葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~   作:Amisuru

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VSバムスター3部作・完結編。




炸裂(メテオラ)変化(バイパー)居合斬(ソードマスター)(前編)

 

 

「――というわけで、残るは君たち二人だ。さあ、どっちから行く?」

「僕が行きます」

 

 

 大変長らくお待たせ致しました。大庭葉月です。

 今日こそ長きに渡る大型近界民(バムスター君)との因縁に終止符を打とうと思います。よろしくお願いします。

 『まだ訓練始まって5分くらいしか経ってなくない?』いやそんな筈はない。体感で言えば2週間くらい経ってる。もっと言えばこの会場に来てから3週間くらい経ってる気がする。流石に長居が過ぎた。多分世界で最も長い時間バムスター君と戯れ続けた訓練生なんじゃないかな僕達は。

 

 

「いいよね? 那須さん」

「ええ、勿論。参考にさせてもらうわ、大庭くん」

「参考……になるかなあ、多分ならないと思うなあ……」

 

 

 僕と那須さんはポジションこそ同じ射手(シューター)ではあるものの、炸裂弾(メテオラ)変化弾(バイパー)ではあまりにも勝手が違う。僕の訓練を見て那須さんに得るものがあるとは考えづらい。そもそも射手(シューター)としての技量からして月とスッポンくらいの差があるしなあ。どちらが月かは言うまでもない。『名前だけなら葉()なのにね』悲しいなあ。大庭スッポンに改名するか……。

 

 

「……大庭()()……きみ、もしかして、大庭葉月くん――なのかい?」

「はい、そうですが」

 

 

 そんなことを考えていたら、不意に嵐山さんから名前を確認される。とりあえず普通に肯定すると、「申し訳ない!」という謝罪の言葉と共に、直角(90°)に背中を畳んだパーフェクトお辞儀を受けてしまった。な、なんだなんだ。僕が大庭葉月だと何かマズいことでもあるのか嵐山さん。

 

 

「訓練生の中に、女性のトリオン体をした男子の隊員がいるという連絡は事前に受けていたんだ。にも関わらず、俺はさっき君のことを『女の子たち』と呼んでしまった――不用意な発言だった。本当にすまない」

「ああ、なるほど……その、大丈夫ですから。あまり気にしないで下さい」

 

 

 おっきーの件にしてもそうなのだが、周囲の人間がトリオン体の僕を一目見て女性であると認識するのは当然のことなのだ。だって実際に見た目は陽花(女性)なのだから。中身は()なのでその都度訂正はするけれども、これは僕らの抱えている身体的事情が悪いのであって、嵐山さんが気に病む必要など微塵もない。まあ今のご時世って()()()()()で問題になりがちだし、気を遣うに越したことはないのだろうけれども。

 

 

『あーあー、大人しく心の方(コントロール)も私に譲ってくれれば一々こんなやり取りしなくて済むのになー』

 

 

 じゃあ代わりにトリオン体の見た目を僕のものにするって言ったら?

 

 

『オエーって感じ』

 

 

 だろうな。つまりはそういうこと(現状維持)だ。

 ROOM303(例の部屋)で人格の共有を果たして以来、僕は生身の身体と陽花の身体(トリオン体)を完全な別物として認識することが出来るようになっていた。あくまでも他者に伝えるための表現であって僕が本気でそう思っている訳ではないのだが、大庭陽花という()()操縦者(パイロット)をやっているような感覚があるのだ。

 故に陽花の見た目についてどうこう言われても、僕のことじゃなくて陽花のことを言っているんだなと他人事のように考えられるので精神的にはノーダメージだし、陽花も陽花で外見的には素の自分を保っていたいということなので現状win-winの関係である。まあ、今みたいにちょくちょく僕のwin(主導権)を奪おうとするような発言もあるのがこいつの油断ならないところなのだが。『うふふ』うふふじゃねーよ。

 

 

「……()()()()()――ああ、本当にそうだったのか……」

 

 

 ああ、そういえば笹森くんにも普通にこの顔で()として接してしまっていたな。大丈夫かな? カルチャーショックとか受けてないと良いのだけれど。

 

 

「悪いね、色々とワケアリなもので」

「い、いえ! その、オレもトリオン体のこととか全然よく理解ってないし、そういうこともあるんだなって普通に納得しただけで……」

 

 

 うん、やっぱり君は良い子だな笹森くん。言葉と感情にズレがない。嵐山さんにしてもそうだったけれど、正義の味方(ボーダー隊員)になるような人はやっぱり人間が出来ている。誰も彼もが気持ちの良いほどまっすぐだ。

 

 

「え、マジ? あのかわいい人の中身オトコなの? ウソだろ……なんかショックだわ……」

「……おまえ気になってたのか? あの人」

「そりゃ気にはなるだろフツー! アレか? 奥寺はもう一人のひとの方が好みなのかよ?」

「いや、オレはそういうのは別に……昔っから摩子さん一筋だし……

 

 

 なんか遠くの方で葉っぱ(ユーカリ)でも食ってそうな綽名の小僧が何か言っているがそれは聞こえなかったものとする。相方の子も最後の方になんかぼそぼそ言ってたけどそっちはガチで聞こえなかった。残念。

