捨てネコじゃなくて女の子拾っちゃったんだけど   作:黒マメファナ

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第十話:夏色に染まる

 波の音、エメラルドグリーンの美しい海。普段の景色から遠く離れたそこで、見目麗しい女性がきゃっきゃとはしゃいでいる。人は少ない……というか離島なのでまばらである。人が少ないところがいいと両親にいったらなんとこんなところに。

 

「ほら、ひまりー!」

「あ! やりましたね! えーい!」

「妾の力、受けてみよリサね──っわあああ!」

「甘いよあこちゃん」

「つぐちん!」

 

 正直、なんか目に毒である。過ぎたるものは目を焼くとはまさにこのことなのだろうか。

 そもそも水着姿ってセパレートならもうほぼほぼ下着と露出が変わらない、というのが問題なんだと思う。それでも最近耐性がついてきたのかそのはしゃぐ女子高生たちをBGMにできるくらいにはなってる。

 

「……翔太さん」

「ん?」

「遊ばないのですか?」

「燐子こそ」

 

 隣にはせっかく水着なのにパーカー装備してビーチパラソルの下で本を読んでる燐子がいた。俺が賢者タイムを守っていられる原因は彼女である。こう、ほかの人にはガードが堅い彼女だがどうも飼い主にはそれは適用されないのかそもそもあまり衣服を着ると寝られないタイプなのか夏だからなのかはわからないが、寝間着が妙に……あダメだなんか思い出したら悶々としてしまっている。

 

「……湊さんは水着じゃないんですか~?」

「下は水着よ、リサが泳がないのならこれでもいいと言っていたから」

「紗夜さんは~、バッチリワンピースですね~」

「遊ぶ気もないので」

 

 お隣のパラソルではこの布陣である。これまた見目麗しい。あっちがパワフルタイプだとしたらこっちはクールタイプである。リサの幼馴染で燐子が所属するバンドのメンバーである湊友希那さんと、すっかり顔なじみになった紗夜、そしてリサと俺と同じバイトにいた青葉である。

 

「いや~、にしてもホントに白金さんと~ラブラブなんすね~」

「……ラブラブではなく主従、です……ご主人さまが遊ばれるのなら、わたしもご一緒します……」

「おお~」

 

 いや最初はリサと紗夜を誘ったんだ。確かに俺はそれだけを誘った。だけどいつの間にか人数が増えていたんだ。リサに何人か誘ってもいい? とは問われたけど燐子との関係が発覚しても俺になんのデメリットもないメンツだと思っていたんだよ。蓋を開けてみたらまさか青葉がいるだなんて。

 

「別に青葉さんはそれを誰かに言いふらすことはしないでしょう」

「お~、紗夜さんフォローあざま~す」

 

 そうかもしれないけど、でも知り合いにこの恥ずかしい状況を見られるのはいやなんだよ。というと紗夜に何を今更という顔をされた。今日はスキンシップ少なめなんですけどね! その顔は納得できない! 

 

「……少なめなんですか~?」

 

 少なめですね、なにせ燐子が露出多いせいか恥ずかしがってあんまり寄ってこない。それでもじっと時折こっちを見てきては構ってほしそうにはしてるけど。手を出すと握ってみたり、いつものように頬を寄せて甘えてきたりと、相変わらずだ。

 

「毒されてますな~」

「非日常を毎日続けていれば慣れますから。慣れとは現実逃避と同じ類の防衛本能だと何かで読みました」

 

 現実逃避と同じ類という棘のある言葉に、俺は苦笑いをしてしまう。やっぱそうだよなぁ、慣れって怖いな。

 そんなことを考えていたらビーチボールが足許にてんてんと転がってきた。

 

「あ、ごめんなさ~い」

 

