葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~   作:Amisuru

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こいつすごく好きです。顔も性格も。
遊び心があって、素直で、くさらない。こんなふうになりたい。


――葦原大介作『賢い犬リリエンタール』2巻より抜粋





刺し穿つもの(スコーピオン)』~米屋陽介~

 

 

「――正直に言わせてもらうと、きみが防衛隊員として活躍するのは難しいだろうというのが我々の見立てだ」

 

 

 えっ? そうなの?

 

 

「学力試験の点数には触れないとして、体力試験の方では極めて優秀な結果を残している。故に、攻撃手(アタッカー)として開花する可能性に賭けて獲らせてはもらったが――防衛隊員としての資質には、生身の運動能力以外にも重要視されるものがあるんだ」

 

 

 シシツ?

 

 

「トリガーを使う『才能』だ。合格者であるきみには正式名称を教えてしまうが、トリガーを使用するために求められる特殊なエネルギー『トリオン』――人体の中にある特殊な器官によって生み出されているものなんだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 マジか! そいつはショック!

 

 

「……あまりそう思っているようには見えないね。口が笑っているよ」

 

 

 いや、そういうオッサ――あー、メンセツカンさん? もこの部屋入ったときからずっとそうじゃね?

 

 

「私のような立場の人間は、笑顔を作ることも大事な仕事の一つだからね。――さて、何も意地悪できみのモチベーションを下げるようなことを口にした訳じゃない。私がしたいのは意思確認だ」

 

 

 イシカクニン?

 

 

「単純に能力が足りない、個人(ソロ)ポイントを上げる気が見られない、或いは――()()()()()()、等の理由でいつまでも正隊員へと昇格できない戦闘員には、オペレーターか技術者(エンジニア)への転属処置が成される場合がある。しかしおそらく、きみにはどちらの進路も用意されることはないだろう」

 

 

 あれ? そんならオレ正隊員になれなかったらどうなんの?

 

 

「まあ、除隊(クビ)だろうね」

 

 

 うーわ、容赦ねー。

 

 

「そう、厳しい世界だ。そして君は、他の隊員達よりも更に厳しい環境で戦わなければならない。他の隊員が当たり前のように出来ることが出来ない、自分のやりたいことを思うようにこなせない――()()()()というのはそういうことだ。きみの志望動機は『面白そうだから』ということだが、本当にボーダー隊員という職務は、君にとっての()()()()()()であるのかどうか――」

 

 

 あ、なに? 心配してくれてんの? なんだよいいヤツだなオッサン!

 

 

「……長続きする見込みのない隊員を獲るわけにはいかない。それだけのことだよ。――もう一度だけ訊ねよう、米屋陽介くん。ボーダー隊員の仕事が、きみに適していると私は言い切れない――それでも君は、正隊員を目指して努力し続けることが出来るのか」

 

 

 あー、まあ。なんとかなんじゃね?

 

 

「……軽いね」

 

 

 マジメに考えたらオレのトリオンが増えるってワケでもないでしょーよ。

 

 

「――きみが腐らずに研鑽を積み重ねていけば、トリガーを使い続けることである程度トリオンが増える可能性もある。頑張りたまえ」

 

 

 ケンさんを重ねる……? ケンさんって誰だ……?

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 ――よーう、ばっちり受かってきたぜこのバカ。

 

 

「マジか!? やったじゃねーかこの大バカ! おい、三輪のやつも呼んでメシ食いいこーぜメシ! A級隊員サマが新人(ルーキー)に好きなモン奢ってやっからよ!」

 

 

 ははっ、クソうぜー。けど貰えるモンはありがたくいただいちゃうぜっと。

 なあ、つーか聞いてくれよ。面接官のオッサンにさ、おもしれーこと言われたぜ、オレ。

 

 

「は? おもしれーこと?」

 

 

 あー、トリガーを使う才能? トリオンとか言ったっけか? とにかく、オレってボーダーの中で()()()()()()()()()()()() な? ウケるだろ?

