葉月の異常な愛情~または僕は如何にして心配するのを止めて近界民を愛するようになったか~ 作:Amisuru
脹相とかいうお兄ちゃんが最高にお兄ちゃん過ぎて
葉月くんはもっとお兄ちゃんを頑張らないといけないなと思った今週の呪術でした
と、いうワケで。
「三人とも、今日は付き合ってくれてありがとう」
『「……ございました」』
兄妹二人、揃って頭を下げる。傍から見たら一人にしか見えないだろうけども。
……いや、何なんだろうな? あの無垢な子供のような、純粋な興味に満ちた感情は。心なしか顔付きも貴族のようだというか、物語に出てくる
どうしよう。正直めっちゃ気になるぞ。しかし流石にこれ以上寄り道している余裕はない。次の機会を待つとしよう。
「……礼なんかいらねーけどよ、おれとしちゃ葉月とまともに勝負できなかったのが不満だぜ」
「いや、悪いね公平。今日はちょっと後の予定がつっかえてるもんで」
「――ま、いーけどよ。別に今日じゃなくったって、これから幾らでも戦れる機会はあんだしな。おい、さっき教えた
「忘れない忘れない。……でも、そんな気軽にお邪魔しちゃってもいいのかな? A級1位の作戦室だなんて、それこそ選ばれた人しか足を踏み入れることは許されないイメージが……」
「ははっ、太刀川さんとこにそーいう堅っ苦しい空気はねーよ。下手すりゃボーダーの中でも一番雰囲気ユルい
それでいいのか界境防衛機関……。
いや待て。逆に言えば、そんなユルい空気の
というか噂の太刀川さん、公平のところの隊長さんだったのか。これは楽しみが一つ増えたな。関係各者のコメントから察するに最近はどうにもスランプ気味とのことだが、仮にも風間さんが
「自分の
「那須さんはこれから自分で隊を作るんだっけ?」
「ええ。入隊式の時に紹介した茜ちゃんと、くまちゃん――前に話した正隊員の友達と、それからもう一人、大庭くんに会わせようと思っていた
あ、そうだ。ようやく思い出した。僕はその件で那須さんと話をする必要があったんだった。
なんだっけ? 男の人が苦手で? トリオン体の僕なら見た目は女だからもしかしたらと思って? 僕らに協力してもらおうとしてたんだよな、那須さんは。
……何だろう。滅茶苦茶どっかで聞いた話だな。というか、なんで
「……その子の名前、志岐小夜子って言わない?」
「あら。そこまで判ってしまうのかしら?
「流石にそんな万能じゃないよ。ブースに来る前、本当にたまたま話す機会があったんだ」
「すごい偶然ね――って、普通にお喋りできたの? 大庭くんと小夜ちゃんが?」
「
言いながら横目で陽介の方をチラ見すると、明後日の方角を向きつつ口の形を『3』にしているデコ出しクソ野郎がそこにいた。米屋くん、人が話している最中によそ見をするのはやめなさい。
「とりあえず、次に会ったら正直に事情を明かそうとは思うんだけど――それはそれとして、そのうち那須さん達の作戦室にお邪魔する時、
「……それはやっぱり、小夜ちゃんに気を遣ってのことかしら?」
「勿論、それもあるけど――」
……さて。
そんじゃぼちぼち、僕が温めていたサプライズプレゼント、第2弾の開示と行きましょうかね。
「――那須さんのチームメイト達には、
『「……へっ?」』
自分自身を愛するように、汝の隣人を愛せよ。昨日一日で
――僕にとっての陽介と公平みたいな存在が、陽花にも必要なんじゃないかと、思ったのだ。
『「ちょっ、私、そんなこと頼んでないっ……!」』
「まーまー。まーまーまーまー」
「……キレ気味に暴れてる左半身を右半身が宥めてやがる……」
「葉月ー、あんまりまーまー言ってっとそのうち三浦みてーになんぞー」
「誰それ」
「あー、香取隊っつーとこの
『「三浦だかミューラーだか知らないけどそんな人のことはどーでもいいんですぅー!! あのねお兄ちゃん、頼んでもいないのに勝手に人の交友関係広げられても困るっていうか――」』
「あら。くまちゃんも茜ちゃんも小夜ちゃんも、みんなとっても良い子たちよ? 陽花ちゃんともきっと仲良くなれると思うのだけれど」
『「う゛っ……お、お姉様……」』
那須さん、ナイスアシスト。
ところで陽花が三浦某氏のことをミューラー呼ばわりしたとき、遠くの方の王子様がやたら良い笑顔を浮かべたのだけれど、あの人は一体何なんだろうか。その『共感』は一体何なんだ王子様。もしかしてあなたも三浦某氏のことをそう呼んでいるのか? 結構良いセンスしてるじゃないか。僕も勝手にそう呼ばせてもらおう。
