葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~   作:Amisuru

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ROOM153

 さてさて。

 全部屋の対近界民(ネイバー)戦闘訓練が終了したところで、訓練生一同は新たに三種の訓練へと身を投じることになった訳なのだが。

 

 

 ~地形踏破訓練~

 例の『市街地A』みたいな仮想の戦場(マップ)を駆け回ってゴールを目指す遊び。

 これは那須さんとの鬼ごっこの経験が活きて全訓練生中2位の成績を収めることが出来た。

 1位? 察して。

 

 

 個人(ソロ)ポイント:2520→2540

 

 

 ~探知追跡訓練~

 戦闘体の標準機能であるレーダーを使用して、仮想マップで動き回る近界民(ネイバー)をストーキングする遊び。

 反応のあったポイントに移動するまでは順調だったのだが、そこから近界民(ネイバー)に気付かれないよう後をつけ続けるところで躓いた。

 どうも僕は息を潜めて大人しくするとかそういうのが性に合わない性質(タチ)らしい。で、その欠点がより如実に表れたのが……

 

 

 個人(ソロ)ポイント:2540→2552

 

 

 ~隠密行動訓練~

 仮想マップを徘徊する無数の近界民(ネイバー)に見つからないようゴールを目指す遊び。

 

 

 個人(ソロ)ポイント:2552→2555

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 この間散々撃ち落としてやった標的(バド)くんに首根っこを引っ掴まれて、クレーンゲームで引っ張り上げられる景品の如き醜態を晒す僕。わぁー、景色が高ぁーい。お空がきれーい。

 

 

『現実逃避中のところ悪いんだけど、3ポイントって普通にヤバいよお兄ちゃん』

 

 

 妹よ、こういう時の僕は下を見ることで心の安寧を得ることにしているんだ。

 

 

『お兄ちゃんの()にいる人たちは今も近界民(ネイバー)に見つからないよう息を潜めて頑張ってるよ』

 

 

 違う。物理的な話をしているんじゃあない。そっちの話なら僕が見るべきはすぐ真横だ。

 

 

「あら、奇遇ね大庭くん」

 

 

 【悲報】対近界民(ネイバー)戦闘訓練の3位と2位、揃って早々に脱落する。

 まあ息を潜めて大人しくとか僕らの行動理念から最もかけ離れた概念だからね。仕方ないね。

 これで1位の人も一緒に吊られてたら笑えるんだけど。あの遠くで浮いてる訓練生さんがそうだったりして。まさかね。話しかけてみたいけど遠過ぎて無理そうだ。せめて顔だけでもと思ったのだが何やら分厚いゴーグルを掛けているせいでよく判らなかった。残念。

 

 

「イコさんはなんで飛ぶのんー?」

「17歳ですけどー」

『あ、下から声掛けたもさもさ頭の人も吊られた』

 

 

 誰だか知らないけど芸のために体張ってるなあ向こうの人達は。

 

 

 

 

 という訳で、4種の訓練を終えて総得点は55/80でした。100点換算だと68.75点になります。

 うん。

 これが学校の試験だったら父から張り手の一発や二発くらいは貰っていてもおかしくはない点数だな。うん。

 

 

『……あの人たちの話はもういいでしょ』

 

 

 おう。

 ごめんな、まだ一人だった頃の癖が抜けてなかったみたいだわ。

 

 

『なおして』

 

 

 善処します。

 

 

「――さて。これで訓練は一通りやってもらった」

 

 

 所変わって。

 我々ルーキーズは現在、カラオケ屋みたいな無数の個室(ブース)が3階建てにずらりと並ぶ広間(ロビー)へと集められている。電光掲示板に表示された各部屋の番号は光っていたり暗かったりで、多分空き部屋がライトON、使用中だとライトOFFだ。広間は普通に今期入隊組(ぼくたち)以外の訓練生達で賑わっており、ちらほらと正隊員らしき人の姿も見受けられる。どうやらここは、本部基地の中でもかなりの人気スポットのようだ。

 

 

初め(3話前)にも言った通り、各種訓練と個人(ソロ)ランク戦で個人(ソロ)ポイントを4000点以上にすれば、B級隊員へと昇格できる。今から個人(ソロ)ランク戦の説明をするが――充」

「はい」

 

 

