葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~   作:Amisuru

26 / 42
本当の本当にどうでもいい話なんですけど、私のユーザーネームを逆から読むと『urusimA』になるんですよ。



来月が本当に待ちきれない。


先輩と後輩/邪道と正道

 目標をセンターに入れて炸裂弾(メテオラ)

 目標をセンターに入れて炸裂弾(メテオラ)

 目標をセンターに入れて炸裂弾(メテオラ)

 

 

『壊れたラジオかな?』

 

 

 いいえ、大庭葉月です。

 

 

『戦闘体活動限界、■■ダウン。勝者、大庭葉月』

 

 

 例の関西人コンビとの死闘から、どれだけの時間が経っただろうか。僕は未だにROOM303(個人戦ブース)へと籠もり続け、目に付いた高ポイントの()()使()()を相手に片っ端から勝負を挑んでいる。

 153号室(イコさん)へのリベンジも一時は検討したのだが、また水上さんが引っ付いてきてたらなんとなく気まずい思いをしそうな予感がしたので遠慮させてもらうことにした。それに、あのゴーグルの人は間違いなく近いうちに正隊員への昇格を果たすことだろう。せっかくもう一度やり合うのなら、その後の方がきっと面白い。

 ……何せ、こう言っては何だがその、C級ランク戦において弧月というトリガーは正直……。

 

 

『まあ、カモだよね』

「お前は一度オブラートに包むという表現技法を覚えた方が良い」

『だったらお兄ちゃんも弧月の人ばっかり標的にするのやめなよ』

「…………」

 

 

 だって。

 だってさあ。

 ただの刀なんだよ、本当に。

 

 

『こちとら相方に2000ポイント近く差付けられとる立場やねん。C級なんぞでのんびり自分磨きしとる暇はあらへんのや』

 

 

 水上さんの主張は至極ごもっともで、昇格のためなら形振り構わない彼の姿勢には、僕もいたく感銘を受けた。という訳で、僕も彼に倣って手段を選ばず正隊員への最短ルートを歩むことにしたのである。

 そこで狙いを付けたのが、そう、弧月使いの方々だった。炸裂弾(メテオラ)による迎撃を覚えた以上、弾丸トリガー相手であっても優位に立ち回れる自信はある。それでもやっぱり、射手(シューター)銃手(ガンナー)相手では撃ち合いという攻防が発生してしまう。僕はその()に費やす時間すら惜しいと思った。極端な話、C級ランク戦という行為をただの作業にしてしまいたかったのだ。

 弧月使い。彼らはとにかく、相手に近づかなければ仕事が出来ない。C級ランク戦に(シールド)はないため、必然的に高ポイントの弧月使いというのは()が鍛えられている。殺られる前に殺れの理論で誰もが突っ込んでくるのだ。

 で、それに付き合っても仕方ないので僕はガン逃げる。すると当然向こうも追ってくる。ここで雑に炸裂弾(メテオラ)をブチ撒ける。この時点で脱落するのが2割。跳んで避けたところを二段構えの分割弾で撃ち落とされるのが5割だ。ここで僕も一つ学んだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、安易にぴょんぴょん跳ね回ってはいけないと。

 残る3割の人たちは、炸裂弾(メテオラ)に付き合わないで逃げに転じたり物陰に隠れたりする。こうなると少し面倒なのだが、ここからが炸裂弾(メテオラ)の本領発揮である。気持ちよーく建物を更地にして逃げ場を無くしていく殲滅戦が始まるのだ。時間効率で言うと外れになるのだが、精神的満足度は高いのでこのパターンも割と嫌いではない。

 かくいう今も、辺り一面瓦礫の山と化した見る影もない市街地のど真ん中、捨て身で突っ込んできた弧月マンを返り討ちにしたところである。おかげさまで、左手の個人(ソロ)ポイントもご覧の通り。

 

 

『3792』

 

 

「……やれやれ、C級とももうすぐお別れか……」

『感傷か?』

「或いはそうかもな。僕たちの居場所はもうここにはない」

『今のお兄ちゃん、最高に次でやらかすフラグ立ってるよ』

「僕も今そう思った」

 

