葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~ 作:Amisuru
「はい、いいとこのどら焼きだよ~」
「お茶どうぞ」
「おお……ありがたや……ありがたや……」
「大袈裟」
いや、思わぬおもてなしを受けてしまったものだからちょっと感動してしまって……。
長髪の少年の厚意に甘えて踏み込んだ、風間隊の作戦室。入口傍のテーブル席に腰掛け、真心の籠もった歓待を受けている僕である。
ちなみにお茶を入れてくれたのは長髪の子ではない。栞さんからうってぃーと呼ばれている別の隊員の子だ。明るい髪の短髪の少年で、突然押し掛けた僕にさらっとお茶を振る舞ってくれたことからも理解るように、自然な気遣いが出来るイケ魂の持ち主である。おそらく二年くらい経ったらいい感じの好青年へと成長していることだろう。バレンタインに熱烈なファンから大量のチョコが贈られてくるような、なんというか一部の人に強烈に刺さる感じの。
「あ、そうだ。おやつ食べるときは換装解いた方がいいかも」
と、ここで栞さんから思わぬ一声が。
「トリオン体って消化はいいんだけど、ものを食べてもいまいちお腹が膨れないっていうか、満腹感が刺激されない仕組みになってるのね。勿論限りはあるから、たくさん食べれば満足できなくもないけど――」
そこで栞さん、眼鏡の縁に指を添えてキリッと一言。
「――太るぜ?」
「決め顔のタイミングおかしいよね」
「何をおっしゃるきくっちー! 女子としてこれは大事なことなのだよ! 前に一回トリオン体でうっかり食べ過ぎたときとか、元の体重に戻すの結構苦労したんだからね?」
「元の体重知らないけどまだ戻しきれてないんじゃないの」
「ほほーう? そんな憎まれ口を叩くのはこの口か? この口か?」
「いだだだだ」
栞さん、きくっちー君へと怒りのヘッドロックを敢行。まあ『怒りの』っていうほど怒ってないみたいだけども。この感情は――なんだろうな? 許しというか包容力というか、『しょうがない子だなあ』みたいな一言で、全てを笑って受け止めてくれそうな大らかさというか――とにかく、そういう
それにしても――換装を解く、か。
まあ、何かあったらイコさんに首ちょんぱされた時みたくまた出てくるだろう。というワケで、
「それじゃあ、ご忠告に従いまして――トリガー
「「……!?」」
「――ん? んんん……?」
「いただきます」
シュウン……とボーダー隊服を取っ払っていつもの早着替え。そしてまずはお茶を一口。
ああ……熱過ぎずぬる過ぎず、程良い温かさが喉を潤してくれる……結構なお点前で……これは何か違うか。
「いやー美味しい。うってぃー君、プロの技だねこれは」
「歌川です……ではなく! その、オレの目がおかしくなっていなければいいんですが――あー、どう訊ねたらいいものか……」
「……え、なに? トリオン体で顔弄ってたの? しかも女っぽく? 変態じゃん」
「ウゴハァ!!」
「こらー! きくっちー!!」
「あいたたたいやこれいつもと違う本当に痛いんだけどこれ」
「当たり前でしょー!? いまのはダメ! 毒舌で済まされるライン普通に越えてるからね! ほら、葉月くんにごめんなさいして!」
「い……いやいいんだ栞さん、いつかは誰かにそう言われるんじゃないかと思っていたから……」
むしろ正面からバッサリ斬ってくれて清々しいくらいだ。おかげで致命傷で済んだ。
とりあえずこの傷を癒すためにもう一杯お茶をいただこう……ああ、美味え……美味えようってぃー君……喉だけじゃなくて心にまで染み渡るよ……。
「だから葉月
「その調子で人の心の痛みもわかるようになろうねえ……! それと! アタシの目が曇ることがあってもアタシのメガネが曇ることはない!」
「宇佐美先輩、意味がよく理解らないです……」
「うってぃーもメガネを掛ければわかるようになるよ?」
「この人ただメガネ人口増やしたいだけだこれ」
きくっちー君、多分それ正解。
とりあえず、「それ以上いけない」と真顔で制止したら「あーいかんなあ……こんな……いかんいかん」と栞さんも正気を取り戻してくれたので一安心。危うく僕らの顔のせいで死人が出るとこだったぜ。栞さん、自分のことなら笑って受け流せるのに他人のこととなると沸点低いのだなあ。普通は逆なんじゃないだろうか?