 ここで唐突に嵐山さんが、隣に立つ例の『眠そうな目つきの割にキリッとした印象を受ける子』へと声を掛けた。どうやらここからは彼が説明役になるようだ。よくわからないがそういう段取り(原作)なのだろう。

 充と呼ばれたその少年は「時枝です」と僕らに向かって簡潔な自己紹介をすると、思いの外よく通る声で語り始めた。

 

 

「C級ランク戦は基本的に、仮想戦場(フィールド)での個人戦になります。対戦までの流れを説明するので、まずはあちらの画面を見て下さい」

 

 

 時枝くんが手元のタブレットを操作すると、電光掲示板の表示が切り替わり、以下のような画面が映し出される。便利だなあのタブレット。ウィルバー氏が持ってたのと同じやつかな?

 

 

 

249 710 弧月

315 1240 バイパー

311 2760 弧月

246 1985 弧月

115 2010 アステロイド

151 1420 メテオラ

338 590 スコーピオン

105 1826 スコーピオン

203 940 弧月

333 2810 スコーピオン

194 2300 アステロイド

128 3020 バイパー

 

    

 

 

 

「あの掲示板に映っているのと同じものが、ブース内のパネルに表示されています。左から部屋の番号、部屋主の個人(ソロ)ポイント、使用しているトリガーの名称になります」

『590ポイントの子には一体何があったんだろうね』

 

 

 いやそれ僕も思ったけど。最低1000ポイントから始まるのに更にその半分近くまでポイント減ってるとか只事じゃないと思うけど。もう下手にランク戦やらずに訓練だけ参加してた方がいいんじゃないかなとか思うけど。とりあえず今は置いておこう。

 

 

「好きな相手を選んで押せば対戦できます。使用ステージや対戦数の変更も可能です。ブースには個人通話機能も用意されているので、それらは対戦相手と話し合って決めて下さい。戦場(フィールド)に転送された後、相手と直接対面してから決めても構いません」

 

 

 ふむふむ。

 

 

「ランク戦の仕組みは単純です。勝つことで相手のポイントを奪い、負ければ逆にポイントが失われます。ポイントの高い相手に勝つほど多くのポイントが手に入り、自分よりポイントが低い相手だと、勝利してもポイントはあまり増えません。敗れた場合はその逆です」

 

 

 これだけ聞くとひたすら高ポイントの相手に挑み続けるのがローリスクハイリターンの選択肢に思えてくるな。『勝てるんならね』まあそうだな。多分590ポイント君もこんな考えで強い相手に挑み続けた結果、敗北を重ねて少しずつポイントをすり減らしていったのだろう。普通に弱過ぎて勝てる相手がいなかっただけなのかもしれないが。

 仮に0ポイントの状態で一番ポイントの高い隊員から1勝でも出来たらどれだけのポイントが手に入るのかな。1勝で1万ポイントとか手に入りそう。負けたところで失うものもないしちょっと面白そうだよね。いや、やらないけど。

 

 

「一番下にある黒い四角を押すと、パネルの表示が正隊員入りのものへと切り替わります。それを使えば正隊員とも対戦ができますが、正隊員の方に拒否されれば戦えませんし、ポイントの変動も起こりません。ただの練習試合用だと思って下さい」

『一攫千金の夢が断たれたね』

 

 

 やらないって言うたやないかい。

 というか、むしろ方針が固まった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。3500だろうが3999だろうが、4000ポイントを越えていないのなら所詮は訓練生レベルなのだ。それを乗り越えていけないようでは先がない。那須さんみたいな例外は別として。あと例の1.53秒の人も地雷だよな。この御二方には早いとこ上に進んでいただきたいものである。

 

 

『そこでその二人も倒すって言えないあたりがみみっちいよね、お兄ちゃんは』

 

 

 君子危うきに近寄らずと言ってほしい。

 いやでもやっぱり、那須さんにリベンジマッチを挑みたいという男心もあるにはあるな。単純な技術()の競い合いでは天地がひっくり返っても勝てる気はしないのだが、(タマ)の獲り合いとなったら話は別だ。具体的な策はまだ何も思い浮かんでいないのだが、何度か手を合わせているうちに見えてくるものもあるだろう。

 OK、最初の標的は決まった。悪いが那須さん、君には少しだけ訓練生で足踏みをしてもらう。

 

 