 

 というか今、僕たちのキャラおかしかったな。なんだよ『感傷か?』って。そもそも感傷に浸るほど長くC級時代を過ごした覚えがない。まだ入隊から1日も経っていないんだぞ。

 仮想戦闘モードの良いところは、空腹にさえ目を瞑ればいくらでも戦い続けられる点だ。生身でこうも絶え間なく戦い続けていたらあっという間にスタミナが切れてしまうが、ランク戦なら個室(ブース)に携帯食料か何かでも持ち込んでおけば、それこそ朝から晩まで籠もりっきりで戦い続けることも可能なのではないだろうか? 今の僕のように。

 僕がここまで正隊員への早期昇格に拘っている理由は二つ存在する。一つは言うまでもなく()()を待たせているからだが、もう一つは割と切実な問題だ。()()()()()()()()()()()()だ。僕は今、ウィルバー氏からの借金に頼ることで日々の暮らしを賄っている。彼から貸し与えてもらった生活費はおよそ3ヶ月分、切り詰めればもう少しは持つかもしれないが、いずれにしても僕の方も自分磨きに時間を割く余裕などないというわけだ。

 ……なんだか、お金のことを考えると訓練生に『ボーダー隊員』の肩書を名乗る資格はないんじゃないかとか思ってしまうな。だって()()()()()()じゃん。訓練生というのは、ボーダー隊員の格好をして玩具(トリガー)で遊んでいるだけの()()()()()に過ぎないのではないだろうか?

 まあ、ボーダーの方にもそういう認識があるから、B級以降を()隊員と呼称しているのだと思うのだが。つまり今の僕は()隊員だ。本物ではない。それはそれで僕らしい肩書だと思うけれども、本物になろうとする意思だけは捨ててはならない。そして今その本物(B級)に、手が届くところまで来ているのだ。

 

 

『勝者のトリオン体を個室(ブース)へと転送します。お疲れ様でした』

 

 

 すっかり聞き慣れたアナウンスと共に個室(ブース)へと戻される。むくりとベッドから身を起こしパネルの前へ。そして目に付いた最高ポイントの弧月使いをポチっとな。完全にルーチンワークと化しつつある。ランク戦をする機械と化した男、大庭葉月。

 しかし、相手は人間なのでそういつまでも機械(マシーン)に付き合ってくれるとは限らないのだなあ。

 

 

『選択した隊員が個室(ブース)を離れました。新しい対戦相手を選択して下さい』

「……あー、この人にも拒否られたか」

『フラれ過ぎ。そうやって選り好みしてるから行き遅れるんだよね』

「別に婚活してるわけじゃないんだよ僕は」

 

 

 そう。大庭葉月の弧月狩り大作戦、3000ポイントを越えたあたりまではすこぶる順調だったのだが、その辺りからちょくちょく対戦を拒否されることが増え始めてきた。一度栄養補給のために個室(ブース)を出たときロビーから聞こえてきたのだが、どうやら早くも僕の存在は悪評としてC級界隈に広まりつつあるらしい。弧月使いのみを標的(ターゲット)にして個人(ソロ)ポイントを荒稼ぎしている炸裂弾(メテオラ)使いの女がいる、見ろ、あれがそうだ――と。

 まあ、あまり褒められたやり口ではないという自覚は僕にもある。こんな具合に弧月使いを個室(ブース)から追い出し続けた結果、パネルに並ぶ『弧月』の二文字はめっきりと数を減らしてしまった。彼らの誰もが、さっさと僕に個室(ブース)から出て行ってほしいと思っていることだろう。

 ええ、出て行きますとも。個人(ソロ)ポイントが4000に到達したら。そのために貴方がたが協力してくれたら、より話はスムーズに進むんですがねえ……(ゲス顔)。

 

 

『人の顔でそういう邪悪な表情するのやめてくんない』

 

 