「――何にしても、説明不足で申し訳ない。改めまして風間隊の皆さん、大庭葉月です。男です」
「……あー、うん、こっちがアタシの知ってる葉月くんだなあやっぱり。久しぶりに会ったから、ちょっとイメチェンというか自分を変えてみたのかなと……」
「まあ、確かに
「まるまるうまうま」
「え、何その返し」
風間さんやカゲさん達にしたのと同じように、僕らの身体的事情についてざっくり。仮に僕の人生を俯瞰で追いかけている人がいたりしたらまたこの流れかよって思ってしまうかもしれないが、正直誰よりも僕が一番そう思っている。
「……というワケで、さくっとボーダー全体に僕の事情を認知させる方法って何かないのかな」
説明のついでに、ついついそんなことを相談してしまう僕であった。我ながら無茶振りにも程があるのだが、栞さんはうーんと軽く唸った後、「そういうのは根付さんの仕事かなあ」と返した。
「根付さん?」
「そう、根付栄蔵さん。メディア対策室――要するに広報のお仕事だね。その中で一番エラい人。基本的には
「僕なんかがそんな気軽に会いに行ける立場の人なのかな」
「大丈夫じゃない? 訓練生ならまだしも、葉月くんもう正隊員なんだし――ていうかそっかあ、葉月くん正隊員なのかあ……昨日入隊したばっかりでしょ? それでもう昇格って結構すごいよ」
「は……ははは、それはまあ、初期ポイントをそこそこ盛ってもらったおかげというか……」
明後日の方向を見ながら乾いた笑いを浮かべる僕。栞さん、僕が昇格のために選んだ
が、僕の誤魔化し方はそれはそれで別の子の興味を引いてしまったようで、「ふーん。幾つだったの、初期ポイント」とジト目で訊ねてくるきくっちー君。作戦室に入ってからは無視されるものかと思っていたが結構会話に入ってくるなこの子。おかげでうってぃー君が空気なんだが?
「えーと、2500ポイント」
「……なんだ、ホントにそこそこじゃん。ちなみにぼくは2800ポイント貰ってたんで」
「張り合うなよ……」←2950ポイント
「もー、この子はすっかり謙虚って言葉を忘れちゃってー……
「ほう、きくっちー君にもそんな可愛げのある時期が」
「……うさみ先輩、余計なこと言わなくていいから。それと、あなたにその呼び方許した覚えないんで。菊地原です、菊地原士郎」
あ、てことは栞さんにならそう呼ばれても全然問題ないんだねとか言ったらいよいよ相手にして貰えなくなりそうなのでじっと我慢の大庭葉月である。
でもそれはそれとして呼び方は変えないぞという鉄の誓いを脳内で立てていたところ、栞さんの口から思わぬ新情報が。
「いやホントにね? アタシ覚えてるもん、きくっちーが風間さんに声掛けられたとき、『
「――
「あ、葉月くん入隊したばっかりで聞いたことないかなこれ」
「いや、知ってる……というか」
……あ、これはいかんな。ささやかながら『苛立ち』が
「……卑屈になるなっていったり調子に乗るなっていったり、めんどくさすぎでしょ。そういうはっきりしないのが一番イラっとくるよね」
「や、その振れ幅が極端すぎるという話をだね――あ、あれ? きくっちーどこ行くの?」
「どこだっていいでしょ。……飲み物買ってきます」
如何にも拗ねてます的な返しにバツが悪くなったのか、結局行き先を告げているきくっちー君。そのまますたすたと作戦室の入口へと向かっていき、扉を開けて廊下へと出て行ってしまった。
うーん、なんていうか……
――なあ、聞いてるか?
