【完結】アイドルマスター765AS アニメver.RTA 【皆オンリーワン】獲得√ 作:タバサックス
まだ前の話をご覧になっていない方は、そちらを先にお目を通してからお読みください。
これで完結となります。(明日後日談を投稿します)
最後の山場を乗り越えるRTA、は~じまるよ~!
前回は何とか春香と美希を連れ戻すことに成功しました。
いやー、首の皮一枚つながった感じです。ですが、まだ危機的状況は続いています。
ええ、最後の千早に関してです。彼女に関しては非常に取り扱いが難しいです。というのも、一回の行動で彼女に前を向かせることが困難だからです。
二人の悩みの種はアイドルとしてのモチベーションに関する問題なのに対し、千早の問題の種は過去による心の傷とその解決方法ということから絶対に二回分の行動が必要となります。
とりあえず、話を進めておきましょう。
【明日はライブと言う日になった。現在、765プロのアイドルは十二人揃った状態だ。春香と美希も、昨日の懸命の説得のおかげか事務所にいる。その際に二人とも深々と頭を下げて謝ったのだが、765プロのメンバーは彼女たちを笑って受け入れた。あとは千早がそろえば全員揃うのだが……。
前回、ある人に会ってほしいということで遠征を任せた班の人達も今は事務所にいる。それらの道具の準備も完了したため、保坂は全員で千早の家に向かおうと声をかけた。それは彼女にとって迷惑ではないかという意見も出たが保坂の意志、用意したものを運ぶための人員、そして何よりも春香の要望もあって全員で向かうこととなる】
それでは、移動時間中は倍速です。その間に先ほど説明した、二回分の行動が必要なことについて補足説明を加えます。具体的には、まずは彼女の過去についてメンバーに知ってもらうという段階があります。そして、それを仲間がフォローするというのが第一段階です。
第二段階は彼女が再びライブに立つまでにある程度の時間経過が必要なところです。具体的にはもし第一段階がうまくいったとしても、それを飲み込ませるには彼女自身に悩ませることが必要になります。過去による悩み、というのはそうやすやすと解決するものではありませんので。
千早のことを我々が支えることはできますが過去と決別するのは最終的には千早自身です。そのために、彼女自身がその葛藤と戦う時間が必ず必要となるということですね。
その段階を吹き飛ばすことは、今まで彼女が培ったものを壊すことに他なりません。
いや、場合によってはできなくもありません。彼女にとって家族と同じくらいに大事なものを作れば、それのために歌えるようになりますから。具体的には、例えば彼女と恋人になるというものがあります。
当然それはそれで困難の道を究めます。千早は歌に執着と言っても良いほど取りつかれており、一時期歌以外のことはすべてそぎ落としてきました。そんな彼女が、恋に現を抜かすなど普通は無理だと思ってください。
「普通」と表現したのは、不可能ではないということです。最初こそ彼女はつっけんどんであまり人当たりも良くないのですが、プロデュース活動を行うことで彼女の態度は徐々に軟化していきます。特に彼女へ高い頻度で、コミュニケーションを取ればその勢いも早くなります。
その状態になるときっかけ次第で、彼女とそういう仲になることも不可能ではありません。きっかけとは何かというと、最もポピュラーな例を挙げれば歌に関する悩みをプロデューサーに相談してくれることでしょうか。彼女は歌に絶対の自信があるということにも拘わらず相談、それこそが彼女にとって一番信頼している証拠になります。
ですが、その手法は今回取れません。純粋にホモ君のコミュニケーションが足らなかったからですね。誰のせいだよ、あ、私のせいか。(自己解決)
なので、今回はその手法ではなく王道的手法を用います。
この手法は絆レベルが稼げていることと時間的余裕があれば、恋人ルートよりも比較的緩い条件で解決できることがメリットです。ただし、先ほども言った通り絶対に二回行動せねばならないため、このままでは詰みになります。ええ、このままでは。