 失敬。しかしどうしたものかな。とうとうこれで3000ポイント台は全滅だ。153号室(イコさん)の表示もいつの間にか消えているし。というか、弧月に限らずパネルに表示されている隊員の数そのものがかなり減ってきているな。ひょっとしてもう遅い時間なんだろうか? 夢の入隊即日昇格まであと一歩のところだというのに。ぐぬぬ。

 かくなる上は2000ポイント台で妥協するか、或いはもう弧月に拘らず、他トリガーにも挑んでみるか――そう思っていたところ。

 

 

『131号室より対戦の申し出があります。承諾する場合は画面をタップ、拒否する場合は退室して下さい』

 

 

 

 

131

1725

弧月

 

 

 

 

 なんか来た。弧月使いにフラれ続けたこの僕がまさかの逆指名だ。しかし、1725ポイント……微妙だ。勝ったところでリターンは小さく、逆に負ければ失うものも大きい。挑まれる側になって初めて、高ポイント側が低ポイントからの挑戦を受ける利点の少なさに気付いた感がある。

 そう考えると、僕の初期ポイントは2500もあって助かったな。もっと少なかったらマッチングの時点で躓いていたかもしれないし。結局世の中、婚活だろうとランク戦だろうと()()()()やつが強いのだ。結婚相手は最低年収500万、対戦相手は最低ポイント2000点から。

 

 

『何か私に言うことは?』

 

 

 立派な(トリオン)を持って僕も鼻が高いよ。

 

 

『よろしい』

 

 

 よろしいのか……。

 それにしても、この個室(ブース)を出ることで対戦を辞めるシステムというのはもう少し何とかならないものだろうか。普通の人だったらここで大人しく部屋から出て行って別の個室(ブース)で仕切り直すのだろうが、僕は既にこのROOM303(303号室)をランク戦のホームグラウンドに定めてしまったのだ。引っ越しはあまり気が進まない。

 それに何というか、部屋から出て行くという行為が()()()()()のも気に食わない。しょうもない拘りだと笑わば笑え。僕はボーダー隊員(偽)だ。自分の居場所は自分の力で守るのだ。そうだ、これも一種の()()()だと思えばいい。侵略者というのはこっちの都合など考えてはくれない。いつだって唐突にやって来る。降りかかる火の粉を払えずして、何のためのトリガー、何のための防衛隊員か?

 ――OK。来るならかかってこい挑戦者(ネイバー)。生まれてきたことを後悔させてやるぜ。ぐへへへへ。

 

 

 

 

対戦を承諾しました。

戦闘体を対戦ステージへと転送します。

 

 

 

 

『……まーたお兄ちゃんがワケわかんない独自理論拗らせてる。そういう思考回路、ついてけない人からはホントにドン引きものだからね』

 

 

 ――別にいいよ、理解る人だけ理解ってくれればそれで。

 

 

『つまんないウソつくね。本当は誰からも愛されたいくせに』

 

 

 …………。

 ……早く転送されないかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 ――はいっ! という訳でですねー、今日も早速ランク戦の方進めていきたいと思いますぅー! 一体どんな人が相手なんでしょうかー? いやー楽しみですねぇー!

 

 

広報部隊入り(アイドル)でも目指してるの?』

 

 

 その発想はなかったわ。

 まあとにかく、すっかりお馴染みの市街地Aだ。こうやって昼間の仮想空間に入り浸っていると時間の感覚がおかしくなるんだよな。というか未だにこの街並みも風景も作り物だというのが信じられない。ボーダー驚異の技術力とはこのことだな。

 対戦相手を探す。最初の配置は割とランダムだが、毎回お互いが目の届く範囲に転送されているので今回もきっとそうだろう。という訳で周囲をきょろきょろとする。

 見つけた。僕が立っている歩道橋の眼下、大通りのど真ん中にぽつりと一人、()()()()()()()()()()()()()が――

 ……って、おやおや、おやおやおやおやおや。

 

 

「笹森くん! 笹森くんじゃないか!」

「――え!? あなたは――いや、3792ポイントって、ええ……?」

 

