ホップステップジャンパーズ~空へと翔る道~   作:羊merry羊

30 / 35
29.報告と約束

「お嬢様!大丈夫ですか!?ああっこんなに傷だらけになって……すみません、私が駆けつけるのが遅くてこんな姿に」

「落ち着きなさいマフユ。かすり傷、とはいかないけど大事にはならない程度のものよ。でもどうしてここへ?」

 

 マフユと呼ばれる女性──全体的に端正な作りで釣り上がった眼と眉は厳しく出来る女と思わせる一方、スカイブルーのショートヘアーは慌てて来た為か癖毛なのか分からないが所々跳ねていた。服のチョイスも上は大きく胸元が開けたスーツでチラリと下着とへそが覗いている。下はピッチりとしたタイトスカートで、その周りを上着から伸びた生地がパニエでも仕込んでいるのかふわりと取り囲んだ特徴的なスタイルだった──にアルマは優しく訪ねた。

 

「今日はお嬢様が休暇でこちらに来られると聞いていました。その上で本社にここでのプリズミック出現の連絡が入りまして、お嬢様の身に危険が及んでないか急ぎ駆け付けたのですが、時既に遅く不甲斐ないです」

「この姿は私自身の失態よ。貴方が気に病む必要はないわ。ところで、失礼だけどそっちの貴方はどちら様かしら?」

「俺の名はシオン、スカイジャンパーズの者だ。後輩から連絡を受けて駆けつけたんだが、チラッとしか見えなかったがあんな大物を君たちだけで倒したのか?」

「"あの"シオン!?嘘、引退したんじゃ?」

 

 なんとシオンが現場に現れたのである。そしてアルマの中では引退した物として扱われていたらしい。

 

「まあ人手不足から駆り出されたって所さ。今は後進の育成に力を入れてるから、間違った認識ではないな」

 

 そこまで話した時、プリズミックキューブを拾い終えたカケル達がやって来た。

 

「ビックリした、シオンさんどうしてここへ?」

「ソラから連絡を貰ったんだ。ボスと思われる個体を撃破したけど、まだ調査の必要がありそうだと。これまでカケル達は色々なプリズミックと対峙してきたが、そんなお前達がボスと勘違いするレベルの敵より上の存在が居るかもとなれば、手に負えないクラスの物が出てきてもおかしくないと思ってな。念の為来てはみたが要らぬ心配だったようだ、良くやった」

 

 険しい表情で説明していたシオンだが、最後の一言は優しい笑みで語られカケルの肩に手を置いて労う。当のカケルは憧れであるシオンから認められ、誇らしいやら照れ臭いやらで頬を掻いている。

 

「状況を理解してもらえたところでもう一度確認する。君たち三人であの大型プリズミックを倒したのか?そんなボロボロになってまで」

「はい、最初は結構マジヤバくて逃げようって話してたんですが、アルマさんが作戦を思いついてくれて、それを試してダメだったら逃げようって」

「でもその作戦がドンピシャで決まったんだよね。だからこの怪我は前半戦とその前のトカゲと戦った時に負ったものです」

 

 殆どは亀のダメージですけどと補足したソラ。そんな二人にシオンは今回の騒動について大まかな流れを説明させ、情報を纏める。

 

「整理しよう。二人は組織からの命令で現場に到着。ここでトカゲ型プリズミックに襲われているアルマ氏を発見、これを助ける。その後成り行きで同行してもらいトカゲ型プリズミックの親玉と思われる個体を撃破。しかし擬態が解除されていないプリズミックを確認した事でソラはこの時点で本部に連絡を入れた」

「俺それ知らなかったんだよな。いつのまにしたんだよ」

「トカゲ見付けて割とすぐだよ。ボクのジャンパースーツはソフィーさんのお手製だからね、この袖の部分に連絡機が仕込んであるんだ。まあそれ教えてもらったのつい最近だけど」

 

 カスタムされたスーツと聞いてカケルが『俺もそういうの欲しい』と騒ぎ始めたため、脱線した話を戻すべくシオンが引き継いだ。

 