『普通にお兄ちゃんがあのひとの踏み台になって終わるだけだと思うけど』

 

 

 そんなことはない。

 そんなことはない……!(願望)

 

 

「合同訓練は週2回。4種の訓練で満点を取り続けても、1週間で最大160ポイントしか稼ぐことが出来ません。ですが、ランク戦なら1日でその倍以上のポイントを稼ぐことも可能です。負ければポイントを失うというリスクもありますが、正隊員への早期昇格を目指しているのなら、積極的にランク戦へと取り組むことをお勧めします」

 

 

 今、暗に『訓練だけでポイント稼いでのんびり正隊員目指そうとか思うなよ』って釘を刺されたような気がする。いやまあ、そんなつもりは毛頭ないし時枝くんにもそんな黒さは()えないけど。

「サンキュー充」と嵐山さんが声を掛け、時枝くんがぺこりと軽く頷く。どうやらそろそろまとめに入るようだ。結局最後まで説明役が代わった理由はよく理解らなかったな。

 

 

「入隊指導はこれにて以上だ! 今後の時間の使い方だが、早速ブースに入ってランク戦に励むもよし、訓練室を借りてトリガーやトリオン体の扱いについて学び直すもよし、正隊員に声を掛けてアドバイスを貰うもよし! 各々自分なりのやり方で、自由に正隊員を目指してほしい! 君たちと共に戦える日を待っている!」

 

 

 締めの挨拶は忍田本部長と同じであった。嵐山准、つくづく模範的なボーダー隊員である。

 とはいえ、その前の彼の言葉は気に入った。自分なりのやり方で自由に。放任とも取れる言い方だが、これ以上僕に向いている助言もない。思えば戦闘訓練の際も、嵐山さんは僕の戦法を確かめこそすれ正すことはしなかった。その大らかさに魅力を感じるし、正義の味方(ボーダー隊員)としては理想に近い人物だと思う。()()()()()()()()()、そう考えてしまう自分がいることを、正直否定は出来ない。

 ――まあ、あんまり長い時間眺めていると、僕の目にはやや()()()()()()()()と思わないこともないけれど。そう、僕の目に()える嵐山准という人は、何か知らんけどやたらと眩しいのだ。キラキラと輝いて映っているのだ。普通の人にはよく理解らない感覚かもしれないけれど、人によっては僕と同じ眩しさを感じ取って、()()()()()()()()()()と、日の当たる道から離れてしまったりもするのかもしれない。()()()()()()()()()、と何となく思った。

 

 

『ヘタレ』

 

 

 お前覚えとけよ。場合によってはたった三文字で人の心ってやつは砕けるんだからな。もっと兄の心を労わって。丁重に扱って。硝子細工みたいに。

 さて、嵐山さんらがロビーを去るのに合わせて、今期入隊組も散り散りになっていく。どうやら早速、コアデラ組はブースへと駆け込んでいくようだった。相も変わらずやいのやいのと言い合いを続けている。多分あのままランク戦で殴り合う流れだなアレは。うんうん、仲良くケンカしな。

 笹森くんはというと、なんと正隊員と思われる二人の男性に声を掛けられている。片割れの人が何となくガラの悪そうな見た目をしているので、まさか因縁でも付けられているのかと一瞬心配をしてしまったのだが、()た感じ二人とも割と好意的というか、どうも笹森くんに何らかの『期待』を抱いているらしい。スカウトか。スカウトされているのか笹森くん!

 

 

『余計なお世話した甲斐があったじゃん、お兄ちゃん』

 

 

 いや、あれは即座に動けた笹森くんを褒めるところだよ。とにかく、絡まれている訳じゃないのなら放っておいても大丈夫か。となると残るのは。

 

 

「――ついに本当の『勝負』をする日が来たんじゃないかな、那須さん」

 

 

 僕は言った。渾身の決め顔でそう言った。『きもちわるい』あんだとコラお前の顔だぞお前の! 『私の顔だから尚更そう思うんじゃん……』一理あるようなないような! でもそこまで言われるほど変な顔はしてない筈だぞお兄ちゃん!

