天地無用!魎皇鬼 ~アナザー~ 作:ロン
一話
都会の汚れた空気や騒がしい喧騒が嘘の様な澄んだ空気に自然豊かな風景を横目にバイクを走らせている。
「ここが山田商店か」
現代の検索ツールでは正確な場所まで探しきれなかった正木村にあると言う柾木神社を目指す旅路。
東京からバイクで岡山県に入り近くの町役場にて確認しこの山田商店で詳しい場所を聞くように言われた。
小さな村にある個人商店だとばっかり思っていたら、辺鄙な村に不釣り合いな大型マーケットだった事に驚かされた。
「どうかなさいましたか」
「あっ、こんなへ…長閑な村にある商店のイメージと違っていて驚いてしまいまして」
「くすっ。昔はご想像される様な小さな個人商店だったんですよ」
名前とはかけ離れた店舗に驚いていると、村に住んでいるであろう荷物を持った女性に声を掛けられた。
「失礼しました。この村の方でよろしかったでしょうか、宜しければ柾木神社の場所を教えていただきたいのですが」
「あら、うちの神社に御用の方でしたか」
「神社の方でしたか、ヘルメットも脱がず失礼しました。俺は神城遥一といいます、柾木神社におられる宮司の方にお逢いてしたくて東京からきました」
「ぉ…そうでしたか、遠くから大変だったでしょう。私は宮司をしている祖父柾木勝仁の孫で柾木天女と申します」
ヘルメットを脱いだ俺の顔を見て一瞬驚いた表情を浮かべたが直ぐに元の柔和な表情で彼女も名乗った。
目指す神社の関係者と会えるとは運が良い、俺は彼女をバイクの後ろに乗せ神社までのナビゲートを頼んだ。
「神城さんは、どうしてこんな辺鄙な村の神社にいらしたのですか」
「柾木神社って遥照って方が建立された神社で間違いないですよね」
「はい。祖父からはそう聞いております」
「俺はその遥照って方の子孫らしいのですが、普通ではない事で困ったら柾木神社の宮司さんに相談にしなさいと言う手紙が残されていまして」
「普通ではない事ですか…」
それは数か月前に遡る、大学の講義中に突如大きな地震に見舞われ建物が倒壊し、瓦礫に潰されるかと思った時、突然光の羽の様な物が講堂内に居る人々を包み込み人々を守った。
直後に凄まじい脱力感に襲われ意識を失い一週間入院した。目が覚め看護婦さんに聞くと建物の倒壊での死者重傷者0軽傷者が数名で入院者したのは俺1人だった。
それで終わっていればここに来る事もなかったのだが、その後も数回光の羽に命を助けられることがあり今回の柾木神社に来る事にした。
「光の羽ですか…それで祖父に会いに態々」
「はい、両親の遺産とかを管理してくれている弁護士の方に相談したら必要だろうからと渡されたんです」
「おぉ、柾木さんあの大きな木はなんですか」
「この村には柾木姓が多いから私の事は天女で良いわよ。あれは柾木神社の御神木ですよ、近くでご覧になりますか」
「はい、ご覧になります」
「ふふ。では参りましょう」
いきなりこんな滑稽無形な話をして、彼女の声が僅かに硬くなり空気も重くなり何か別の話題に変えようとしたところに樹齢何百年も経過した見事な大木が目に映った。
彼女曰く、柾木神社の御神木らしいがあの見事な姿を見ると祖母の言っていた先祖の話も眉唾ではないのかもしれないと思った。
「でかいだけじゃなくて、この辺は空気も違いますね」
「この御神木も遥照様が植えられたと言われているわ。この水は周囲の山々から流れる湧き水が溜まって出来た湖だから飲める位澄んでいるわ」
「あの御神木に触れても大丈夫ですか」
「ご利益があるかは分かりませんが構いませんよ」
御神木を見てから不思議な感覚に襲われ続けた俺は、確認し浮石を伝い御神木に触れた瞬間木々が騒めき出すと葉先から光のシャワーが巻き起こった。
「うわぁ」
