葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~ 作:Amisuru
来月が本当に待ちきれない。
目標をセンターに入れて
目標をセンターに入れて
目標をセンターに入れて
『壊れたラジオかな?』
いいえ、大庭葉月です。
例の関西人コンビとの死闘から、どれだけの時間が経っただろうか。僕は未だに
……何せ、こう言っては何だがその、C級ランク戦において弧月というトリガーは正直……。
『まあ、カモだよね』
「お前は一度オブラートに包むという表現技法を覚えた方が良い」
『だったらお兄ちゃんも弧月の人ばっかり標的にするのやめなよ』
「…………」
だって。
だってさあ。
ただの刀なんだよ、本当に。
『こちとら相方に2000ポイント近く差付けられとる立場やねん。C級なんぞでのんびり自分磨きしとる暇はあらへんのや』
水上さんの主張は至極ごもっともで、昇格のためなら形振り構わない彼の姿勢には、僕もいたく感銘を受けた。という訳で、僕も彼に倣って手段を選ばず正隊員への最短ルートを歩むことにしたのである。
そこで狙いを付けたのが、そう、弧月使いの方々だった。
弧月使い。彼らはとにかく、相手に近づかなければ仕事が出来ない。C級ランク戦に
で、それに付き合っても仕方ないので僕はガン逃げる。すると当然向こうも追ってくる。ここで雑に
残る3割の人たちは、
かくいう今も、辺り一面瓦礫の山と化した見る影もない市街地のど真ん中、捨て身で突っ込んできた弧月マンを返り討ちにしたところである。おかげさまで、左手の
「……やれやれ、C級とももうすぐお別れか……」
『感傷か?』
「或いはそうかもな。僕たちの居場所はもうここにはない」
『今のお兄ちゃん、最高に次でやらかすフラグ立ってるよ』
「僕も今そう思った」
というか今、僕たちのキャラおかしかったな。なんだよ『感傷か?』って。そもそも感傷に浸るほど長くC級時代を過ごした覚えがない。まだ入隊から1日も経っていないんだぞ。
仮想戦闘モードの良いところは、空腹にさえ目を瞑ればいくらでも戦い続けられる点だ。生身でこうも絶え間なく戦い続けていたらあっという間にスタミナが切れてしまうが、ランク戦なら
僕がここまで正隊員への早期昇格に拘っている理由は二つ存在する。一つは言うまでもなく
……なんだか、お金のことを考えると訓練生に『ボーダー隊員』の肩書を名乗る資格はないんじゃないかとか思ってしまうな。だって
まあ、ボーダーの方にもそういう認識があるから、B級以降を
すっかり聞き慣れたアナウンスと共に
しかし、相手は人間なのでそういつまでも
『選択した隊員が
「……あー、この人にも拒否られたか」
『フラれ過ぎ。そうやって選り好みしてるから行き遅れるんだよね』
「別に婚活してるわけじゃないんだよ僕は」
そう。大庭葉月の弧月狩り大作戦、3000ポイントを越えたあたりまではすこぶる順調だったのだが、その辺りからちょくちょく対戦を拒否されることが増え始めてきた。一度栄養補給のために
まあ、あまり褒められたやり口ではないという自覚は僕にもある。こんな具合に弧月使いを
ええ、出て行きますとも。
『人の顔でそういう邪悪な表情するのやめてくんない』
失敬。しかしどうしたものかな。とうとうこれで3000ポイント台は全滅だ。
かくなる上は2000ポイント台で妥協するか、或いはもう弧月に拘らず、他トリガーにも挑んでみるか――そう思っていたところ。
なんか来た。弧月使いにフラれ続けたこの僕がまさかの逆指名だ。しかし、1725ポイント……微妙だ。勝ったところでリターンは小さく、逆に負ければ失うものも大きい。挑まれる側になって初めて、高ポイント側が低ポイントからの挑戦を受ける利点の少なさに気付いた感がある。
そう考えると、僕の初期ポイントは2500もあって助かったな。もっと少なかったらマッチングの時点で躓いていたかもしれないし。結局世の中、婚活だろうとランク戦だろうと
『何か私に言うことは?』
立派な
『よろしい』
よろしいのか……。
それにしても、この
それに何というか、部屋から出て行くという行為が
――OK。来るならかかってこい
『……まーたお兄ちゃんがワケわかんない独自理論拗らせてる。そういう思考回路、ついてけない人からはホントにドン引きものだからね』
――別にいいよ、理解る人だけ理解ってくれればそれで。
『つまんないウソつくね。本当は誰からも愛されたいくせに』
…………。
……早く転送されないかしら。
――はいっ! という訳でですねー、今日も早速ランク戦の方進めていきたいと思いますぅー! 一体どんな人が相手なんでしょうかー? いやー楽しみですねぇー!
