葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~   作:Amisuru

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その男、紳士(ジェントル)につき(後編)

 

 

 そんなわけで僕は暫しの間、那須さん(ヒカリは躊躇いなく呼び捨てることが出来そうだというのに那須さん相手だと敬称を付けたくなってしまうのは何故なのだろうか?)との歓談に興じた。

 なんでも彼女は生まれつき身体が弱く、平時からこうしてベッドの上で寝たきりの生活を送っていたという。ところが半年ほど前、彼女の入院先に訪れたボーダー職員から『我々の研究(プロジェクト)に協力してほしい』と誘いを受けたのが転機となって、彼女は病院からボーダー本部へとその身を移したのだそうだ。

 ボーダーで扱っている特殊な技術を利用して、病弱な人間を健康体にすることは出来るのか――というのが、ボーダーから提示された研究(プロジェクト)とやらの内容らしい。夢のある話だ。それが実現した暁には、那須さんと立場を同じくする人達にとっての大きな希望になることだろう。

 が、こういう良い話を聞くとついついその裏にあるものを探ってしまうのが僕の悪いところだ。たとえば、こういう余計な質問をしてみたりとか。

 

 

「どうして那須さんがその研究(プロジェクト)に選ばれたのかは聞いてる?」

 

 

 そう尋ねると、那須さんは何処か自嘲めいた笑みを浮かべて、「()()があったから」と答えた。

 

 

「才能?」

「おかしな話だと思うでしょう? こんな運動も満足に出来ない小娘のどこに才能なんてものが眠っているのか、って」

「いや、そんなことは――」

 

 

 それよりも僕が気になったのは、那須さんの中にはいないと思っていた()()()()()()()()()()がほんの少しだけ顔を覗かせたように視えたことだ。さっきまでは視えなかったというのに――自分の身体のことについて考えてしまうと、どうしても()()()と向き合わざるを得なくなってしまうのだろうか?

 それは良くない。()()()()()()()()()()()()()()。自分の中から一匹残らず排除して、奇麗さっぱり無かったことにしてしまわないと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから殺そう。彼女がそいつを殺すために、必要なもの(才能)の話をしよう。「そんなことはない」と言い切ろう。

 

 

「君には才能がある。それが何なのかは知らないけれど、それを否定することで()()()()()()()()に囚われるくらいなら、君は自分の才能を全力で利用するべきだ。それを咎める権利なんて誰にもない」

 

 

 思わず語気が強くなってしまった。那須さんもぱちくりと目を瞬かせている。

 

 

「あなた、何もかも理解(わか)っているようなことを言うのね」

 

 

 その指摘に、僕の方もまたハッとさせられてしまった。

 しまった。()()()()()()()。突然こんな説教染みた話をされて、さぞ戸惑ったことだろう。気味悪がられてもおかしくはないのだが、視たところ驚き、気付きといったもので占められているからほっとする。とはいえ、これは謝罪が必要だろう。

 

 

「ごめん。知った風な口を利いた」

「ああ、そういう意味で言ったんじゃないの。その――私が抱えているものを、ぴたりと言い当てられたような気がして、びっくりしたというか」

 

 

 だろうな。()()()()()。とはいえ、僕の持っている()()をどう説明したものか。何しろこいつの存在は、陽介や公平、両親にさえも明かしていないのだ。かといって、素性を打ち明け合っている最中だというのにこちらの都合で隠し事をするというのも気が引ける。

 ……そうだな。正直言ってあまり好きではない表現になるのだが、ここは相手に合わせてこう言ってみようか。

 

 

「まあ、()()()()()()()()()()

 

 

 ほらやっぱり嫌な言い方にしかならないじゃん!?

 なんだ今の台詞は。いかにも隙あらばロン毛をファサァ……とさせてそうな嫌みったらしいキザ男(特に具体的な個人をイメージした訳ではない。ない)なんかが口にしそうな台詞じゃないか。陽介あたりに聞かれていたら当分の間は物真似のネタにされそうだし、公平にはノータイムで蹴りを入れられそうな、そんな台詞だ。何故口に出す前にブレーキを掛けられなかったのだろうか。

 後悔した。すっごい後悔した。人生の言わなきゃ良かった台詞ランキングベスト10に刻まれてもおかしくないレベルで忘れてしまいたい。ボーダーのお偉いさん、どうせ消すなら昨日じゃなくて今日の記憶にしませんか。などと一人で悶絶している僕を他所に、那須さんがぽつりと呟いた。

 

 

副作用(サイドエフェクト)……」

 

 

 なんじゃらほい?

