葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~ 作:Amisuru
なお肝心のランク戦が始まるまで大分時間が掛かりそうな模様
みえるひと/うけとるひと/きこえるひと
「――ふ」
さあ寛げと言わんばかりにドーンと鎮座した長椅子!
「ふふ」
少年漫画と少女漫画が全面戦争を繰り広げている両極端の本棚!
「ふへへっ」
座布団やらミカンの皮やらが乱雑に散らばった謎の
「ふへへへへ……!!」
「……オイ、誰だコイツを
「カゲじゃん」
「カゲだよねえ」
「…………」
悪くない。いやむしろ良い。きっちりしてるようで実はしていない、気楽な感じが実に良い。
これが
「つーか、前にも一回入ってんだろーが。始めて来ましたみてーな
「違うんですよカゲさん。いいですか? あの時の僕はあくまで
「
「はい」
いかんいかん、興奮のあまりテンションがおかしなことになってしまった。カゲさんがうんざりしているのも
「うー、さみさみ――なーカゲ、いい加減にコタツ入れよーぜー」
自分の身体を抱くように、両の二の腕をさすりながら訴えるヒカリ。確かに今日も肌寒い。1月も中旬を間近に迎え、いよいよもって冬まっしぐらといったところだ。
けれどヒカリ、そう言う君は何故に太股丸出しのショートパンツ姿なのだろうか。腕よりも先に庇うべき部位が存在するんじゃないだろうか? たまにいるよな、冬でも平気で生足出してる女の子って。僕には到底真似出来そうにない。
『聞きたくない』
うん。ですよね。
「どこに置くんだよ」
「アタシの
「そこの
「でも実際にヒカリちゃんのものしか置いてないもんねえ」
「というか、
「あーん? なんだよハヅキ、アタシが片付けできねー女だって言いてーのか?」
「実際出来てねーだろが」
「出来てないですよねえ」
「おい、アタシの味方がいねーぞゾエ。たすけてくれ」
「うーん、この話題に関してはゾエさんもカゲと葉月くん派かなあ」
「おお、愚かな男どもよ……! アタシがどれだけ
むしろその部屋を見られた後でよくそんな口が聞けたもんだな、とは言わない。大庭葉月は空気と心の読める男。
とはいえ、ヒカリの主張にも一理なくはない。彼女が片付けの出来る女かどうかはさておいて、
「まあ、コタツくらいならあってもいいんじゃないですか、カゲさん」
「だよな!?」
うお、なんか知らんけどめっちゃ食いついてきやがった。一瞬にして瞳と心を爛々と煌めかせるヒカリ嬢。そんなに欲しかったのかコタツ。確かに君は猫っぽいなあとずっと思っていたけれど。
「よく言ったハヅキ。ご褒美にアタシに続くコタツ使用権その2をくれてやる」
「わーい」
「わーいじゃねーんだよわーいじゃ。いらねーだろ、どうせヒカリしか使わねーんだから」
「僕も使いますよ」
「てめーは黙ってろ」
「ゾエ!」
「ゾエさん!」
「なんかさっきも似たようなことやったよね?」
そういえばそうだ。ゾエさんって常にこんな感じで二人の間を行ったり来たりさせられていたんだろうか。にも関わらずこの内面ののほほんっぷりと来たら。一体、前世でどういう徳を積んだらこの人のような人格者になれるのやら。
とにかく、そんな感じで今度はカゲさんが多数決に敗れた結果、我らが作戦室に今冬中のコタツ導入が成されることが決定いたしました。何だかんだで民主主義を採用しているあたり、暴君ではないよね、僕らの
「っしゃあー! コタツが来るぜぇー!!」
「ヒャッハァー!!」
「あー、うるせー……来るぜじゃねーんだよ、てめーらで用意すんだよ。俺ァ手伝わねーかんな」
「へっ、ハナからカゲのことなんかアテにしてねーっての。こちとら力仕事に関しちゃたのもしー味方がいるもんな! なあゾエ?」
「はいはい、買いに行くときはゾエさんに声掛けてねヒカリちゃん」
「むむ」
おやヒカリちゃん? 男手が必要だというのならここにも一人いるじゃない? そんなナチュラルに
『鏡見なよ』
うん、理解ってる。ちょっと拗ねてみただけなんだ。そりゃ僕のこのヒョロガリボディを見たら頼りにする気も失せるだろうさ。
『……
いや、だから
……あれ?