「あちゃー、怒らせちゃったかあ……ちょっと説教臭かったかなアタシ」
「まあ、きくっちー君の言い分も理解できなくもないな、僕は」
「うっ……やっぱり言い過ぎた?」
「いや、言ってること自体は栞さんが全面的に正しかったと思うよ。何事も極端すぎるのは宜しくない。ただ、なんていうか――」
続きを言おうとして、不意に喉が渇いたのでお茶をもう一口。
しょうもないことばっかり考えてると、乾くよね、色々と。
「――『普通でいろ』っていうのは、人によっては一番難しい注文だったりするからね」
どうでもいいけど未だにどら焼きに手を付けられていない。そろそろ食べようかなと手を伸ばしかけたところで、うってぃー君が口を開いた。
「『強化聴覚』っていうんですよ、あいつの
「ほう、わかりやすい」
なるほど、道理で僕らの
そんな僕の想像を裏付けるように、うってぃー君が続ける。
「
「ああ……」
それが栞さんの言う、自分に自信が無かった頃のきくっちー君へと繋がるのか。耳が良い、言うほど悪い
人の気持ちが理解るなんていう、
……これは流石に、人間という種に夢を見過ぎているだろうか? そんなことを思いながらどら焼きを一齧り。うん、ふんわりやわらかで大変よろしい。流石はいいとこのどら焼きだ。いい生地と餡を使っていらっしゃる――
「――でもでも葉月くん! きくっちーの
「お、おお!?」
唐突に向かいの席から身を乗り出して、鼻息も荒く全力で訴え出す栞さん。な、なんだなんだ。急にそんな興奮して一体どうしたっていうんだ。どら焼きに気を取られて視逃していたようだが、彼女は今、全力で僕に『理解』を求めている。『共感』を求めている。この熱量は彼女のどこから生み出されているものなんだろうか?
「あのね、
「お、おう」
「効果はその名の通りの『
「お、おう……」
「そこで猛威を振るったのがきくっちーの
「あっ……おう……あっおう……あっ、おう……あっあっあっおう……」
「宇佐美先輩、大庭先輩が引いて――いやこの人もなんかおかしいな……?」
いかん、陽花に続いて今度は僕がDIGGYと化してしまった。それとうってぃー君、引いている訳じゃない。ちょっと圧倒されてしまっただけだ。だからそう、焦っちゃ駄目。DE-VE-DE-VE-DE, DE-VE-DE-VE-DE.
一気に喋り過ぎたせいかはあはあと息を荒げている栞さんに、いつの間に淹れたのかうってぃー君がすっとお茶を差し出す。何だこの子気遣いの擬人化か? いつか三門が平和になってボーダーが解体されたりしても執事とかに転職して食べていけそうだな。
ずず……とお茶を一飲みして、軽く息を吐く栞さん。落ち着きを取り戻されたようで何より。
「……とにかく、アタシの作ったプログラムできくっちーの聴覚情報を他の二人にも繋げて、
「おお~……」
なんとなく祝福気分になってぱちぱちと手を叩く僕である。祝え! 新たなA級部隊の誕生を!
確かに栞さんの言う通り、きくっちー君の
「……でも、流石に上位入りしてからは苦労しましたよね。ただでさえ
「またまたうってぃーは謙遜しちゃってー。きくっちーほど調子に乗れとは言わないけど、新人王獲ったんだからもう少し自信持ってもいいんだよー?」
「新人王?」
「えっとね、新入隊員の中でシーズン中に最も
「ほう、そりゃすごい」
「運が良かっただけですよ。
謙遜しちゃって、と栞さんは言っていた。けれど、うってぃー君の中にそういった卑下の精神は欠片も視当たらない。
故に、次に彼が口にした言葉は、紛れもない彼の本心であった。
「――前期における
――なんだ。
思ったのだ。今のきくっちー君が過剰なほどに己の有用性を主張するようになったのは、自分に自信を持てなかった頃の反動なのではないか、と。
大したことがない、役に立たない――そう言われていた自分が風間蒼也に見出され、ランク戦を勝ち上がり、A級隊員にまで成り上がった。自尊心が肥大化するのも当然のことだ。だって実際に結果を出しているんだから。
自分はすごい。自分はこんなにも優れている。きくっちー君の主張もまた、一種の
……
「それ、本人に直接言ってあげたら喜ぶんじゃないかな」
