葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~ 作:Amisuru
・別世界の存在から侵略を受けている
・言動が割と突拍子もない
・くせっ毛気味(3臨)
・
もう葉月くんの外見イメージゴッホちゃんでいいや
「「あ」」
風間さんと共に
「お疲れ様。さっきはどうも」
「お、お疲れ様です……」
「なんかリアクション固いね」
「いや……その、あんな啖呵切った直後に顔合わせるのが恥ずかしいというかなんというか、複雑な感じで……」
「ああ、なるほど」
確かに悔しさやら照れ臭さやらで色々とごった返しているな。
「別に気にすることはないと思うよ? 昔の恥ずかしい発言を思い返す度に死にたくなってたら、僕なんか2万回は首吊ってないといけないからね」
「いや、別に死にたいっていうほど大袈裟な話じゃ――2万!?」
「笹森くんはツッコミも素直で安心するなあ」
これが水上さん辺りだったら「ウソつけ」の一言で切り捨てられているところだ。いや、これも勝手な想像なのだけれど。何故だかそんな光景が頭に浮かんだのだ。
「――おまえも初めて見る顔だな。こいつの同期か」
あ、風間さんが笹森くんに絡んでいった。僕のカミングアウトによって生じた困惑からようやく脱したようだ。笹森くんにも見せてあげたかった、この澄まし顔の周りに隠し切れない?マークがぐるぐると回っていた先刻までの有様を。
で、声を掛けられた笹森くん。風間さんの顔を眺めて、それから僕の方をチラ見して、再び風間さんへと視線を戻し。
「そうだけど……えっと、君は?
「笹森、アウトォォォォォォォォ!!」
「もがああああああああああああ!?」
今世紀最大の失言を放ってしまった後輩の頬に渾身のアイアンクローを決める僕。
何故だ! どうしてなんだ笹森くん! そういう地雷を踏むのは僕の役割ではないのか!? 聡明で優秀な子だったのに!
『なんで英語で言った?』
那須さん。スターウォーズは見たことがないと言ったが……スマン、ありゃウソだった。
でもまあ、
「いいかい笹森くん。この御人はな、19歳だ。もう一度言う、19歳だ……僕達の先輩なんだよ」
「じゅ……19歳……!?」
「風間さん! この通り笹森くんのほっぺたは僕がぶにーしておきましたので、どうかお慈悲を! 笹森くんにお慈悲を!」
「……誰もそいつの頬を抓りたいとは言っていない」
……おや?
風間さん、てっきりまたお怒りになるものと思っていたのだが……この感情は怒りじゃないな。どちらかというと――
――
どうしたのだろう。僕の
『わかる』
お前ホントたった3文字で人の心を抉るのやめろって何回言わせんだこの野郎。
それはそれとして、自身の心境をおくびにも出さず氷の視線で笹森くんを見据える風間さん。あ、笹森くんがちょっとビビっている。やっぱりあの眼に射抜かれると圧を感じるものなんだな。
「――正隊員の風間蒼也だ。はじめまして」
「す、すみませんでした……訓練生の笹森日佐人で――え、風間蒼也……?」
身分を強調することできっちりと上下関係をワカらせていくスタイル。すっかり腰が引けた様子の笹森くんであったが、何やら風間さんの名前に聞き覚えがある模様。
「知っているのか笹森くん」
「は、はい。諏訪さん――オレを誘ってくれた正隊員の人が言ってました。風間のヤローのチーム
「――ほう? おまえ、諏訪に目を掛けられているのか」
お、風間さんの方も笹森くんに興味を示したようだ。この流れでさっきの失言を有耶無耶にしていくんだ笹森くん! ファイト!
「今期の新人は3人ほど
「は、はい」
「おまえの名前も覚えておく。――さっきの発言も含めてな」
「ひいっ!? すすすすみませんすみませんすみません!!」
「冗談だ」
うーん、これっぽっちも表情と感情が笑っていないのだが本当に冗談なんだろうか。どう視ても釘を刺しているようにしか視えないでござるよ風間さん。
それにしても、諏訪さんとやらの部隊がボーダーでどの辺りの地位に当たるのかは知らないが、他の正隊員からわざわざ名指しでライバル扱いされているということは、ひょっとして結構すごい人なんじゃないだろうかこの風間さん。そんな人に名前を覚えてもらえるだなんて光栄じゃないか笹森くん。人脈ゲットだ! やったぜ!
