葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~   作:Amisuru

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2ndシーズンスペシャルLIVEお疲れ様でした。
ガロプラ勢の豪華キャストと一期から超進化したっぽい作画にふるえる


炸裂弾(メテオラ)vs追尾弾(アステロイド)

 ――要するに、()()()()()()()()()()()()()

 

 

()――(ステ)……(ロイド)ッ!!」

 

 

 見たまんまや。俺の頭ん中では追尾弾と書いてアステロイドって読むねん。で、トリガーは装飾(ルビ)なんざ気にせえへんからきっちり俺の意を汲んで追尾弾(ハウンド)を飛ばしてくれるっちゅう寸法。どや? 簡単やろ?

 地面に突き刺さる寸前、Uの字を描くように追尾弾(アステロイド)が再浮上する。勢い良く坂を下って、もう一度跳ね上がるジェットコースターの如しやで。ほれ、心臓(てっぺん)目指して駆け抜けて行きぃや。

 

 

「――ですよねぇ!?」

 

 

 何やようわからん悲鳴を上げながら葉月クンが慌てて飛び退きおったわ。反応ええな。そのままボーっと突っ立って直撃貰うもんやと思っとったけど。

 ま、変化弾(バイパー)やったらそれで無事避けられたんやろけどなあ。ご愁傷様やで。

 

 

「生憎、最初(ハナ)から詰んでんねん、キミ」

 

 

 ジェットコースターって言うたやん? レールが繋がってるんやわ、キミの心臓目掛けてな。

 うん? 心臓でええんかな? まあ、とにかく胸んとこや。そこにあるんやろ、トリオン供給器官とかいう、トリオン体が活動するための原動力(エンジン)みたいなモンが。

 この弾丸はな、ただひたすらに()()目掛けて突き進むだけの忠実な犬っころや。何処にも寄り道なんざせぇへん。変化弾(バイパー)なんぞよりも無駄がない、俺好みの手軽な玩具(トリガー)や。

 

 

 それが猟犬(ハウンド)

 そういうワケやから、犬にでも噛まれたと思って諦めや。

 

 

 

 

 避けきれないと悟ってから、思った。僕のポジションが射手(シューター)で良かったと。攻撃手(アタッカー)銃手(ガンナー)であったなら、この一発で再起不能に陥っていたところだ。

 

 

()()()()()()()

 

 

 そう――射手(シューター)にとって、腕なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです。

 両手を突き出して、僕を追いかけてくる弾丸たちに少しずつ()()()()()()。指が千切れ、掌に穴が開き、腕が削られ、そしていよいよ千切れ飛ぶ。右腕の上腕三頭筋から先が丸々失われ、左腕も枯れ枝のようにボロボロになってしまった。そして、傷口からはシュワシュワと煙のような何かが漏れている。何かっていうか、おそらくこれは――

 

 

『ああ……トリオンが漏れて(顔が濡れて)力が出ない……』

 

 

 やはりそういうことか。僕は既に三度の(ダウン)を経験しているわけだが、まともに()()()()()()()()というのは思えばこれが初めてだ。何しろどれも即死だったもので。

 トリオン体には痛覚がない。生身だったら痛みと出血のダブルパンチで普通に致命傷だと思うのだが、果たしてこれはトリオン体にとって深手なのかそうでもないのか。

 というわけで、ぶっちゃけその辺どうなんですか陽花(トリオン)さん。

 

 

『死ぬ……』

 

 

 死ぬ!?

 

 

『……とまでは言わないけど、もう一発食らったら100%(パー)アウト。傷口はそのうち塞がるみたいだけど、零れてったトリオンはもう戻ってこないよ。6~7割は持っていかれたかな。当然、豆腐(キューブ)を出したらまたその分だけトリオンは減ってくからね』

 

 

 普通に大ダメージじゃないですかー! やだー!

