葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~   作:Amisuru

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C級ランク戦には時間を掛けないと約束したな。
あれは嘘だ。
あたまいいひとをかこうとするとあたまわるいのがばれるからこわい

ワートリ2期2021年1月9日から放送開始うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおお




ゴーグルの達人とうそつきブロッコリー

 

 

 誰も興味ない思うんやけど、自分語りしてええかなあ。

 

 

 俺な、中学ん途中まで本気の本気でプロの将棋指しなろう思っとってん。

 まあ結局自分才能(センス)ないわ思て途中で諦めてもうたんやけどな。

 諦めた言うても、わかりやすく心がぽっきり折れるような出来事があったとか、そういうワケやないねん。

 少しずつ、少しずつや。ええ感じに上達しとった頃と比べて思うように伸びんようなって、こらアカン思て棋風(スタイル)変えてみるんやけどそれもダメ、そうこうしとるうちに元のやり方にも戻れんようなって、どん詰まって、それで終わりや。しょうもないやろ?

 最初ん頃の指し方を褒めてくれはった人らが、指し方を弄れば弄るほどに俺の棋譜見て白けた顔するようになったのもしんどかったなあ。俺なりに勝てる指し方でやっとったつもりなんやけど、どうもその人らの好みとズレてたみたいやねんな。

 人の目ぇ気にして将棋始めた訳やなかった筈やねんけどな。

 ただオモろいやん思て始めただけのことやったのに、いつから余計なモンが纏わりつき始めたんやろな? まあ、今更どうでもええんやけど。

 

 

 で、将来の夢やら目標やら何も無うなって、アホみたいにぼけーっと高校一年生やっとったら、ある日いきなり街中で声掛けられてん。界境防衛機関ボーダーの者ですけど言うて。

 流石にボーダーの名前くらいは知っとったで? 二年前の大規模侵攻いうたら、そらまあ大阪(こっち)の方にも聞こえてくるくらいの大ニュースやったねんな。『異世界からの侵略者』やで? ボロボロの街やらひっくり返った戦車やらもバリバリテレビに映っとったし、そら日本中が大騒ぎするってもんや。

 で、そない大騒ぎを鎮めたっちゅうどえらい組織が俺に何の用やねん思うたら、スカウトやて。その時の口説き文句がまたお笑いやねんな。『君には才能がある』やて。んな台詞はボーダーの人やのうて米長さんにでも言われたかったもんや。知っとる? 米長邦雄。日本将棋連盟の元会長様や。在任中に亡くなってもうたけどな。将棋に負けたショックで全裸(マッパ)んなってホテルん中を走り回ったっちゅうドアホウや。イカレとるやろ? 俺の一番好きな棋士やで。覚えといてや。

 

 

 でまあ、笑える言うといて結局付いてってしもたんやけどな、スカウト。

 しゃーないやん、さっきも言うたやろ? アホみたいにぼけーっとしとったって。何処へも行けんなったから何処へでも連れてってくれたらええわ、みたいなこと思っとってん。アホやろ?

 したら、連れていかれた面接会場みたいなとこで、その人と()うてねん。

 何でも祖父(じい)ちゃんが京都の方やとそれなりに名の知れた剣術家やそうで、ガキん頃から手ほどき受けて、高校生にして『()()』とか呼ばれてる言うねんな。で、その剣の腕を買われてボーダーにスカウトされたと。

 

 

「今時カタナなんか扱えてもモテたりせんけどな。むしろおっかない言うて怖がられるのがオチやねん。せやけど、俺の剣で化け物ぶった斬って街が平和になるっちゅうんならそらええこっちゃ。そう思ったら、家を出るんも迷うことあらへんかったわ。あ、今の俺ちょっとカッコええやん。やっぱボーダー入ったらモテ期来るんとちゃうか?」

 

 

 まあ二言目にはモテるモテないの話始めるアホウやったワケなんやけど。

 イコさんがモテへん一番の理由て、そこを気にし過ぎやからとちゃいますの?

 それ言うてホンマにイコさんがモテるようなったらオモろないから言わへんけども。

 

 

 あとな、暫く経ってからネタばらしされたんやけど『達人(たつじん)』いうんは単なる本名のもじりやったらしいわ。

 異名やのうてただの綽名やないかーい!

