が。

 とりあえず、バムスターの装甲は確かにかなりの厚みがあるようだが、決して破れない硬さではないということは理解できた。とはいえゴリラ君、もといコアラ君が何度もぶっ叩いてようやくといった具合なので、好記録を狙おうと思ったらもうちょいスマートなやり方が必要になるだろう。腹部よりも装甲の薄そうな部位を狙っていくとか。まあ、見るからに弱点っぽいのは……。

 

 

「お疲れ、コアラ! それじゃあ次は奥寺くんだ。準備はいいかな?」

「うっ、本当にオレが次なんですか……」

「おまえ、散々好き勝手言っといてオレより時間掛かったらかなりダサいからなー。負けたら後でからあげクン奢れよな」

「……オーケー、やってやるよ。そう言うおまえも負けたらオレにラーメン奢りだからな」

「値段釣り合ってなくね?」

「ならホモ弁のからあげ弁当奢ってやる」

「マジで!? うおー、奥寺太っ腹だぜ!」

「オレが負けたらな、負けたら! 負けないけどな!」

 

 

 うーん、青春だ。こういうやり取りを見ていると何故だか胸が熱くなってしまう。多分お互いに口では何やかんや言いながらも、本気でいがみ合っている訳ではないというのを()()()()()()()()からだと思うけれど。別に過剰に好き合っている訳でもないのだが、ちょっとやそっと殴り合った程度ではビクともしない信頼関係。これがいわゆる尊いってやつなんだろう。最近はなんだか違う使い方するらしいけど、この言葉。……いや同じなのか? ガチで詳しくないからよく判らない。

 

 

「ねえ大庭くん。ホモ弁のホモって何?」

『そこの二人のことだよ』

「おまえそういうの本当にやめろよ。いいか、本当にやめろよおまえ」

「ご、ごめんなさい……そんなに怒られる質問だなんて思わなくて……」

「違う。誤解だ。那須さんに向かって怒った訳じゃないんだ」

「じゃあ誰に向けて怒ったの?」

「僕の脳内の妹に」

「ごめんなさい……」

「え、なんでそこで謝るの? その可哀想な人を見る目は何?」

『1号室、用意』

 

 

 なんかグダグダやってる間に奥寺くんの番が始まろうとしていた。あーもうめちゃくちゃだよ!

 

 

『始め!』

 

 

 さて二番手の奥寺くん。開始早々に突っ込んでいったコアラ君とは打って変わって、刀を構えたままその場を動かず、じっとバムスターの様子を眺めている。考えている。めっちゃ考えている。確かにコアラ君は何度も吹っ飛ばされたことがタイムロスに繋がっていたわけだが、これはこれで慎重過ぎるのではないかという感じが……もう10秒くらい経ってないか? 大丈夫か?

 

 

(……やっぱり、狙うとしたらあの()だよな。いや、目って呼んでいいのかわかんないけど、口の中にある射的のマトみたいなあの模様だ。でもこいつ、小型化されてるって言っても充分デカいんだよなあ……どうやったら上手いことあの口の中に一発叩き込めるのか……)

「おーい、何ボーっと突っ立ってんだよ? もうとっくに始まってるぞー」

「急かすなよ。今どうやったらこいつを手早く片付けられるか考えてるんだ」

「手早くっておまえ、訓練始まってから考えてる時点で手早くねーじゃんかよ」

「う、うるさいな! 小荒井のくせに正論で人を叩くなよな!」

「正論を言われているという自覚はあるのか奥寺くん」

「あ、嵐山さん……いやその、もう少し。もう少しだけ考えさせて下さい」

「なに、制限時間は5分もある。じっくり考えるといい。それにこの訓練だって、一回こっきりで終わりって訳じゃないからな。今費やした10秒のおかげで、次の訓練で10秒結果を縮めることが出来るかもしれない。そう考えたら無駄な時間じゃないさ」

「嵐山さん、良いこと言ってますけど更に奥寺の持ち時間が減ってるっす……」

「おっと申し訳ない! それじゃあ奥寺くん、健闘を祈る!」

「……ありがとうございます! おっし!」

 

 

 お、方針が決まったようだ。ここからが本番だな。既に開始のアナウンスから40秒くらい経っているけどここからが本番だ。

 ええと? 奥寺くんが刀を片手持ちに切り替えて? 空いた左手で鞘を掴んで? その鞘を?

 投げた。バムスターの下顎に。当然あっさりと鞘は弾かれて地面に転がるのだが、どうやら奥寺くんの目的はダメージを与えることではなく、バムスター君の意識を自身に向けさせることだったようだ。バムスター君の視線が下がって、口の中の目が奥寺くんを捉える。おっと奥寺くん、刀を後ろ手に隠してバムスター君から見えないようにしているぞ。ひょっとして無力アピールのつもりなんだろうか?

 

 

(――ウワサで聞いた話だけど、この大型近界民(ネイバー)ってのは()()()()()()()()()()らしい。手のないこいつがオレを食べようと思ったらどうすればいい? そんなもの、直接齧りつくしかないよな。()()()()()――さあ、オレは丸腰の一般市民だ! 噛みついてみろよ近界民(ネイバー)!)