『「……お姉様のお友達が良い人達でも、私の方はそうじゃありませんよ」』
「そんなことはないわ、陽花ちゃん」
『「どうして言い切れるんですか? 私達みたいな
「――そうね。根拠があるとすれば」
そこで那須さんは言葉を切って、僕らの左側――陽花の方へと向いていた視線を、ほんの少し、横にずらして。
「陽花ちゃんが本当に悪い子だったら、大庭くんは――あなたのお兄さんは、私達にあなたを紹介しようだなんて思わなかったんじゃないかしら?」
『「――――」』
「私、こう見えても
……どうしてこのタイミングで、こっちを見ながら悪戯っぽく笑うんだ、君は。
でもまあ、うん。
今の言葉に嘘がないのは、
「……え、そうなの? おい、あの二人ってひょっとしてそうなの?」
「そうなのって何だよ。弾の撃ち過ぎでいよいよオレよりバカになっちまったか?」
「だーくそ、これだから槍ぶん回すことしか頭にねえヤローはよ……! そーだ槍バカ! これからはてめーのことを槍バカって呼ぶかんな! 今決めたぞこら!」
「……ははっ、そりゃいーや。おかげで
え、なんか視界の隅っこでバカ二人が超興味深い話してる。正直めっちゃ混ざりたい。でも流石にこの流れで陽介たちの方に行ったらそれこそ僕って人間失格の烙印押されるよな。我慢だ我慢。じっと我慢の大庭葉月。
「要するに――那須さんの言いたいのはアレだ。『
「あら、素敵な言い回しね。そうね、大体そんな感じよ」
「今……なんかホメられた気がする……俺とよう似た声の人のセリフが……」
「何言うてはるんですかイコさん。ほら、4000点越えたんすからちゃっちゃと正トリガー貰いに行きますよ」
さっきから外野が気になって話に集中できないんだが?
まったく、ボーダーってのはつくづく愉快な人達ばっかで困っちゃうよな、マイシスター――
『――本当に、信じてるの? 私のこと』
……あー、まあ。
そういえば、まだ信用は出来ないだなんて、言ってたっけか。ほんの2週間前くらいは。
『今は?』
――少なくとも、僕を
その程度には、信じてるよ。これで満足か?
『……人のことツンデレだとかどうとか言ってるけど、お兄ちゃんだって大概だよね』
うっせぇわ。
うっせぇうっせぇうっせぇわ! あなたが思うより
『――ホント、もう見飽きたわ二番煎じ言い換えのパロディって感じ。お兄ちゃんの芸風』
どうだっていいぜ。
問題はナシ。
『あと私、あの歌あんまり好きじゃない』
同族嫌悪かな?
『……うっせぇわ』
ほれみろ。
『「――わかりました」』
そう言って、
まあ、割といい感じに笑えているんじゃないだろうか。多分。
『「私、お姉様のお友達とも仲良くなれるよう、がんばります。……頑張らなくても仲良くなれるなら、それに越したことないですけど」』
「そこで日和るなよ」
「ふふっ――大丈夫よ。言ったでしょう? みんな良い子たちだって。すぐに打ち解けられるから安心してね、陽花ちゃん」
そう言って微笑む那須さんの感情からは、チームメイト達への確かな『信頼』が伝わってくる。なるほど、これは確かに安心できそうだ。というか、日浦さんと志岐さんについてはこの
那須さんが僕を信じてくれたように、僕も彼女を信じている。だから、何も不安などないのだ。
『「……はい!」』
果たしてその頷きは、僕と那須さん、どちらに向けてのものだったのか。まあ、どっちでもいいだろう。
とにかく、これにてようやくミッション
「――それじゃあ、名残惜しいけど今日はこの辺で! みんな、
「おー、んじゃな」
「リベンジ楽しみにしてんぜー、葉月。ツンデレシスターもよ」
「――今日も楽しかったわ。大庭くん、陽花ちゃん――またね?」
『「ああっ、やっぱりお姉様から離れたくないっ……!」』
「はい、左足だけで踏ん張ってないで帰りましょうねー」
――ちなみに、わざわざ言わなくてもお気付きの方が殆どだと思うのだけれども。
僕らの持っている
その結果、僕とみんなの関係に何か変化が生じたのかと言えば、まあ、御覧の通りな訳でして。
なんていうか、本当に。
みんなのことが、大好きです。
愛してます。
「――さてと。おれらはもうちょいランク戦やってくつもりだけどよ、那須さんはどーすんだ?」
「……そうね。正トリガーにも早く慣れておきたいし、私ももう少しだけ残ろうかしら」
「おっ、そんならいっちょオレとバトろうぜ色白ガール。弾バカと違って結構動けるタイプみてーだしよ、追っかけ回すのが面白そーだ」
「おまえ、女の子相手にその言い回しはどーなんだよ……」
