ホップステップジャンパーズ~空へと翔る道~ 作:羊merry羊
当初は錯乱していたアルマだったが、戦闘をこなす内になんとか動けるようになった。というよりも、動かなければいけない状況になったのだ。池から地上に上がってきた亀プリズミックは、その大質量から繰り出す強烈な一撃により地を揺らした。
実際は対象の大きさから遠近感を誤認しただけだったので距離は離れていたのだが、何せいきなりの遭遇では脳の処理が追い付かなかったのは仕方がない。もし本当に至近距離まで接近を許していたのなら、カケルかソラが無理矢理引っ張って助けていたであろうが。
そんな訳でしゃがみ込んでいる訳にもいかず、少しでも早く倒して平穏を取り戻すべく奮闘するのだった。
「ダメです、全然効いてません」
「甲羅を攻撃しても無駄よ。飛び出している頭や手足を狙いなさい」
亀というだけあって守りが非常に硬く、狙いの付けやすい甲羅部分はソラの一点集中攻撃をもってしてもかすり傷を付けるだけに留まっている。かと言って、アルマの指示通りに顔や手足を狙ってはみるものの、顔に攻撃が迫ると甲羅の中に引っ込めるのだ。その為、常に体を支えている手足を狙うのだが、こちらも硬質でありどれ程効いているのか手応えが得づらかった。
「結局顔を狙うのが一番って事か」
「そうね。普通に狙ってもダメなら策を使うわ。引っ込めた頭が出てくる瞬間に全員で攻撃を打ち込むわよ。引っ込めてる間は視界が狭まるから、狙い撃ちにしてても気付かれづらいわ」
「了解です。パワー充填します」
まずはアルマの放った攻撃を避けるべく、首が甲羅へと収納された。その間に二人は大技を使うべくチャージモーションに入る。遅れてアルマも傘を構える。これまでは閉じられた傘を狙撃中の様にしてレーザーを放っていたが、今回は開いた状態だった。見る見る光が傘に集まり、正視出来ない程の光量となる。それに伴い、カケル達も準備が整ったようだ。
「相手の手足の動きをよく見なさい。首を出す際に必ず力が入るわ。そのタイミングで撃つわよ」
「「はい!」」
今か今かと待ち受ける三人。長く感じる短い時間の中で緊張の汗が頬を伝う。そうしてその時は来た。
グッとプリズミックの両手が同時に沈み込む。甲羅の空洞から覗く深淵にも似た闇から赤く光る双眸が見えた。
「今よっ!ソラーレイ!」
「キャロットバズーカー!」
「ゼノディザスター!」
赤、白、黄の三種の光が今飛び出さんと伸縮するターゲットに飛来する。
ズガ────────────ンッ!
虚空へと吸いこまれた奔流は大規模な爆発を生じさせ、土埃が舞い上がる。濛々と立ち込める煙幕は先程とは打って変わって静寂を
その光景を見届けた者達は閉じていた口を開く。
「やったか!?」
「お約束をありがとう!ボクもう先の展開読めたよ!」
大方の予想通り、薄れていく砂塵からは巨大なシルエットが浮かび上がり、ピジョンブラッドを想起させる瞳がギラついていた。それだけではなく、新たな光点が生まれる。
ビュイン!