『
その発想はなかったわ。
まあとにかく、すっかりお馴染みの市街地Aだ。こうやって昼間の仮想空間に入り浸っていると時間の感覚がおかしくなるんだよな。というか未だにこの街並みも風景も作り物だというのが信じられない。ボーダー驚異の技術力とはこのことだな。
対戦相手を探す。最初の配置は割とランダムだが、毎回お互いが目の届く範囲に転送されているので今回もきっとそうだろう。という訳で周囲をきょろきょろとする。
見つけた。僕が立っている歩道橋の眼下、大通りのど真ん中にぽつりと一人、
……って、おやおや、おやおやおやおやおや。
「笹森くん! 笹森くんじゃないか!」
「――え!? あなたは――いや、3792ポイントって、ええ……?」
困惑を隠せない(隠したところで僕には
「やあ、久しぶり」
「いや、久しぶりってまだ一日も経ってないんですが……というか、もうそんなにポイント稼いだんですか? 訓練のときは2520ポイントだったのに……」
「ああ、それはね」
君のような弧月使いを片っ端から狩りまくって稼いだんだよ。
…………。
『言えよ』
言えるかあ!!
というか――さっきまでの驕り高ぶった僕は一体何だったんだ? 『1725ポイント……微妙だ』じゃねえんだよ! 笹森くんの前で同じこと言ってみろや! 数字しか見てないからこういうことになるんだぞお前! このナチュラル畜生が!!
『躁鬱かな?』
僕は自分を恥じた。自分がいかに傲慢であったか気付かされてしまった。こんな合理性の怪物になるような生き方をしていてはいけない。人を人として見られなくなってしまう。ランク戦の性質上ポイントの奪い合い自体は避けられないことだが、もっとこう、真っ当なやり方というものがあったのではないだろうか? どうして僕はいつも正しい道を歩むことが出来ないんだ……。
『対戦ステージ「市街地A」。C級ランク戦、開始』
「殺してくれ……」
「大庭先輩!?」
がくりと膝をつき、どうぞ斬って下さいと言わんばかりに
『人の顔でそういうことするなってさっきも言ったよね?』
はい。そうでした。
「そ、その……大丈夫ですか?」
「頭の話かな……」
「いや違いますって!! なんていうか、その……せ、精神的な……?」
うーん、めっちゃ気を遣われている。ウソみたいだろ、ランク戦の最中なんだぜこれ。
しっかりするんだ大庭葉月。後輩にこんな心配されていたら駄目だろう、先輩なんだから。先輩なんだから。そう、
「そう、僕は大丈夫だ……先輩だから大丈夫……僕は先輩だから耐えられたけど後輩だったら耐えられなかった……」
「……映画もう見に行きました?」
「まだ行けてない。笹森くんは?」
「オレもまだです。……あ、でも今度コアラ達と一緒に見に行く約束したんですよ。
「ああ、そういえばそんな話してたね」
1号室の面子は14歳の弧月使い男子が3人に15歳の
「うん、良いことだ。楽しんでおいで」
『これ見よがしな先輩ヅラ』
「だまらっしゃい」
「はは、ありがとうございます……まあ、遊んでばかりもいられないんですけどね。早いとこ
「――それは、正隊員の人たちを待たせているからかな?」
「……見てたんですか?」
「こっそりとね」
そう、僕が笹森くんに訊ねたかったことというのはその件だ。あの後一体どうなったのかずっと気になっていたのだが、どうやらスカウトで間違いなかったようだ。改めて一安心。
「諏訪さんと堤さん――ああ、オレを誘ってくれた人たちの名前なんですけど、別の部屋からオレたちの訓練を見ていたらしくて、それで声を掛けてくれたんです。正隊員になったら俺たちの
「凄いじゃないか。
「……そういうことになるんですかね? でも、どうしてオレだったのかな……記録だったら大庭先輩や那須先輩の方が良かったのに……」
「その人たちに直接聞かなかったの?」
「……
「ふむ。ロマン……」
なんとも感覚的な話だ。これは理屈で考えない方がいいだろう。という訳で僕は、
「……君、改めて振り返ると、嫌いになる要素が微塵もないな」
「は!? どど、どうしたんですか急に」