 というか、なるほど。ゲームはあまりやらないので適切な喩えなのかどうかわからないのだが、トリオンというのは体力(HP)であり魔力(MP)でもあるという訳だ。本当に僕らはトリオン(こいつ)がいないと何にも出来ないんだなあ。

 

 

『ひれ伏せ』

 

 

 ははー。

 

 

「――あれま、全弾命中したっちゅうのにワンパンKOも出来ひんかったん? しょっぱいわあ……所詮は訓練用(おもちゃ)やな」

 

 

 以前健在の僕を目にして、地に降り立った水上さんがはあと溜息を吐く。さあ困った、こっちは全弾見事に外したもんだから相手はピンピンしているぞ。

 どちらかが別のポジションであったなら、戦闘中にこのような休憩時間(インターバル)は発生しないのだろう。けれど僕らは互いに射手(シューター)、新しい豆腐(キューブ)が生えてくるまではただの人である。仕方ないから取っ組み合いでも始めてみるか? 組みつくための腕もないんだけど。

 

 

「……回避が間に合ったと思ったんですが、まさか追っかけてくるとは思いませんでした」

 

 

 素直な感想を述べてみると、水上さんがぴくりと眉を震わせて、怪訝そうな目で僕の顔を見た。うーん、僕にとってすっかりお馴染みのこの困惑(かんじょう)

 

 

「俺が言えた義理やないけど、自分のこと騙し討ちした相手にようネタ振れるもんやな。ムカつくとかそういうの、普通はあるもんとちゃうんか」

「まあ、そこは勝負ですので。それに、正直言うとちょっと感動してます」

「――感動?」

 

 

 あ、いよいよもってドン引きされる流れだぞこれは。けれど思ってしまったものは仕方がない。僕は興味のある話題になると早口になるタイプの人間なのだ。『きもちわる』シンプルかつ的確に心を抉る一言をどうも。水上さんの騙し討ちよりも万倍心が傷付いたわ今。

 

 

「さっきの技、僕も仮入隊の時に出来るかどうか試したことあるんですよ。トリオン体に変身するときの掛け声が自由なら、弾丸を飛ばすときの掛け声だって融通が利くんじゃないかなと思って。でも全然駄目だったんですよ。僕と同じ訓練生なのにあんな技が使えるってことは、水上さんには射手(シューター)の才能があるってことなんじゃないですか」

「――こんなモン、技でも才能でもなんでもあらへんわ」

 

 

 ……あれ、なんだろうか。水上さんの心の中に、ふつふつと滾る苛立ちのようなものが()える。僕はもしかして何か地雷を踏んでしまったのだろうか。

 

 

「俺らにとっての才能っちゅうんは結局、キューブ(これ)のデカさのことやろ。技っちゅうんなら、イコさんの居合がそうや。あそこまで極めて初めて人に誇れるっちゅうもんや。むしろ、今のうちからこんなしょうもない小細工に頼っとる俺はな、()がないねん」

 

 

 掌をこちらへと突き出し、見せつけるように新たな豆腐(キューブ)を浮かべる水上さん。続いて僕も、枯れ枝同然の左手から豆腐(キューブ)を生み出す。さてさて、あと何発まで撃てるのやら。

 

 

「才能云々はともかく――僕らはまだ訓練生ですし、技術の方はそう焦ることもないのでは?」

「ま、長い目で見たらそうかもな。せやけど、こちとら()()に2000ポイント近く差付けられとる立場やねん。C級なんぞでのんびり自分磨きしとる暇はあらへんのや」

「……なるほど」

 

 

 確かに――待たせている相手がいるのなら、追いつくまでに時間を掛けてなどいられない。理解できる。非常によく、理解できる。

 互いにキューブを細かく砕き、臨戦態勢を整える。気分はさながら荒野の決闘だ。ガンマン同士の早撃ち勝負を気取るには、僕らの銃は弾数が多過ぎるけれども。

 

 

「だったら尚のこと、負ける訳にはいきませんね」

「何や、思っとったよりもつれない返しやな」

「申し訳ありませんが、僕の方にも()()()()()()()()がおりますので」

「さよか。そら堪忍やわ」

 

 

 関西からの刺客、軟投派の変則左腕・水上。バッター大庭、早くも追い込まれました。

 ピッチャー水上、ボール(キューブ)を構えます。第2球、振り被って――

 

 