 サイドエフェクト。よく分からないが、去年あたりの僕(厨二病)のセンスに引っかかる単語だ。いかにも『能力』って感じがする。あれ、でもside effectって多分直訳すると『もう一方の効果』とかそういう感じになるよな。なんだろう、あまり良い意味で使われる言葉じゃないような気もする。そんな不安を払拭するように、「大庭くん」と那須さんが僕のことを呼ぶ。

 

 

「あなた、ボーダーに入りたくて警戒区域へと忍び込んだのよね」

「ああ、うん」

 

 

 その辺の話は既に済ませていた。ただし、僕の家庭の事情――生まれたときに双子が死んだこととか両親が死んだ方の子供のことばかり愛していたこととか女として育てられてきたこととかその辺の詳細は語らずに、ただ『家を追い出されて行くところが無くなったからボーダーに入ろうと思った』というざっくりとした説明に留めてある。

 お前何だかんだ言いながら隠し事ばっかりじゃねーかとか思われるかもしれないが、でも会ったばかりの人間からそんな重い話聞かされたくないでしょう。引いてしまうでしょう。何だこいつって思われてしまうでしょう。量のある料理を人に振る舞おうと思ったらまず前菜で胃を整えるものだし、ボクシングの試合なんかでも最初はフットワークとジャブで様子を見るでしょう。

 いきなりメインディッシュをど――ん!! ってお出しされても食欲が湧かないし、ゴングと同時にテレフォンパンチで一発KO狙いに行ったって避けられるだけでしょう。いきなり重いのは駄目なんだよ。皆ちゃんと相手のことを考えて軽めのものをお出ししてるんだよ。そういうとこで周りに合わせられないからお前は人として当たり前のことが出来ないって言われるんだよ。

 うん。わかってる。わかってるねんで?

 

 

 

「……つまり、あなたが副作用(サイドエフェクト)を持っているということは、あなたが豊富な才能(トリオン)を持っていることの証明になるというわけ。だからきっと、何も心配はいらないわ。ボーダーの規則に従う姿勢さえ見せれば、あなたは何事もなく入隊を許可され……大庭くん? あの、大庭くん?」

 

 

 

 しまった。意識が違う世界の方へと飛んでいた。僕自身が近界民(ネイバー)になることだ。

 違う、そうじゃない。まずは謝れ。僕のためにさぞ長々とありがたい話をしてくれていたっぽい那須さんの厚意を踏みにじったことについて謝れ。誠心誠意。心の底から。

 

 

「ごめん」

 

 

 足りない。全然足りない。言葉だけで伝わるものか。お辞儀をするのだ大庭葉月。それはもう深々と己の限界まで、沈めるところまで自分の価値を沈めてその上に相手を立てるのだ。真の謝罪とはそういうものだ。

 というわけでベッドを降りてジャパニーズDOGEZAの態勢を取るべく手すりを握ったところで、

 

 

 

「――トリオンの存在(その概念)を少年に教えるのはまだ早いのではありませんか? お美しいお嬢さん」

 

 

 

 ()()()()()()()

 開かれた病室の扉、外の廊下に黒服の男が立っている。額から鼻筋にかけて、それと襟足のそれぞれに稲妻の如くギザギザの金髪を走らせている長身の男だ。どことなく欧米の血を感じさせる顔つきをしているが、随分と日本語が達者なものだ。それはそれとして、

 

 

「……どうしていつまでも廊下に立っているんですか?」

「いえ、ただでさえノックの一つもなく扉を開けるという非紳士的な振る舞いをした上に、部屋主の許可なく足を踏み入れるとまであっては紳士の名折れというもの……故に(わたくし)は尋ねるのです。失礼、()()()の身ではありますが、立ち入ることを許していただけますかな? と」

 

 