「ふふっ――大庭くんのお友達らしいわね。いいわ、相手になりましょう。米屋くん――」
「――こんにちは。ちょっといいかな? よねやんとイズーミン」
その少年は、
恵まれた容姿、涼やかな声色、そしてきらきら輝いてすら見える、爽やかな笑顔。そのどれもが、人目を惹きつけるに足る魅力に溢れていた。
そして何より、苗字自体も、王子だった。
生まれながらの王子。父も母も王子。故に彼は、王子以外の何者でもなかった。
「――あれ、どしたんすか? 王子先輩」
出水公平がそう呼んだ少年の名前は、王子一彰。
「さっきの子は、イズーミンたちの友達かい?」
「ああ、そうっすよ。昨日入隊したばっかりらしいんすわ、おれは遠征行ってたせいで今日初めて知ったんですけど」
「なるほどね。どうりでぼくも見覚えがなかったわけだ」
「おうじ先輩……」
「やあ、きみも初めて見る顔だね。もし良ければ、名前を訊かせてもらっても構わないかな?」
「那須玲です」
「ぼくは王子だ。これからよろしく、ナースレイ」
「那須玲です。――どこの国の王子様なんですか?」
「残念ながら今は
「……天然同士の会話だなこりゃ」
「ははっ、おもしれー。せいぜいツッコミ頑張れよ弾バカ」
「え、この二人の会話におれが混ざんの? マジで?」
ボーダー屈指の美男美女が並び立つ眼前の光景に、思わず腰が引ける出水。もっとも彼の容姿も十二分に整っている側に入るのだが、本人には特に自覚がなかった。彼もまた
「そこに
「ひよこげつ……」
「へーへー、どうせオレの弧月は生まれたてのひよっこでしたよ。ピヨピヨ」
「反応するとこそこじゃねーだろ……つーか、ひょっとして二試合とも見てたんすか?」
「一戦目はたまたま、二戦目はより注意深く――ね。肝心の弾が飛ばないまま吹っ飛ばされたのは予想外だったけれど、そんな意味のわからないところも含めて彼女はおもしろい」
「……あー、そういやその、
反射的に訂正を入れたものの、親友の体質についてどう言い表したものかと頭を悩ませる出水。ただ単に『女の外見をしているが実は男である』というだけの話でもなし、そもそも勝手に事情を話してしまってもいいものか――そう考え込んでしまう程度には彼は友人思いであり、同時に根が真面目であった。
「おや、もしかしてぼくは失礼なことを口にしていたかな」
「いや、王子先輩は何もおかしなこと言ってないんすけど……なんつーかあいつ、
「――へえ。それは中々に興味深いね」
「これ以上はおれの口からは何とも。気になるんなら、本人に直接訊いてみたらいいんじゃないすかね。多分ですけど、王子先輩とあいつの相性は――」
これまでの付き合いにおける、親友の奇天烈な言動と突拍子もない行動の数々を振り返りつつ、苦笑ともしかめっ面ともつかない微妙な表情で出水は口にする。
「――めちゃくちゃ噛み合うか、
「それはいいね。どちらに転んでも楽しくなりそうだ」
「そういう『面白さ絶対主義!!』みてーなところが似てるっつー話なんだよなあ……」
「ま、王子さん好みのおもしれーヤツっすよ。冗談が通じないタイプってわけでもねーし、ウチの秀次と違って」
「ははは、別にシュージンを嫌っているわけではないんだよ? ただちょっと、彼とぼくでは住む世界が違うというだけの話さ」
「それで、彼女――いいや、あの子の名前はなんていうのかな?」
王子一彰。彼は初対面――それどころか、見ず知らずの相手に対しても珍妙な綽名を付けることで知られている。現にあの那須玲でさえも、瞬く間に新種のポケモンか何かの如き呼び名を付けられてしまったのだ。おれはおれでロシア人みてーな綽名付けられてるし。まあ、
「――葉月。大庭葉月です」
「なるほど――」
何が一体なるほどなのか。相も変わらず、この先輩の考えていることはよく理解らない。
今まさに新たな珍名を授かろうとしている友人のことを考えつつ、出水公平は溜息を吐いた。
――まったく、ボーダーってのは方向性の違う
王子一彰。三門市立第一高等学校在籍の1年生。優秀な成績を修めながらも、人格面の問題から六頴館への進学を果たせなかったこの少年は――
後年に比べて、ほんの少しばかり、
何の偶然かアニメと登場タイミングが被りました。イコさんもカメオ出演。
王子の六頴館落ちは『可能性はあります』止まりで断言はされていないのですが、
いつもの如く捏造ですので寛大な心でお見逃し頂ければ幸いです。
次回、ようやく帰宅。
お使いが終わっても一日が未だに終わらない問題