 

 

「……マジか?」

 

 

 おー、マジマジ。いや、正しくはセントーインの中で一番低いだったっけか? まあどっちにしろ変わんねーだろ、おまえオペレーターとかエンジニアにはなれねーから正隊員になれなかったら即クビだっつってたしよ。

 あ、そーいやおまえはトリオンどーなんだよ。やっぱA級っつーくらいだからトリオンの方もA級(超スゴイ)だったりすんのか?

 

 

「……あー、おれはまあ、なんつーか……」

 

 

 んだよ、別におまえのトリオンが多くてもシットなんかしねーっつーの。

 むしろ多けりゃ多いほどおもしれーな! 確かボーダーって、隊員同士で試合とか出来んだろ? つーことはよ、オレより才能(トリオン)のあるおまえはウカツにオレにゃ負けらんねーってワケだ。負けたら言われちまうもんな、あっれぇー? 出水くん天才なのにオレなんかに負けちゃうんでちゅかー? ってな。

 

 

はぁ!? ふっざけんな、他の誰に負けよーがてめーにだけは絶対負けねーっつーんだよ!」

 

 

 おーおー、それでいーんだよそれで。ここで下手にドージョーなんかされてたらキレてるとこだったぜ。

 ま、そーゆーワケでオレも今日からボーダー隊員だからよ。せいぜいよろしくな、センパイ!

 

 

「うーわ、きもちわりー」

 

 

 うるせーバーカ!

 

 

 

 

「……やっぱすげーよ、おまえ」

 

 

 あー? なんか言ったか?

 

 

「なんでもねーよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ――()の左手を包み込むように、()()()()()()()()()()()()

 

 

『「どおりゃあぁぁぁぁぁぁ!!」』

「うおっ!?」

 

 

 スラスターの加速を得て、大盾(レイガスト)の左側から廻り込むように振るわれた陽花の左拳(スコーピオン)。横っ飛びに陽介がそれを避ける。うーむ、如何に速度があっても流石に動きが直線的過ぎたか。

 というか、いかん。早くスラスターを止めなければ。陽介を追い抜いてどんどん橋の先へ先へと進んでしまっている。せっかく距離を詰めたのにまた離れてどうするんだ。

 

 

「スラスター解除(オフ)……」

『「それ一々言う必要ある!? ていうかさっさと振り向け! ()()が来るでしょーが!」』

 

 

 いや、まだ正トリガーに不慣れなモンだから慎重に操作しないとうっかり炸裂弾(メテオラ)とか暴発しちゃいそうで……。

 とはいえ、妹のツッコミもごもっとも。たたらを踏みながらも加速が止まったので急いで後ろを振り向くと、まさに陽介が腰溜めに構えた弧月を振るわんとするところだった。ヤバい、公平と那須さんを後方に置き去ったおかげで横薙ぎ旋空が解禁されてやがる。平面に逃げ場が存在しねえ。

 

 

「旋空弧月――」

「とうっ!」

 

 

 ならば上だ。そう思って陽介の口が動いたのに合わせて勢い良く跳び上がったはいいが――斬撃が飛んでこない。

 こ、これはまさか……いつぞやの僕が水上さん相手に使ったフェイク!?

 

 

「――と、思うじゃん旋空弧月!!」

 

 

 なんじゃそのだっせぇ技名はァ!! などと叫ぶ余裕は勿論、僕にはなかった。アカン。終わった。流石にこの状態のレイガストで三度目の旋空は耐え切れまい。そう思いながらも駄目元で大盾を翳すのだが、次の瞬間にはきっと纏めて真っ二つに――

 

 

『「堕ちろ(グラスホッパー)」』

 

 

 ――なるかと思っていたら、不意に()()()()()()()()()()

 

 

「ぐえ――!!」

 

 

 上昇していた筈の身体が、見えない天井にでも弾かれたかのように地面へと叩きつけられる。びたーん、という擬音が出そうな勢いでうつ伏せに落下したもんだから、痛みもないのに思わず声を上げてしまった。何だ今のは。

 

 

『「ほら、空振った隙にもう一度突っ込んで! そら行け!!」』

「お……おぉ……」

 

 

 ああそうか、今のがグラスホッパーってやつか。しかしねマイシスター、それジャンプ台トリガーって書いてあった筈なんだけど? なんで上から抑え込むようにして使っちゃうの? 兄の身体はバスケットボールじゃないんですけど?