 

 

 

 

『対戦ステージ「市街地A」。C級ランク戦、開始』

 

 

「アカン」

 

 

 僕と目が合った(隠れていて見えないけど合っている……筈)ゴーグルの人は、そう呟くと隣のもさもさ頭さんへと視線を向けて。

 

 

「バトンタッチや水上。あの子の相手はお前に任せた」

「出会って5秒で何ヒヨってんすかアンタは」

「俺は! かわいい子斬ったらアカン顔やろが!!」

「俺かて別にかわいい子撃って許されるような顔しとりませんわ。そういう仕事は隠岐にでも押しつけとけばええんですよ」

「それや。こういう時こそあのイケメンを役立てなアカン。聞いとるか隠岐? 隠岐ー?」

「ホンマに探し始めるアホがおるか」

 

 

 やべえ……。

 思わず最近の若者染みたリアクションを内心で取ってしまった。本場だ。本場関西のお笑いだ。僕と陽花のにわか仕込みとはレベルが違う、息ぴったりのコンビ漫才だ。付け入る隙が全くない。

 

 

『お兄ちゃんとコンビ芸人扱いされるのも、この人たちと競わされるのも甚だ心外なんだけど』

 

 

 そう言う割にはしっかりツッコミ入れてくれるからお前のこと嫌いじゃないぞお兄ちゃん。

 

 

『……帰る』

 

 

 どこに!?

 

 

『お兄ちゃんとこの人達のテンションに付き合ってるとなんか疲れそう。時間経ったら帰ってくるから好きにやってて。それじゃね』

 

 

 え、あのちょっと陽花さん? 陽花さーん? もしもーし?

 ……切れた。切れたってなんだよ電話じゃあるまいし。でも他に言い様がない。まったく、我が妹ながら自由なやつだ。誰に似たんだろうか。

 とりあえず、陽花(トリオン器官)が引っ込んだことで換装が解除されるとかそういったことはないらしい。久々に味わう一人の感覚だ。

 

 

 ……いや、別に寂しくも何ともないけどね。ないない。

 

 

「あの、もしかしておっきーのお知り合いの方ですか」

「おっきー!?」

 

 

 陽花のことは放っておくとして、気になる名前が聞こえてきたので()()()()()()()()()()()、ゴーグルの方のお兄さんが素っ頓狂な声をあげた。何故このお兄さんは僕がおっきーをおっきーと呼んだだけでここまで動揺しているのだろう。よく理解らない。理解らないがそれはそれとして。

 

 

「ちなみに彼からはずっきーと呼ばれています」

「ずっきー!? 彼!?」

「キミ、この兄さんのリアクションがおもろいからって遊んどるやろ」

「お気付きになられましたか」

「ま、気持ちは理解らんでもないからな」

 

 

 『えらいこっちゃ……不純異性交遊や……』と震えているゴーグルの人を他所に、僕ともさもさ頭の人とで相互理解が発生していた。観戦モードがどうとか言っていたが、確かにこのゴーグルの人の一挙手一投足を眺めるのは楽しい暇つぶしになりそうだ。いや、それが目的で引っ付いてきた訳ではないと思うのだけれど。

 この調子で弄り続けるのもそれはそれで面白そうなのだが、既に試合開始の合図(コール)も鳴っている。ぱっぱと誤解を解いてしまおう。

 

 

「ついでにお伝えしておくことがあるのですが、こう見えて僕は男です」

「「ウソやろ!?」」

 

 

 あ、愉快な反応が二つに増えた。先に我を取り戻したもさもさ頭の人が「……いやいや」と首を振る。

 

 

「流石にそれは飛ばし過ぎやろ自分。いくら俺らが関西人いうても、そこまでボケるこたないで」

「いや、正確に言うとこの身体そのものは紛れもなく陽花(女性)なんですけどね。まあ、色々とワケアリなんですよ」

「……あれ、ガチなやつなん?」

「ガチなやつなんすよ」

「――ということは」

 

 

 はっ、と世界の真実に気が付いたようにゴーグルを煌めかせるお兄さん。

 

 

「隠岐はああ見えて両刀やった……!?」

「アホか」

「おぶっ」

 

 

 すぱーんと頭をはたかれるゴーグルの人。流石はお笑いの本場、ツッコミに容赦がない。まあ言ってもトリオン体だからノーダメなんだけども。

 

 