『なんか皮肉っぽい』
いや、流れのせいでなんかそんな感じになっちゃったけど他意はないぞ。ホントに。
「――大庭、笹森。おまえ達、迎えの当てはあるのか」
と、ここで風間さんがよくわからないことを言い出した。思わず笹森くんと顔を見合わせる。
「迎えといいますと」
「家からの迎えだ。中学生が一人で出歩くには遅い時間だからな」
「……あー、なるほど」
深夜徘徊の定義に当てはまるのは23時~4時までの間だ。もう残り1時間を切っている。防犯面やら何やらの観点から考えても、風間さんの言は良識ある青年として至極ごもっとも。
なのだ、が。
「ないですね」
そう、そんなものはない。今に限らず、
『…………』
はい。この流れ前にもやりましたよね。学習能力のない兄で大変申し訳ありません。
「……笹森くんは?」
「――ウチは電話すれば父が来てくれると思うんですけど、明日も仕事あるのに疲れさせるようなことさせたくないかなあって。家もそんなに遠くないですし……」
「そうか。――いや、少し待っていろ」
風間さん、そう言って懐からスマホを取り出し画面をポチポチ。そして耳元へ。どうやら誰かに電話を掛けるつもりのようだ。この流れで風間さんが電話する相手というと――
「――おまえ、訓練生を
やはり噂の諏訪さんか。こうもすんなり連絡が取れるあたり、ライバル視されていると言ってもお互いの仲はそこまで悪くはないのかな? コアデラ組みたいな感じの関係なのかもしれないな。仲良く喧嘩しな、みたいな。
「――その
と、ここで僕は一つ貴重な光景を目の当たりにした。いや、案外貴重でも何でもないのかもしれないが、風間さんが口の端を吊り上げてニヤリと笑ったのだ。
そうか、知人が相手だと普通に笑うのか風間さん。会話の内容的にどうも相手を煽ってるみたいだけれども。というかこれ、さっき笹森くんが風間さんにバラしてしまった話では……。
「おまえの未来の部下に決まっているだろう」
あ、『それ誰から聞きやがった!?』とか聞かれたっぽいなこれ。笹森くんの血の気がすーっと引いていく。これが誰かの部下になるということか……迂闊に口を滑らすと後が怖いのだなあ……うーむ、僕も気を付けよう。笹森くんよりも僕の方が万倍やらかしそうだもんなこういうの。
「さっきからそう言っている。――自分で言え。じゃあな」
通話終了。スマホを懐へと仕舞った風間さん、笹森くんへと向き直ってこの一言。
「おまえの未来の隊長が迎えに来てくれるそうだ。良かったな笹森」
「は……ははは……ありがとうございます……」
半笑いかつ冷や汗だらっだらで返事をする笹森くん。風間さん、失言の意趣返しにしてもこれはやり過ぎじゃないのかと思ってしまうのだが、感情を視るに悪意はないようなので、どうやら素で笹森くんをここまで追いつめているようだ。天然って怖い。
で、カタカタしている笹森くんを放置して僕へと視線を移す風間さん。
「おまえは誰か、大人の知り合いはいないのか」
「あいにく、今すぐ迎えに来てくれそうな方は誰も」
大人と聞いて真っ先に紳士の顔が脳裏に浮かんだが、僕はもう彼から卒業した身だ。いやまあ、借金返せてない状態でこう言うのもなんだけれども。
「そうか。……ならば仕方がないな」
観念したようにそう漏らす風間さん。これは一人でとぼとぼ歩いて帰る流れかな、と思いきや。
「俺が送っていく」
「え」
まさかの提案であった。さっき出会ったばかりの訓練生に随分と親切な申し出である。暇か? 暇なのか風間さん?
