ホップステップジャンパーズ~空へと翔る道~ 作:羊merry羊
「その時が来るまでとにかく逃げ回って!回避に徹すれば躱すのは難しくないはずよっ」
アルマの驚愕発言のあと、三人は短い作戦会議を行った。内容を知らされたカケル達は大胆な策に驚きはしたものの、実現可能と思わせるそれに継戦することを選択した。撤退するのはそれが失敗した後でも問題ないとの判断だった。
こうして先程までと違い、距離を取りつつ挑発程度の散発的な攻撃を繰り返す三人には焦りという物は見えず、敵の攻撃も落ち着いて対処出来ていた。中でも、アルマが負傷して機動力が落ちている事を考慮して、何かあってもどちらかがカバーできる距離を保ちつつ動けている点が非常に良い。互いにアイコンタクトを取りながら、プリズミックからのヘイトをカケルとソラがコントロールし、その隙にアルマが射線外へと逃れるというパターンを形成するも出来た。そうまでして機を窺うのは勿論、ここぞという反撃のチャンスを見極める為であった。そしてその時は今来たる。
再び大きく両足を振り上げたプリズミック。アルマはこちらが回避に専念すると相手が動きを阻害するために、また決定的な一撃を与えるため、もう一度あの地震と土石流を撃ってくると予想した。その際に高々と上げられる脚に注目、あれだけ仰け反るように高く足が上がったのなら、後一押ししてやれば重心を崩して倒れるのではないかと考察したのだ。
「来たわ!ありったけ叩き込みなさい」
「うりゃりゃりゃりゃ」
顔を中心に撃ち込まれる各種弾幕、爆煙に包まれて尚止まらない砲撃の雨に、徐々に後ろへと傾く巨体。
「これでぶっ倒れろおおおおおおおお!」
カケルの渾身の力を込めて放たれた一撃は顎を下から撃ち抜き、良い所に貰った亀のバランスを崩すことに成功した。だがそれでも転倒しまいと必死に手をワタワタと振り回して抵抗する姿はいっそコミカルである。
「往生際が悪いよ、大人しく倒れてよね」
その頑張っている両手に無慈悲なミサイルが飛んでいき爆発が起きると、今度こそ完全に倒れていく。ズドーンとけたたましい音を立てながら仰向けにひっくり返った亀、何とか起き上がろうと藻掻くものの、両手脚は甲羅の高さよりも短く、空を切るばかりで地面に届く事はなかった。
「さあ貴方達、今のうちに片づけるわよ」
「了解です。こうなっちゃうとちょっと可哀そうにも思えるけど、仕方ないよね」
「さっきは無理ゲーって例えたけど、これじゃ嵌めゲーだな」
二人はアルマの指示で仰向けになった亀の腹の上に飛び乗った。本当ならアルマもここまで来たかったのだが、ジャンパースーツで無いために自力で飛び移るジャンプ力が無いのともう一点、負傷が激しくこの場で予想外の出来事が起きた場合の防御手段が限られているためである。
「さて、どうやって攻撃しようか?」
「とりあえず甲羅のつなぎ目を狙ってでいいんじゃないか?他に思いつかないし」
そうだねと相槌を打って亀裂が一番深い箇所へと向かう二人。そこは腹の中心部であり、
「ここなら思いっきりやればダメージ通りそうだな」
「ねえカケル、今思ったんだけどさ、プリズミックってコアがあるじゃん?」
何を当たり前の事を?と
「今までの戦ってきた奴って殆どコアが目に見える場所にあったでしょ?でもこいつはパッと見て分からない。そういう時は体内に保持してるってルイカ先輩が言ってたよね」
「ああ、多分こいつもそういう類の奴なんだろうな。亀だし甲羅の中にでもあるんじゃないか?どっちにせよ外側が硬くてコアは傷づけられないだろう」
「ボクも最初はそう思ったんだけどさ、蟹ってお腹からカパッと外せて中取り出せるじゃん?亀と蟹じゃ違うだろうけど、この線に沿って攻撃したら外せたりしないかな?」