「そういうことやなくて、アレやろ? 性別は女の子やけど、心は男っちゅう……ほらイコさん、アレですわ、トランスなんたらっちゅーやつ」

「『私はオプティマス・プライム』」

「そらトランスフォーマーや」

「そういうのともまた別物というか……あとゴーグルのお兄さん、司令官の声真似上手いですね」

「え、ホンマ? 二期始まったら生駒達人(CV:玄田哲章)ワンチャンある?」

「詳しくないので仰っていることがよく理解りませんが、おそらく小野坂昌也さんあたりになるのではないかと……」

「イコさんが何言っとるのかさっぱりワカらへんけど、キミがホンマは詳しいっちゅうことだけはようワカった」

 

 

 日曜洋画劇場『イコマンドー』

 ……うん。そろそろ僕も陽花が引っ込んだ理由を察してきたぞ。僕達このまま永遠とボケ続けていつまで経っても試合なんか始められないんじゃないか? そう、僕が言いたいのは永遠。

 

 

「――とにかく、女の顔だから斬れないとか、そういう遠慮は一切不要だということです」

 

 

 掌に意識を集中させる。豆腐(キューブ)よ出ろ。

 出た。これでどれだけ念じても出てこなかったらどうしようかと思った。本当にただどっかに引っ込んだだけなんだな。そういうことなら遠慮なく使わせてもらうぞマイシスター。

 

 

「不意打ち気味で申し訳ないですが、合図(コール)は既に鳴ってますし、恨みっこなしということで――」

「――ああ、もう始まっとるん? ()()()()()()()、嬢ちゃん」

 

 

 先手必勝とばかりに豆腐(キューブ)をぶん投げようとして、気付いた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「近づき過ぎやで」

 

 

 そう、確かに僕は近づいた。会話をするのに15mは流石に遠過ぎると思い距離を詰めてしまったのだが、それでもまだ5mくらいは離れていた筈だ。いくらトリオン体の運動能力が常人のそれを凌駕しているからといっても、ほんの一瞬でここまで距離を詰められるとは――特殊な歩法でも使っているのか!?

 

 

「メテオ」

 

 

 ラ、と僕は言おうとした。言ったつもりだったのだが、豆腐(キューブ)が飛んでいかない。弾丸へと命令を()()()()()()()()が失われてしまったかのように、何かがぷっつりと断ち切られたのを感じる。

 宙に浮き逆さまになった視界で、頭を失くした陽花()の身体が突っ立っているのを確認して、気が付いた。

 ああ、斬られたのは(そこ)だったのか。

 

 

「――斬れん斬れんと思っとったけど、意を感じたら身体が勝手に動くもんやなあ。祖父(じい)ちゃん、()()()()()やで。こらモテへんわ」

 

 

 いつの間に握っていたのか、刀を振り抜いたままの姿勢で、ゴーグルの人――イコさんが呟く。

 ……そうか、弧月というのは笹森くん達が使っていたあの刀のことだったのか。

 確かに、これは、近づき過ぎた。要反省。

 

 

『伝達系切断、大庭ダウン。勝者、生駒達人』

 

 

 刹那の出来事だった。近づかれたのも、刀を抜かれたのも、首を飛ばされたのも。

 そんな一瞬にして、大庭葉月の華麗なる個人(ソロ)デビュー戦は終わりを迎えたのであった。

 華々しさの欠片もないぜ、ちくしょう。

 

 

 

 

「おぼふっ」

 

 

 炸裂弾(メテオラ)で自爆した時のような()()()()()()を味わった瞬間、僕の身体は背中から地面に叩きつけられていた。

 訂正。地面ではなく、柔らかな感触のベッドだった。頭を上げると、『303』と大きく書かれた無機質な壁が目に入る。どうやら試合に負けると個室(ブース)へと送り戻される仕様になっているらしい。

 

 

『……なんか、首の付け根がむずむずする』

 

 

 あ、帰ってきた。ごめんな陽花、お兄ちゃんが不甲斐ないばっかりにお前の首ちょん斬られちゃったよ。

 

 

『はあ!?』

 

 

 いや、でも安心したわ。これでお前の方も死んでたら洒落にならないところだったけど、やっぱ仮想戦闘だろうとランク戦だろうと、模擬戦だったらいくらトリオン体をぶっ壊されてもお前には何も影響ないってことだもんな。よーし、これで心おきなく死に(負け)まくれるぞ。やったぜ。

 

 

『おい、そこの馬鹿兄、今すぐ運転代われ』

 

 

