葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~ 作:Amisuru
「――というわけで、残るは君たち二人だ。さあ、どっちから行く?」
「僕が行きます」
大変長らくお待たせ致しました。大庭葉月です。
今日こそ長きに渡る
『まだ訓練始まって5分くらいしか経ってなくない?』いやそんな筈はない。体感で言えば2週間くらい経ってる。もっと言えばこの会場に来てから3週間くらい経ってる気がする。流石に長居が過ぎた。多分世界で最も長い時間バムスター君と戯れ続けた訓練生なんじゃないかな僕達は。
「いいよね? 那須さん」
「ええ、勿論。参考にさせてもらうわ、大庭くん」
「参考……になるかなあ、多分ならないと思うなあ……」
僕と那須さんはポジションこそ同じ
「……大庭
「はい、そうですが」
そんなことを考えていたら、不意に嵐山さんから名前を確認される。とりあえず普通に肯定すると、「申し訳ない!」という謝罪の言葉と共に、
「訓練生の中に、女性のトリオン体をした男子の隊員がいるという連絡は事前に受けていたんだ。にも関わらず、俺はさっき君のことを『女の子たち』と呼んでしまった――不用意な発言だった。本当にすまない」
「ああ、なるほど……その、大丈夫ですから。あまり気にしないで下さい」
おっきーの件にしてもそうなのだが、周囲の人間がトリオン体の僕を一目見て女性であると認識するのは当然のことなのだ。だって実際に見た目は
『あーあー、大人しく
じゃあ代わりにトリオン体の見た目を僕のものにするって言ったら?
『オエーって感じ』
だろうな。つまりは
故に陽花の見た目についてどうこう言われても、僕のことじゃなくて陽花のことを言っているんだなと他人事のように考えられるので精神的にはノーダメージだし、陽花も陽花で外見的には素の自分を保っていたいということなので現状win-winの関係である。まあ、今みたいにちょくちょく僕の
「……
ああ、そういえば笹森くんにも普通にこの顔で
「悪いね、色々とワケアリなもので」
「い、いえ! その、オレもトリオン体のこととか全然よく理解ってないし、そういうこともあるんだなって普通に納得しただけで……」
うん、やっぱり君は良い子だな笹森くん。言葉と感情にズレがない。嵐山さんにしてもそうだったけれど、
「え、マジ? あのかわいい人の中身オトコなの? ウソだろ……なんかショックだわ……」
「……おまえ気になってたのか? あの人」
「そりゃ気にはなるだろフツー! アレか? 奥寺はもう一人のひとの方が好みなのかよ?」
「いや、オレはそういうのは別に……昔っから摩子さん一筋だし……」
なんか遠くの方で
『私の中で
え、何おまえ聞こえたの? 後でお兄ちゃんにこっそり教えてくれ。
「――よし、それじゃあ次は君だ大庭くん! 武器を構えて位置についてくれ!」
そして嵐山さんは切り替えが早い。僕とそこまで年が離れている訳でもないだろうに、メンタル完成されてるよなあ。大したものだ。
指示に従い、前の三人が開始前に立っていた位置へと移動する僕。時を同じくして召喚される、新たな
「……大庭くん? 確か君は
ああ、そこを配慮してくれていたのか。位置に着いたら問答無用で始まるものかと思っていたのだが、わざわざ気を遣っていただいて申し訳ない。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。始めちゃって下さい」
「……一応確認しておくが、君、使用するトリガーは――」
「
うーん、と唸り声をあげる嵐山さん。どうも僕のやろうとしていることに勘付いたらしい。心がそういう色をしている。まあ、気持ちは理解らないでもない。僕だって実戦で同じことをやろうとしている隊員がいたら流石に止めるもんな。
「この訓練の
「……そういうことなら止めはしないが、どちらかというと
「それは仕方ないですね。前の三人を見ていて思いついた方法なので……
「あら、出番の前に余計な
いや、これは
……そうだな。そういう意味で言うなら。
今の僕は、ちょっとだけ、
『要するにイキってるってことだよね』
そういう身も蓋もない表現に置き換えるのやめよう? お兄ちゃん可哀想でしょ?