 何とも芝居がかった口調の人である。けれども不思議なもので、()()()()()()()()()()()()()。筋の通った道化とでも言うのだろうか? つまりはアレだ、陽介族(バカ)だ。あいつの同類だ。

 さっきから出会ったばかりの相手を次々と陽介(バカ)呼ばわりして、とんでもないクソ野郎だな僕は。だが、この自称紳士がスーツの胸ポケットに付けているものに――ぶさかわいいとでも言えばいいのか、()()()()()()()()()()()()()()が描かれた缶バッジに、僕は見覚えがあるのだ。

 これと同じものを、陽介も持っていた。親戚から貰ったものだと彼は言っていたが、その存在をアピールするかの如く胸の一番目立つところに付けられたその缶バッジを見て、僕はなんとなく『私はこういう者です』と自己紹介をされている気分になった。この紳士は多分、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 どうぞ、と答えようとして、僕にはその資格がないことに気付いた。この紳士が部外者だというのなら、僕だって似たようなものなのだ。僕はまだ、ここにいることを許されている訳ではない。勝手に境界(ボーダー)を踏み越えて、周りに迷惑を掛けながら、無理矢理居座っているだけの人間なのだ。

 故に、彼を招き入れるかどうかを決めるのは僕ではない。そう思って()()()の方を見てみると、何故だか彼女は見覚えのあるくすくす笑いを浮かべていた。

 

 

「大庭くん」

「え、なに」

()()()()()()()()()って、言った筈なのだけれど」

 

 

 『あなたが決めていいのよ』と。

 そう言われた気がした。

 

 

 紳士の方へと視線を向けて、我ながら恐る恐ると言った感じで、「……どうぞ」と言ってみた。

 すると那須さんも彼の方へと振り向いて、こう続けた。

 

 

 

「入っていいそうですよ、()()()()()()()

「それでは、お言葉に甘えて」

 

 

 

 そう言って堂々と部屋に踏み込んでくる紳士と、再度僕へと向き直って「ごめんなさいね?」と悪意の欠片も視当たらない笑みを湛えている那須さん。

 ……知り合いだったのか。マジか。部外者だなんて言うから、那須さんとは何の繋がりもない人だとばかり思っていた。だったら普通に、彼女のことも名前で呼べばいいじゃないか。『お美しいお嬢さん』だなんて、まったく、つくづく()()()だな!

 

 

 大庭葉月(人間失格)那須玲(ワールドトリガー)紳士ウィルバー(賢い犬リリエンタール)

 ちくしょう、やっぱりまだまだ対等(フェア)じゃねえ。そう思った。

 

 

 

 

「事情はお元気なお嬢さんから伺っております」

 

 

 と、椅子に腰掛けた紳士ウィルバーは語る。

 『アタシに全部任しとけ!』と、よく分からないが凄い自信に満ち溢れた台詞と共に病室を飛び出していった仁礼光。彼女の向かった先はなんと、()()()()()()()()()()が一堂に会している最中の会議室だったというのだから驚きである。確かにお偉いさんとは言っていたがあくまで学生隊員からしてみればのレベルであって、その辺の手の空いている正規職員あたりが回されるものだと思っていた僕は紳士の証言を前にただただ唖然としていた。

 ちなみに会議室にカチコミをかけた時の第一声は、『サーセーン!! ウチで面倒見てるハヅキって奴が目ぇ覚ましたんすけどぉー!』だったというのだから目も当てられない。たかだか夜にこっそり警戒区域に忍び込んだだけの小僧の後始末に、そんな()の人たちが関わってくる訳ないだろ! いい加減にしろ!!