 うん、申し訳ない。流石に悪ふざけが過ぎた。次は真面目にやるから怒らないでほしい。

 

 

『……次って、なに、もう一回挑んでみるつもり?』

「まあ、何が何だか理解らないうちに終わっちゃったからな」

『瞬殺されてんじゃん』

「今度はそうならないように気を付けるって話だよ」

 

 

 周りに人がいないのを良いことに口での応対に切り替える僕である。個室の利点を活かしていくスタイル。

 とりあえず、イコさん(ゴーグルの人)に対しては5mであろうと即死圏内だということは理解出来た。あんまり距離を離し過ぎると今度は弾の命中精度が問題になってくるが、相手はバムスター君のように固い装甲を持っているという訳ではない。いかに俊敏に動くことが出来ようとも、舞台は街で、相手は人間だ。ならば幾らでもやりようがある。

 そうと決まれば早速リベンジだ、とベッドから降りてパネルに向かおうとしたところで、

 

 

『153号室から続けて、対戦の予約が入っています。ステージへと転送します』

 

 

 そんなアナウンスが個室(ブース)に流れた。都合が良い。どうやら向こうもやる気満々のようだ。

 

 

『単にカモだと思われただけじゃないの?』

「だったら、なおさら都合が良いってもんだ」

 

 

 

 

 

 ――などとイキリ全開の台詞を吐いていたその時の僕は、まさしく()にとってのカモであった。

 そう、僕はもう少し真剣に、アナウンスの正しい解釈へと意識を割くべきだった。

 アナウンスは確かに153号室からの予約だと言ったが、()()()()()()()()()()()()とは、一言も言っていなかったのだ。

 

 

 

 

 ――とまあ、『達人』っちゅうんもただの吹かしやなかったっちゅうことやな。仮入隊の時点で俺はもう知っとったけど。

 イコさんの剣を一目見て、同じ土俵で食っていくんは無理やと悟った。あの海とかいう子は逆にリスペクト言うて興奮しとったけど、あれは若さやな。いや、せいぜい2つか3つくらいしか歳離れとらんと思うけど。何にせよ挫折を知らんのか、俺みたいにしょうもないことは考えへんのか――まあ海の話はどうでもええわ。入隊指導終わった途端にヒャッハー言うて別の個室(ブース)へと突っ込んで行きよったし。

 でな、ここだけの話なんやけど、俺最初は変化弾(バイパー)っちゅうトリガー持たされとってん。面接官のオッサンが君にはこれがオススメや言うてな。せやけど2日でぶん投げて他のトリガーに鞍替えしたった。()()()の方が遥かにお手軽で使いやすい思ったからや。したらな、たまたま俺の訓練を見とったオッサンが声掛けてきたんやわ。『君、もう変化弾(バイパー)はやめてしまったのかね?』

 はあ、どうも自分には向いてなかったみたいっすわ言うてテキトーに話終わらそう思とったら、またこれや。

 

 

 

 

 

『勿体ないな。()()()()()()()()と思ったんだが』

 

 

 

 

 

 才能。

 才能、ねえ。

 そんなモンがあるなら、俺は今頃藤井くんみたくプロの世界でバチバチ指しとったっちゅう話ですわ。

 俺が得意なんはもっとこう、せせこましい小細工の方やねん。小技っちゅーか裏技っちゅーか、はー、そんなんあったんかっちゅう()()()()()()くらいがせいぜいや。んな大仰な言葉持ち出してくんなや、鬱陶しいわ。

 

 

『兄達は頭が悪いから東大へ行った。自分は頭が良いから将棋指しになった』

 

 

 俺の尊敬する米長大先生が残したっちゅう有難いお言葉や。いや、ホンマは言ってないっちゅう話もあるみたいやけどな。まあ昔の人の名言なんてそんなモンやろ。せやな、もう昔の人になってしもたんやなあ。『あなたもついに歴史にされてしまった』っちゅうやつか。……あの漫画もそうなってしもたな。正直未だに信じられんわ。

 ちなみに俺、自慢やないけどめっちゃ学校の成績ええねん。それこそ東大やって夢やないで。

 将棋の方は奨励会員にすらなれへんかったけどな。

 いやホンマ、米長先生は胸に沁みること言いますわあ……。

 

 

 

 

「よーう、また会うたな嬢ちゃん」

 

 