「嘘…神城君って何者なの」
暫くして落ち着いたところで先程の現象を天女さんに尋ねると、祖父で柾木神社の宮司に聞く様言われ長い階段を昇ると境内には既にメガネを掛けた老人が待ち受けており社務所へと通された。
「天女よ、そちらが先程船穂に触れた青年で良いか」
「はい、お爺ちゃん」
「初めまして、神城遥一と言います」
「天女の祖父で柾木神社の宮司柾木勝仁じゃ、先程の事が気になるかもしれんが先にここを訪れた理由を聞かせてくれるかの」
先程の件も気にはなるが、当初の目的である自身に起こった不思議な現象について話した。
「ふむ、数か月前に突然起こりそれから命の危険に直面すると度々起こる様になったか」
「怪我など危険を免れるので悪い事ではないんでしょうが、凄い脱力感に襲われ気絶すると言うのを放置しておく訳にもいかなくて」
「事情は理解した。こちらで色々調べるので暫くこちらに留まる事は可能かの」
「長期休みに入りますので可能ですが、この村に宿泊施設ってありますか」
「それには及ばんよ、天女達が住む家に部屋の余裕があるからそこに泊るとええ。天女、先に言って天地達に伝えてきくれるかの」
勝仁さんの言葉に彼女は席を外した。
「さて、神城君は手紙で知りここを訪れたと言ったがどんな風に聞かされた伺ってもよいかな」
「はい、遥照様の子孫の1人に遥照様と同じ瞳の色を持つ子供が生まれ、その子の名前に『遥』の一文字と遥照様の扱ったと剣術が伝えられたのが始まりだと聞いています。
以降、一族は剣術を継承し続け紫の瞳を持つ子供は剣の型に加え名前に『遥』の一文字か付けるのが習わしになったと、亡くなった祖母遥歌からはそう伺っています」
「ん、お婆様のお名前は遥歌殿と申されるのか」
「はい、戦国時代に関東で一旗揚げた方の先祖の名前をいただいたと言ってました」
「…そうか、時に神城君も遥照様の剣術をマスターしておるのか?」
「祖母から一通り手ほどきを受けております」
「折角じゃから一つ腕前を見せては貰えないだろうか」、
祖母に及第点を貰えなかっただけに偉大な先祖の祀られる場所で見せるのは気が引けたが、勝仁さんの熱心な誘いに俺は木刀を受け取ると境内に出て型を披露する事にした。
遥照から受け継いだ剣術に固有の名称は伝えられておらず、戦いに使うだけではなく祭りや祝いの席で魅せる為の華やかな型も存在していた。
「そ、それは樹―『お兄ちゃん凄い』―」
一心不乱に木刀を振るい最後の礼を終えると落ち着いた感じの女性と声変わり前の女の子が声を掛けて来た。
「見事じゃ。ずっと鍛錬を続けておったのじゃろう、亡きお婆様もきっと認めてくださるはずじゃ」
「お粗末様でした、柾木神社の宮司様にそう言われると少し恥ずかしいですね」
「いいえ、その様な事はございませんわ。まさかこの地で全ての型をそこまで扱える方にお目に掛かれるなんて驚きました」
「砂沙美もこんなに綺麗なの始めてみた」
落ち着いて感じの女性と女の子は天女さんの親戚で柾木阿重霞、柾木砂沙美と名乗った。
柾木の家の人らしく、剣の型を見た事があるらしく絶賛された。
どうやら天女さんが急用で来られなくなり、家主の天地と言う人物も不在の為に2人が迎えに来てくれたらしい。
「疲れただろうから今日はゆっくりすると良いじゃろう、何かわかり次第連絡するゆえ。二人とも彼の事を頼んだぞ」
「よろしくお願いします」
「「おまかせください(うん)」」
俺は阿重霞さんと砂沙美ちゃんを伴い下にあると言う家へと向かった。
「紫の瞳を持つ一族か、先程の見事な型といい船穂の事といいまた騒がしくなりそうじゃわい」
2人と話しながら階段を降りてゆく自分と同じ瞳の色をした青年の事を考えながら、勝仁も社務所へと向かった。