 

 

『「私の身体だっつってんでしょうがぁ!! いいからさっさとスラスター吹かして!!」』

「……あいつら、これから毎回こんな感じで漫才しながら戦うつもりなのか……? なんて難儀な体質してやがる……」

「そうかしら? いつでも兄妹一緒で戦えるなんて楽しそうじゃない?」

「那須さんって意外とそういうとこあるよな……人生エンジョイ勢っつーか……」

 

 

 射手(シューター)コンビが遠くの方で何か言っているがよく聞こえない。視線を向ける余裕もない。

 とにかく、何だかんだで陽介の旋空は外れた。というワケで再接近だ。でも一回このボロボロになったレイガストは捨ててしまおう。はい、罅割れの消えた新品レイガスト一丁入りまーす。

 

 

「おーおー、次から次へとぜーたくにポンポン繰り出してくれるじゃねーの葉月。さてはおまえも()()()()()か? おい」

「――持ってるのは僕じゃなくて、(こいつ)の方だけどね。昨日まではそのことを複雑に考えてたけど、こうして二人で戦ってたら割とどうでも良くなってきた」

「そーかよ、そいつは良かったな――っと!!

 

 

 再構成に時間を食ったせいで向こうもリロードが済んでいたか、四度(よたび)振るわれる旋空弧月。けれど、レイガストが万全の状態であれば一発は確実に防げることを僕はもう知っている。耐久力SSは伊達じゃないぜ!

 

 

(シールド)モード――うぐえ!?

 

 

 ……とは言ったものの、いざ食らってみると結構怪しいなこれ! レイガストのことを買ったばかりの玩具と称した僕に陽介は『オレも似たようなモン』だと言っていたが、弧月のことを指してそう言ったのであれば、おそらくは陽介の旋空弧月もまだ不完全というか、ちゃんとした使い手のものに比べれば威力がイマイチなんだろう。

 たとえばあのイコさんのような、剣術の達人(マスタークラス)が振るった旋空弧月であれば、陽花のレイガストであっても問答無用でぶった斬ってしまえるのかもしれない。だがとにかく、()()陽介の旋空弧月であれば僕らは防げる。防げるのだ。すみません、そういうことにしておいて下さいお願いします。

 

 

「ええい、スラスター起動(オン) 今度こそ取っ捕まえてやるぜぇぇぇぇぇぇ!!」

「……あー、やっぱダメだな。そもそも()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ――おや?

 陽介が手に持った弧月を掻き消して、素手の構えで僕らを待ち受けている。おいおい、まさかのボクシングスタイルか陽介。そもそも戦闘体のパンチとかキックって戦闘体にダメージ入るのか? レイガストを握り締めた拳で必殺スラスターパンチとか――あれ、想像してみたけど意外と悪くないなこれ。そのうちちょっと試してみよう。

 

 

「――しゃーねえ! 使うかどうか迷ってたけどよ、もう少しだけ()()()に頼らせてもらうぜ!」

 

 

 そう言った陽介の左手に、光の粒が集まって――やがてそれは、()()()()()()()()()()

 槍と言っても、長槍と呼べるほどのサイズではない。せいぜい1mかそこらの、その気になれば片手で容易く振り回せそうな長さの代物だ。片方の先端部分が鋭く尖って、刃の形を作っている。右手で刃の手前を握り締め、両手持ちになった陽介が、今まで以上に笑みを深くして――

 

 

 

「来いよツンデレシスター! おまえの拳とオレの槍、異色のスコーピオン対決といこーぜ!!」

『「ツンデレって言うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」』

 

 

 

 ――僕らに向けて、槍の穂先を突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ――なー蓮さん、オレ次のシーズンから新しいトリガー試してみてもいい?