「――にしてもよー、ちょっと見ねー間に雰囲気変わったよなーハヅキ」
そう言って、ヒカリが僕の顔をまじまじと眺めてくる。
思い返してみれば、僕はランク戦ロビーから
今の僕は、
「なんつーの? 前に会った時と比べてよー、肌がきめ細かくなったっつーか瑞々しくなったっつーか――うわ、おまえ改めて見るとめちゃくちゃ顔整ってんな」
「……あー」
そうか。ここにいる皆は風間さん達と違って
『……その本物がどうだの贋物がどうだのっていうの、いい加減に止めてほしいんだけど』
わーかってるって。ちょいちょい考えてしまうのは勘弁してくれ。人間ってのはそう簡単に思考にブレーキ掛けられるようには出来てないんだよ。
まあとにかく、これは改めて自己紹介が必要だろう。ようやく同じ
――そう、
『……お、おう』
……? なんだその
「……その話なんだけど、改めて皆に伝えておきたいことが――あの、カゲさんとゾエさんもいいですかね」
「あァ?」
「うん?」
かたや怪訝そうに、かたやきょとんとこちらを眺める男性陣。三人の視線が集まったところで、
まずは
「……んん? なーんかさっきよりもオトコっぽくなったよーな……いやちげーな、さっきの顔がオンナっぽかったのか……?」
真っ先に反応を示したのはヒカリだった。
「あー? どこが変わったってんだ?」
それに比べて、
「いいですか、今の僕の顔をよーく目に焼き付けておいてください」
「手品でもおっ始めてえのか? 他所でやれ他所で」
「言い得て妙ですね。そう、人体消失マジックです。今から一瞬にして
「だーから、そういうのは他所でやれっつって――」
「いきます」
カゲさんの言を遮って、再び懐からトリガーを取り出し、意識を集中させる。
星の瞬く狭間の闇よ、暗黒のパワーを我に齎せ――
ご唱和ください、我の名を。
今の
「――うお、やっぱりキレーになってやがる!」
再度トリオン体へと換装した
「そうかァ? 単に生身とトリオン体の違いじゃねーのか」
「いやいや、カゲはもっとちゃんと
それに比べて……まあいい、ゾエさんからツッコミも入ったし僕はもうとやかく言うまい。
「まあ、話せば長くなるんですけどね――」
そう前置きを入れてから、僕はお医者様や風間さんにしたのと同じように、
マジかスゲーと素直な驚きを露にしたのがヒカリ、そんなことある? と常識的な反応を示したのがゾエさん、相も変わらず興味なさげにぼりぼりと頭を掻いていたのがカゲさんだ。マジでどういう話題だったら食いつくんだろうかこの人は。
「おいおいやべーな! リアル風巻祭里じゃねーか! それともアレか? 乱堂政?」
「ごめん、祭里くんの方はわかるけど乱堂なんとかさんの方は知らない」
「聞いたかよカゲ、ハヅキのやつプリフェ知らねーってよ。こいつモグリだぜモグリ」
「むしろてめーはなんで全巻持ってんだよ。俺らが
「漫画の話ですか」
「お? 興味湧いたか? そこにあるから持ってけ持ってけ、43話が特にオススメだぞアタシは」
例の戦時中本棚を指差すヒカリ。ほほう、僕をモグリ呼ばわりするだけあってこれは掘り出し物が眠っていそうな予感……いずれじっくり堪能させてもらおう。じゅるり。
『呼ばわりっていうか、こんな感じで借りた本しか読んだことないんだから実際モグリだよねお兄ちゃんって』
言うな。だから度々言い訳のように『詳しくないけど』って予防線を張っているんだ。
それよりも――理解ってるな?
『……お、おう……』
……なんかさっきから変だぞおまえ、オットセイかDiggy-MO'みたいにおうおう鳴いてばっかりで。警戒心持ったままじゃ触れないだろ? Too much 制限されまくりのDay timeなんて早く忘れないと You can't touch us...
『いやああああ頭の中でリズム感0のド下手糞ラップ垂れ流すのやめてええええええええ!!』
おのれ。普段ヒップホップなんか聞かない僕が陽介に合わせて必死こいて覚えた渾身のBro.HIパートを愚弄しやがって。
ていうか、マジな話どうしちゃったのよ。昨日も散々言ってたじゃんか、
……その、昨日一日を振り返ってみてだね? それなりに思うところがあったワケだよ、僕も。
『そういう大事なことはもっと早く話してほしかったんだけど!?』
いや、おまえが寝てる間にあれこれ考えて辿り着いた結論だったんだけど、今日は朝からランク戦で忙しかったし……。
『ああもう、その他人に気遣えるようで遣い切れてないの最高にお兄ちゃんって感じ……! とにかくね? 今はなんていうか、タイミングが悪い。私を引っ張り出したいんなら、
――は? カゲさん?