「――今日のところは、道を譲ってもらうで」

 

 

 投げた(発射)

 

 

 

 

『まあアレや、おまえも化け物退治に1分2分掛かったからってくよくよすんなや。ウルトラマンかて怪獣倒すのに毎回3分近く掛けとるんやから』

 

 

 別にくよくよはしとりませんけどね。いや、ホンマに。

 ただちょいと、思っただけですわ。

 何者にもなれへんまま大阪飛び出して、この三門でも何者にもなれへんかったら、そん時に俺は一体何処行ったらええんかなあ、みたいな。

 こんなん、俺のキャラやないっつうのはワカっとりますよ。せやけど、このトシで自分のなんもかんもを諦められるほど、人生ぶん投げとるつもりもあらへんし。

 葉月クンみたいな才能(トリオン)があるワケでも、イコさんみたいな達人(マスター)でもあらへんのやけど。

 なりたかったものとも、てんで別物なんやけど。

 それでも俺は、今度こそ正隊員(プロ)になったるねん。

 そのためやったら、盤外戦術だろうが何やろうがお構いなしや。

 米長センセも名人になったとき、中原名人に林葉直子の話持ち出して動揺を誘ったちゅうやろ? それと同じや。

 ……いや、ホンマかどうか知らへんけどな!

 

 

追尾弾(アステロイド)!!」

 

 

 これで終いやと言わんばかりに、27分割の追尾弾(ハウンド)をぶん投げる。アステロイド言うたんはまあ、特に意味はあらへん。しょうもない拘りやと思うてくれたらええわ。

 追尾弾(ハウンド)(シールド)のないC級ランク戦においては、間違いなくこいつが最強のトリガーやと思った。将棋の駒で言えば飛車角や。道さえ空いてりゃどっからでも、王将目掛けてすっ飛んでいくねん。

 まずはこいつで正隊員(プロ)の世界まで駆け上がって、地力を付けるんはその後でもええ。その判断が間違うとるとは思わへん。現に俺より才能(トリオン)のある葉月クンも、この一発で詰みやねんから――!

 

 

「――C級ランク戦に(シールド)はない。故に、水上さんの弾丸を僕が防ぐ手段はない――」

 

 

 ……なんや、王手掛けられたっちゅうのにニヤニヤ笑いよって。せっかくのツラが台無しやで。いや、中身は男なんやっけか? 正直未だに信じられへんけどな。

 それより何やその、待ってましたとでも言いたげなニヤつきっぷりは。俺が悪手を指したとでも言いたいんか?

 

 

「――()()()()()()?」

 

 

 葉月クンがキューブの浮いた左手を持ち上げる。俺やなく、()()()()()()()()()()()()

 ……しもた。炸裂弾(メテオラ)やったら、()()()()()()も出来るんかいな!

 

 

炸裂弾(メテオラ)!!」

 

 

 瞬間、葉月クンの投げたキューブと俺の投げたキューブがぶつかり合って、激しい爆発に視界を覆われる。消し飛ぶ塀と鼓膜を劈く轟音、濛々と立ち込める煙の中で、やってもうたと思った。

 弾丸を弾丸で撃ち落とす。そない芸当、訓練生レベルで出来る奴がおるとは思うとらんかった。せやけど、炸裂弾(メテオラ)やったら一発落とせば爆発で他の弾丸も巻き込める。その爆発に他の炸裂弾(メテオラ)も巻き込んで誘爆、そうして全てが弾け飛んだ結果が、この大花火っちゅうことかいな。

 寄せが甘いにも程があるわ。それに正直、炸裂弾(メテオラ)っちゅうトリガーを甘くみとった。個人戦やったら大して取り柄のない凡百トリガーやと思うとったけど、弾丸トリガーが相手やったら攻防一体の悪うない駒やないけ。銀将くらいの鬱陶しさはあるわ。

 ちゅうかこらアカン。煙で前がさっぱり見えへんで。葉月クンはどこ行きおった? あの手傷で逃げを選ぶとは思えへんけど、互いに一発ぶっ放した後や。突っ込んできたところで、向こうは手の出しようも――

 

 

「――分割発射、ぶっつけ本番でも案外何とかなるもんですね」

 

 

 ……なんやと?

