ホップステップジャンパーズ~空へと翔る道~   作:羊merry羊

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25.葛藤の末に

 肩で息をするアルマ。未だ震える腕と脚は思うように動かない。瞳には涙が滲んでいる。それでも立ち上がりここまで戻ってきた、戦場へと。

 そのような状態で正確さを求められる狙撃染みた攻撃をした結果、カケルの頬をレーザーが掠めてしまいあわやフレンドリーファイアを起こしかけたが、ギリギリの所で悲劇を回避したようだ。本来の狙いである敵の口腔内に吸い込まれた光は十分なダメージを与え怯ませることに成功、迫る凶刃はカケルに届かず正に危機一髪であった。目の前で起こった事に呆けていたカケルは、ソラが立ち上がれずに居るのを思い出し、急ぎ引き起こして警戒に努める。

 プリズミックは体内を直接攻撃されたのが余程堪えたらしく、今も口から煙を吐き出しながら右往左往していた。今なら追撃を受けないと判断したカケルはソラに肩を貸しながらアルマの下へ移動した。

 

「アルマさんもう大丈夫、そうには見えないですね」

「……勝手に体が動いていただけよ」

「そんな状態なのに助けてもらってありがとうございます」

 

 感謝を伝えるカケルだが、アルマは苦虫を噛み潰したような表情を更に歪めて悲鳴を上げた。

 

「なんでそんな風にあっけらかんとしてられるのよ!私は現場から逃げ出したし、その上貴方を傷つけたのに何でそんな事が言えるのっ!」

 

 滲む涙を隠そうともせず、感情をそのままぶつけるアルマの目には焼け焦げたカケルの頬が映っている。震える手で放った攻撃によって刻まれたそれは痛々しく、痕が残る可能性もある。それなのに当の本人は叱責することもなくあろうことか感謝を述べてきた。何故そんな事が出来るのかアルマには理解が出来なかった。

 そんなカケルは尚もなんで怒られてるのか分からないとポリポリ頭を掻きつつ口を開いた。

 

「ええと、アルマさんが逃げたって俺は思ってないし、アルマさんが助けてくれなかったら俺、死んでたかもしれないからオツリ来るくらいだと思ってます。女の人じゃないから顔に傷つくくらい大したことじゃないっすよ」

「攻撃はそれで納得するにしても、逃げた理由とは関係ないじゃない!」

 

 今にも掴みかかってきそうな剣幕。いい加減怒られてる理由が理解出来ないカケルは、疑問をストレートにぶつける事にした。

 

「じゃあアルマさんは何で逃げたんですか」

「そんなの決まってるでしょう!トカゲが気持ち悪くて戦えないからよ!」

 

 怖くて、悔しくて、そして何より情けなくて。最早止めどなく流れる涙を拭うこともせずそのまま睨み返してくる。それを正面から受け止めて更に質問を重ねた。

 

「じゃあ何で助けに来てくれたんですか?」

「えっ、そんなの……」

 

 分からない、何故そうしたのか、何故そう出来たのか。足が竦んで動けなかったはず。それでも動けた理由は、動機は、考えれば考えるほど分からない。

 

「わからない、わからないわよっ!気付いたら動いてたのよ!」

 

 狂乱したかのように首を激しく振り回す姿は小さな幼子が駄々をこねる様に見えた。だから子供を安心させるように優しい声を掛ける。

 

「なんだ分かってるんじゃないですか、理由」

「何を言って……」

「だから考える前に体が動いてたんでしょ?敵が怖いとか気持ち悪いって思うよりも、助けなきゃって反射で動いたんですよね?」

「わからないわ……それに例えそうだとしても、私は一度逃げ出したのよ。倒すべき敵を見ることも出来ず尻尾を巻いて」

 

 考えが纏まらず、自己否定をすることで思考から逃避をしようとするがまたもカケルは逃げ道に回り込む。

 

「でも俺達のピンチに来てくれたじゃないですか。襲われる直前までの姿を見てなきゃ咄嗟に動けないし、集中して見ないと狙撃なんて出来ませんよ。しっかりと見れてるじゃないですか。それなのに敵の気持ち悪さよりも俺達を助けたいって思いを優先してくれたって考えたら、感謝こそすれ怒りなんて湧いてきませんよ」

 

 アルマはハッとした。言われて気付いた。自分はプリズミックの口を狙ったのだ。それは勿論相手の顔を凝視せねば出来ない芸当だ。何故そんな事が出来たのか分からないが、今までの自分ではそんな事想像するに(おぞ)ましい。だが現実に先ほどはやってのけたのだ。またも何故、わからないと呟くがそれを止めたのはここまで成り行きを見守っていたソラだった。

 

「アルマさん、ボクにはアルマさんの葛藤がどれ程の物かわかりません。でも良いじゃないですか。アルマさんが助けたのは細かいことに拘らないお人よしで、過去の事なんか覚えてない鳥頭なんですよ。アルマさんも綺麗に忘れて、これからを大事にしていきましょう」

「鳥頭って失礼だな。今朝の朝食メニュー位なら覚えてるぞ」

「じゃあ言ってみてよ」

「ええとパンだろ?あとベーコンにオムレツ、ウィンナー。あと味噌汁?」

「ベーコンと味噌汁は昨日だよ。そもそもパンに味噌汁とか普通合わせないって考えればわかるでしょ。全然覚えてないじゃん」

「ぷっ、何よそれ」

 

 わざといつもの様な掛け合いを交わす二人の姿に思わず吹き出してしまったアルマ。そして一度張り詰めていたものが途切れると、反動により笑いが止まらなくなってしまった。

 

「ふ、ふふふ、あはははははははは」

「そんな笑わなくても」

 

 突然のオーバーリアクションにカケルが恥じ入るが、先ほどまでの暗い表情と打って変わり年相応の少女の顔をしているのを見てしまうとそれ以上言えなくなる。ソラと顔を見合わせ、まあいいかと二人も笑い皆笑顔になる。だがそんな空気に割り込む『ジャリッ』という音が耳に届く。

 

「ふふふふ。折角人が吹っ切れて楽しい気分になってるって言うのに、邪魔をするなんて無粋ね。そんな輩は私の庭から退場してもらいましょうか」

「力を貸しますよ」

「ボクも脚のお返ししてやらなきゃ」

 

 三人の見据える先にはプリズミックが(たたず)んでいる。尾は千切れ、舌は焼かれ満身創痍といった感じだが、眼には敵意を宿してこちらを睨む。

 

「GYURUAAAAAAAAAA!」

 

 舌が回らないのかシューシューと空気を多分に含んだ雄たけびを上げながらこちらへ走ってくる。

 

「貴方達、さっきよりマシにはなったけどまだ苦手意識はあるわ。だから前線は頼んだわよ」

「はい!」

「任せてください!」

 

 己の弱点を自覚する。そのうえで立ち向かうようになった姿には『勇気』というものが宿っていた。

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