葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~ 作:Amisuru
あけましておめでとうございます!!
いやーアニメ二期が始まってハーメルンのワートリ界隈も大変賑わっておりますね!
早2月を迎えてすっかり波に乗り遅れてしまった感がありますが、
今年も自分のペースでだらだらと続けていきたいと思いますので宜しければお付き合い下さい。
よろしくお願い致します。
Q.この一ヶ月間作者は一体どこで何やってたんですか?
A.鬼滅に浮気していました。
ふしだらなSS書きだと笑いなさい……。
――弾丸の夢を私は視る。空を踊る弾丸の夢を。
空っていうのは自由でいい。360度どこへだって飛び回れるから。
トリオンっていうのは自由でいい。重力に縛られていないから。
二つの自由が手を取り合って、そこに芸術が生まれた。
生まれて初めて、私が心の底から魅了されたもの。
昨日の夜も、さっきまで引っ込んでいたときも、私はずっとそのときのことを思い返していた。
縦横無尽の弾丸と、それを描く女性の横顔を、思い返し続けていた。
――光の軌跡を空に描く、あのひとの才能が欲しい。
――闇を身軽に跳び回る、あのひとの身体が欲しい。
――唇を軽く吊り上げた、あのひとの笑顔が欲しい。
欲しい。欲しい。欲しい。
兄の胸の中で眠りながら、私はいつも、そんなことばかりを考えている。
決して
「――
はいっ! という訳でトリガー選び後半戦、
進行はわたくし大庭葉月と、妹の大庭陽花さんでお送りいたしまーすよろしくオナシャース!
『――へっ』
よろしくオナシャアーッス!!
『……どゆこと?』
かーっ! 察しの悪か妹ばい! 勢いで熊本弁使ってみたけどさっぱりわからんたい! たーいぎゃとんこつばい。
……まあ、諸々の事情で大分間が空いちゃったんで改めて説明するとだね? 正隊員になったら使えるトリガーが8つに増える訳よ。利き手側の
で、
『ふむふむ』
という訳で大庭陽花さん、ちゃっちゃと
『……なんで?』
『なんかジョーカーと陽花って響きが似てるのが腹立つ――じゃなくて! ……いいの?』
……そりゃあ、本音を言うなら8つ丸ごと僕が使いたいよ。むしろ8つでも少な過ぎると思ってたくらいだし、触ってみたいトリガーだってまだまだ沢山あるんだ。
だけど――
……まあ、なんていうか。
僕も少しは、
『……ありがと』
なっ!? あっ……あんたのためなんだからね!?
『ロボコじゃねーか』
しかも今週のな。
「……えーっと、風間? ひょっとしてこれも俺が気にしたらいけないやつ?」
「……さあな。何にせよ、レイガストの講義が終わったのなら
「あ、はい」
おっと、いかんいかん。脳内会議に夢中で寺島さん達をお待たせさせてしまっていたぜ。
――ま、とにかくそういう訳だから。遠足の荷物をリュックに詰める小学生みたいなテンションで楽しんでいこうじゃないの。
『……その喩え、私には正直ピンと来ないなあ……』
これから理解るようになるよ、これから。
――そう。
これからお前は、今まで知らなかった幾つものことを理解できるようになっていくんだ、陽花。
――という訳で開発室へと舞い戻り、改めてBBFをぺらぺらと捲っている僕である。
もっとも、手を動かしているのは僕ではない。陽花の方だ。例の作戦室
とにかく、今のうちから機会を作ってこいつが
自分の身体の一部が自分のものではないという感覚。それを受け入れて、自然な状態へと持っていく。今の僕達にはそれが必要だ。そうすることできっと、僕らの奇妙な
『えーっと、これも違う、これも違う……』
……正直、自分の身体をこいつに明け渡すことへの不安が一切ないと言ってしまえば嘘になる。
トリオン体の
けれど――
――そう漏らした時のこいつの声は、
僕にとっての
自分自身を愛するように、汝の隣人を愛せよ。
……多分、こういうことですよね? 紳士ウィルバー。
『「――あった!」』
……でもな、僕の身体で勝手に喋ることまで許可した覚えはまだないぞ。ほら、急に大声出したせいで風間さん達がぎょっとしてこっち見てるじゃねーか。せめて前もって喋りたい時は何か一言入れてくれ。
『メンゴ』
謝罪が軽ぅい!!