 煙の中から葉月クンが飛び出してきよった。それはええとして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 分割発射――そういうことか? 俺の弾丸を撃ち落としてなお、追撃に回せるだけのキューブを残しとったってことか? 気付かんかった俺も間抜けやけど、そもそもそんなん元々の才能(トリオン)に差ぁ付いてへんと成立せえへん返しやろが! ホンマ腹立つわ――

 

 

炸裂弾(メテオラ)!!」

「チッ……!」

 

 

 葉月クンが叫ぶのに合わせて、反射で跳び上がる。いくら俺より葉月クンの方が才能(トリオン)ある言うても、流石に半分ぶっ放した後で縦軸までカバー出来るほどの弾丸はバラ撒けへんやろ。ひとまず二度目の撃ち合いはこれで分けっちゅうことにして、次の一手をどうするか――にしても、下から何も音せぇへんな。そろそろ外れた弾丸がどっかにぶち当たってどんがらがっしゃーんしとってもええ頃とちゃうんかい。

 

 

「……口にしたのと違う弾を撃つことは、今の僕には出来ないみたいですけど」

 

 

 ――そこでようやく視線を下げて気付くんやから、つくづく俺は間抜けっちゅうか、勉強できるだけのアホウっちゅーか。

 葉月クン、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()ことくらいは、僕にも出来るというわけです」

 

 

 ……しょうもない嘘で勝とうと思うとったアホウが、しょうもない嘘に引っかかって負けるっちゅうオチかい。

 まったく、世の中よう出来とるで、ホンマに――

 

 

炸裂弾(メテオラ)!!」

 

 

 ――弾丸が胸に届く寸前、ほんのちょいとだけ、考えた。

 ここで葉月クンみたく両腕突き出してガードしたったら、ワンチャン受けきることも出来るかもしれへんなあ、とか。

 せやけど俺、棋譜は汚さない主義やさかい。自分の詰みがもう見えとるのに、大駒(両腕)獲られて指し続けるほど粘るつもりはあらへんわ。ほな、そういうワケで――

 

 

 

「負けました」

 

 

 

 ――ああ、これを何の躊躇もなく言うてしまえる時点で、やっぱ俺は勝負事に向いてへんのかもしれへんなあ。

 ま、もうええわ。投了です。さいなら。

 

 

 

 

『戦闘体活動限界、水上ダウン。勝者、大庭葉月』

 

 

 炸裂弾(メテオラ)の爆発に水上さんが飲み込まれた直後、無機質な電子音声によって勝利が告げられる。

 際どいところまで追い込まれたが、どうにか連敗スタートだけは免れたようだ。一安心。

 

 

「……才能、ねえ」

 

 

 爆音も止み、静寂に覆われた仮想世界の中、呟く。

 自分には才能がない。水上さんはそう言いたげだった。けれど、それを言うなら僕の方はどうなのだろう。"キミの方が俺よりキューブもデカい"と水上さんは言っていたけれど、そのキューブを生み出しているのは、僕ではなく陽花の力なのだ。

 陽花の身体を操っている以上、誰もが僕を大庭葉月ではなく、大庭陽花として扱う。女の身体、女の顔、恵まれた才能(トリオン)。その全てが実際のところ、僕のものではない。

 それで構わないと思っていた。それを受け入れたつもりでいた。しかし直接的ではないにしろ、こうしてコンプレックスのようなものをぶつけられてみると、ついつい言いたくなってしまう。

 本当は僕にも、才能(トリオン)なんてものはないんですよ、とか。

 

 

『――やっと()()()の自覚が出てきたのかな? おにーいちゃん』

「……どうだろうな」

 

 

 トリオン体はあくまでも仮初の肉体だ。大庭葉月という生身の身体がなければ、大庭陽花というトリオン体は存在し得ない。

 故に、肉体の主導権は常に僕が握って然るべきだと思っていた。そう主張する権利が僕にはあると思っていた。

 けれども、少しだけ。

 少しだけ、その認識が揺らぎつつある、かもしれない。

 