 

 

「あら、スコーピオンにはもう飽きてしまったのかしら」

 

 

 そーいうワケじゃねーんだけどさ。蓮さんだって知ってんだろ? オレのトリオンじゃ()()()()()()()()()()()()。かるーく弧月と斬り合ったら即ボロッボロになっちまうしよ、オレのやりたいことやるには、スコピじゃちょいと力不足っつーかなんつーか――いや、()()()()()()()()()()()だってワカっちゃいるんだけどよ。

 

 

「――そう。陽介くんがそうしたいというのであれば、私には止める理由も権利もないわね」

 

 

 あ、そーなの? 秀次のやつに相談したらさ、『戦術に関わる問題だからまずは月見さんの許可を取れ』って言われたからこっち来たんだけど。

 

 

「……少し作戦に口出しし過ぎていたかしらね。三輪隊(ウチ)の隊長はあくまでも三輪くんなのだから、私がこの隊の方向性を決めるような立場にいるのは良くないことだわ」

 

 

 別に良いんじゃねーの? こないだの最終戦もそうだったけどよ、蓮さんて何だかんだで最終的な判断はあいつに任せてんじゃんよ。そこまで蓮さんが仕切るようになったら流石にオレもなんか違くね? って思うけど、今は割といい感じにバランス取れてんじゃねーのって気がすっけどな。

 

 

「……前から思っていたけれど、あなた意外とそういうところに気が回るというか、よく見ているわよね?」

 

 

 おっ、いいねー。『意外と』とか言われるとテンション上がんだよオレ。蓮さんみてーなアタマいいひとの裏かけたんなら尚更うれしーぜ。今日の『と、思うじゃん?』ポイントが1増えたな。

 

 

「……なにそれ?」

 

 

 オレが誰かを驚かせたり予想外のことをしたりすっと溜まるんだよ。10ポイント溜まるとスーパーよねやくんに変身できんだぜ。ま、ウソだけどよ。

 

 

「どちらかというと烏丸くんの芸風よね、今のは」

 

 

 たしかに。

 で、新しく使いたいトリガーの話なんだけどさ。弧月と旋空とそれから――

 

 

「……待って。止める理由がないと言った傍から口を挟んでしまって悪いのだけれど、一度に3枠も増やすのは流石に予想外だわ」

 

 

 はい1ポイント追加ー。

 

 

「陽介くん」

 

 

 スミマセンデシタ。

 

 

「というかあなた、弧月に手を出すのはいいけれど……スコーピオンの方はどうするの? ただでさえ強度に不安があると口にしていたのに、更に3枠もトリガーを増やすとなっては――いよいよもって、使い物にならなくなるかもしれないわよ」

 

 

 あーらら、やっぱそーなん? トリ貧ってやつはつれーなー、ったくよ。

 ま、次のシーズン始まるまでまだ1ヶ月あっからさ。それまでにちょっと試してみて、ダメそーだったら両立は()()()わ。

 

 

「――()()は、弧月とスコーピオンどちらの話?」

 

 

 ――さー、どっちの方になるのかね。

 どっちも使えりゃそれが一番良かったんだけどよ、しゃーないよな、こればっかは。

 

 

「……仮にスコーピオンを手放すことになったとしても、きっとすぐにまた強くなれると思うわよ。あなたなら」

 

 

 ははっ、サンキュー蓮さん! んじゃま、さっそく秀次に声掛けて弧月の練習してみるぜ! また何かあったら相談に乗ってくれよな!

 

 

「――ええ。頑張ってね」

 

 

 

 

 

「……()()()も陽介くんを見習って、いい加減に切り替えたらいいのに。いつまで迅くん(スコーピオン)に拘っているのかしらね、まったく――」

 

 

 

 

 

 

 

 ――さーてと。

 

 

「ツンデレって言うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 おーおー、鬼の手(ぬ~べ~)みてーないかつい手ぇ生やしやがって。こっちはしょっぱい細槍作んので精一杯だっつーのによ。まともに打ち合ったら即折られんだろーな、オレの槍じゃ。