「……失礼。その、お目当てのブツが見つかったようです」
「なんで他人事みたいな言い方なの大庭くん?」
「こいつの言動に一々引っかかっていたら話が進まんぞ寺島。……何を選んだ? 見せてみろ」
「えーと、どれどれ」
いやあ、風間さんは話が早くて助かりますなあ。というか、自分の考えに夢中で僕も手元を見ていなかった。自然と三人がかりで一冊の本を覗き込むような格好になる。
さてさて、ウチの妹に選ばれた栄えあるボーダートリガー第一号のお名前は――
――
「……弾トリガーかあ……そうだよね、大庭くんって
げェーッ!? 思わぬタイミングで思わぬ人の地雷を踏んでるゥー!? 違うんです寺島さん、僕じゃなくて妹が勝手にって言っても通じないですよね理解ってます、っていうか拗ね方が街中で可愛い子に釣られて思わず目が行っちゃった時の嫉妬深い彼女か何かみたいで面倒臭ぇーッ!!
『彼女なんか出来たこともない人がなんかそれっぽいこと言ってる』
うるせェ!!(ドン!!) 誰のせいでこの御方の機嫌損ねたと思ってるんじゃこんボケェ!!
『あーもう、
……え、何? おまえ本当に弧月とか使っちゃうつもり? レイガストと合わせて使ったりしたら重くて大変そうだよなアレ、そういう
『うーん、刀も今なら鬼滅ごっことか出来そうで興味なくはないけど……そうじゃなくて、あれ。あれがちょっと気になる』
そう言って、陽花がぱらりとBBFを捲る。ただし、進むのではなく巻き戻しだ。
『「――じゃあ、これなんかはどうですか? てらしまサン」』
「……え? あ、ああ」
……何だそれ。ひょっとして僕の口調を真似たつもりなのか? さん付け慣れてないのが一発で判るぎこちなさだぞ。『うっさい』こりゃ失敬。
というか、何となく流れでお前の存在を隠すような感じになっちゃってるけど――正直この二人になら打ち明けても構わないと僕は思っているんだが、その辺どうだろうかマイシスター。実際、風間さんには近いうちに話すって言っちゃってるし。
『……それはまだ早い』
さいで。ま、そういうことならのんびり待たせてもらいましょ。
で? 結局お前は何を選んだんじゃい、という訳で再び思考を切って手元に視線を下げまして。
「――ほう」
その声は僕でも寺島さんでもなく、風間さんの口から零れたものだった。
――スコーピオン。相手にしたことはまだないが、レイガストとは違ってC級ランク戦のリストでもちらちらと名前を見かけたトリガーだ。軽くて脆くて攻撃特化……レイガストの対局みたいなトリガーだな。
「そっちかあ~……」
……あれ、なんか寺島さんの反応が微妙だぞ。いやまあ、
「……お気に召しませんでしたか?」
「いや……そういう訳じゃないっていうか、そもそも俺のことは気にしないで好きに選んでくれていいんだけど――スコーピオンは俺じゃなくて、
そう言って、横目でちらりと風間さんを指し示す寺島さんである。
ほほう? それはまた、巡り合わせというか何というか――僕が寺島さんの生み出した
『偶然だぞ』
ですよね。
「……
「それって俺の
寺島さんのキャラがどんどんおかしな方へとブレているような気がする……修正が必要だ……。
とはいえ確かに、このスコーピオンも
『……私からしたら、弧月とかレイガストみたいな
……あー、なるほど。
アレか。お前って
『ま、実際に触ってみないと何とも言えないけど――後は単純に、
……すまんね、自由に外に出してやれないお兄ちゃんで。
『そこで謝っちゃうあたり、だいぶ私に対する態度が軟化してきたよね』
うるせーやい。
「……妹曰く、『弧月とかレイガストよりもスコーピオンの方が使いやすそう』だそうです」
「どうやらキミの妹とは一度正面切って話し合う必要があるとみた」
「これ以上話の腰を折るならもう帰っていいぞ寺島」
「帰れも何も
「というか風間さん、寺島さんがいないと僕らのトリガーが組めなくなってしまうんですが……」
「冗談だ」
にこりともせずにしれっと口にする風間蒼也さん19歳。もしかして意外とお茶目な一面もあるんだろうかこの人は……単純に同世代相手っていうのもあるのかな。諏訪さんと電話で話してる時も生き生きとしながら煽ってたし、いいよね、友達って。