 

 

「大庭くんの今の顔、嵐山隊の佐鳥くんみたいね」

「ごめん那須さん、今の僕の表情は記憶から消し去ってもらえるとありがたい」

 

 

 違うのだ……決め顔とドヤ顔は断じて違う……違うのだ……。

 で、どうやら那須さんはランク戦ロビーを離れ、狙撃手(スナイパー)の訓練場へと向かった(筈の)茜ちゃんと、もう一人――オペレーターとして入隊を果たした、後輩の子を迎えに行くのだという。今日はそのまま帰宅の流れだとか。

 という訳で、デートのお誘いはあえなく断られてしまった。残念。

 

 

『その言い回しもきもちわるいからやめて』

 

 

 お前ジャブ放つみたいな感覚で兄にキモいキモい言うの本当良くないぞ。仕舞いにゃ泣くからなマジで。

 かくして一人寂しくロビーに取り残されることが確定した僕だったのだが、別れ際に那須さんとこんなやり取りがあったことを記載しておく。

 

 

「――大庭くん。あなた、()()()のことはもうすっかり乗り越えたという認識でいいのかしら?」

「まあ、この顔のこと()()なら」

『……なーんか含みのある言い方』

 

 

 そりゃまあ実際に()()()()からなあ。お前を。

 

 

「……そういうことなら今度、会ってもらいたい女の子がいるのだけれど。()()()()()()

「――トリオン体? 生身じゃなくて?」

「ええ。私も詳しい理由は知らないのだけれど、男の人が苦手なのよ、その子。でも、大庭くんが相手ならもしかしたら――と思って」

「ああ、なるほど」

 

 

 見た目は女! 中身は男! その名も大庭葉月!(トリオン体)

 確かにそういう事情を抱えているのなら、僕らの存在はその子が苦手を克服するためのきっかけになり得るかもしれない。ピーマンは苦手でもパプリカは食べられる子供とかたまにいるもんな。どっちも同じナス科トウガラシ属なのに。どうでもいいけど那須さんの前でナスのことを考えるのってなんか変な感じだな。思わずナスにさん付けしてしまいそうだ。うん、馬鹿だな僕は。

 

 

『――男が苦手、ね』

 

 

 おや、なんか言いたげだなマイシスター。

 ていうかアレだな。僕一人で勝手に了承しかけてたけど、お前の同意も貰っておくべきだよな。どうするよ?

 

 

『しーらない。お兄ちゃんの好きにすれば? ()()()()()()()()()()

 

 

 人に含みがどうとか言っておきながらこの妹は……まあいい。とりあえず言質は取ったぞ。

 

 

「オーケイ。喜んで協力させてもらうよ、那須さん」

「――ありがとう。段取りが決まったら私の方から連絡させてもらうわ。というわけで大庭くん」

「はい」

「ラインを交換しましょう」

 

 

 ラ イ ン 交 換 。

 僕が。那須さんと。陽介と公平の二人しか友だち登録されていない僕のラインに、那須さんの名が加わる――なんだこの謎の感動は。

 いやだってほら、想像してみて下さいよ。ラインのアイコンタップして友だちんとこ開くとさ、三人の名前が並んでるわけよ。下から順に"K. Izumi""よーすけ"と来て、

 

 

 "那須玲"。

 

 

 そんなんもう絶対、画面眺めてるだけでテンション上がるやつじゃないですか?

 最高じゃないですか?

 

 

『この人の妹であることを辞めたい……』

 

 

 お前ガチトーンでそういうこと言うの本当に傷付くからやめような。兄も人間だからな。少なくとも僕はまだそのつもりだからな。

 とにかく、完全に浮かれ気分になった僕はすぐさま懐からスマホを取り出そうとして――

 二つの問題に気が付いた。

 そのいち。

 

 

「……那須さん。僕たち今トリオン体だけど、どこからスマホを出せばいいんだ」

「あら」

 

 

 言われてみればその通りね、と頬に手を当てる那須さん。天然か。いや、釣られてスマホを抜きにかかった僕も同レベルだけれども。

 

 

「私としたことがうっかりしていたわね。入隊指導も終わったことだし、一度換装を解いて――」

「いや、その必要はないよ」

 

 

 そう――仮に那須さんが生身に戻ったところで、彼女が僕とラインを交換することは叶わない。なのでどうか、こんなことで身体に負担を掛けないでもらいたい。一度生身に戻るだけでも、君の身体に『重み』が圧し掛かることを僕は知っているんだ。

 という訳で、問題そのに。

 