「いえ……喜ぶだけならいいんですが、あいつの場合は図に乗り過ぎるところがあるので……先日A級昇格祝いに
「ぶっ」
いかん。あまりにもきくっちー君らしい返しにどら焼きを噴き出しかけてしまった。むせる。
「あはは、風間さんも一緒にいたのに平気であれを言えるあたりがきくっちーだよねえ」
「笑い事じゃないですよ……宇佐美先輩も言ったじゃないですか、謙虚って言葉を忘れてるって。オレは将来、慢心からあいつが何かやらかしたりしないか心配なんです。ランク戦なり何なりで、
「うーん、そういう心配もなくはないけど――きくっちーがそんな感じな分、うってぃーがしっかりしてるから大丈夫かな? なーんて」
「まあ、オレも出来る範囲でフォローしたいとは思っていますが……宇佐美先輩も手伝ってくれるんですよね?」
「……んー……」
――と。
このタイミングで何故か、栞さんの感情に陰りが
……どうしたんだろうか? 何とも栞さんらしからぬ反応だ。『もちろん! 二人で力を合わせてきくっちーを支えていこうね!』くらいのことは言いそうなものなのだが――何か、
当然、そういう変化を気配りの鬼ことうってぃー君が見逃す筈もない。彼の内側に困惑が浮かび上がり、それでも何かを言わんと口を開きかけたとき――
「――待たせたな。所用で席を外していた」
開け放たれた作戦室の入口より、待ち人来たる。
風間蒼也、おおよそ半日ぶりの再会である。うむ、今日も凛々しくカッコいい。まったく、誰だこんな男気に溢れた人をちっちゃくて可愛いなどと抜かしたのは。とんだ失礼な奴もいたものだ。
「いえ、楽しい待ち時間でしたよ。美味しいお茶とどら焼きもいただきましたし――あれ、後ろにいるのは……」
「……どうも。廊下で鉢合わせしたんで、一緒に戻ってきました」
きくっちー君であった。ストロー付きの紙コップを片手に、相変わらずの気怠そうな顔で立っている。
けれども、出て行ったときに抱えていたような苛立ちは
――いや、そうじゃないな。
彼のことを褒め倒した人達なら、
「あ、風間さんおかえりなさーい! それにきくっちーも! ……えーっと、さっきはゴメンね?」
「……いえ。それは、もういいです」
パッと見は素っ気なく返して、ちゅーちゅーとストローで飲み物を啜るきくっちー君。それでも僕には
――ま、言わぬが花ってやつだな、これは。
「愛されてるよね、きくっちー君」
「……はあ?」
でも我慢し切れなくてからかい混じりにそう言ってみたら、頭のおかしな人を見るような視線を浴びた僕であった。解せぬ。
「――ウチの連中と絡んでみた感想はどうだ。大庭」
「いい
「ほう。何が意外だ」
「いや、我ながら大変失礼な意見だとは思うのですが、風間さんの部下っていうのはもっとこう、かたーいタイプの人材が揃っているかと思っていたもので……うってぃー君はともかく、栞さんときくっちー君はその想像から大分外れておりました」
「有益な人材だと思えば獲る。そうでなければ獲らない。それだけの話だ。――何より、人格面を考慮するのであればおまえに声を掛けようなどとは思わない」
「わー、今世紀最大の暴言を食らったような気がするぞー」
「褒めたつもりなんだがな。おまえの言う通り、
「見抜いたっていうか、件の二人が全力できくっちー君を推してきたおかげなんですけどね……」
どうにも風間さんは、僕の
「――新入隊員だった頃の菊地原は、自身の持つ能力と自己の評価が釣り合っていない奴だった。故に俺は、あいつに自分自身を認めさせるところから始めなければならなかった。あいつの能力を肯定し、自信を卑下するような言動は否定し、ただひたすらに、
「ああ、風間さんの教育方針によるところも大きかったんですね……」
「育て方を誤ったと思うか?」
「育児に悩める父親のようなことを仰いますね」
「……おまえに訊ねた俺が馬鹿だった」
「いや――真面目な話、
自分自身を認めさせる。とても大切なことだ。
それがなければ、僕らは決して、
陽花のことを考える。今は心のどこかで眠っている、もう一人の自分自身のことを考える。