 

『ま、無理もないよね。お兄ちゃん、今日は朝からずっと()()()()()()()()()()。そのうち生身になんか戻れなくなったりして。そうなったら一生オンナノコだね、うふふ』

 

 

 ……冗談じゃないよ、まったく。

 ていうかね。僕がこんな考えに至ったのも、今日一日で改めてお前のありがたみってやつを実感させられたからというかなんというか――ほら、水上さんのうそつきアステロイドを見破ってくれたりもしたじゃない。お前がデレ期に入ったみたいだから、お兄ちゃんの方もいつまでもツンツンしていてはいけないんじゃないかというか、そういう――

 

 

『きっしょ』

 

 

 うん。

 そうやって突き放してくれるうちは、やっぱり僕とお前が入れ替わることなんてあり得ないわ。

 

 

『ていうか、私が乗っ取るのはいいけどお兄ちゃんに譲られるみたいな感じはなんかイヤ』

「暴君かよ」

『妹だよ』

 

 

 その切り返しは切り返しとして成立しているのかどうなのか。お兄ちゃん歴半月程度の僕には、イマイチよく理解らないまま――

 

 

『勝者のトリオン体を個室(ブース)へと転送します。お疲れ様でした』

「おつかれさまでした」

『でしたー』

 

 

 何はともあれ。

 水上さん、対ありでした。

 

 

 

 

「――やーっと帰ってきよったか、このドアホ」

 

 

 仮想の空から落っこちた先はふかふかのベッドの上。出迎えてくれるんはいかつい顔のゴーグルお兄さん。シュールやわあ。

 

 

「……負け戦から帰ってきた後輩に、その第一声はあんまりでしょ」

「仁義にもとるような真似しよるから負ける羽目になんねん。後であの子に菓子折り持って謝りに行かなアカンで」

「山吹色でええなら持っていきますわ」

「お主も悪よのう――って誰が袖の下渡せ言うたねん!」

 

 

 うお、イコさんにツッコミ入れられよったわ。この人ボケ専門やと思っとったわ。人は見かけによらへんもんやなあ。本人に言うたらどういう意味やねんってまた突っ込まれそうやけど。いや、いつまで付けとるんですか? そのゴーグル。

 ま、確かにみっともないわなあ。金魚の糞みたくイコさんに引っ付いて傍観者気取っとったかと思うたら、実はルールの穴突いて不意打ち決めるためでしたーやなんて、完璧に三下のやり口やったわ。そこまでやって返り討ちに遭っとったら世話ないで。

 ――ホンマにつくづく、阿呆な真似したわ。

 

 

「あんな、イコさん」

「おん?」

「悪いんすけど俺、()に行くまで結構もたつきそうですわ」

「さよか。ま、のんびりやれや」

「リアクションうっす」

「何や、急かした方が良かったんか?」

「……少なくとも、俺はそれなりに焦っとりましたよ」

 

 

 知っとりますか? イコさん。

 何者にもなれてへん奴っちゅうんは、常に何かしら焦りを抱えとるもんなんですよ。

 そうやないって奴は将来のこと何も考えてへんアホか、最初(ハナ)から自分に見切り付けとる屍人(ゾンビ)のどっちかやと思うてます。

 将棋のプロを諦めた頃の俺は屍人(ゾンビ)でした。せやけど、あの面接会場でイコさんの剣を見たとき、アンタと同じ舞台に立てるかもしれへんって思うたとき、俺にも人並みの欲っちゅうもんが湧いてきたんですわ。

 この刃が、()()()()()()()()()()()()()()

 叶うことなら、誰よりもいっちゃん近いところで。

 生駒達人の右腕。俺個人の肩書きになっとりませんけど、それかて充分立派なモンでしょうよ。

 ――立派なモンになるって、信じとりますから、俺は。

 せやから俺も、アンタの隣に立っても恥ずかしゅうないだけの男にならなアカン。

 そう思うとるからこそ――どうしたって、逸る気持ちっちゅうのはあるもんです。

 ……ま、今日はその気持ちが先走って余計に恥掻いたけどな。そこはホンマに要反省や。

 