 でも、そうか。僕が目を覚ましたことを誰に連絡すればいいのかすら決まっていなかったほど、僕が発端で起きた騒動というのはボーダーにとって些事でしかなかったのだな。そりゃそうだとも思うけれど。禁止されているにも関わらず警戒区域に忍び込むようなバカも、記憶を消されることにごねるようなバカも、僕の前にだって飽きるほどいた筈だ。僕はたまたま()()()()()()()()()()()()()()()()職員の方(カゲさん)に話を聞いてもらえたからこうなっているだけで、特別扱いされる理由など何もないのだ。

 とにかく、僕のツッコミと似たような感じのことをお偉いさんの方にも言われたらしく、その後もあっちこっちをたらい回しにされてすっかり涙目になっていたヒカリの前に現れた救いの主が、このウィルバー氏であったのだという。

 

 

「途方に暮れる女性(レディ)を見かけたら声を掛けずにはいられないのが紳士の性……私が私であるために当然のことをしたまでです」

「まあ、あなたが紳士なのは()()()()()()ので別にいいんですが」

 

 

 そもそも何者なんだこの人。紳士とはあくまでも生き様であって職業に成り得るものではないと思うのだが。

 

 

「ウィルバーさんはね、唐沢営業部長と旧知の仲なんですって」

 

 

 そう語るのは那須さんだ。「学生時代は共にラグビー部でスクラムを組んだ間柄……いえ、そういえば彼はスタンドオフでしたな」と言って紳士も何やら思い出に耽っているのだが、僕はその唐沢営業部長とやらもラグビーのルールもよく知らないので反応に困るばかりだ。

 が、ウィルバー氏がラグビー経験者であるというのは納得のいく話ではある。背丈こそ高いものの体格はヒョロっとしていて正直ケンカとかも超弱そうなウィルバー氏ではあるが、何と言ってもラグビーというのは『紳士のスポーツ』なのだ。よって紳士であるウィルバー氏がラグビー経験者だということに疑いの余地はない。Q.E.D。

 

 

「彼とは3年ほど前まで、同じ()()で働いていたのですが――スカウトを受けて、彼はボーダー(こっち)に移ってしまいましてね。とはいえその後も、良き友人として交流を続けているのですよ」

 

 

 あ、ちゃんと働いているのか。そりゃそうだ。肩書きだけで飯が食えたら世の中苦労はしない。いやでも、そういう人もいるにはいるのかな。実態の無いもので儲けを得ている人達というのも。別に詐欺師だとか虚業だとか責めるつもりはないけれど。夢を売ることが罪になるというのなら、創作家の誰もが罪人になってしまうわけだし。

 

 

「ちなみにお仕事は何を?」

()()()()

「は?」

「いえ、失敬。これは()()での話でしたな」

 

 

 冗談……なんだよな? 僕の才能()は質の悪い嘘を見抜くことには長けているのだが、さっきの那須さん、或いはこのウィルバー氏のような、()()()()()()()()()から発せられた言葉の真偽を判別するのは不得手なのだ。

 まあ、だからこそ真偽なんてどうでもいいとも思えるのだけれど。そこに僕を不快にさせるものなんて潜んでいないと理解っているのに、いちいちつつく方がどうかしている。

 

 

「まあ、私個人の話はいいでしょう。少年が知りたいのは、私とお美しいお嬢さんの関係についてなのでは?」

 

 

 確かにその通りだ。「そうですね」と頷いてみせると、またしても那須さんが応えてくれた。

 

 

「私が協力している研究(プロジェクト)のスポンサーさんなのよ、ウィルバーさんは」

 

 

 なるほど。そういう繋がりだったのか。体の弱い人間が健康を取り戻すための研究に出資する。紳士だ。まごうことなき紳士である。しかし、高貴たる者の義務(ノブレスオブリージュ)とまで言い切るには、失礼ながらウィルバー氏からは身分の高さというものを感じられないのだが。一体何処からそれだけの収入を得ているのだろうか。やっぱり強盗か? 強盗なのか?

 

 

「はっはっは」

 

 

 何故このタイミングで笑うのか。こっちが()られているような気分である。

 とりあえず、ウィルバー氏が真の紳士であるということは理解した。氏と那須さんの関係についても明らかになった。ヒカリに声を掛けたのもまあいいだろう。で、一体この紳士は、僕の事情を聞いた上でこの病室に訪れて何を成そうというのだろう? そこが見えてこない。()えもしない。僕が理解(わか)るのはただ一つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……ヒカリから僕の事情を聞いたそうですが、彼女は一体、どういう説明をしたんです?」

「ふむ。少年が警戒区域に忍び込んだこと、そのせいでボーダーに昨日一日の記憶を消されかけていること……具体的な内容としてはその程度ですが、私が惹かれたのはこのフレーズですな」