「――オーケイ、今度こそ始めよう大庭くん! ……堤さん、
『1号室、用意』
――さて。
「……
「笹森くん。君はさっき、『トリオン体のことをよく理解っていない』と自分で言っていたね」
「は、はい」
「そこの二人も見ておくといい。奥寺くんも笹森くんも、大型
え、このタイミングでそんな
「――
僕の視線は既にバムスター君の口の中だけを見据えているので、そう語る嵐山さんの様子を窺い知ることは出来ない。
けれどその時、何故か脳裏に伊達眼鏡を掛けろくろを回す、意識高そうな嵐山さんの姿が浮かび上がってきた。謎だった。
――前提条件1。
攻略目標のバムスター君は大型で、弱点となる口内は我々人間の遥か――
情報を一つ追加すると、訓練の初期配置からでは口内を直接目視することが叶わない。見上げてみても視界に映るのは、固い装甲に覆われたバムスター君の首とも顎とも呼べる
故に、予めスタート前からキューブを展開しておいて、開始の合図と共に直接口内へと
では奥寺くんや笹森くんのようにとりあえず一発当てて口をこちらに向けさせてから――という手順を取ろうとすると、一発ぶっ放した後のキューブ再構築に掛かる時間がネックになってくる。キューブを幾つかに分割させて半分だけ発射、バムスター君がこっちを向いたところでもう半分を発射、みたいな
しかし、それはそれとして口の中の弱点は狙いたい。コアラ君の如くゴリ押してみてもそれなりの結果は得られるのと思うのだが、僕が目指すのはあくまでも最短記録だ。その最短を目指すために辿り着いた結論がこれだ。
言い方ァ!!
「ふんがっ!!」
「と――跳んだ!?」
――前提条件2。
故に僕は跳んだ。天高く聳えるバムスターの口内へと目掛けて跳躍した。
まあ天高くとか言っても大型
で、ここで問題が一つ発生。
『……これ、頭の上に飛び乗る軌道じゃない?』
うーむ。バスケットで言うダンクシュートのイメージで、バムスター君の目をリングに見立てて跳んでみたのだが。初めてのダンクを慣行しようとしてボードに頭ぶつけた桜木花道を笑えないぞこれは。『私黒子のバスケの方が好きー』あ? 今なんて言ったこのアマ?
まあ一度飛び乗って頭の上から口の中に手突っ込んでも別にいいんだけど、絵的に格好付かないよなあ。そんなことを思っていると、都合の良いことにバムスター君が跳び上がった僕を見上げ、わざわざ自分から口を大きく開いてくれた。素晴らしい。この子にはおもてなしの精神があるぞ。
「やべえ! あのねーちゃん丸呑みされんぞ!?」
「いやだからあのひと男なんだって……」
まあ傍から見たらそう映るよねコアデラーズ。実際この仮想バムスター君に食われたらどうなるのだろう。まさか消化器官まで再現されているとは思えないのだけれど。
ひとまずそれは別の機会に試すとして、バムスター君の喉元深くへと堕ちていく寸でのところ、お目当てのものにしがみ付くことで落下を防ぐ。掴まえた。両の掌でがっしりと、バムスター君の
――前提条件3。
この対
――
キューブ構築。弾丸設定、
今の僕に出せる最大火力を、最短最速で剥き出しの
これこそが、大庭葉月の大型
『大型
衝撃。轟音。視界を覆い尽くす閃光。崩壊と再生を繰り返しながら落下していく
ただ――そんな状態であっても、続けて流れてきたノイズ混じりのアナウンスには、流石の僕も一言申さずにはいられなかった。
それは言う必要ないだろ、と。
2020/11/25
改行の増加、内容の分割、それに伴う文章の微修正等を行いました。