 帰ってきました市街地A。また会いましたねゴーグルのひ――とがいない。確か水上と呼ばれていた、もさもさ頭の人が一人でぽつんと突っ立っている。これは一体どういうことだろう。

 とりあえず、前回の反省を踏まえて不用意に歩み寄ることはしない。水上さんの方も近づいてはこない。ということは攻撃手(アタッカー)ではないのかな、この人のポジションは。

 以後の会話はある程度、互いに声を張り上げてのものとなる。一々台詞にエクスクラメーションは付けないので、まあ上手いこと脳内補完をしてほしい。『誰に向けて説明してるのお兄ちゃん』聞くな。

 

 

「一つの個室(ブース)で戦えるんは一人だけやと思うとったか? それが(ちゃ)うんやな、こんな具合に予約を入れることも出来るっちゅーわけや。ちゅうことで、今度は俺と付き合うてもらうで、嬢ちゃん」

「――嬢ちゃんは勘弁して下さい。葉月です、大庭葉月」

「……っと、アカンアカン。イコさんの頭どついといて、俺が同レベルのボケかましてどないすんねん。すまんな葉月クン」

「いえ」

 

 

 すまんな、と水上さんは口にした。その謝罪は本物だと思う。少なくとも僕にはそう()える。

 視えるのだが――なんだろうな? 彼の心の中にある、この()()()()()()()()()()()()は。彼は何かを隠している。それだけは間違いない。間違いないのだが、その正体が掴めない。副作用(サイドエフェクト)でも判別が付かないということは、彼は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()を吐いているということになるのだが――どうだ? 陽花、お前なら何か判るか?

 

 

『さあねー』

 

 

 ……あの、ひょっとしてまだ首ちょんぱされたことを根に持っておられるのでしょうか。

 

 

『別に。そもそも私、元からお兄ちゃんに特別協力的だった覚えなんてないし』

 

 

 そういえばそうだ。ここのところ普通に漫才ばっかやってたもんだからすっかり忘れていた。

 

 

『――ま、このおにーさんの言うことは素直に信じない方がいいと思うよ。それだけ』

 

 

 何だかんだ言いながらそうやってアドバイスくれるあたりやっぱりお兄ちゃんお前のこと『また帰るよ?』はい。すいません。

 とにかく、次なる僕の対戦相手はイコさんではなく、こちらの水上さんになるようだ。特に承諾した覚えはないのだが、予約機能というのはそういうものなのだろうか? 随分と乱暴なシステムだな。何しろこっちは水上さんの個人(ソロ)ポイントも知らなければ、使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 ……ひょっとして、水上さんは()()()()()、イコさんと同じ部屋へと入ったのか? ランク戦の雰囲気を知りたい、などという口実を使って。

 

 

「なんや、警戒されとるなあ。俺のトリガーが判らへんのがそんなに不安なん?」

「――いえ。そもそも僕に、まともなトリガーの知識はまだないので」

 

 

 それは半分、本音だった。『弧月』の正体が刀だと知っていれば、自分からイコさんに歩み寄るような真似はしなかった筈だ。そういう意味では、申し訳ないが水上さんの仕込みに大した効力はないと言えるだろう。それでもやはり、()()というのは無条件に心を落ち着かなくさせるものだ。それ故の半分本音。もう半分は――図星。

 

 

「ま、攻撃手(アタッカー)用のトリガーについてはそうやろな。俺かてスコーピオンやらレイガストやら言われてもさっぱりやし。せやけど、射手(シューター)用のトリガーについてはそうでもないやろ? メテオラ君」

「……まあ、ある程度は」

「せやったら何もビビることあらへんわ。俺もキミとおんなじ射手(シューター)やねんな。おまけにチラッとしか見れへんかったけど、キミの方が俺よりキューブもデカい。気楽に構えてや」

『対戦ステージ「市街地A」。C級ランク戦――』

 

 

 お誂え向きのタイミングで開始の合図(コール)が入り、互いにキューブを浮かべる射手(シューター)二人。

 なるほど、確かにトリオンで言えば陽花(こっち)の方に分があるらしい。見た感じ、水上さんのキューブは那須さんのそれと同じくらいかやや小さいかといったところだ。

 しかし、そう、那須さん――トリオン量だけがボーダー隊員の才能ではないということを、僕は既に理解している。ましてや同じ射手(シューター)、単純な撃ち合いでは不利だという自覚があるだろうに、この余裕ときたものだ。

 決して舐めてかかれる相手ではない。故に――

 