直後、輪ゴムを弾いた時のような低い振幅音と共に前方の煙が全て吹き飛ばしながら何かが突き抜けた。後方から聞こえる爆発に顔を蒼くする一同。
「ビーム打ってくるとかガメラじゃねえんだぞ……」
「ビームはゴジラ、ガメラは火球でしょ」
「貴方達そんな事言ってる場合!?」
緊張感のない二人に思わずツッコミを入れてしまうアルマ。だがそんな彼女たちを敵は待ってくれず、次なる行動に移る。なんとあの巨体を更に大きく見せるかの如く、前足を高々と掲げたではないか。そして勢いよくそれを地面へ叩きつけると、最初に喰らった地震を数倍にした揺れが起きる。皆余りの衝撃に立って居られず転倒してしまうが、追い打ちをかけるかのように地を
「ぐあっ!」
「きゃああああああ」
三人は衝撃波に飲み込まれ舞い上げられてしまった。岩と土をミキサーに掛けられているような状態に放り込まれ、全身を隈なく殴打される。せめて頭だけは守ろうと身を縮めて手で覆い耐える。カケルは長く感じた数秒が過ぎて苦痛から解放され気が緩んだのもつかの間、急な喪失感に襲われる。何が起きたと認識するよりも早く体は自由落下を始め、そのまま地面に叩きつけられた。
「ぐはっ!げふっ!」
息が出来ない、苦しい、痛い、様々な思いが思考を埋める。ふいにズシンズシンと何者かの歩く音が聞こえそちらに顔を向けると、動けないカケルにとどめを刺そうとプリズミックが歩み寄ってきている所だった。
(マズイ、早く逃げないと!)
呼吸も出来ず痛みに悲鳴を上げる体を動かそうと力を入れようとするも、思うように動いてはくれない。それでも踏ん張ろうと試みていると酸欠状態での無理な運動により、ふっと意識が飛びかける。それに伴い、緊張していた筋肉も弛緩し、突き立てていた腕も崩れ落ちてしまった……再び体が地面へと吸い込まれていく。胸にから落ち、肺に僅かに残っていた酸素も放出され、こふっと小さな吐息が漏れる。カケルは反射的に空気を求めて吸い込もうとするがそれは叶わない、と思われたのだが、何故か呼吸が出来た。先程の衝撃によって体内の歯車が噛み合ったのだろうか?そんな事を考えてる暇も惜しいとばかりに必死に息をする。苦しさから解放されたカケルが落ち着いたのもつかの間、プリズミックの大木のような脚が振り下ろされる。悲鳴を上げながら転がるように回避したカケルはすぐさま起き上がり距離を取った。
「はぁはぁ、し、死ぬかと思った……」
「カケル大丈夫!?」
「自分でどうにか出来たんだから一先ずは無事そうね」
酷く焦った様子のソラと比べるとアルマは幾らか冷静なようだ。しかし表情には焦りと安堵が同居しており、内心穏やかではないようだ。
「ぶっちゃけもう駄目だと思ったけど、ギリギリの所でなんとかね。二人も結構派手にやられてるな」
カケルの言う通り、ソラとアルマも先程の土石流に飲み込まれ傷ついていた。白く輝いていたラビットスーツは土で汚れ、手足にも軽い出血が見られる。だがそんなソラはまだ良い方で、アルマはもっと悲惨な姿であった……
ジャンパースーツではなく、あくまで私服でいたアルマは防御機構が存在しておらず、生身で濁流に飲み込まれた結果ブラウスやスカートは破れ、手足は痛々しい打撲の痕が何ヶ所にもあった。よく見ると足元が覚束ないようで、震えてまともに動けるようには思えない。
「ちょっとこれはヤバイかもれしませんね。撤退して救援呼ばないと」
全員が負傷しており、これ以上交戦しても被害が増えるばかりで撃退出来るビジョンが見えないカケルが逃げを提案する。が、それを止めるものが居た。
「あら、スカイジャンパーズはこの程度の敵で逃げ出すのかしら?」
「こっちの攻撃はまともに通用してないのに相手のは一発喰らったら致命傷なんですよ!そんな無理ゲー、ゲームじゃないんだからやる意味ないです。それに一番怪我してるのアルマさんじゃないですか。プライド優先して死んだら元も子もないでしょ」
「ボクもカケルに賛成です。もっと攻撃力高い人か大人数でやらないと勝ち目薄いと思います」
不遜な顔で煽ってきたアルマに対し、状況を冷静に分析して逃げを選ぼうとするカケルとソラ。だがそんな二人に対して、不敵な笑みを浮かべて切り返す。
「だから勝ち目があるって言ってるのよ。二人ともこれから一気に逆転するわよ」
とんでもない事を言ってのける女傑に、新人二人は眼を大きく見開いて互いの顔を見つめるのだった。