ここからは運も入りますがやるしかありません。到着しましたので倍速を解除しましょう。
【あずさが昨日訪れたために彼女の様子を聞いたのだが、千早はそれなりに元気そうだったということ。ふさぎ込んではいるものの、声に力強さもあり多少なりとも話を聞いてくれるような状況であるという。なので彼女と話させてもらおうと決めていたのだ。なので、インターフォンを鳴らす。
千早が玄関から出てきた。彼女は着替えもあまり意識していない状態で、顔も曇ってはいるもののこちらを見る目には確かに力強さを感じる。彼女に話をしたいというと頷いてくれたために、中に入れさせてもらうこととなった】
さて、ここからが正念場です。まずは絶対にやらないといけないこととして、彼女の心を動かすことから始まります。そこまでは、ホモ君の仕事というより彼女たち765プロのアイドルの仕事と言えるでしょう。もちろんダメそうならフォローしますが、春香なら大丈夫でしょう。ゆえに、ここからはあえて少し見せ方を変えていきたいと思います。
【「……勝手にレッスンを休んでしまって、申し訳ございません」と、千早が切り出す。それに対して、まずは保坂が記事のことについて、そして勝手に彼女のプロフィールのことについて調べてしまったことについて謝る。彼女は謝罪を受け取らず、顔を背けてしまう。
「ねえ、千早ちゃん……今、体調はどう?」
春香が、真っ先に彼女の心配をする。実質的に、本人を除けば彼女の心配を一番していたのは春香。だからこそ、千早の微妙な体調の変化に気づいたのだろう。
「……大丈夫よ。でも、次のドームライブはできそうにないわ……ごめんなさい」
千早が振り絞ったような声でそれに応える。春香に自分の体調を伝える千早は、見ているこちらが目をそむけたくなるほどに辛そうだ。春香もその様子に顔が一瞬悲しみに染まってしまうのだが、あえてなのか彼女は千早へ少し微笑んだ顔つきで話しかける。
「……ねえ、千早ちゃん。アイドルって何だと思う?」
急に春香が今と関係ない話を始める。周りのみんなも一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに納得の表情を浮かべた。千早は、
「……歌うことかしら。歌うことで、観客のみんなを魅了すること」
とどこか自信なさげに千早は答える。自分自身で言っておきながら、なぜかその答えには違和感を覚えてしまっていたからである。だが今、彼女が持ち合わせている答えはそれしかなかったがゆえに歌という答えになった。その答えに、春香は否定せずに笑顔で自分の考えを述べる。いや、応えはじめていた。
「そっか。私はね、いろんな人と頑張ることで
春香は、思い出したかのように喜色一面の笑みを浮かべる。それは、まるで彼女が舞台の上に立っているかのような笑み。千早はそれについて、戸惑いはなく真っ直ぐに彼女を見つめる。
「……実はね、途中で本当にみんなで頑張ることが正しいのかわからなくなったんだ。だけどその時に思い出したんだ。みんなの輝いている笑顔を。そして、観客の皆の笑顔を。
それって、私たちが舞台上でみんなで作り上げているからこそ、できるものだと思うんだ。だから、これからも私たちの楽しいをこれからみんなで伝えていきたいと思っている。
そして、その楽しいは私たち全員がそろわなければ絶対にそろえられないと私は考えている。……ねえ、千早ちゃんはどうかな?
私たちのデビューの時のライブ*1、二回目のライブの時*2、そして運動会に生っすか。どうだったかな?」
そこまで話して千早はハッと驚いた。だが、その表情はいまだに固い。だからこそあの事実を伝えなければならないと。
「……確かに私も楽しかったわ。だけど、今は違う。私は、今はもう歌えない」
と先ほどのか細い声でありながら透き通る声を出す。その声は彼女の感情を強く載せており、そして周りに伝搬していく。
「私は、歌わなければならない! 弟の、優のために歌ってあげなければならないの!