何故ここでカゲさんが出てくるのかさっぱり理解らないのだが、言われるがままについつい彼の方を
『――あ、このバカ! 私と喋ってるときにあの人の方を
「……あァ?」
と、退屈そうに長椅子の方を眺めていたカゲさんの眉がぴくりと動き、その視線が僕へと向けられる。うーん、今日も猫目が麗しい。前にも言ったが僕はカゲさんみたいな顔の男になりたかったのだ。いや、別に
『いいから! 理解ったから
……は? そりゃ一体どういう――
「葉月」
一瞬、それが自分を呼んでいるのだと気付くことが出来なかった。
思えば、彼に名前を呼ばれるのは、これが初めてのことだった。
「――
その上で、カゲさんは僕を鋭く睨み、色濃い『警戒』をその内面に抱いていた。
……え、もしかして――
――
何かを言おうとして、僕が口を開くよりも早く。
『「――
「――え、な、ちょおおおおおおおお!?」
あ、口の
「ハヅキ!? おいコラ何やってやがるハヅキ!!」
「僕じゃない! 陽花が、僕の妹が勝手に――!」
「バカヤロー、
「右手がどうとかそういう話じゃなくてガチなんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!!」
バカ! ヒカリのバカ! 学力レベル陽介――ごめん言い過ぎた。いくら何でも言っていいことと悪いことがあった。仮にも出来る女を自称する君がそんなに勉強できないわけが――ってんなこと考えてる場合じゃねえ。そうこうしている間に僕の身体が入口のロックを解除して外に跳び出そうとしている。止める手立ては僕にはない。ならばせめて、動かせる部位で出来ることだけでもやっておかなければ――
「すいません! 急用を思い出したんでちょっと行ってきます! あの、後で必ず帰ってきますから心配しないで下さい! マジで!!」
「はあ!? 行ってきますってどこにだよ! ほーれんそーはきちっとしろ!!」
「あーアレだ、そう、風間隊の作戦室! あと
言うだけ言ったところでちょうど扉が開き、そのまま勢い良く廊下を駆け出していく身体。
よし。嘘は吐いていない。少し予定が早まっただけだ。もうちょっと部屋でみんなとお喋りしてチームメイト気分を堪能してから出かけたかったのが仕方がない。かのアンドリュー・フォーク氏もこう言っていた。不測の事態には高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応せよ、と。
「さらばじゃねぇー! いいか!? 夕方までには帰ってこいよ!! おまえが
作戦室の中からヒカリの怒鳴り声が廊下に響き渡るも、話の途中で扉が閉まってしまった。まあ最低限の
どこに連れていかれるのかは知らないけれど。
北添尋は困惑していた。なんだかゾエさん葉月くん絡みだと流れにおいてかれてばっかりだなあとか思いつつ、突如作戦室を出ていった新たなチームメイトの背中を見送っていた。
心配するなと言われても残された側としては気がかりで仕方がないのだが、事ここに至っては彼――まあ彼だろう。彼の言を信じるしかない。それに、今の北添には大庭葉月よりも気にかかっている存在がいたのだ。
「……かざまたいの作戦室だあ? なんであいつがそんなとこに用事あんだよ? ワケわかんねー」
自分と同じく見るからに混乱の渦中にいる仁礼光が、閉まり切った作戦室の扉から視線を切ってそう零す。あ、ヒカリちゃんはそっちが気になるのねと北添は内心で突っ込みつつ。
「まあ、そっちの方は別にいいんじゃない? ゾエさん達が知らない間になんかあったんでしょ。それより、葉月くんなんかヘンなこと言ってたよねえ。僕の妹が勝手に、とかなんとか」
「あんなのハヅキのよくわかんねーギャグじゃねーの? ほら、前にやってた『僕はナマコだ……ぬるぬる……ぬるぬる……』みてーなやつ」
物真似のつもりなのか奇妙に身体をくねらせながらそんなことを言う光。とりあえず葉月くんはそんな動きまでは入れてなかったと思うよヒカリちゃん。
「……冗談だったらいいけどな」
思いもよらぬ方向から思いもよらぬ発言が飛び出して、北添と光が同時に視線を彼へと向ける。
影浦雅人が、険しい表情で大庭葉月の消えていった扉を見据えていた。
「……なんか
そう、北添の気がかりは大庭葉月ではなく、影浦雅人の方にこそあった。仮にも8度殴り合った間柄、
影浦は作戦室の壁に背中を預けると、口を覆っていたマスクを顎へと下ろし、ふー……と溜息を吐いて。
「
と言った。
影浦雅人の
「……てことはアレか?