「おーい奥寺ー! ボケっとしてると踏まれんぞー!」

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ヤケクソじみた絶叫と共に踏みつけを避ける奥寺くん。何かを企んでいたがダメだったらしい。ううむ、面白い試みだと思ったんだがなあ。

 で? さっきも見た展開だな、踏みつけからの体当たり。奥寺くんはひいひい言いながらそれも交わすと、自身の脇を通り過ぎていったバムスター君の後背部をガンガンとぶっ叩き始めた。どうやら後ろを取る(尻を掘る)戦法に切り替えたようだ。装甲の強度は腹部と大して変わりが無さそうだが、反撃の来ない位置から一方的に殴り続けているのでダメージ効率は悪くない。挽回間に合うかな?

 

 

『間に合ったな』

 

 

 先生ェ……。

 バムスターの尻から黒い煙がぶしゅっと吹き出して『……きたない』唐突に年頃の女の子らしいリアクションされてもお兄ちゃん困るんだわ。とにかく倒れた。バムスター君が倒れた。トリオン体に息切れの概念は存在しない筈なのだが、精神面に多大なストレスを受けたのかぜえぜえと肩で息をしている奥寺くんを労うように、訓練室に終了の合図が流れる。

 

 

『1号室終了。記録、1分18秒』

「結局オレとタイム一緒じゃんかよ」

「オ……オレは一発も貰ってないし……実戦ならオレの方が正解だし……」

「そんなの関係ねーよ、オレだって訓練じゃなかったらもう少し慎重に戦うもんな」

「……それはない。おまえに限ってそれはない」

「なにをー!?」

「ははは、とにかくお疲れ様だ奥寺くん! その調子でコアラと反省点を探り合って、更なる記録向上に努めてくれ! ――というわけで、残るは君たち三人だ。我こそはという子はいるかな?」

 

 

 仲良く喧嘩しているコアデラ組をさくっと脇にうっちゃる嵐山さん。進行役の鑑である。

 とりあえず、前の二人を参考にして僕の狙いは大体定まった。おそらくは奥寺くんも同じことを考えていたと思うのだが、やはり攻撃を加えるべきは口の中だ。外から殴り続けても倒せないことはないようだが、やはりどうしても最低限の手数が必要になってくる。加えて僕の装備は炸裂弾(メテオラ)、コアデラ君たちの刀とは違って、一発撃ったら再装填(リロード)に時間が掛かってしまう。僕のトリオン値は恵まれている方だとウィルバー氏からも言われているのだが、やっぱり万全には万全を期して挑みたいところだ。

 

 

『むー。お兄ちゃんのトリオン()に対する信頼が足りなーい』

 

 

 ……ああ、正直に言うとトリオン(おまえ)がちゃんと僕の指示通りに動いてくれるかどうかも不安だよ。出そうと思った豆腐(キューブ)が出ないとか、そういう事態は御免被るぞホント。

 

 

『大丈夫大丈夫、ちゃーんと従ってあげるから。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そういう意味深なこと言うからアレなんだよなあ……。

 まあとにかく、そろそろ様子見も終わりでいいだろう。そう思って嵐山さんに挑戦を進言しようとしたのだが、

 

 

「――あの。次はオレ、やってみます」

 

 

 思わぬ伏兵に先を越されてしまった。

 これまで一言も発することのなかった、残る一人の男子隊員だ。そばかすの目立つ短髪の少年。顔つきにも感情にも若干の緊張が()受けられるのだが、それよりも意欲の方が勝っているらしい。挑戦者(チャレンジャー)たるものかくあるべし、という感じの心持ちだ。

 

 

「おっ、いい顔しているな! 何か秘策でも思いついたかい?」

「秘策ってほどのものでもないですけど、もしかしたら……って思ったことがあるんで。頭の中のイメージが消えないうちに、試してみたいんです」

「よし、そういうことなら次は君に決めた! 女の子たちもそれで構わないかな?」

 

 

 嵐山さん、その澄み切った目で事後承諾染みた確認を取られても二つの意味でこっちは断れないです。あと僕は男です。今言うことでもないんで黙って頷きますけれども。隣の那須さんも「勿論です」と丁寧に応じる。

 かくして、満場一致で三番目のバムスターハンターはそばかす顔の少年に決定した。ありがとうございます、と律儀に僕らへ頭を下げる少年。良い子だなあ。これは応援したくなってしまうぞ。

 

 

「それじゃあ訓練を始めよう! ――っと、その前に名前を聞いておかないといけないな」

「笹森日佐人、です」

「オーケイ、よろしく笹森くん! 君の力を見せてくれ!」

「――はい! よろしくお願いします!」

『1号室、用意』

 

 

 ぐっと重心を落とし、いつでも踏み込める体勢で刀を構える笹森くん。気分はさながら、クラウチングスタートの姿勢で号砲を待つ陸上選手といったところか。位置について、よーい――

 

 

始め(ドン)!』

 

 

 ……今なんか変なルビが見えたな? 疲れてるのかな?





コア寺vsバムスターに丸々一話費やすワートリ二次! 葉月の異常な愛情!


(展開が)遅い……あまりにも……
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