思わず訝しげに眺めてしまうと、風間さんは溜息を一つ吐いてから。
「……おまえがいくら自分のことを男だと言い張っても、そこらの輩がその通りに認識してくれるとは限らないということだ」
『この人が言うと説得力あるよね』
こら。
ともあれ――なるほど。風間さんは僕が
『可愛くってごめんね☆』
やかましいわ。
……とにかく、そういうことなら話は早い。訓練もランク戦も終わって、目の前の風間さんからしても私服姿なのだ。12時の鐘が鳴ったという訳じゃないが、ぼちぼち僕も魔法を解いて
「大変ありがたい申し出なのですが、ご心配には及びません」
「……何?」
――
ここ最近の僕は、割とあの話と似たような体験をしているよなとか思いつつ。
強く念じてそう唱えると、脱皮のように訓練生の隊服が端から削げ落ちて、朝に着替えた私服姿へとこの通り。そう、買ってしまったのです、私服。流石にいつまでも制服一丁で過ごすわけにもいかなかったからね。仕方ないね。
「「……!?」」
まあ、本当に
驚愕に揺さぶられている目の前の二人に、僕は二度目の自己紹介をするような気分で、言った。
「――この通り、不審者に目を付けられるような顔はしておりませんので」
という訳で、改めましてこんばんは。
真・大庭葉月です。よろしくね!
『――やっぱり、お兄ちゃん的には
すまん。その件については後でまたじっくりと話し合おう。
『へーいへい』
「……どういうことだ?」
口をぽかんと開けたまま固まっている笹森くんに対し、いち早く硬直から抜け出した風間さん。無論、完全に驚きや困惑が拭われた訳ではないようだけれども。
「ちょっとまあ、ワケアリな体質をしておりまして。トリオン体に換装すると、さっきみたいな顔と身体になってしまうワケですよ」
「……トリオン器官の異常ということか? 起こり得るのか、そんなことが……」
「まあ、何しろ
曰く、現状の技術では特殊な装置を用いてトリオン器官の
ついでに言うと、患者を死なせずにトリオン器官のみを摘出する手段も、現状は存在しないのだそうで。
『可愛い妹と死ぬまで一緒にいられるなんて、幸せ者だねお兄ちゃん?』
……まあ、今更お前をどうこうするつもりもなかったけどさ。
「で、既に事情を知っているはずの笹森くんはいつまで固まっているのかね」
「す、すみません……百聞は一見に如かずっていうか、訓練の時からずっと
「というと?」
「いや、確かにさっきまでの顔と比べると、今の先輩は男だって言われたらああそうだなって納得できるんですよ。でも、顔の造り自体はそんなに変わってない筈なのに、自分の認識にこうも差が出る理由がわかんなくて……」
「……ふむ」
それはおそらく、笹森くんが大庭陽花という
実際のところ、僕は素の顔でも女子と勘違いされることは多々あったりする。けれど性染色体は嘘を吐かないらしく、"僕は男ですよ"と伝えた上で見直してもらうと大抵は納得してくれるのだ。女の子
笹森くんの反応で、改めて思い知らされた。
『……寝るわ』
!?
え、何、どうしたの急に。
『つまんない時のお兄ちゃんに戻っちゃったから、今日はもう付き合ってらんないってこと。……せっかく楽しい
「え、あ、ちょ――」
『おやすみ』
それっきり、頭の中が静寂に支配される。
……まーた勝手に切りやがった。帰るだの寝るだの生活感溢れる言い回しを使っているが、あいつの生態系は一体どうなっているのやら。誰よりも近い存在だというのに、誰よりも謎に包まれた存在だな、相変わらず。
「――大庭先輩? 大丈夫ですか?」
その呼びかけではっと我に返る。いかん、二人が目の前にいることを完全に失念していた。妙なことを口走ったりしてはいなかっただろうか?