 スコーピオンっておもしれーよな。なんてったって()()じゃねーか。同じ短剣でも風間さん達と迅さんのとじゃ形が全然ちげーし、カゲさんみてーにワケわかんねー使い方する人もいる。オレもそういう決まった形に囚われねえとこが気に入ったから、こいつを最初のトリガーに選んだんだ。

 だけど、()()()()()()

 オレのやりてーことをやるには、オレの才能(トリオン)ってやつはちょいと、足んなかったんだよなあ。

 あーあー、オレに葉月や弾バカみてーな才能(トリオン)がありゃーなー! 誰にも思いつかねーよーなおもしれーモン作ってやんだけどなー! 才能(トリオン)がねーんじゃしょうがねーよなー! そいつがなけりゃ、ボーダーでメシ食ってくことなんか出来ねーんだからよー!

 

 

 

「……陽介?」

 

 

 

 ――と。

 思うじゃん? ってな。

 

 

 

 

 

 

 

 ……何だろう。

 今、ほんの一瞬。本当にほんの一瞬だけ、陽介の中に()()()()()()()()()()気がしたのだが――まるで幻か何かのように、すぐさまそいつは掻き消えて、僕の目には視えなくなってしまった。

 気のせいだったのか、或いは――意志の力で、無理矢理ねじ伏せてしまったのか。

 後者だとしたら凄いことだ。陽介が何を考えていたのかまでは知らないが、怒り、憎しみ、嫉妬――そういった負の感情は、一度芽生えたらそう簡単に消えるものじゃない。にも拘わらず、今の陽介はそんなものなど初めから無かったかのように、大胆不敵に笑って僕らを待ち構えている。

 ――()()()

 こいつの胸にいつも宿っている、太陽のような眩しさに、僕はずっと憧れていた。どんな理不尽も困難も、それがどうしたと言わんばかりに乗り越えてしまう心の強さ。陽介のそんなところに惹かれて、僕はこいつと仲良くなった。こいつの明るさに救われていた。こいつに教えてもらった、あの言葉があったからこそ――僕は今、ボーダー隊員としてこの場所に立っていられるのだ。

 

 

「……行くぞ、陽介」

 

 

 万感の思いをその一言に込めて、僕はスラスターを吹かし続ける。

 戦っている。僕は今、米屋陽介と戦っている。こんな現実、あの家の中にいた頃は想像することも出来なかった。陽介のことだけじゃない。境界(ボーダー)を越えてからの出来事は、本当に全てが夢みたいで、あらゆることが楽しくて仕方がないんだ。

 もっとこの世界(ワールド)を、トリガーを楽しみたい。

 だから僕は陽介に勝つ。そう、勝負ってのは最後に勝つから楽しいんだ。仙道や南もそう言っていた。いやまあ、負けはしたけどやりたいことやれたから楽しかった、満足だって戦いもあるのは理解しているけれど、勝負する以上は勝ちに行くのが大前提に決まっているのだ。

 

 

『格好付けたこと言ってるけど、盾の後ろに引き篭もって私に殴らせてる人の考えることじゃないよねえ……!?』

 

 

 バカ言うな。まさか(ブレード)モードに切り替えておまえと二人で斬りかかるのが最適解だとでも言うつもりか? 何度も言ってるだろ、まともに斬り合ったらこっちは瞬殺待ったなしなんだ。()()()()()()()()()()()()()だよ。というワケでほら、がんばれ♡ がんばれ♡

 

 

『「ああもう、今までの真面目な空気が全部台無しぃぃぃぃぃ!!」』

 

 

 いいんだよ、台無しで。()()()()()は。

 そういう重っ苦しいものは全部、あの家の中に置いてきたんだ、僕は。

 

 

 

 

 

 先刻と同じ、スラスター+陽花パンチ(スコーピオン)による一撃。陽介は軽く身を引くだけでそれを躱し、僕が陽介を追い抜こうとするタイミングで、がら空きの背中へと槍を突き立ててきた。上手い。弧月の時と比べて動きに無駄がないぞこいつ!