「とにかく、報告の後に亀型プリズミックを発見、紆余曲折あるもののこれを撃破し無事解決。そのタイミングで俺とマフユさんが現場に到着したって事で良いんだな?」

「ええ、それで概ね問題ないわ。敢えて問題点を挙げるなら、なんでトカゲや亀なんかに擬態したって事ね。私への嫌がらせかしら」

 

 ふんっと面白くなさそうに顔を背けたアルマに対し、これまで口元に指を当てて思案していたマフユが口を開く。

 

「もしかしてですがお嬢様、確か以前ハクから貰った誕生日プレゼントで亀とトカゲがいませんでしたか?」

 

 疑問を提すると突然ビクッと肩を震わすアルマ。

 

「嫌な事思い出させないでよ!ああいうの苦手なのに、無駄にキラキラした顔で『誕生日おめでとうございます!コイツ可愛がってやってください!』とか言うから受け取らないってもの失礼だし、気持ち悪かったし、本当に大変だったのよ!」

「で、それは今何処に?」

「……え?」

 

 途端、挙動不審になって視線を逸らすアルマ。先程までは饒舌になっていたのに、今は言いずらそうに口をもごもごと動かす。

 

「ええと、それは……気持ち悪いから逃がしちゃった」

「どちらへ?」

「その……そこに」

 

 おずおずと池へ指を向けるアルマ。皆がそちらに目を向けると、丁度池の端からチャポと音と共に小さな亀が這いだして草の上を歩いていく。遠ざかっていく亀を見送り再びアルマへ戻ってきた8個の瞳。

 

「つまりはアルマさんが逃がした亀が原因って事?」

「捨て去れたペットが人類に逆襲してくるってありがちな展開だよね」

「煩いわね!しょうがないでしょ!苦手なものは苦手なのよっ!」

 

 ムキーッと怒るアルマだが、その顔に浮かぶのは怒りではなく羞恥なのは誰の目にも明らかであった。そんなアルマを見てマフユは言った。

 

「珍しいですね。お嬢様が他者にこんな素直な表情をお見せになるなんて」

「べ、別にそんなんじゃないわ!この子達が私を揶揄(からか)うから怒ってるだけなんだからっ!」

「ツンデレ?」

「ツンデレだね」

「誰がツンデレよ!」

 

 顔を赤らめ、言葉を発する度に身振り手振りのアクションも激しくなり、しまいにはそれに疲れてぜぇぜぇと肩で息をしていた。

 

「そんなことはともかく!マフユ、貴方が駆け付けてくれたっていうだけで私は嬉しいわ」

「いえ、私はただお嬢様が心配だっただけですので、そんな感謝なんて」

「素直になってというなら貴方にこそ言うわ。貴方は私の部下ではなく友人なのだから、いい加減仰々しい言葉遣いはやめて対等に扱って欲しいわね」

 

 そう仰られましても、と歯切れが悪いマフユに痺れを切らしたのか、アルマは彼女の手を取って胸の高さに持ち上げる。そして自身も逆の手を握って前に突き出す。その拳には一本だけ立っている指があった。

 

「今度二人でショッピングに行くわよ!これは命令じゃなくて約束なんだからねっ!」

 

 ビシッと突き出された人差し指、ではなく小指が差し出される。その光景にあっけにとられたマフユだったが、クスリと笑ったあと自分も小指を立てて絡ませる。

 

「はい、約束です」

 

 朗らかな笑みを返されたアルマは照れくささから目をつぶってそっぽを向く。だが紅潮した顔は隠せず、自分でも熱を感じている最中だ。

 

「やっぱりツンデレだ」

「だね」

「ツンデレというのはよくわからないが、仲良きことは良きことだと思うぞ」

 

 外野の言葉を聞こえない振りしてやり過ごしていたアルマだが、それを良い事にどんどん発言がエスカレートしていったようで、再び爆発する羽目になった。

 カケルとソラを追い回すアルマ。服はボロボロ、顔には泥が付いているがそんなことは気にも留めず追いかけっこをしている。

 童心に還ったような姿にいつもの高慢さはない。だがその姿こそ、ありのままの彼女なのだろう。

 たまには立場を忘れて奔放に振る舞うのも悪くはないのかもと考えるマフユなのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。