「知るか」
すっかり癖になったがしがしと頭を掻く仕草の後、作戦室奥の長椅子にどかっと座り込む影浦。どうやらいつもの昼寝モードに突入するつもりのようだが、どうにも光への反応が淡泊なのが気になった。傍から見たら普段と大差ないように思えるのかもしれないが、何となく北添の目にはそう映ったのである。
「……カゲ、なんかご機嫌ナナメ? ひょっとして、あんまり良くない
影浦の
「……別にそういうワケじゃねーけどよ。ただ、なんつーか――」
影浦は長椅子に腰掛けたまま、背もたれに後頭部を乗せ天を仰ぐと。
「――兄貴の方とは別の意味で、
そう言って、瞼を下ろした。
「ぜー……ぜー……ぜー……」
何処とも知れぬ本部基地の一角。ようやく止まってくれた身体を落ち着かせるように、膝に手を突いて呼吸を整える。
疲れた。肉体的にではない。トリオン体はどれだけ走っても疲れることはない。息が乱れているのは精神的に疲弊したからだ。いや本当に、自分の身体が意思とは無関係に動き出すってとんでもない恐怖だからね。
――おい、そこんとこ理解ってんですか陽花さん?
『……
……まあ、それはその通り。だからこそあの場を借りておまえを紹介しようとしたワケだし。
それなのに、なんで逃げたのよおまえ。責めてるんじゃないぞ、真面目に理由がわからないから訊いてるんだ。
『「……お兄ちゃん、まだ気付いてないの? それとも、
……って、また
『私、心臓とか無いからその感覚わかんない』
そういう反応に困るブラックジョークやめてくれません?
とにかく、僕がカゲさんの何に気付いてないっていうのよマイシスター。
『――あの人たぶん、
……そうか。
もしかしたらとは思っていたけれど、やっぱりそうだったのか。
少しも考えていなかった訳じゃない。単に確証が無かっただけだ。それこそ僕の
――そうだ。仮にカゲさんが僕らと同じ
『……まあ、お兄ちゃんは別に平気なんだろうけどね。すっかりあの人の
信者……いや、そういう気持ちが微塵もないって言ったら嘘になるけども。あの人が僕らと同じように他人の思考を読み取れるのであれば、過度の期待とか敬愛だとか、そういう
またしても口が勝手に動く。一言入れろと言った傍から――と突っ込みたい気持ちを抑えつつ、陽花の好きにさせることにした。
こいつは今、僕の前では決して口にしないような本心を、初めて露にしようとしている。そう思ったのだ。
その言葉を聞いた瞬間、僕の脳裏に蘇る記憶があった。
すっかり僕の中で過去の存在になっていた、『白屋敷』の元
過去の話だと思っていた。終わった話だと思っていた。あのROOM303の試験に
『「……そんな簡単に、捨てられるわけないじゃん。自分の中の
世界中のあらゆる人間の心を
それでも、この瞬間、僕は何かを言わなければいけなかった。何かを口にするべきだと思った。
たとえ片方が、
たとえ片方が、生身の身体を持たない内臓であったとしても。
僕はこいつの兄で、こいつは僕の妹なのだ。
「ねえ、そこの人」
――故に、次にその場を揺らす声は、僕の喉から発せられるべきだったのだけれど。
その前に、視界の端に映る第三者の存在があった。
「ウチの作戦室の前でワケわかんない独り言ぶつぶつ垂れ流すの、止めてほしいんだけど。
声のする方に視線を向けると、およそ右斜め3mほど先、扉の開け放たれた作戦室から半歩ほど廊下に出て、一人の少年隊員がこちらを気怠そうに眺めていた。
僕が言えた口ではないのだが、パッと見では女の子のようにも見える、耳元を覆うように肩まで伸びた茶色の髪。あ、この子も猫目っぽいな。カゲさんに比べると大分ぱっちりしてるけど。身長も割と小柄な感じだ。風間さんよりは大きいけど。
『……
――は? いや待ておい、寝るっておまえまだ昼前だぞ! それにまだ話終わって――陽花さん? 陽花さーん! もしもぉーし!