 たぷんと揺れる……胸。いや燐子もあれなんだけど、なんというかこっちは弾んでる。それこそてんてんと転がってきたボールのように。

 彼女は上原ひまりさん。青葉の幼馴染で、同じ学校の先輩であるリサとも当然知り合い。離島への一泊二日ビーチ遊び放題だということでにっこにこ顔で俺にありがとうございます! って頭を下げてきたイマドキっぽさ全開の子。

 

「桜田さんは遊ばないんですかー?」

「あ、翔太はゼッタイこーゆーの無理無理!」

「うるせぇ」

 

 リサが余計な注釈を加えてくる。確かにそうだけど、でもそうストレートに言われるとムカっとするんだよ。

 上原さんが頭を下げ、からかうようにリサが悔しかったら混ざってみなとか言い出すのに反応したのは、俺ではなく燐子だった。なんかないはずの尻尾とネコミミがピンと立って、不機嫌そうにゆらゆらしている気がした。

 

「燐子?」

「……よびすて」

「ん? ああ、年下のクセにな」

 

 毎日家にいるお前が未だにさん付けなのに慣れ慣れしいヤツだよな。まぁ燐子の場合は年齢差だけじゃなくて主従を意識している以上さん付けじゃなくてさま付けしたいってのが本音なんだろうが。外でそれはやめてくれと再三の注意をしてる。してるけど時々ご主人さまって呼んでくるけど。

 

「むぅ……むぅ……」

「……燐子? 燐子?」

「泥棒猫……いえ、ですが今井さんは、ご主人さまのお友達で……バイト先も紹介してくれて……けれど」

 

 なんかぶつぶつ言ってらっしゃる。こんな不機嫌そうな燐子を見るのは初めてだ。もしかして上原さんの胸に目線を集めていたのバレてたのかな。このペット系、割と嫉妬深いことが最近わかったからね。曰く飼い主が俺なのは自分だけでいい、と。いや多分みんなペットになりたいわけじゃないと思うんだが。

 

「そういえば」

「はい」

「……やっぱりそれつけっぱなんだね」

「あなたの、ペットですから……」

 

 はいそうですね。ペットだもんね、チョーカーは必須だよね。ホント寝てる時にも金属のついてないやつを買ったら付けてるんだから。風呂入ってる時だけは外してるっぽいけどね。というかそれ金属あるから最悪錆びるから気をつけてね。

 

「大丈夫です……ご主人さまからもらったもの、ちゃんとキレイにしてます……ふふ」

「そっか」

「翔太さんからいただくものは、すべて宝物です……時間であっても、モノであっても」

「……燐子」

 

 幸せそうに微笑むんだよなぁ。燐子は、本当に俺との日々を大事にしてくれている。今日だってそうだ。こうやって同じところから同じ空を見上げて、同じ海を、景色を見てる。じっと、世界をただそのアメジストに焼き付けていく。

 

「キレイだな」

「はい……とっても」

 

 それからは俺と燐子や、青葉や紗夜、湊さんも一緒になって遊ぶことになった。それもまた、二人で同じものを見るために。水鉄砲で銃撃戦をしたのはガラにもなくはしゃいだ。紗夜とリサがすんごい運動能力高いんだなということを思い知らされた。

 

「はぁ~! ディナーもチョーおいしかったです!」

「だね~、翔太には感謝だ!」

「はい! 今回は誘っていただいてありがとうございました!」

「いや、誘ったのはリサだから」

 

 羽沢さんにそんな風に折り目正しく礼を言われると照れてしまう。こう改まってなにか言われると恥ずかしくなっちゃうよ。リサのようにそそ、だからアタシにありがとーでしょとか言ってた方がいい。俺も真面目な方じゃないから。

 

「ですが今日は英気を養えるものでした」

「そうね。新しいメロディも浮かんできたわ」

「さっすが友希那さん! ちょー楽しみにしてます!」

 

 それぞれの部屋に帰っていく。青葉と羽沢さんと上原さん、紗夜とあこちゃん、リサと湊さんで分かれていった。四部屋も貸してくれるなんてすごいなぁ。流石ウチの両親である。そして残りの部屋はもちろん。