 

『開始』

炸裂弾(メテオラ)ァ!!」

 

 

 先手必勝。出し惜しみ無しの全弾ぶっ放し。

 相も変わらず、僕の弾丸はきっちり時間を掛けて狙いを定めないと真っ直ぐ飛んではくれない。ふよふよ浮いているだけの標的(バド)くん相手ならともかく、動き回る人間を相手にそんな悠長な真似をしている余裕はない。ならば、下手な鉄砲を数撃つだけのこと。C級ランク戦に(シールド)は存在しないのだから、あながち間違った戦術でもないだろう。

 僕と水上さんは10mほどの距離を取り、互いに何の変哲もない路上に立っている。そう、両脇を塀で塞がれているのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。横方向に逃げ場はなく、訓練生には(シールド)もない。必殺必中の一手だ。勝ったッ! C級ランク戦完ッ!!

 

 

「ひょいっとな」

『……()ががら空きじゃん』

 

 

 あ。

 なんてこった。バムスター君との戦いでさもトリオン体のことは知り尽くしてますぅーと言わんばかりの立ち回りをしておいて、結局僕もまだ生身の感覚が抜け切ってないじゃないか! いや、逆の立場なら僕も同じように避けたと思うけども!

 

 

「――ほな、耳かっぽじってよう聞けや。()――()()……」

 

 

 高々と跳び上がった水上さんが、青空を背に左手を振り被っている。その掌には3x3x3、計27個に割られたトリオンキューブ。

 僕たち射手(シューター)は、弾丸を発射する際にトリガーの名前を口にすることがある。その方が弾が飛びやすくなるからだ。真偽の程は定かではないが、少なくとも僕はそう教わった。

 その時に、こんな話も聞いている。

 

 

『馬鹿に出来た話でもないのよ? ()()()()()()()()()()()()()()()()のって難しいんだから。『通常弾(アステロイド)!』って叫びながら実際に撃つのは炸裂弾(メテオラ)だとか、そういうことが出来る人はほとんどいないって聞いているわ』

 

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()。ただ那須さんに言われたことを鵜呑みにしている訳じゃない、仮入隊の間にも何度か試した。炸裂弾(メテオラ)のキューブを片手に通常弾(アステロイド)!』変化弾(バイパー)!』『かめはめ破!』『イオナズン!』『百八式波動球!!』叫んだ。幾度となく僕は叫んだ。けれど炸裂弾(メテオラ)はうんともすんとも言ってくれなかった。ほろ苦い少年の日の思い出だ。

 

 

()()()ッ!!」

 

 

 その時の記憶がこう言っていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 サイドスローの要領で上空から投げつけられた立方体の群れは、狙いがブレたのか僕のやや手前へと突き刺さる軌道で降ってきている。野球で言えばボール球、余計な手出しをせずに見送っても許される場面だ。ここからストライクゾーン(僕の身体)へと飛び込んでくる筈がない。そう、この弾は紛れもなく、直球(アステロイド)なのだから――

 

 

 

 

『――んなワケないでしょ、このバカ!!』

 

 

 そんな断定を助走付きでぶん殴るかの如く、僕のサイドエフェクト(すぐ傍にあるもの)が怒鳴り声を上げた瞬間。

 直球(アステロイド)が、曲がった。






葉月くんのサイドエフェクトでうそつきアステロイド()を看破するっていう展開はずっとやりたいやりたいと思っていて
そのために入隊前から伏線も仕込んでいた訳なのですが、
C級ランク戦は対戦挑む前から互いの使用トリガーが割れているという仕様をど忘れしており
これどうすっぺと思っていたところで5巻の遊真vs3バカを読み返し。

・1つのブースを複数人で利用することは出来る
・対戦待ち状態の相手に更なる予約を入れることも出来る(いよいよもってカラオケっぽい)
・甲田に続けて残り二人もそのままやられている=一度入れた予約は取り消せない?
・丙の入れた予約に対する遊真のリアクションがない

以上の点から無理矢理やりたい展開にもっていった結果が今回のお話です。
ぶっちゃけ最後のところは描かれてないだけでコマの外で遊真が対戦承諾してるに決まってるんですが
描かれていない以上解釈は自由である…シュレディンガーのC級ランク戦…。



1話で決着まで書き切るつもりだったのですが長くなってしまったのでここで区切ります。このSSそういうのばっかりや

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