返事の代わりに、再び体の
仕方がない、切り替えていけ大庭葉月。どうも一朝一夕で解決できる問題ではなさそうだ。まずは目の前の現実を一つずつ、一つずつ片付けていこう。
「……なに、大丈夫? 具合悪いんだったら医務室行った方がいいんじゃない。訓練生だから場所知らないのかな」
そんな僕を相も変わらず、無感動な目で見据える長髪の少年。その表情と声色だけで判断すると冷淡にも思える反応なのだが、よく
「――ああ、いや、お気になさらず。騒がしくして申し訳ない」
とりあえず姿勢を整えてから謝罪の言葉を述べてみて、思った。よく僕らの喋りが聴こえたな、と。この子が顔を出すまでは普通に、そこの扉は閉め切ってあったと思うのだが――僕らが騒がしかったというより、
……いやいや、叱られている身で被害者根性は良くないぞ僕。それよりまずは確認だ。陽花は言った、目的地までは運んでおいた、と。そして僕は昨日のうちに、風間さんから作戦室の場所を教えられている。僕の漫画知識なんかを
「あの――ここって、風間隊の作戦室で合ってるかな」
「……そうだけど、何? 風間さんに何か用でもあるの」
ビンゴ。なるほど、ノープランでガンダッシュしてた訳じゃなかったのか。何処目指してるのか考えるほどの余裕がなくて気付かなかった。
ということはこの子、風間隊の一員なのか。即ちA級隊員、立場で言えばカゲさん達よりも上に当たる訳だ。見た感じ僕よりも年下っぽいのに、大したものだなあ。
「その、知り合いの
多少は話の裏付けになるかと思い、
が、何故だか僕の話を聞いた途端、少年がかえって不信感を募らせるのが
「……風間さんが訓練生に、
さらりと自身の隊長をディスっていく長髪の少年。まあ、言ってることには同意するけれども。
それよりも――この子が抱いているのは『不満』か。どうも僕が風間さんに目を掛けられているのが気に食わないといった御様子。
……なるほど、そういうタイプね。隊に
まあ、根が悪い子ではないのはさっきの気遣いで理解できている。地雷さえ踏まなければ上手いことやっていけるだろう。それが一番ヘタクソなんだけど、僕という生き物は。
「えっと、風間さんて今お留守なのかな? もしそうだったら、日を改めてもいいんだけど――」
「……いいよ、あがれば。ウチ、
それだけ言って、すたすたと作戦室の中へと戻っていく長髪の少年。
おお、なんと不器用な親切っぷりよ……! なんだか一周回って愛らしくなってきたぞ。噛めば噛むほど味が出るとはこのことだな。そう、僕の
「それじゃ、お言葉に甘えてお邪魔します。――やっぱり良い子だね、君は」
「……いや、会ったばっかりで『やっぱり』とか言われても、意味わかんないんだけど。距離感の詰め方おかしいんじゃないの」
ぐっ……! しかしその正論は流石に胸に刺さるっ……!
ずきずきと痛む胸を抑えつつ、少年の背中に続いてお邪魔します。
……おお、流石はA級の作戦室、ウチの作戦室よりも若干広く感じる。入ってすぐのスペースがまず広い。ウチは半分ヒカリ空間で埋まっちゃってるからなあ。ああ、影浦隊の作戦室を『ウチ』呼ばわりできるこの快感……! 理解る人だけに伝わってほしいこの感動。皆も影浦隊、入ろう!(ダイレクトマーケティング)
などと、初めて上京したおのぼりさんの如く周囲をきょろきょろと見回していたところで。
「――あれ、もしかしてお客さん? いきなり廊下に出て行くから何かと思ったよきくっちー」
最後に会ったのは去年の夏休み、陽介の家へと遊びに行ったときのことだっただろうか? それ以前にもあいつの家でちょくちょく顔を合わせる機会があったのだが、ボーダーに所属していたというのは知らなかったな。それもまさかのA級隊員だったとは、よもやよもやだ。
「……おや? そっちの子は――ん、んんー? なんか前よりカワイクなったような気がするけど、その
と、部屋の奥から出てきた彼女も、僕の存在に気付いたようだ。相変わらずのメガネ
「――そう言うあなたはお変わりなさそうで、栞さん」
「わー! やっぱり葉月くんだー! お変わりなくてごめんねぇー!!」
宇佐美栞と大庭葉月、久方ぶりの再会であった。
本編の過去だからこそ書ける要素は積極的に拾っていきたい所存
今回トリオン体と生身の違いっていうのを改めて意識させられた回だったんですが、
書いてる途中で気付いてはいけないことに気が付いてしまいました。
第一話のカゲが戦闘体でマスクしてやがる。
……防衛任務の時は戦闘体でもマスクしてるんや……戦闘体で眼鏡掛けてる隊員が沢山おるんやからマスクしてる隊員がいたってええやないか……そういうことにしといてや……