 

 困惑を隠せない(隠したところで僕には()えるんだけども)彼に構わず、ぴょーんと歩道橋から飛び降りて笹森くんの眼前へと着地する僕。いかん、イコさんで一度やらかしたにも関わらずまたしても自分から相手の懐に飛び込んでしまった。いやしかし、せっかく知り合いに出会ったのだし即開戦というのも何か違うだろう。それに彼には訊ねてみたいこともあったのだ。

 

 

「やあ、久しぶり」

「いや、久しぶりってまだ一日も経ってないんですが……というか、もうそんなにポイント稼いだんですか? 訓練のときは2520ポイントだったのに……」

「ああ、それはね」

 

 

 君のような弧月使いを片っ端から狩りまくって稼いだんだよ。

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

『言えよ』

 

 

 言えるかあ!!

 というか――さっきまでの驕り高ぶった僕は一体何だったんだ? 『1725ポイント……微妙だ』じゃねえんだよ! 笹森くんの前で同じこと言ってみろや! 数字しか見てないからこういうことになるんだぞお前! このナチュラル畜生が!!

 

 

『躁鬱かな?』

 

 

 僕は自分を恥じた。自分がいかに傲慢であったか気付かされてしまった。こんな合理性の怪物になるような生き方をしていてはいけない。人を人として見られなくなってしまう。ランク戦の性質上ポイントの奪い合い自体は避けられないことだが、もっとこう、真っ当なやり方というものがあったのではないだろうか? どうして僕はいつも正しい道を歩むことが出来ないんだ……。

 

 

『対戦ステージ「市街地A」。C級ランク戦、開始』

「殺してくれ……」

「大庭先輩!?」

 

 

 がくりと膝をつき、どうぞ斬って下さいと言わんばかりに(こうべ)を垂れる僕。処刑台(ギロチン)に頭を嵌める罪人の如しだ。後は刃を下ろすだけ。僕がマリーで君がサンソンだ。別にルイ16世でもロベスピエールでもいいのだけれど、今は(陽花)だし。

 

 

『人の顔でそういうことするなってさっきも言ったよね?』

 

 

 はい。そうでした。

 

 

「そ、その……大丈夫ですか?」

「頭の話かな……」

いや違いますって!! なんていうか、その……せ、精神的な……?」

 

 

 うーん、めっちゃ気を遣われている。ウソみたいだろ、ランク戦の最中なんだぜこれ。

 しっかりするんだ大庭葉月。後輩にこんな心配されていたら駄目だろう、先輩なんだから。先輩なんだから。そう、対近界民戦闘訓練(バムスター君殺し)の後に設けられた雑談タイムの最中、1号室の面々とは軽い自己紹介を交わしておいたのだ。その際に互いの年齢も把握している。故に笹森くんは僕を先輩と呼称するのだ。先輩……大庭先輩……良い響きだ……。

 

 

「そう、僕は大丈夫だ……先輩だから大丈夫……僕は先輩だから耐えられたけど後輩だったら耐えられなかった……」

「……映画もう見に行きました?」

「まだ行けてない。笹森くんは?」

「オレもまだです。……あ、でも今度コアラ達と一緒に見に行く約束したんですよ。同い年(タメ)でポジションも武器も訓練部屋も同じだったから気が合っちゃって」

「ああ、そういえばそんな話してたね」

 

 

 1号室の面子は14歳の弧月使い男子が3人に15歳の射手(シューター)女子が2人(内1名は外見のみ)。故に笹森くんがコアデラ組と絡むのは必然の流れだったのだが、仲良くなれたのなら何よりだ。新たに出来た友達2人と楽しい映画鑑賞……いいじゃないか。僕も今度陽介と公平を誘って見に行こう。だから早く帰ってこい公平。もう4ヶ月くらい会ってないような気がするぞ。

 

 