それが私にとってのアイドルよ! だけど、もう歌えないんじゃ、アイドルなんて……」
「それは違うぞ」
急に響が声を出す。そこから、ファンキーノートの面子がある道具を取り出す。その手には、スケッチブックだったりメモ帳だったりと様々なものが出てきた。それを見た千早が目をかっと見開く。
「そのノートは、優の……」
「千早、ごめんな。勝手にいろいろとみてしまって。だけどな、今の言葉は違うと思うぞ。このノートを見る限り、千早は歌うことが大好きだったはずだ。それは弟の優君が好きだったからということもあると思うが、千早自身が元々好きだったからこそ続けられたことだ」
そのノートには、絵日記が書かれていた。やや大きい女の子のような人と小さい男の子が一緒に歌っている図である。そしてその横には「うたうのがだいすきなおねえちゃん」と書かれている。
「あんたね、今まで優君のために歌うのが大好きだって言っていたけど、そもそも優君が好きなのはあんたが楽しみながら歌う姿よ。だけど今の貴方は違う。まるで、何かに追われるように歌っている。だから、一つどうしても聞きたいことがあるの。
伊織が千早に投げかける。その言葉は少ないながらも、彼女の心を強く揺さぶる。そして、彼女が再び悩み始めた。まるで、何が正しいのか一から模索し構築しているように見える】
さて、良い所なのに失礼ですがこの隙に解説をしておきましょう。
昨日のうち、律子とファンキーノートのメンバーには何をさせていたかと言うと、千早の母にキーアイテムと話を聞かせに行かせていました。
原作では母親自身が動いており春香にノートを手渡して、そして過去についても話すのですが、今回はそんな時間がなかったです。なので役割分担として先に連絡を取ってから彼女たちを向かわせたということです。そこで、彼女達にいろいろと話を聞いたために千早に問いかけていました。
一応はこの内容については春香にもある程度教えてはいましたが、やはり直接的に知ったのと間接的に知ったというのは微妙に異なるらしく今回はファンキーノートの面子が彼女に問いかけました。さて、そろそろ彼女の自身との問答も終わったようなので再開します。
【「わからない! どうしたら、優が楽しむような歌を歌えていたか……。
今まで技術を伸ばせば、そして練習量を増やせば歌がうまくなれると思っていた。だけど、それを積めば積むほど自分の中がどんどん空虚になっていく。
最初は練習不足だと思ったけど、どれだけうまくなっても満たされることはない……ねえ、どうしたらいいの?」
千早が初めて見せる弱音。彼女の歌へストイックさは尋常ではない。なにせ、大量の仕事を持ってきた保坂に一度直談判をしたことがあるほどである。最終的には歌にもつながるといって説得はしたものの、やはり彼女の心の穴を埋めることはできなかった。*3
「千早ちゃん、それは、もう千早ちゃん自身もわかっていることだよ」
春香が千早に微笑みかけながら声をかける。それは、彼女にとって望んでいた声。自分自身を埋めるために何が足りないのか。彼女の声をあたかも注視するように見つめる。
「さっき、千早ちゃんは私が『みんなと一緒に頑張ること』について、楽しいといっていたね。それが正解なんじゃないかな?」
というと、あ……とつい口から声が出てしまったようだ。そう、確かに答えは出ている。春香が先ほどみんなと一緒に頑張ることは楽しいといったときに、千早は確かにそれに同意した。あの時彼女は自分自身でいっぱいのため、嘘をつけるような状況でもない。つまりそれが本心なのだ。
「でも、今の私は歌えないから頑張ることも……」
「だったら、一緒にライブで踊ろうよ! みんなと一緒に踊っていたら楽しくなって歌えるようになるかもしれないよ!」
というと周りのみんなが頷く。そうして千早は他のメンバーを一人ひとり見渡すのだが、視線が合うたびに仲間たちが彼女に関して強く信頼した視線を向ける。その視線から何かをもらったのか、彼女は一人俯いて……
「少し、考えさせてください」
と言った。プロデューサーが千早に考えさせる時間を与えてやってくれ、と声をかけたために全員がその場から去ろうとしていたのだが保坂だけがその場にいた。春香が、プロデューサーさん? と声をかけると少しだけ話したいことがあるから先に帰ってくれ、と声をかける。納得したようでその場から全員が立ち去った】
よし……なんとか、一段階目は上手くいきました!