「……ごめんごめん。ちょっと心ここにあらずというか、別の世界に飛んでいってたというか」
「――自分の
「う゛」
そういえば一人で帰れますアピールの真っ最中なのだった。咎めるような風間さんの視線と感情が痛い。どうやら先刻までとは別の理由で不合格を貰う羽目になりそうだ。
「おまえのように自己を正しく認識できていない者から、戦場では真っ先に消えていくものだ。――覚えておけ、俺はその類の人間には厳しく当たる」
「ひ、ひええ……」
「笹森、おまえは諏訪が来るまでロビーを離れるな。おそらくそう時間は掛からん、牌を打つ音が聞こえたからな。どうせまた作戦室で麻雀でもやっていたんだろう」
「りょ、了解です。……今の風間さんの言葉、覚えとこう……」
「大庭、行くぞ」
うおお、有無を言わせぬこの仕切り力……! これがいわゆるリーダーシップってやつか。僕は自分のやりたいことやるのは大好きだけど他人にあれやってねこれやってねって指示出すのは苦手なんだよなあ。見習いたいところだ。
「……りょーかいです。とまあ、そういうことになっちゃったみたいなんで、笹森くん、またね」
「は、はい。お疲れ様でした――その、またランク戦やりましょうね! 今度は絶対に負けませんから!」
「楽しみにしてるよ。……ああ、でも、どうせだったら」
踵を返す直前、ふと思いついた台詞があったので、言ってみた。
「次はB級でやろうぜ! ――なんてね。それじゃ」
「……! はい! 大庭先輩、次はB級で!」
ひらひらと手を振って別れる。
余計な
「……何をニヤニヤと笑っている?」
「……いえ、何でもありません」
――うう。
今日のツッコミはいつもに増して鋭く冷たいぜ、マイシスター。
「――コラァ、日佐人ォ!! てめえ、よくも風間に余計なことバラしやがったな!?」
「うわあああああああ!? すすす、すみませんすみませんすみません!!」
「まあまあ、いいじゃないですか。そもそも日佐人に言われるまでもなく、諏訪さんが風間さんのこと一方的にライバル視してるのなんて向こうも気が付いてましたって」
「どさくさに紛れて『一方的に』とか言ってんじゃねーぞ堤」
「でも実際にすわさんの片思いだよね」
「おサノァ!!」
「お、おサノ……? あの、あなたは……」
「やあひさと。すわ隊オペレーターのおサノさんだよ。元気? 平和? 青春?」
「……!?」
「あー、そいつの喋ってることは深く考えんな。
「は、はあ……ハイになってる時の大庭先輩みたいだな……」
「ったく、おまえもこんな時間まで残ってんならハナから俺に連絡入れろよな」
「いや、まだ正式なチームメイトになった訳でもないのに、そんなお願いするのは厚かましいかなって……」
「バーカ、
「す、諏訪さん……!」
「おお~、すわさん隊長っぽい」
「
「アメちゃん舐める?」
「いらん」
「んじゃひさとにあげる」
「は、はあ……どうも……?」
「で、風間のヤローはどこ行ったんだよ」
「あ、実はオレともう一人、中3の先輩が残ってて――その人を家まで送っていくってことで先に出て行きました」
「……家まで見送り? あいつが?」
「はい」
「
「? は、はい」
「……堤、こういうのなんて言うんだっけか」
「うーん……二重遭難といいますか、ミイラ取りがミイラといいますか……いや、まだそうなると決まった訳ではないんですが」
「…………?」
「ひさとひさと。かざまさんのこと初めて見たとき、どう思った?」
「え……いやその、てっきり自分よりも年下だと思っちゃって、めちゃくちゃ失礼なことを言ってしまって……」
「……そんな見た目のヤローがよ、夜中にガキの
「……あ」
「てゆーか、一人だけならひさとと一緒にすわさんの車乗せちゃえば良かったのにね。かざまさんドジっこ?」
「『子』っていう歳ではないかなあおサノ……」
いつもの如く文字数が膨れ上がってしまって想定していたラストまで書くとえらい長さになりそうなのでここで一区切りにします。
葉月くんが脳内で喋り過ぎるのが悪いんだなきっと…。