自分の心を知られたくない、汚いものを捨てられないと言って、あいつはカゲさんの前から逃げ出してしまった。あいつが腹の底に一体、どれだけの
陽花もきくっちー君のようになれるんじゃないか。
おまえは自分で思っているほど、汚れてなんかいないんじゃないか――と。
僕は陽花のことを、この世で唯一理解することの出来ない存在であると言ってきた。けれど厳密に言うなればもう一人、おまえは何を考えているんだと問い質したくなる相手が、この世の中には存在している。
大庭葉月。
僕自身のことだ。
僕の頭の中はいつだってごちゃごちゃで、あっちこっちに意識が飛んで、余計なもので溢れ返っている。けれども、そんな僕の感情を僕の目がどう捉えるのかまでは知らないのだ。同じように、カゲさんの
ならば陽花もまた、手にすることが出来る筈だ。あいつ自身の居場所というやつを。
「……風間さんに倣って、僕もいっちょ育ててみようかと思います」
「……? 何をだ」
多分この辺にいるんじゃないかと、胸の中心に手を当てて。
「妹です」
「……トリオン器官を鍛えたいということか? 確かに、若いうちであればある程度トリオン量の向上は望めなくもないが――」
「いえ、そういうことではなく――
「……大丈夫か?」
「すみません、本気で心配して下さっているのは大変ありがたいんですが、決して気が変になった訳ではないのでどうかその
「……冗談で言っている訳でも無さそうだな」
「一応、許される冗談と許されない冗談の区別くらいは付いているつもりですよ。――近いうちに話します。話せるように、なります」
「……そうか」
色々と思うところはあるようだが、それらの感情に無理矢理蓋をするかの如く、風間さんの感情に『納得』が浮かぶ。
風間さんは歩みを止めぬまま、視線をやや持ち上げて――何もない虚空を見据えつつ、言った。
「――妹が生きているというのなら、
「――はい」
若くして、兄を失い。子供のようだと、侮られがちな外見で。
それでも立派に、大人を――隊長をやっている、僕にとっての
そんな人からの、大変ありがたい御言葉であった。
「……ザ・職場って感じですね」
学生感覚でいうと職員室に近い。大量の資料が積まれたデスクが無数に並び、棚やらホワイトボードにはやたら滅多に付箋が貼られ、何人かのボーダー職員様方が所狭しと作業に励んでいる、なんともごちゃついた空間だ。ランク戦ロビーが学生連中の遊び場であるならば、
そんな僕とは対照的に、堂々たる歩みで部屋の中へと踏み込んでいく風間さん。慌ててその背中を追いかける。狭っ苦しい机と机の間を潜り抜け、開発室の奥深くへと進んでいくと――
「連れてきたぞ、寺島」
「ああ、早かったね」
丸い人がいた。
明るい色の髪を真ん中分けにした、眠たげな目つきのお兄さんだ。嵐山隊の時枝くんが
休憩中だったのか、手にはストロー付きの紙コップが握られている。きくっちー君が持ってたのと同じやつだな。自販で買ったのか。
「……またトリオン体でコーラか。これ以上太ったら二度と
「心配御無用。ハナから戻るつもりもないよ。太刀川にも会う度に似たようなこと言われるけど、俺って昔と比べてそんなに太ったかなあ」
「元のおまえの見た目を知っていれば、苦言の一つも呈したくなる。一年も経たずになんて変わり様だ」
「ま、俺の話は今はいいでしょ。それより風間、そっちが例の子?」
「そうだ。――大庭、挨拶しろ」
「あ、はい」
風間さんに言われるがまま、ひょこひょこと前に出て丸い御方の前に立つ。
うーん、触ってみたらゾエさんとどっちが柔らかいだろうかとかクッソ失礼なことを考えそうになる脳味噌を全力で殴り付けつつ。
「はじめまして、B級影浦隊所属の大庭葉月です。――
「そいつはどうも。メテオラ開発者の寺島雷蔵です。今日はよろしく」
「ええ、こちらこそ」
――さあ、いよいよ待ちに待った正トリガーの解禁だ。
今からもうワクワクが止まらないぜ!!
奈良坂歌川てるてるの新人王争いは奈良坂派の私だったのですがなんか話の都合でこうなってしまいました。今日のダウトポイント。
さて、葉月くんのトリガーセットどうしましょうね……(まだ何も決めてない)