先ほども話した通り、プロデューサーが何とかするよりかは事情を深く知った面子と千早の一番の友達であり、仲間である春香が彼女を励ました方がうまくいくことが多いです。
もちろんキーアイテムを持っているならプロデューサーがやっても構わないですが、これも一番信頼度の高い人が行うのが可能性として高いですし、彼女も耳を傾けるのでそちらをお勧めします。さて後は最後の仕込みを行いましょう。
【千早に、最後に少しだけ話させてくれ、といった。
視線はこちらを向いていないが、恐らく意識はこちらに耳を傾けるように思えたので話し始める。
ライブ云々は一旦さておいて、千早は765プロのことをどう思っているか? と。
もしそれが大事なものなら、いつでも千早のことを待っているから事務所に帰っておいで、と声をかけてその場を立ち去った】
仕込みはこれで十分です。これ以上喋っても、彼女の考える時間を削るだけで成功率が下がってしまうだけです。後は彼女がトラウマを克服できるか否かがポイントです。
……一応、もう一つ仕込みをうっておきますか。
【事務所に帰ってから彼女たちは練習を始めた。その隙に彼はあるものを集める。そして休憩時間中にそれについて書いてほしい、と伝えると全員が笑顔で了承してくれた。これが今保坂ができる最後の仕事だ。後は、明日になってみないとわからないだろう】
はい、これでプロデューサーができることはすべて終えました。まだ千早が戻ってきていないのに大丈夫なのか? と思うかもしれませんがこれで大丈夫です。
本当はもう一日時間があれば、彼女の元に訪れて一緒に練習をさせたかったのですがないものは仕方ないです。
ちなみに、これからはもう走者は操作できません。そうしゃだけに(激ウマギャグ)
……ごめんなさい、ギャグを入れていい場面ではありませんでしたね。
さて、何回も言っているように本来は千早を迎えに行くことを含めてこのイベントは二回必要ですが、実はある条件で一回に収めることができます。
それはランダムイベントに期待することです。先ほど彼女に一緒にライブをしようと声をかけました。この時に、千早の自発的行動によって、すなわち彼女が自分の心の整理がついた場合、ランダムイベントとして処理できます。その際プロデューサーの行動回数を奪わないため、もしうまくいけば一回分節約になります。(珍しいRTA要素)
なんで挫折するときにそのことを思い浮かばなかったのか、と言いますと理由は三つあります。一つ目は、このイベントには絶対千早と美希を含めた十二人が必要だからです。そうでないと、彼女への説得力がかけてしまいます。
もう一つは、そもそも行動回数が足りません。このランダムイベントのために、一度は千早の元へ訪れないといけない都合上結局春香、美希、千早の三回以上動けないといけません。しかしあの場面では二回しか動けないため、やはり詰んでいました。
このイベントの真骨頂は、仲間とライブすることが楽しいということを千早に思い出させることにあります。その際に一回の行動を起こさないといけません。そして、それを思い出させるのにカギとなるのは春香と弟さんである優君のノートです。
こちらのイベントも本来は行動を一回消費しなければなりません。原作では母親が訪れてきましたが、このゲームではきちんと彼女の元へ訪れて話を聞く必要があります。ゆえにどうあがいても行動回数が足りなかったのですが、役割分担をすることで何とか無理やり帳尻を合わせました。
本来分担はあまりメリットのある行為とは言えません。なぜなら、純粋にアイドルたちがそういうことに慣れていないからです。プロデューサーの仕事は、彼女たちの体調管理とそして彼女たちを売り出すことです。それがアイドルたちにできるのであれば、プロデューサーなんて仕事はそもそも存在しません。
だからこそ、賭けだったのですが……どうやらうまくいったようです。はぁ、良かった。