 

 

『私の中で奥寺(後角)くんの好感度が3上がった音がした』

 

 

 え、何おまえ聞こえたの? 後でお兄ちゃんにこっそり教えてくれ。

 

 

「――よし、それじゃあ次は君だ大庭くん! 武器を構えて位置についてくれ!」

 

 

 そして嵐山さんは切り替えが早い。僕とそこまで年が離れている訳でもないだろうに、メンタル完成されてるよなあ。大したものだ。

 指示に従い、前の三人が開始前に立っていた位置へと移動する僕。時を同じくして召喚される、新たな攻略目標(バムスター君)。準備は万全だ。いつでも行ける。しかし中々例の合図(コール)が聞こえてこない。おや、何かのトラブルかなと思っていると。

 

 

「……大庭くん? 確か君は射手(シューター)だったと思うが、キューブであっても事前に展開しておいて構わないぞ?」

 

 

 ああ、そこを配慮してくれていたのか。位置に着いたら問答無用で始まるものかと思っていたのだが、わざわざ気を遣っていただいて申し訳ない。

 

 

「ありがとうございます。でも、大丈夫です。始めちゃって下さい」

「……一応確認しておくが、君、使用するトリガーは――」

炸裂弾(メテオラ)です」

 

 

 うーん、と唸り声をあげる嵐山さん。どうも僕のやろうとしていることに勘付いたらしい。心がそういう色をしている。まあ、気持ちは理解らないでもない。僕だって実戦で同じことをやろうとしている隊員がいたら流石に止めるもんな。

 

 

「この訓練の規則(レギュレーション)を把握した上で、僕にとっての最高記録を狙うにはどうすればいいか考えた結果辿り着いたやり方です。実際の防衛任務でバム――大型近界民(ネイバー)と戦う時は、普通にやりますから安心して下さい」

「……そういうことなら止めはしないが、どちらかというと攻撃手(アタッカー)の解き方だな、それは」

「それは仕方ないですね。前の三人を見ていて思いついた方法なので……射手(シューター)のお手本は、彼女の方に披露してもらいます」

「あら、出番の前に余計な期待(プレッシャー)をかけてくるのね大庭くん」

 

 

 いや、これは()()だよ那須さん。それにプレッシャーだと君は口にしたけれど、確固たる自信を持つ人間にとってはむしろ活力になるものだ、期待っていうやつは。君の中にも自信(それ)があることは理解っているから悪びれないぞ、僕は。

 ……そうだな。そういう意味で言うなら。

 今の僕は、ちょっとだけ、()()()()()()()()()()()になっている。

 

 

『要するにイキってるってことだよね』

 

 

 そういう身も蓋もない表現に置き換えるのやめよう? お兄ちゃん可哀想でしょ?

 

 

「――オーケイ、今度こそ始めよう大庭くん! ……堤さん、合図(コール)の方お願いします

『1号室、用意』

 

 

 ――さて。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で開始を待つ。そんな僕の待ち姿に反応したのは笹森くんだった。それもそうだろう、君のパクリだからね。攻撃手(アタッカー)でもないのに。

 

 

「……射手(シューター)、なんですよね? なんていうか、いかにも()()()()()()()()()()人の構えって感じがするんですけど……」

「笹森くん。君はさっき、『トリオン体のことをよく理解っていない』と自分で言っていたね」

「は、はい」

「そこの二人も見ておくといい。奥寺くんも笹森くんも、大型近界民(ネイバー)の頭を下げるために躍起になっていたけれど――」

 

 

 え、このタイミングでそんな授業(レクチャー)始めちゃうんですか嵐山さん。しかも僕を教材(ダシ)にして。それは普通にプレッシャーだから止めていただきたいのですが! ああもう、そうは言ってもカウント始まっちゃったし止めに入る余裕もないわコンチクショウ!

 

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。そう、戦闘体(トリオン体)ならね」

 

 

 僕の視線は既にバムスター君の口の中だけを見据えているので、そう語る嵐山さんの様子を窺い知ることは出来ない。

 けれどその時、何故か脳裏に伊達眼鏡を掛けろくろを回す、意識高そうな嵐山さんの姿が浮かび上がってきた。謎だった。

 

 

『始め!』

 

 

 

 

 ――前提条件1。

 攻略目標のバムスター君は大型で、弱点となる口内は我々人間の遥か――()()()()()()()()()、とりあえず頭上に存在している。

 情報を一つ追加すると、訓練の初期配置からでは口内を直接目視することが叶わない。見上げてみても視界に映るのは、固い装甲に覆われたバムスター君の首とも顎とも呼べる(スクエア)模様だけだ。

 故に、予めスタート前からキューブを展開しておいて、開始の合図と共に直接口内へと炸裂弾(メテオラ)をぶち込んではい終了という攻略法を取ることは出来ない。射角が存在しないので。この問題を解決出来る弾丸トリガーもあるにはあるのだが、その解き方を実践するのは()()の役回りだ。僕の仕事じゃない。