「いやね、ロマンっていうのとはちょっと違うのかもしれないけど、笹森日佐人っていいよね……的な感覚はなんとなく理解った。
「……それ、そばかすだけでイメージ重ねてません?」
「ちなみに僕はトゥワイス推しだったよ」
「過去形ですか」
「そう、過去形さ……ナナミンもパワーちゃんも皆推しだった……」
「……辛かったですね」
「ああ、辛かったさ……ここ最近は本当に辛かった……」
しんみりとした空気が中学生男子2人(内1名は内面のみ)の間に流れる。というか中々話せるじゃないか笹森くん。さては君も漫画好きだな? そのうちじっくりと時間を掛けて語り合いたいものだ。
『人から借りた漫画しか読んだことないくせに一介の漫画好きを気取るにわかの鑑』
いいんだよ、これからはもう誰にも咎められず好き放題買い漁れるんだから。
まあ、趣味に金を使うのも借金返済の目途がついてからの話だ。そのためにも、一刻も早く僕は正隊員へと昇格しなければならない。あの水上さん、この笹森くん、そして大庭葉月。誰もが
――ここで現状を確認する。
大庭葉月。所持トリガーは
笹森日佐人。所持トリガーは弧月。言わずと知れた接近戦用トリガーだが、現状はただの刀。
互いの相対距離。
目と鼻の先。
「でもヒロアカも呪術もチェンソーマンも今週の展開アツかったですよね! どれも最終局面って感じで、オレもう次号が待ちきれないっていうか――」
「笹森くん」
「? なんですか?」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ――――!!」
「えええええええええ!?」
顔面狙いで繰り出した右掌を紙一重で避ける笹森くん。チッ、外したか。この距離で僕に放てる唯一の
だがまだこちらに分がある。接近戦なら弧月の土俵でも、
『殺せって言ったり死ねって言ったりやってることが無茶苦茶だよお兄ちゃん』
なんとでも言えぇ! ランク戦っていうのは血も涙もない蹴落とし合いなんじゃ! 最後に立っていた者こそが正義なのじゃああああああああ!!
「はっはァー! 君も油断が過ぎたな笹森くん! 僕が何の策もなく君の間合いに入ったとでも思っていたのかァ!? そう、全て計算通りだ! 最初からこうするために君へと近づいたのだァ!! ヴェーハッハッハッハッハァ!!」
『お兄ちゃんには人間として好きになれる要素が微塵もないよね』
「やかましい!!」
「まだ何も言ってませんって! くっ――このっ!」
このまま肉薄し続けたかったのだが、ここで笹森くんの繰り出した前蹴りが僕の腹部にヒット。痛みはないが引き剥がされ、ごろごろと地面を転がる羽目になる。うーむ、取っ組み合いになると思っていたのだが、蹴られるのは予想外だった。これがいわゆる弧月キックというやつか。
しかしこれで距離が離れた。それならそれで、
「いいか笹森くん! 君が『頑張れ!』って感じの笹森日佐人なら、この僕は――」
卑怯者だと
「『こいつ死ねばいいのに』って感じの大庭葉月だ!!」
『自慢げに叫ぶような台詞じゃない……』
いいや、叫ぶね。
「――少なくともオレは、大庭先輩のことをそんな風に思ったことはないですよ!」
「こんな仕打ちを受けてもか!? つくづく人の良い子だな君は!!」
「……オレも正直ボケてたんですよ。忘れてたんです、
――ああ。笹森くん、やっぱり君はとてもいい。正隊員の目に留まるのもよく理解る。
こんな理不尽な状況にも怯まずにそうやって武器を構えられる君は、間違いなく立派なボーダー隊員の一人だよ。たとえ今は
「――3792ポイント、獲らせてもらいますよ、大庭先輩!」
「おもしれえ……やってみろ
『アンタも同期だろ』
毅然とした態度と感情を崩さない
大庭葉月vs笹森日佐人、ようやく開幕です。
一緒に遠征に行きたくない人(2人まで)
・大庭葉月
理由:頭がおかしいから
自分の書いたキャラには変な愛着が湧いてしまうっていうの二次創作者あるあるだと思うのですが
ヒュースが水上の名前を挙げた時にその感覚を強く味わいました。
まさかここに来て水上隊が現実のものになろうとは夢にも…(11人入りを疑っていない人間の発想)