あ、もう一つの理由は単に私が知らなかったということです。このランダムイベント、起こる確率は非常に低いために普通は千早の元に訪れる人が多いです。しかし、今回はその低確率の糸を手繰り寄せなくてはいけません。
さて、それでは明日まで倍速。ちなみに、明日はもう操作できないのでRTAパートはありません。それでは、明日をお祈りください。
〈翌日〉
まだ日が登り始めたころ。
765プロには十二人のアイドルが集合していた。そのメンバーは、全員駅側の方向へと向いている。
「春香、もうそろそろ出発だ」
「プロデューサーさん! もうすこし、千早ちゃんのことを待ってあげられませんか?」
「春香、無茶を言ってはいけません。本来出発する時間をもう大幅にずれています。これ以上遅れると、ドームライブの進行に影響が出てしまいます」
と、行動に出てしまいそうな春香を収める貴音。本当は全員が春香の言う通りにその場で待っていたいのだが、ライブのことを考えるとこれ以上この場にいるのはまずい。
だからこそ、全員が少し俯いているのだ。貴音も、こんなことが言いたくて言っているわけではないのだがあえて憎まれ役を打って出ている。
「春香、心配しなくても俺が彼女のことを連れていく。それこそ、高速道路に乗ってすぐに、だ。だから、とりあえずドームの方へ向かってくれ」
「……わかりました」
春香も保坂が連れてきてくれるということで納得した。ここからは別行動になる。春香たちは予定通りドームへと向かう。保坂は事務所で仕事を終えた後に、千早のことを待ってから彼女をドームへと連れていく。このように役割分担をし始めた。彼女達は替えが効かないが、保坂であれば何とか代用が効く。それゆえに、このような作戦を立てたのだ。
そうして、彼女たちが出発した後事務作業を再開する。彼女たちのドームライブ後の仕事についてだ。あのような記事が掲載されたにもかかわらず、仕事の量はほとんど減っていない。
765プロは電撃デビューを果たしたわけだが、思った以上に観客からの高評価を得ていた。そしてその影響はは減衰することもなく今も続いている。そうでなければ結成してすぐのグループがドームライブをできるはずもない。自分の選択を苦く噛み締めながらも、時計をちらちら見つつ仕事を進める。
そうして、しばらくして仕事が終わった。千早に見せる例のものもすっかり準備を完了させる。時計を見るとそろそろ出発しなければ間に合わない時間。本当は千早のことを迎えに行くべきだったのかもしれない、と自分の選択を責める。今思うと、選択を誤ってばかりだと彼は自嘲する。
女性のことが苦手になってしまったときもそう、彼女たちをいきなり電撃デビューさせてしまったこともそう、そして記事の件についても。
自分だけで考えた選択を振り返ると過ちばかり。後悔ばかりしていないで、急いで彼女の家に向かおうと準備を始めているとドアが急に開いた。
「すみません、遅れました!」
長く清楚な黒髪を揺らし、そしていつもクールなはずの彼女が、表情を険しく呼吸も荒い状態で入室してきた。だが昨日に比べるとずっと良い顔をしており、まさに輝かんとしている。
「よく来てくれた、千早! 急いで、ドームへ向かうぞ! 準備はいいか?」
「はい、お願いします。プロデューサー!」
そうして彼女の悩みについて、調子について、何よりも765プロについてどう思っているか、などなど聞きたいことはたくさんあったが、それよりも彼女を送り届けることが何よりも最優先である。車に乗る前に、彼女に例の封筒を渡してから車に乗った。運転しながら、千早に声をかける。
「……調子はどうだ?」
「正直に言えば、まだ本調子とは言えません。あの後何度も歌おうとしてみましたが、やはり声が出てこなかったです。歌を歌えないアイドルなんて、その場にいる意味がないと思いますが……それでも」
「ああ、問題ない。ステージの上に立てば、千早は歌えるようになる。それは、俺が保証する」
そういうと、千早は少し表情を変える。それは今までに無い新鮮な表情であった。
「……意外ですね。保坂プロデューサーがそのような不確かなことを言うなんて」