『……そういうもの?』
――ああ、そういうものだよ。
……そうだな。その辺もそろそろ、考えないといけないタイミングだよな。うん。
『……?』
ま、その件についてはまた後でな。それよりも残り二枠だ、さくっと埋めてしまおうぜ。
『なーんか最近やたらと思わせぶりだよねこの兄は……まあいいや、後はえーっと――あ、これだこれ』
再び陽花がBBFをぱらぱらと捲っていく。
『「後はこれにします」』
「
「自画自賛か?」
「テンションの振れ幅おかしいでしょこの子……」
えらい。お前えらいよ陽花。よくこのトリガーに目を付けてくれた。お兄ちゃんもこれ使ってて絶対楽しい奴だろって思ってた。だって二段ジャンプだぞ? 或いは空中ダッシュだ。ワンピースで言うところの月歩だ。いつか実戦投入した暁にはこう唱えてみせよう、僕は空を飛んだのさ――
『……やっぱり、
……ああ、最高に楽しいよ。
悪かったよ、そんな楽しいことを今まで独り占めしてて。つくづく欲張りだったよ、僕は。
『誠意は謝罪ではなく私の出番』
……今度一日
『「マジで!? うひょおおおおおおおおおお!!」』
「俺達今ひょっとして見ちゃいけないもの見ちゃったりしてない?」
「以前に『風間さん後生ですから何も言わずにこれを掛けてみてくれませんか!?』と差し出してきた眼鏡を掛けてやった時の宇佐美が似たような声を出していたな……」
奇声を上げる
というか勢いでとんでもない約束をしてしまったような気がするが、まあ一日だけなら大丈夫だろう。多分。自分で言っててすげえフラグ臭い考えだなって思うけど。
とにかくこれで残り一枠だ。さあ、果たしてトリは何で飾る――?
『後はぶっちゃけなんでもいい』
マジかよ。
何でもいいのよ?
『……私が言えたことじゃないけど、お兄ちゃんも大概
血は争えないってことだな。
『何だったら最後の一個、お兄ちゃんが決めてくれてもいいけど』
……いや、それは止めとくよ。
『――それ、
……そこを譲ったら、僕が僕じゃなくなってしまうだろ。
『はーいはい。――結局、どう足掻いても私は、
……そりゃあそうだよ。
僕がどう足掻いても、
「――はい、お待たせ。きっちり希望通りの構成になってる筈だけど、一応自分でも後で確認しておいてね」
「家宝として神棚で祀らせていただきます……」
「祀るな。使え」
今日も簡潔なツッコミが冴え渡る風間さんである。
寺島さんに差し出されたトリガーをありがたく受け取り、懐へと仕舞いこむ。ついに完成した、僕と陽花の正トリガーだ。
デスクの上、先程までトリガーとケーブルで繋がっていたPCの画面に、僕らのトリガーセットが表示されている。振り返りの意味も込めて、僕はその画面をしみじみと眺めた。こういうのを専門用語でロスと言います。
「……改めて見ても、何がしたいのかまるで理解らん構成だな」
「グホァ!!」
きょ……今日も簡潔なツッコミが冴え渡る風間さん……それこそスコーピオンの刃のような鋭さだぜ……食らったことないけど……。
確かにまあ、風間さんのようなコンセプト
「ま、いいんじゃないの? 大庭くんはまだ入隊二日目なんだしさ、いきなり道を一つに絞れっていう方が無茶でしょ。初めはとにかくやりたいこと何でもやってみて、何処を目指すかはそれからでも遅くないと思うけどな、俺は」
「て゛ら゛し゛ま゛さ゛ん゛……!!」
「どこから出してるのその声」
「……別に否定する訳じゃない。こいつのトリガーだ、好きに選べばいい――だが」
風間さんはそこで言葉を切り、僕のようにちゃらけた様子のない、理知的な双眸でこちらを見据えてきた。自分のやるべきことを理解している、大人の目であった。
「あれもこれもと手を出した挙句、何一つとして物にはならない――そんな中途半端な存在のままトリオンの成長が止まり、現役を退く羽目になった隊員を俺は何人か知っている。彼らと同じ轍を踏まんよう気を付けることだな、大庭」
「……肝に銘じます」