思わぬ考察だったが、適当に攻撃するより何か指針となる物を決めた方が良いかとカケルもとりあえず頷く。そんな訳でソラはミサイルを大量に床にばら撒き、カケルがそれを亀裂に沿って配置するという作業が始まった。これまで敵に向かって発射してきた物を飛ばさずに置くのは不発弾を処理している気になって少々恐ろしい。現にこれらのミサイルは後程一斉に起爆して大爆発する予定なので、大差ないのであった。
作業開始から数分、高低差により作業の様子が窺えず、攻撃する音も聴こえないアルマは焦れた声を出した。
「ちょっと!何もしてる気配が無いんだけどどうしたのよ!」
すると甲羅の端にひょこっと顔を出したソラが疑問に答える。
「今ちょっと作戦の準備してまして!カケルーッ!あとどれぐらい掛かりそう?」
遠くから『もう終わるぞー』と微かな声がした。その返事を受けて向き直ったソラは、そっち行きますねと声を掛けて飛び降りた。
「いったい何をしてのよ?」
「実はカクカクシカジカでして」
「本当に『カクカクシカジカ』って喋っても伝わらないでしょ!」
えへへと笑うソラを尻目にプリズミックへ目を向けると、丁度カケルも降りてきた所であった。
「ソラ、準備オッケーだ。デカイ花火上げてくれよ」
「了解、特大のヤツ行っちゃうからね!」
出番とばかりに腕まくりをして砲身を構えるソラ。そこへ普段の3倍はあろうかというサイズのミサイル一対を顕現させ、目標へと向ける。そのまま大きく息を吸ってトリガーを引き絞る。
「たーまやー!」
解き放たれた鉄製の火種は大きく弧を描き、巨体の陰へと吸い込まれていく。僅かな静寂が訪れ不発かと思われたその時────
ボッッッッッグァアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
「ひぃっ!な、なにが起きたの!?」
突如聞いたこともない規模の大爆音が鳴り響き、うろたえるアルマ。ミサイルが向かった先ではもうもうと煙が上がっており、爆発の規模を体現している。かくいうソラとカケルの二人も予想を遥かに超える大爆発に引きつった表情をしていた。
「ちょっ、貴方達!本当に何をしたの!?」
「敵の弱そうな箇所に爆弾敷き詰めて爆撃した感じです。まさかこんな事になるなんて思ってませんでしたけど」
先程まではひっくり返ったプリズミックが手足をバタバタとして姿勢を立て直そうとしていたが、今では手足は弛緩しぐったりと放り投げられていた。どうやら至近距離での衝撃により気を失ったようだ。
ともあれ大きな一撃を与えることには成功したようなので、一連の成果を確かめるべく煙が晴れた後に再び腹の上へと登った二人が目にしたのは凄惨な現場であった。
腹を覆う甲羅の殆どは消し飛び、僅かにへばり付いている部分もひび割れたガラスのような有様である。中でも一番酷いのは、二人が最初に攻撃しようとした中心部であり、一通り作業を終えたカケルが余ったミサイルを『とりあえずここでいいか』と安直な考えで纏めて置いたの結果によるものだった。
ここは甲羅だけでは無く、肉ごと抉れて消し飛んでいた。そうして消し飛んだ肉の向こう側から紅く脈動する、心臓に似た物体が露出している。
「うわぁ……これは酷いね」
「苦しませるのも可哀想だから、一思いに逝かせてやろうぜ」
幾ら相手がプリズミックとはいえ、何も二人は惨殺したいという訳ではない。争う相手であっても敬意を評して葬ることを選択した。
アルマの瞳に一条の光と砲撃音が届いた。途端目の前に横たわる山のような物体が光の粒子へと変換されていく。
「ふぅ、今日はオフだって言うのに大変な目にあったわね」
ため息混じりに独りごちるアルマ。お気に入りのワンピースはあちこち破れ、髪から爪先まで全身土で汚れている。護身用に持ち歩いていた日傘型対プリズミック兵器だけが綺麗なままでアンバランスさを醸し出している。
己の満身創痍ぶりに改めてため息を付き、健闘した二人を讃えようと顔を上げようとした時、背後から何者かがやって来るのであった。