「うん、良いことだ。楽しんでおいで」

『これ見よがしな先輩ヅラ』

「だまらっしゃい」

「はは、ありがとうございます……まあ、遊んでばかりもいられないんですけどね。早いとこ()を目指さないといけないんで」

「――それは、正隊員の人たちを待たせているからかな?」

「……見てたんですか?」

「こっそりとね」

 

 

 そう、僕が笹森くんに訊ねたかったことというのはその件だ。あの後一体どうなったのかずっと気になっていたのだが、どうやらスカウトで間違いなかったようだ。改めて一安心。

 

 

「諏訪さんと堤さん――ああ、オレを誘ってくれた人たちの名前なんですけど、別の部屋からオレたちの訓練を見ていたらしくて、それで声を掛けてくれたんです。正隊員になったら俺たちの部隊(チーム)に入らないか、って」

「凄いじゃないか。正隊員(プロ)の目に留まったってことだろう?」

「……そういうことになるんですかね? でも、どうしてオレだったのかな……記録だったら大庭先輩や那須先輩の方が良かったのに……」

「その人たちに直接聞かなかったの?」

「……()()()()()()()、とかなんとか。どういうことかわかります?」

「ふむ。ロマン……」

 

 

 なんとも感覚的な話だ。これは理屈で考えない方がいいだろう。という訳で僕は、副作用(サイドエフェクト)で覗き込んだ笹森くんの感情を思い出す。訓練に挑む前のささやかな緊張とそれに勝る意欲、好記録にも満足せず、最善の結果を得られなかったことを悔やむ向上心。そして、そのどちらの感情にも共通する、捻くれたところのない真っ直ぐさ――僕が笹森くんに抱いている印象というのはこんな感じだ。

 

 

「……君、改めて振り返ると、嫌いになる要素が微塵もないな」

は!? どど、どうしたんですか急に」

「いやね、ロマンっていうのとはちょっと違うのかもしれないけど、笹森日佐人っていいよね……的な感覚はなんとなく理解った。()ていて素直に応援したくなるというか、その成長を見守りたくなるというか――『頑張れ!』って感じの笹森くんだ」

「……それ、そばかすだけでイメージ重ねてません?」

「ちなみに僕はトゥワイス推しだったよ」

「過去形ですか」

「そう、過去形さ……ナナミンもパワーちゃんも皆推しだった……」

「……辛かったですね」

「ああ、辛かったさ……ここ最近は本当に辛かった……」

 

 

 しんみりとした空気が中学生男子2人(内1名は内面のみ)の間に流れる。というか中々話せるじゃないか笹森くん。さては君も漫画好きだな? そのうちじっくりと時間を掛けて語り合いたいものだ。

 

 

『人から借りた漫画しか読んだことないくせに一介の漫画好きを気取るにわかの鑑』

 

 

 いいんだよ、これからはもう誰にも咎められず好き放題買い漁れるんだから。

 まあ、趣味に金を使うのも借金返済の目途がついてからの話だ。そのためにも、一刻も早く僕は正隊員へと昇格しなければならない。あの水上さん、この笹森くん、そして大庭葉月。誰もが()を目指している。故に僕たちは戦うのだ。そう、このC級ランク戦という舞台を、全力で――

 

 

 

 

 

 ――ここで現状を確認する。

 大庭葉月。所持トリガーは炸裂弾(メテオラ)。弾丸を発射するために豆腐(キューブ)を生み出す必要がある。加えて、爆破対象があんまり近いと巻き添え(ほげええ)の恐れがあるので、対戦相手とはなるべく距離を取らなければならない。

 笹森日佐人。所持トリガーは弧月。言わずと知れた接近戦用トリガーだが、現状はただの刀。

 

 

 互いの相対距離。

 目と鼻の先。

 

 

「でもヒロアカも呪術もチェンソーマンも今週の展開アツかったですよね! どれも最終局面って感じで、オレもう次号が待ちきれないっていうか――」

「笹森くん」

「? なんですか?」

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ――――!!」

「えええええええええ!?」

 

 

 顔面狙いで繰り出した右掌を紙一重で避ける笹森くん。チッ、外したか。この距離で僕に放てる唯一の()()()だったのだけれど。

 だがまだこちらに分がある。接近戦なら弧月の土俵でも、()()()()()()()()()()()。刀を抜く暇など与えない。頭か胸さえ掴んでしまえば決められるのだ。仮入隊の間に思いついた、炸裂弾(メテオラ)ならではの必殺技を――!