わー、その末路すっごいリアル感あってこっわーい……そうだよね、伸びしろのなくなった隊員をいつまでも飼っておくほどボーダーも優しくないよね。ドラ1だって怪我に泣いたら数年で首を切られるのがプロの世界って奴だろうし、大庭葉月の全盛期は
「適当な目標が欲しいんだったら――まずは何か一つ、
「マスター?」
「C級ランク戦と同じように、正隊員の
……8000ポイント。今のおおよそ倍の点数が必要になるのか。2500から4000までは2日で達成することが出来たが、流石にここから先はそう簡単にはいかないことだろう。とはいえ、それだけにやり甲斐はありそうだ。何と言っても響きが格好良い。マスターだぞマスター。
OK。めざせメテオラマスターだ。いつもいつでも上手くいくなんて保証は何処にもないけど、いつでもいつも本気で生きてる
『……こいつ
そう言わないと替え歌扱いでガイドラインに引っかかるかもしれないし……。
『なんのこっちゃ』
「ちなみに新しく使い始めたトリガーは初期ポイント3000からのスタートになるから、そこだけ気を付けてね。後、これは今まで引っかかった人いないし気にする必要ないとは思うんだけど――もしも何かのトリガーのポイントが1500を下回ったら、正隊員の資格なしと判断されて訓練生に降格になるんだ。正直言って誰も気にしてない規則だけど、一応教えておく」
「こ、降格……」
ビビる必要はないと言われた傍から全力でビビり散らす僕である。いや、なんかこういう絶対にあり得ないとか言われてることに限ってやらかすのが僕だからさ。絶対勝ち目のない相手に延々と勝負を挑んでたらいつの間にか1500切ってましたとか、そういうのありそうで笑えない。うん、これも覚えておこう。デッドラインは1500。ゆめゆめ忘れることなかれ。
「――さてと。それじゃあそろそろ、俺はお役御免ってことでいいのかな?」
マウスをポチってトリガーセットの表示を閉じた寺島さんが、眠たげな目……これは元からか。とにかく、そう言って僕の方を見た。楽しい楽しいトリガー弄りも、これにてお開きのようだ。
「お役御免って言い方は違うと思いますが……その、今日は本当にありがとうございました。寺島さん、それに風間さんも」
二人に向けて深々と頭を下げる。今更ながら、世話になるというのに土産の一つも用意してこなかった自分を恥じる。栞さん達にもいいとこのどら焼きを御馳走になってしまったし、今日会った人達には後日何かしら買っていこう。持ちつ持たれつの精神は大事だ。
「レイガストの布教に成功しただけでも、俺としては元が取れたよ。……何だったら、レイガストでマスターを目指すっていうのはどうかな大庭くん? その気があるなら、今日よりもっと本格的な扱い方を教えてあげてもいい。二人で力を合わせてボーダーから弾丸トリガーを駆逐しようぜ」
「お前が一人で理想を追い求めるのは勝手だが、その理想を他人にまで背負わせようとするな」
「というか寺島さん、僕も一応ポジション
「ははは、ちょっとした冗談だよ。冗談」
……八割くらいは本気で言ってたな、この
「――そういう風間は、大庭くんにスコーピオンの使い方を教えてあげる気とかないわけ? 後進の成長に貢献しなよ、ボーダーNo.1
「あ、いいですねそれ! 素晴らしい提案です寺島さん、ウチの妹もきっと喜びますよ」
『……は? こらそこの馬鹿兄、何をまた勝手に――』
「――いや、断る」
「!?」
か……風間さん? またそんなつまらない
そんな僕を一瞥して風間さんが溜息を一つ。何だか僕は10分に1回くらいのペースで風間さんに溜息を吐かせているような気がする。どうかこの人から幸福が逃げていきませんように。
「……
「か、風間さんよりも僕らに適したスコーピオンの先生……? それは一体何者――」
「
『「「――え」」』
果たして、今。
トリオン体の喉から発せられたのは、僕と妹、どちらの声であったのか。
「――お前のところの隊長もまた、確かな腕前を持つスコーピオン使いの一人だ。大庭」
いつもの如く10000字越えてしまいましたが何とか今回でトリガーセット編を終わらせることが出来て良かったです。
次回はようやくTS(?)設定を活かせる話になりそうな予定。