 では奥寺くんや笹森くんのようにとりあえず一発当てて口をこちらに向けさせてから――という手順を取ろうとすると、一発ぶっ放した後のキューブ再構築に掛かる時間がネックになってくる。キューブを幾つかに分割させて半分だけ発射、バムスター君がこっちを向いたところでもう半分を発射、みたいな技術(テクニック)も存在するのかもしれないが、一度も試したことのない技をぶっつけ本番でやるほどの度胸は僕にはない。ただでさえこの豆腐(キューブ)は焦ると勝手に飛んでいく困った子なのだし。

 しかし、それはそれとして口の中の弱点は狙いたい。コアラ君の如くゴリ押してみてもそれなりの結果は得られるのと思うのだが、僕が目指すのはあくまでも最短記録だ。その最短を目指すために辿り着いた結論がこれだ。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()……』

 

 

 

 言い方ァ!!

 

 

「ふんがっ!!」

「と――跳んだ!?

 

 

 ――前提条件2。

 戦闘体(トリオン体)には人並み外れた身体能力がある。僕はそのことを那須さんとの鬼ごっこで学んだ。生身の身体では満足に出歩くことすら叶わない少女が体操選手顔負けの宙返りを披露し、同年代の男子と比べ明らかに筋力で劣っているもやしっ子でも、ビルからビルへと飛び移る超人に変貌するのが戦闘体だ。その経験がこう言っていた。()()()()()()()()()()()()()、と。

 故に僕は跳んだ。天高く聳えるバムスターの口内へと目掛けて跳躍した。

 

 

()()()()()()()()()()()()()。攻撃力はないがその分、装甲が分厚いぞ』

 

 

 まあ天高くとか言っても大型近界民(ネイバー)(大型とは言っていない)っていうのが現実なんでそうでもないんだよねぶっちゃけ。素のバムスター君は10m級のサイズがあったが、訓練用のこの子はその半分……いやそこまでではないか? とはいえ高めに見積もっても6~7mと言ったところだろう。そこらの一軒家と同じくらいの大きさかな。つまり戦闘体であればジャンプ一回で民家の屋根へと飛び乗ることも可能というわけだ。市街地を仮想の戦場として使用するランク戦においても有益な情報になるだろう。覚えておいて損はない。

 で、ここで問題が一つ発生。

 ()()()()()()()()()

 

 

『……これ、頭の上に飛び乗る軌道じゃない?』

 

 

 うーむ。バスケットで言うダンクシュートのイメージで、バムスター君の目をリングに見立てて跳んでみたのだが。初めてのダンクを慣行しようとしてボードに頭ぶつけた桜木花道を笑えないぞこれは。『私黒子のバスケの方が好きー』あ? 今なんて言ったこのアマ?

 まあ一度飛び乗って頭の上から口の中に手突っ込んでも別にいいんだけど、絵的に格好付かないよなあ。そんなことを思っていると、都合の良いことにバムスター君が跳び上がった僕を見上げ、わざわざ自分から口を大きく開いてくれた。素晴らしい。この子にはおもてなしの精神があるぞ。

 

 

「やべえ! あのねーちゃん丸呑みされんぞ!?」

「いやだからあのひと男なんだって……」

 

 

 まあ傍から見たらそう映るよねコアデラーズ。実際この仮想バムスター君に食われたらどうなるのだろう。まさか消化器官まで再現されているとは思えないのだけれど。

 ひとまずそれは別の機会に試すとして、バムスター君の喉元深くへと堕ちていく寸でのところ、お目当てのものにしがみ付くことで落下を防ぐ。掴まえた。両の掌でがっしりと、バムスター君の目ん玉(弱点)を。

 

 

『仮入隊の間に体験した者もいると思うが、仮想戦闘モードではトリオン切れはない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ――前提条件3。

 この対近界民(ネイバー)戦闘訓練においては――

 

 

炸裂弾(メテオラ)

 

 

 ――自爆しても(ほげっても)、死なない。

 

 

 

 

 

 キューブ構築。弾丸設定、()()1()0()0()()()()()0()

 今の僕に出せる最大火力を、最短最速で剥き出しの目玉(弱点)へと叩き込む。

 これこそが、大庭葉月の大型近界民(ネイバー)RTAである。

 

 

『大型近界民(ネイバー)は装甲が分厚く、外側から攻撃し続けても撃破に時間が掛かってしまいます。だから食べられる必要があったんですね……』

 

 

 衝撃。轟音。視界を覆い尽くす閃光。崩壊と再生を繰り返しながら落下していく僕の身体(トリオン体)。様々な現象に五感を揺さぶられている中であろうと、その声だけはきっちり頭に届いてくるのだから、脳内妹というやつはやはり強かった。

 ただ――そんな状態であっても、続けて流れてきたノイズ混じりのアナウンスには、流石の僕も一言申さずにはいられなかった。

 

 

『――1号室終了! 記録、3.1秒! ()()()()()!!』

 

 

 それは言う必要ないだろ、と。

 

 




2020/11/25
改行の増加、内容の分割、それに伴う文章の微修正等を行いました。
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