 

 

「ふんぬっ!!」

 

 

 レイガストを後ろ手にぶん回す。そうすることで、スラスターの加速に身を委ねての急速反転が可能になる。陽介の一刺しを横殴りに弾き飛ばしつつ、再突進。おお、初めてにしてはそれっぽい動きが出来ているぞ僕。しっかしつくづく重たいなこの盾こんちくしょう。

 

 

「っとマジかよ、即Uターンは予想してねえっつーの……!」

「はっはァー! 陽介から『と、思うじゃん?』ポイントを奪ってやったぜェー!!」

「人の芸風パクってんじゃねーぞ、こら!!」

 

 

 折り返しの突進を今度は大きく横っ飛びに避ける陽介。しかし逃がさん。訓練生には重さのせいで敬遠されたこのレイガストだが、スラスターを得たこいつはむしろ、()()()()()()()()()()()()と僕は思っている。追いかけっこで僕に勝てると思ったら大間違いだ。

 上手いこと陽介の跳んだ方へと手首を捻り方向転換。誘導ミサイルの如く追い縋る。うおォン、僕はまるで人間自動追尾弾(ハウンド)だぜ!

 ……ていうか、スラスター使ってる時は無理に振り回そうとしない方がいいなこれ。なるほど、レイガスト自体を回すんじゃなくて手首で曲がるのか。バイクとか車と同じだな。乗ったことないけど。

 

 

「――ぐっ!?」

 

 

 捕まえた。人間ゆえの反射的なものか、シールド突撃(チャージ)を受けた陽介がくぐもった声を上げる。よーしよし、なんとなくコツが理解ってきた。しかし、いくら速度があっても(シールド)モードは攻撃力E。ぶつかっただけでは戦闘体にダメージは入らない。と、なれば――

 

 

「パンチだ、陽花(ロボ)!!」

『「誰がロボじゃああああああああああ!!」』

 

 

 キレ気味に振るわれた陽花の左拳(スコーピオン)が、三度(みたび)陽介の顔面へと迫る。

 勝った。突進で体勢を崩しているから、流石にもう避けようがあるまい。槍の方もレイガストで抑えつけているし、詰み(チェックメイト)だ。僕らの勝ちだ。しかし、このままスコピパンチが直撃したらどうなるのだろう? イコさんにぶった斬られた時みたく、陽介の首もすっ飛んでしまうんだろうか?

 ……それはあんまり見たくないな。笹森くんが心臓狙ってきた時の気持ちがよく理解るぜ。

 

 

「ちっ……!」

 

 

 ――しかし、僕の予想した通りの光景が訪れることはなかった。

 陽介の側頭部を庇うように浮かんだ六角形状のエネルギー体が、寸でのところで陽花の拳(スコーピオン)を受け止めている。これは――集中シールドってやつか! ここまで近付いて手の塞がった状態でも使えるとは、やっぱり便利だなこれ! そりゃ誰だって二枚積みするわ! 僕は入れてないけど!

 

 

『「だけど――()()()!!」』

 

 

 されど陽花は意に介すことなく、再び拳を振り上げる。

 そう、那須さんとは異なり一枚だけの展開とはいえ、相当に発生範囲を絞っているにも拘らず、陽介の集中シールドは陽花のパンチ一発でボロボロになっている。陽花のスコーピオンが質量全振りのゴリラフォームである故か、或いは――

 ――関係ない。陽介だってきっと、負けた理由に()()を持ち出すことはないだろう。だからこそ僕も遠慮はしない。僕は僕の才能(トリオン)を、()()()()()()()()()()()()()()()()。ここで陽介に負い目を感じてしまったら、僕は僕にとって大切な、二つの太陽をまとめて曇らせることになってしまう。

 僕はこれからも全力で、誰の目も憚ることなく、()()()()()()()()()()()()()

 さあ、おまえもとくと味わえ陽介。こいつが僕の、大庭葉月の(トリオン)だ――!!