 

 

『殺せって言ったり死ねって言ったりやってることが無茶苦茶だよお兄ちゃん』

 

 

 なんとでも言えぇ! ランク戦っていうのは血も涙もない蹴落とし合いなんじゃ! 最後に立っていた者こそが正義なのじゃああああああああ!!

 

 

「はっはァー! 君も油断が過ぎたな笹森くん! 僕が何の策もなく君の間合いに入ったとでも思っていたのかァ!? そう、全て計算通りだ! 最初からこうするために君へと近づいたのだァ!! ヴェーハッハッハッハッハァ!!

『お兄ちゃんには人間として好きになれる要素が微塵もないよね』

「やかましい!!」

「まだ何も言ってませんって! くっ――このっ!」

 

 

 このまま肉薄し続けたかったのだが、ここで笹森くんの繰り出した前蹴りが僕の腹部にヒット。痛みはないが引き剥がされ、ごろごろと地面を転がる羽目になる。うーむ、取っ組み合いになると思っていたのだが、蹴られるのは予想外だった。これがいわゆる弧月キックというやつか。

 しかしこれで距離が離れた。それならそれで、射手(シューター)本来のスタイルに戻すまでのこと。そして今の僕は、対弧月戦に絶対の自信を持っている。覚悟したまえ笹森くん、君の刃が僕に届くことは決してないぞ。

 

 

「いいか笹森くん! 君が『頑張れ!』って感じの笹森日佐人なら、この僕は――」

 

 

 豆腐(キューブ)を形成。そして即座に散りばめて周囲へと展開。炸裂弾(メテオラ)の良いところはここにもある。他の弾丸トリガーは発射というプロセスを経ない限り攻撃手段にはなり得ないが、炸裂弾(メテオラ)のキューブはただ浮かべているだけでも盾の役割を果たしてくれる。ほら、現に踏み込もうとしていた笹森くんの足も止まった。そしてもう二度と近付くことなど出来ないのだ。

 卑怯者だと(なじ)りたければ詰るがいい。この僕は、そう、この僕は――

 

 

「『こいつ死ねばいいのに』って感じの大庭葉月だ!!」

『自慢げに叫ぶような台詞じゃない……』

 

 

 いいや、叫ぶね。

 ()()()()()に抗いながら生きるのが、僕の防衛戦争なんだから。

 

 

「――少なくともオレは、大庭先輩のことをそんな風に思ったことはないですよ!」

「こんな仕打ちを受けてもか!? つくづく人の良い子だな君は!!」

「……オレも正直ボケてたんですよ。忘れてたんです、()()()()()()()()()()()()()って――」

 

 

 ――ああ。笹森くん、やっぱり君はとてもいい。正隊員の目に留まるのもよく理解る。

 こんな理不尽な状況にも怯まずにそうやって武器を構えられる君は、間違いなく立派なボーダー隊員の一人だよ。たとえ今は贋物(C級)であろうとも。

 

 

 

「――3792ポイント、獲らせてもらいますよ、大庭先輩!」

「おもしれえ……やってみろ新人(ルーキー)!!」

『アンタも同期だろ』

 

 

 

 毅然とした態度と感情を崩さない挑戦者(チャレンジャー)に敬意を表しつつ。

 大庭葉月vs笹森日佐人、ようやく開幕です。




一緒に遠征に行きたくない人(2人まで)
・大庭葉月
 理由:頭がおかしいから



自分の書いたキャラには変な愛着が湧いてしまうっていうの二次創作者あるあるだと思うのですが
ヒュースが水上の名前を挙げた時にその感覚を強く味わいました。
まさかここに来て水上隊が現実のものになろうとは夢にも…(11人入りを疑っていない人間の発想)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。