「不確かなんかじゃないさ。俺は、確かなこと以外はあまり口に出さない。精神論自体、そこまで好きじゃないからな」
と、運転しながら声をかける。
千早は、その言葉に納得したのだ。プロデューサーは、いや皆が私のことを信頼していると。
アイドルとして活動できると。また舞台に立てると。その期待が先ほどまで重くも感じられたが、今の彼女には自信として形成されるものであった。
「最後に一つ聞きたいことがあるけど、いいか?」
と、保坂が話しかけたのでそれを千早が了承すると
「千早、君にとって765プロとは何か?」
「それは、私にとっての原点であり帰る場所です。そして、一緒に仕事を追求する人達でもあり、そして一緒に励まし合う仲間です」
とよどみなく、ためらうこともなく答えた。その答えに保坂は笑顔を浮かべる。彼女にとっても寄りかかる相手は歌だけではないから。一緒に支え合う仲間をようやく頼ることを覚えたからのだから。
「……そっか。なら、その封筒を開けてくれ」
その言葉によって、千早は封筒を開けるとそこには12枚の紙が入っていた。それを一枚一枚手に取り文章を読むと……彼女がびっくりした顔を声に出した。
「これは、皆が私のために……」
「ああ、皆千早が来ると思っていたからな。だから、昨日の時点で用意しておいたんだ」
そうして、車は徐々に加速していくのであった。
そしてドームに到着した。時刻はライブの少し前。これから着替えとメイクをしたりするとなると、時間ギリギリにはなるが何とか約束を果たせたことにはなるだろう。
彼女を見送った後に彼はある席に座る。その横には、社長と事務の音無がいた。
「やあ、保坂君。何とか如月君も間に合わせたようだね」
「ええ、おかげさまで。……本当にありがとうございます」
と、保坂は社長に礼を述べた。もし、彼が保坂をやる気にさせていなければこの舞台はなかったのだから。さすが、元敏腕のプロデューサーだと社長へと深く感謝を示すために言葉と共に頭も深々と下げる。
「私のおかげではなく君が奔走したおかげだよ。彼女たちのことを信じて任せたからこそ今の舞台がある。……これからも、アイドルのことを信じることを忘れなければ、君も彼女たちもより活躍できるだろう」
社長が声をかけるや否やライブの始まる時間となった。目の前には、彼が育ててきたアイドルが並んでいる。お膳立てしたのは保坂だが、彼女達は彼女たちの意志でこの場に立っている。それが何よりもうれしいと保坂は喜色を浮かべる。
そして最初に全体曲が始まる。例の三人もダンスにはきちんとついていっている。最後の練習量が少なくなったために、若干不安が残ったがそれを感じさせないほどに彼女たちは人を魅了する。ついに、歌は千早のパートに移った。
千早が頑張って口を開くが声が出ていない。それに一瞬苦しいような表情を浮かべるが、彼女の周りには仲間がいる。彼女の仲間が笑顔で待っている。だからこそついに歩き出す。
約束によって、彼女も動き出した。
「なあ、保坂君。君は以前、自分の選択は間違いばかりと言っていたな。だが、この光景を見ても、君はまだそう思うかね?
この輝かんばかりの彼女たちの宝庫は、君の選択の末のものだと思うのだよ」
「……はい、そうですね。今思えば、もっとうまく彼女たちを導くことはできたと思います。だけど今彼女がこの場で立っているのは少なからず自分たちの選択と努力のものだと、今では自信を持って言えます。……本当にありがとう」
ついに一曲目が終わった。観客の歓声は鳴りやまない。彼女達も、輝くような笑顔を観客に見せた。まるで、皆と一緒に慣れることが言わんとばかりに。
彼女達は歩みだしたのだ、夢の道へ。だが、今は彼女たちの次の曲を楽しもうではないか。将来のトップアイドルの曲だから。
お読みになってくださりありがとうございます。
これで、本RTAは終了となります。
一応明日後日談を投稿する予定ですが、本編はこれで終了です。最後までお付き合いしてくださった皆様、ありがとうございました。