 

 

 

「――そこで()()()()()()()って考えちまうあたり、まだまだスコーピオンってやつをワカってねーな、ツンデレシスター?」

『「……っはあ!?」』

 

 

 

 ――あ、ヤバい。

 米屋陽介という男を長いこと()てきた僕にとって、それは確信に近い予感であった。

 こいつがこんな風に口の端を深く吊り上げる時というのは、間違いなく、()()()()を口にする前触れだと決まっているのだ。だが、しかし――

 シールドは依然として貼りっぱなし。腕を回して大盾の横から僕を突こうにも、陽介の腕はレイガストに抑えつけられていて動かせない筈。一体、この状況からどのような反撃の手段があるっていうんだ……!?

 

 

「知ってっか? (スコーピオン)の尻尾ってのはな、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 陽介がなんか陽介(バカ)っぽくないことを言っている……!!

 いや待て。冷静に聞けば大したこと言ってないなこれ。小学生でも知っていることだ。『長くてぐにゃぐにゃ曲がる』って言い回しも普通にアホっぽいし。妙にキリっとした顔で言うモンだから騙されたわ。とまあ、それはそれとして。

 陽介の腕は動かせない。その見立ては間違っていない。けれど、()()()()()()()()()()()()()。さっきまでは両手持ちだった筈なのに、いつの間にか片手持ちになっている。長さが縮んだ――のではない、()()()()()()()()()()()()。刃の手前を握り締めていた筈の右手に、柄の根元、いわゆる石突の部分が握られている。そして、右手の元から存分に伸びたスコーピオンが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()――

 

 

 

「――こんな風にな」

 

 

 

 どすり、と。

 レイガストのシールド部分を滑るように伸びてきたスコーピオンが、そのまま僕の胸を貫いた。

 トリオン体に痛覚はない。再三そう口にしてきた僕だが、厳密に言うとそれは嘘だ。実際のところ、身体のどの部分が傷付いたのかを認識できる程度の感覚は存在するのだ。だから、この後に流れる自動音声が何を言うのかも、僕は既に理解している。

 

 

 

()()()()()()()()()()、大庭ダウン。勝者、米屋陽介』

『――――』

 

 

 

 ()()()()()()

 いやまあ、イコさんに首ちょん斬られた時もブースに戻ったら普通に生きてたから特に心配ないんだろうが、とにかくうんともすんとも言わなくなった。いやー、絶対に勝ったと思ってただろうからさぞかし悔しがってるだろうなあいつ。後でよしよししてやろう。多分キレられると思うが。

 というか、畜生。咄嗟の防御(ガード)が間に合わなかった。やっぱりレイガストは重……そうじゃない。そうじゃないだろ馬鹿。スコーピオンは変幻自在だと知っていたのに、腕を抑えただけで無力化したと思い込んだ僕の判断ミスだ。

 そもそも、槍の見た目に囚われ過ぎていた。自分でもよく理解らないのだが、米屋陽介といえば槍だという先入観(イメージ)が僕の中にあったのだ。けれど、そんな思い込みを嘲笑うかのように、根底から引っ繰り返すことこそが、こいつの本領なのだと――

 ……誰よりも、僕は知っていた、筈だったのになあ。

 

 

「あー……クソ」

 

 

 勝負ってやつは最後に勝つから楽しい。

 ()()()()()()

 それなのに――なんでなんだろうな?

 いや、負けたのは普通に悔しい。それは間違いないんだけど。

 

 

 

「――やっぱりおまえは、凄いやつだよ。陽介」

 

 

 

 本当に、ほんの少しだけ。

 僕の友達が僕より強くて良かったなあ、なんて。

 そんな、馬鹿みたいなことを、思ってしまったのであった。

 

 






冒頭部分の葦原先生のコメントは『ピエトロ』というキャラクターに対するもので、
このキャラは正直言って脇のそのまた脇役という立ち位置で『葦原先生は何故ここまでこいつを評価しているんだ…?』という感想を
冒頭のコメントを見た時には抱いてしまったのですが、米屋陽介というキャラクターを自分なりに掘り下げてみた今、ほんのちょっとだけ理解出来るようになったような気がします。


しかしいつにも増して捏造だらけの回だった

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