 

「……ベッド、二つもいりませんね」

「まぁ確かに」

「いやもうその発言おかしいからね?」

 

 リサにツッコミを入れられるけど仕方ない。俺と燐子はいつもそうだからと言うと上原さんがちょっと口許をひきつらせている。

 ええ、付き合っているのではなく、恋人同士でいちゃいちゃしてるのではなくですね、ただネコがもぞもぞとベッドに入ってくるから最近は諦めて一緒に寝るよーって声かけてるだけなんだよ。

 

「……燐子さんは人間ですよ?」

「りんりんは人間だよ?」

「話がもうややこしくなっていますよ」

 

 でもそう思うしかないんだよ。俺にはそれしか言いようがないんだよ。じゃないと今まで散々一緒に寝てきた俺と燐子はなんだったんだってなるじゃんか! 俺の抗議にだが、リサと青葉が顔を見合わせてからちょっと苦笑い気味にリアクションをしてくる。

 

「いや、ぶっちゃけ聞くけどさぁ?」

「うん」

「……なんにもないんですか~?」

 

 なんにも……ってそうか、まぁそうなるよな。相手はペットを自称するもののヒトであって、ヒト同士である以上そこに多少なりとも……特に男女である以上、そういう欲があって当然だしなかったらそういう、所謂セクシャルマイノリティーかと問われる、と。そういえば燐子はそういうの……と問いかけようとして、あの日の燐子の猛獣のような目を思い出した。

 

「……翔太さん?」

「あ、いや。とにかく俺と燐子の間にそういうのはないよ」

「それ、逆に不健全なかんじしますよね~」

 

 青葉がそんなことを言うせいでまた若干旗色が悪くなる。なんで? 理不尽じゃない? どうせそこで事をしてたらしていたで付き合ってないのに、ってなるでしょあなたたち? それをちゃんと守ってるのに不健全ってどういうことなの? 

 

「燐子さんはどう思ってるんですかっ?」

「というかベッド入った時の流れってどうなの?」

「まず燐子が甘えてくるんだよ」

「……翔太さん、優しい匂いがして、眠くなるんです……」

 

 ああそうそう。それは前に燐子から聞いたなぁ。そもそも甘えてくるときに、なんで匂い嗅ぐの? って訊いたら優しい匂いがして好きだからって言われたっけ。それを聴いてから後ろ向いてたのになんだか抱き締め慣れたこともあって抵抗なくなってきたんだよね。慣らされたって言うべきか。

 

「でも……まだぎゅっとして寝ることに……慣れてない、みたいで」

「え、そう?」

「時々、深夜に起きてトイレ、行きますよね……?」

「アウトでしょう」

「アウトですね」

「なんで?」

 

 ひどいな。まぁ確かにその夜中に起きてトイレ行くのはそういうことだけどな? とりあえずその日の雑談では不健全扱いが抜けきらなかった。

 別に、男女だからそういうことをしなくちゃいけないとか、性欲がないといけないとかそういうわけじゃないと思うんだけどな。

 

「……気にしないで、ください」

「燐子?」

「……わたしは、そういう目で見られるのは……苦手ですから」

 

 それは、まぎれもなくニンゲンとしての白金燐子の言葉だった。ベッドの上で俺に背中を預けてきながら、クーラーの効いた部屋でお互いのぬくもりを感じ合う。ちょっと寒い? と問いかければ、遠慮がちにうなずいてくる。ならばと温度を変化させ、燐子のお腹辺りで手を組む。

 

「俺も」

「……翔太さんも、ですか?」

「って燐子、ホントは気づいてるでしょ?」

「あ……はい、あの時の……こと、ですね」

 

 それから少しだけ無言になって、あの……少しいいでしょうか? と燐子は問うてくる。いいよと答えればそして彼女は、少しずつ、ポツリポツリと柔らかな明かりの中でニンゲンとしての彼女を語りだすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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