 

「僕はスマホを持ってないからね」

 

 

 父に取り上げられてしまったので。

 まあ、現物があったとしてもとっくに解約されてるに決まっているのだが。

 

 

『……あのオヤジ、今度会ったらぶっ飛ばす』

 

 

 やめなさいやめなさい。というかお前、もういいって言っておきながら僕より吹っ切れてないじゃないか。別に僕は直せとは言わないけども。

 

 

『…………』

 

 

 あれま。拗ねてしまった。こりゃダメだ。

 目の前の男女がそんなやり取りを繰り広げていることなど知る由もなく、先程と同様に「あら」と短い反応を返す那須さん。どうでもいいけど割と頻繁にあらあら言うよね那須さん。僕の勝手な思い込み(イメージ)だろうか?

 

 

「そうだったの? ガラケー派?」

「いや、なんというか……家を出た時に手放して、それっきり」

「あ――ごめんなさい」

「いやいや、那須さんが謝るようなことは何もないって」

 

 

 これは我が家の問題なので。いや、元我が家、か。

 

 

「……でも、それならどうしましょうか。今住んでいる部屋にも電話はない?」

「ないね。原始的な連絡手段になるけど、普通に基地でまた会った時に伝えてくれたらいいよ」

「それ、私が大庭くんをすんなり見つけられるという前提がないと成り立たない手段だと思うわ」

「ああ、それなら大丈夫」

 

 

 ? と首を傾げる那須さんに向けて、僕はある種の決意表明も込めて、こう言った。

 

 

 

 

 

「正隊員に昇格するまで、僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から」

 

 

 

 

 

 C級隊員大庭葉月。

 今日からランク戦廃人、始めます。

 

 

 

 

 かくして現在、僕はそれこそカラオケボックスの如き狭さのランク戦ブースに閉じ籠もり、どの曲を歌おうかなと悩むようなノリでパネルと睨めっこをしている最中なのである。

 予定の決まった那須さんが即座に僕を発見出来るよう、使用する部屋は常に同じ番号を選ぶことにした。という訳で、僕が使用している部屋の番号はそう、ROOM303(303号室)だ。()()()()()()()()()()()()()()と那須さんにも伝達済みである。無論、今日はたまたま空いていたからすんなりと入れただけであって、日によっては()()()()と出くわすこともあるのかもしれないが。その時は大人しくロビーのソファに腰掛けて空くのを待つのみだ。下手に他の部屋を利用している最中に那須さんが来たらすれ違いになってしまうし。

 

 

 

249 710 弧月

315 1240 バイパー

311 2760 弧月

246 1985 弧月

115 2010 アステロイド

151 1420 メテオラ

338 590 スコーピオン

153 3650 弧月

105 1826 スコーピオン

203 940 弧月

333 2810 スコーピオン

194 2300 アステロイド

128 3020 バイパー

 

    

 

 

 

 で。

 僕が事前に決めた方針に従うのであれば、勝負を挑むべきはこの人になる――のだ、が。

 

 

 

249 710 弧月

315 1240 バイパー

311 2760 弧月

246 1985 弧月

115 2010 アステロイド

151 1420 メテオラ

338 590 スコーピオン

 

153 3650 弧月

 

105 1826 スコーピオン

203 940 弧月

333 2810 スコーピオン

194 2300 アステロイド

128 3020 バイパー

 

    

 

 

 

 1()5()3()号室。『弧月』使いの3650ポイント。

 さて、一体何を迷っているのかというと、僕はこの『弧月』というトリガーに対する知識を一切持ち合わせていないのである。炸裂弾(メテオラ)変化弾(バイパー)は勿論わかる。あと確か、アステロイドというのは普通の弾だ。爆発するわけでも曲がるわけでもないが、その分威力が高い弾丸トリガー、それが通常弾(アステロイド)。知っているのはその三種類だけだ。

 『スコーピオン』もさっぱり理解らない。いや待て、名前自体は何度か聞いてるな。確か陽介が使っているトリガーの名前だ。でもそれだけの知識しかない。あいつが選ぶような武器なのだし、何かしら『と、思うじゃん?』って感じの要素がある武器なのだと思うけれど。

 そんな具合なので、いきなりこの人に突っ込んでわからん殺しされたら怖いから他の低ポイント弧月使い、たとえば249号室とか203号室あたりで予習すべきなのではという考えが浮かんでいるのである。

 

 

『ビビリ』

 

 

 お前ようやく復帰したと思ったら第一声がそれとか本当最悪だな?