 

「そない慌てるこたあないやろ。マイペースでええねん、マイペースで。刀の素振りと一緒やで、のんびり続けとったらいつの間にか速うなっとるもんや。一日一万回、感謝の居合斬り言うてな」

「イコさんは会長やなくてノブナガでしょ、獲物的に」

「半径4mが限界ってか? そら困るわ、ボーダーで食っていこう思うたら()()()()()()()()()

「――伸ばす?」

「せや。おまえとあの子の立ち合い見とって、そう思うたわ」

 

 

 こんこん、とイコさんが個室(ブース)備え付けのモニタを叩く。あー……そいつで見てはったんですか、俺の無様な対局を。まさか音声までは入っとらんよな。思わずしょうもないこと言うてしもたから聞かれとったらごっつ恥ずいで。信じとるぞボーダー。

 

 

「あない遠くからボコスカ撃ち放題されたら、俺みたいな刀マンはどないしたらええねん。お前のトリガーなんか勝手に俺の方目掛けてすっ飛んでくるんやろ? そんなん、退き撃ちしとるだけで無敵やないか。おまんまの食い上げもええところやでホンマ」

「……イコさん、思うとったよりも脳味噌ついてはったんですね」

「お前は俺を何やと思うとったんや」

「刀を持った長嶋茂雄」

「ええか、刀を振るときはタマから音がするくらいの勢いで振るんやで」

「よりにもよってその台詞拾います?」

「我が生駒隊は永久に不滅です!!」

「いつ組んでんそのチーム」

「ま、遅くとも半年後くらいやな。のんびり言うても、流石にそれ以上は待たへんで」

 

 

 ……そこで真顔になるんはズルいわあ。マジメとボケのオンオフがはっきりし過ぎやろホンマ。

 いや、真顔言うてもゴーグルで視線見えへんのやけどな。やっぱギャグやわこの絵面。

 

 

「俺、隠岐、マリオちゃん、それに海くん、そしてお前で5人揃ってゴレンジャーや。今のうちにしっかりとカレー好きになる準備しとくんやで」

「なんで俺がイエローで固定なんすか」

「リーダーの俺がレッド、イケメンの隠岐がブルーで、紅一点のマリオちゃんがピンクまでは確定やろ? したらお前と海くんとで黄緑押しつけ合うしかないやんか」

「俺がリーダーでイコさんが黄色でもええんとちゃいますの、ナスカレー兄さん」

「アホか、水上隊なんて組んだらマリオちゃんが顔赤くして『……バカ……!』とか言わなアカン羽目になるやろが! タイトル未定やで!」

「バカはおのれや」

 

 

 ――なんやろなあ。

 将来ホンマに生駒隊なんちゅうチームを組んだとして、俺らはそん時もこないな感じで一生ボケ倒しとるような気しかせえへんのは。防衛組織の隊員としてそれでええんか? 自分。

 ……ま、ええか。今日の俺は少し、小難しいこと考え過ぎたわ。

 さっきは右腕なんて格好つけた言い方してもうたけど、結局のところ葉月クンに言うたんが本音とちゃうんか、自分。

 せやな。漫才コンビでもええわこの際。生駒達人の()()を目指すっちゅうことで一つ、ぼちぼちオチでもつけましょか。

 

 

「せやけど、イコさんはさっさと正隊員へと上がってまうでしょ。半年もフリーでブラブラしとるつもりっすか」

「ま、そこはアレや。あー……ゴホン」

 

 

 イコさん、わざとらしい咳払いを一つ。わかりやすいボケの前振りをどーも。

 

 

 

『私にいい考えがある』。……どや? 似とるやろ? 玄田哲章」

「その台詞、巷やと失敗フラグ扱いされとるらしいですよ司令官」

「ウソやろ!?」

 

 

 

 訂正。わかりにくいボケですんませんでした。ネタがワカらんかったらググっといて下さい。

 ほな、また。




水上がアホに見えたらそれは彼ではなく書き手の私がアホだということですので
どうか彼を責めないであげて下さい(懇願)

次回こそ葉月くんが昇格できたらいいなあとおもいました
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