 

 

 そう言って紳士は、彼女(ヒカリ)の言葉をそっくりそのまま口にした。

 

 

 

「『アタシに助けられたってやつがまだ困ってるから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どうすればいいのかわかんねー』と。彼女はそう言っておりましたよ」

 

 

 

 …………。

 ……なんだ、それは。

 君はバカだな。

 仁礼光ってやつは、本当に、陽光(バカ)みたいだ。

 

 

 ちょっと話を続けるまでに間を空けさせてほしい。

 

 

 

 

「よろしいですかな?」

「はい。すみません」

「うふふ」

 

 

 那須さん。何故あなたはそんなにも楽しそうに僕の顔を見ているのですか那須さん。僕の顔に何か付いてますか那須さん。『本当にもう敬えない?』みたいな目で僕のことを見るのは止めていただけますか那須さん。理解(わか)っている。これがいわゆる『バカはおれだ』って奴なんだろう。

 さて、『お元気なお嬢さんが()()()()()()()()()()になってしまわれた。これは紳士として看過できない事態である』とかいういかにも彼らしい行動原理の下、ウィルバー氏はヒカリを連れて、会議室へと乗り込んでいったのだという。

 一度追い払ったというのに、懲りずに戻ってきたヒカリにガミガミ言うお偉いさんとかネチネチ言うお偉いさんとかの口撃をひらりと交わし、唐沢営業部長に場を取り成してもらったりした末、最終的に何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのだから、会議室ではちょっとした奇跡が起こっていたのだとしか思えない。

「まあ、()()()があるのですよ。私にもね」と言って氏はニヒルな笑みを浮かべているのだが、先にも言った通りウィルバー氏からは身分の高さというものを感じられないのである。だから恐らく例の()()とやらにおける地位もそれほど高くないのではないかと推測されるのだが、その辺の真実は口八丁と勢いで誤魔化したんだろう。紳士の辞書に不可能の文字はないようだ。

 

 

「というわけで私が、少年の面接担当官を務めさせていただきます」

 

 

 そんなことある? としか言い様がない事態なのだが、起こってしまったからには仕方がない。現実として受け止めるしかない。それに、僕としてもウィルバー氏が面倒を見てくれるというのは願ってもない話なのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「よろしくお願いします」

「ええ。よろしく」

 

 

 しかし、話を進める前にこれだけは聞いておかなければいけない。新たに出来てしまった、僕が絶対にもう一度会わなくてはいけないひとの話だ。

 

 

「面接の前にお尋ねしたいのですが、その後ヒカリは一体どこへ?」

「昼のランク戦へと向かわれましたよ。ギリギリまで行くのを渋っておられましたが、少年のことは私に任せておきなさいと言って背中を押させていただきました」

 

 

 ランク戦。陽介や公平の口からちょくちょく耳にしたアレか。

 そう言えば昨日、陽介が僕とのカラオケに付き合えなかったのも今日行われるというランク戦に向けてのミーティングが理由だったと記憶している。ひょっとしたら今頃、陽介の部隊(チーム)とカゲさん達の部隊(チーム)が戦っていたりするんだろうか? 困ったな。僕は一体どっちを応援すればいいのやら。

 

 

「少年としては、最後までお元気なお嬢さんに残ってもらいたかったですかな?」

「いえ、彼女を送り出していただいたことに感謝しています」

 

 

 忘れられない(死ねない)理由がまた一つ増えてしまったのだ。記憶を消す理由が機密保持のためだというのなら、昨日一日だけではなく、今日の記憶もまた消されてしまうに違いない。忘れてなるものか。僕は何としてでもこの面接をクリアして、もう一度(ヒカリ)(カゲさん)の下へと辿り着いてみせる。

 

 

 ――あ、勿論ゾエさんにもお礼を言いますよ。ついでじゃないです。添え物扱いじゃないです。ゾエさんだけに。

 

 

 「結構」とウィルバー氏が頷いて、僕の運命を決める面接は始まった。

 

 




2020/11/25
改行の増加、内容の分割、それに伴う文章の微修正等を行いました。
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