 ええはいそうだよビビりましたよリスクを恐れましたよ弱い考えでしたよさっきのは。時枝くんの説明によれば、自分より高いポイントの相手に負けても失うポイントはそこまで多くないのだ。どの道わからん殺しを食らうリスクは他の弧月使い相手でも存在するのだし、勝つにしても負けるにしてもこの人を選ぶのが一番良い。そう思った。

 陽花に上手いこと乗せられた感もあるがまあ気にしないでおこう。という訳で、153号室の段をポチっとな。

 

 

 

 

153号室を対戦相手に指名しました。

対戦相手の応答を待っています。

 

 

NOW LOADING...

 

 

 

 

 対戦相手――そうか。今更ながら、僕は初めて人間相手にトリガーを使用することになるのか。標的(バド君)大型近界民(バムスター君)を吹っ飛ばした時には何とも思わなかったけれど、人間相手にぶっ放すのか。炸裂弾(メテオラ)を。生身の相手を撃つのではないと頭では理解しているけれど、いざ戦場に立った時、その理解に身体が従ってくれるものかどうか。

 

 

『人間だったらもう二回も吹っ飛ばしてるけど何ともなかったじゃん』

 

 

 そういえばそうだ。

 二回とも僕だけどな! HAHAHAHAHA!!

 

 

『…………』

 

 

 笑えよ。

 

 

 

 

対戦が承諾されました。

戦闘体を対戦ステージへと転送します。

 

 

 

 

 とまあ、こんな感じのぐっだぐだな空気に漬かりつつ。

 僕は初めての対人戦を迎えることとなったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は日中。天気は晴れ。周囲に映るは何の変哲もない民家の群れ。

 いたって平凡なこの風景こそが、ボーダー隊員の戦場なのである。

 

 

『この街並みを今からお兄ちゃんが炸裂弾(メテオラ)で吹き飛ばすんだよね……』

 

 

 おう、人聞きの悪いこと言うなや。訓練や模擬戦ならともかく、実戦ならなるべく当てないようにするわ。なるべくだけど。

 とにかく、僕が転送されたのは初期設定の『市街地A』。時刻を夜に設定した訳でも転送位置がマンションの屋上だった訳でもないので、本当にごく普通の街中へと放り込まれた形となる。

 ……こんなところで戦うのか。いわゆるストリートファイターってやつの気分だな。そんなことを思っていると、15mほど先の路上、二つの人影を確認した。どうやら相手の方も転送を済ませているようだが――

 

 

 ――()()

 

 

「お、フツーに入れましたわ」

「観戦モードやっけ? こんな機能もあるんやな。これ使ったら気軽に間近で強い人の対戦見放題やん」

「間近は流石に気ぃ散るでしょ。ま、そんなワケで俺は隅っこの方で眺めとりますから、ランク戦ちゅうんがどんなモンか見せて下さいよイコさ――お」

 

 

 と、雑談を交わしていたらしき二人も僕の存在に気付いたらしく、2×2=4つの(まなこ)が僕の方へと向――()()()。片方の人の目が見えない。分厚いゴーグルを掛けているので素顔が判らない。()()()()()()()()()()

 

 

『あ、もさもさ頭の人だ』

 

 

 そう。この二人は――

 

 

 

 

 

「僕と同じくらいの早さでバド君に吊られていた人……」

「入隊式んとき隠岐のアホウにナンパされとった子……」

 

 

 

 

 

 世間(ボーダー)ってやつは想像よりも狭いものだなあ。そう思った。




前回のイコさんのバムスター撃破記録を1.58秒から1.53秒にサイレント修正しました。
ええ、語呂合わせのつもりだったのです。1.58(生駒)秒。
でもそれなら1.53(イコさん)の方がわかりやすいかなあと思ったので変更です。
ちなみに原作で『歴代2位の記録』と明言されたヒュースは1.51秒なのでギリギリ越えてません。
裏を返せば本作時空だと遊真&ヒュース入隊までの2年間イコさんが最速記録保持者ということになってしまった訳ですが、まあイコさんだしいいよね(贔屓)。
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