捨てネコじゃなくて女の子拾っちゃったんだけど   作:黒マメファナ

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第十三話:もっともっと想いを高く

 ──結局、盆に帰省するのはやめておいた。バイト入るとなんかいいことあるってのに釣られたのと、しょんぼり落胆する燐子を見ていると罪悪感が増してしまったからだった。

 両親にはグチグチと言われたけど、まぁ帰省してもそれは同じだし、燐子が笑顔ならいいかと思えてしまう。

 

「あ、あの……翔太さん」

「なに?」

「上原さんと、今井さんに……誘われて」

 

 そう言って燐子が俺に見せたのは花火大会の案内だった。上原さんはどうやらリサの後輩でありながら燐子とはネット上でよく関わる、ひと昔風に言うとメル友のような間柄の少女だった。

 

「行っておいでよ。それとも浴衣選んだりする?」

「あ、いえ……あの」

「ん?」

 

 ちょっともごもごと歯切れの悪い燐子。ここ数日にしては珍しい傾向である。別にどんなわがままでも言ってみてほしい俺としてはその意味を伝えるために彼女を手招きする。ソファにやってきた燐子に手を差し出し、彼女はいつものように気持ちよさそうに頬を寄せ甘えてくれる。

 

「翔太さんも……一緒に、花火を……と思いまして」

「俺も?」

「……人混み、でしょうし……あまり気乗りのするものではないと……翔太さんは、言うでしょうけど……」

 

 確かになぁ。近くの花火大会なら大学の同期たちもそれなりにいるだろうし、それを燐子だけじゃなくて上原さんやリサと歩くのはちょっと気が引けてしまう。三人、かどうかはわからないけど、女の子同士で姦しく過ごしてほしいなとは思う。

 

「でも、燐子がどうしてもって言うなら」

「……どうしても、です」

「じゃあ、その日は夕方までバイトだから」

「お迎えにあがります……」

 

 よろしく、と言ってから数日後、俺はリサと青葉と一緒にバイトをしていた。どうやらまた青葉も一緒なようで、ひーちゃんに連れられるのです~と泣きまねをしてくる。こういう時の青葉の芝居がかった声はなんか妙にイラっとするんだよな。

 

「ところでひーちゃんってどなた?」

「おっぱいおっきなピンク髪で~す」

「……上原さんか」

「お、なんで今のでわかったんですか~?」

「うわ翔太サイアク、燐子に言いつけよ」

 

 いやいやおかしい。これは誘導尋問と言うべきじゃねぇのかな? だがもう無駄だったようで、リサがカフェスペースでゲームをしていた燐子に突撃していく。待ってそいつは案外嫉妬深いからやめてくれ! 

 

「……ってさ」

「……いいんです」

「お、ヨユーじゃん。怒んないの?」

 

 だがなんとびっくり燐子からはお咎めナシときた。おお今日は超絶機嫌がいいのかな、と思ったら自分の胸をちょっと見てからその胸を持ち上げて何故かドヤ顔をしてくる。え、えっとどういうことですかね? 

 

「わたしのほうが……おおきいですから」

「あー……確かにね?」

「俺を見るな」

 

 俺に確認を取るんじゃねぇよリサ。それはイエスかノーどっち答えてもヤバいやつだからな、と揉めていたところで上原さんがやってきて、移動を開始する。店長がそれじゃあ楽しんでおいでと優しい声を掛けてくれる。すんません、俺シフト移ったほうがホントはよかったんだろうけど……燐子には勝てなかったよ。

 

「浴衣は? どこかで着替えるの?」

「あ、貸していただける……というので」

「貸して?」

「はいっ! 花火大会に目を輝かせてた友達がいて、よかったら一緒にって言ってくれたんですよ!」

 

 それで浴衣を貸してくれるってのはまた気前のいい話だな、とか言いながら歩いているとなんか大豪邸が見えてきた。というかこれ、家なの? 個人のおうち? なんかの美術館とかじゃなくて? 

 

「なるほどな~」

「リサも知ってるのか?」

「まぁね、どんな子かは……まぁ会えばだいたいはわかると思うよ!」

 

 え、なにその不穏なノリは。燐子や青葉は若干苦手なようで苦笑いだ。ううん、上原さんが特に苦手意識がなくてリサ……はコイツが苦手意識を持つ人間ってなんだろうかってくらいだし、すると飛び出てくるのは明るい系と予想しておこう。上原さん並みってのは確かにちょっと俺も苦手かもしれない。

 そんな風に考えていると門の前で既に黄色の布地に赤い金魚が泳ぐ浴衣姿の女性が立っていた。

 

「花音! お待たせ!」

「あ、リサちゃん、みんなも」

 

 この子が……? よかった予想とは全然違って大人しそうな子だ。確かにふわりと柔らかな雰囲気がお嬢様って感じの印象を得られる。こんな子が暮らしてるのかと思うとむしろお城のようなイメージにもなってくるな。

 

「翔太……さん」

「ん?」

「あの……この人は……」

 

 安堵しきっていたところでおずおずと燐子がなにかを俺に訴えてくる。え、なに? と思ったが俺はそこで燐子が何を言いたいのかピンと来てしまった。弦巻さんを思い浮かべた時に燐子は苦手そうな印象を受けたのに、花音、と呼ばれた彼女には特にそんな苦手そうな印象もない。ここから導き出される結論は一つだろう。

 

「ようこそ! あら? あなたはどなたかしらっ?」

「こころちゃん!」

 

 ──ですよね。この子が多分弦巻家のお嬢様、弦巻こころさんだろう。すごい圧だ。志保もリサも上原さんもハイテンションで苦手だなと思ったけどこの子は輪をかけている。これは燐子が苦手とするわけだな。青葉は……ああいうのが苦手なのか、リサや上原さんといるところしか知らないから意外ではあるけど。

 

「コッチの男は桜田翔太、アタシやモカのバイト仲間で、燐子の……えーっと」

「……飼い主です」

「言い切りますね~」

 

 その紹介の仕方をどうにかしてほしいんだが、まぁもういいよ飼い主ですどうもと挨拶すると弦巻さんはなるほど? とわかってるのかわかってないのかちょっと判別しにくい感じに首を傾げてからよろしくっ、と手を差し出してきた。

 

「あの……松原、花音……です。よ、よろしくお願いします……っ」

「よ、よろしく」

「花音は引っ込み思案で年頃がおんなじくらいの男と関わったことないんだってさ」

「お、弟と、そのお友達と……バイト先で年上の方とは、話したことあるんですけど……」

 

 なるほどね。松原さんとは上手く話せそうと思ったけどそういう事情は辛いな。ちなみに忘れがちだが燐子はそれよりも更に重度のコミュニケーション能力に難があるんだよな。積み重ねた年月がないと本来はマトモに会話にならないそうで。

 今回の知り合った女の子、とんでもなくテンションの落差が激しいな。

 

「翔太もどうする?」

「俺?」

「……甚平とか、着ていかれませんか……?」

「え、でもそんな用意は、ないでしょ」

「ございます」

「うわぁ!?」

 

 急に声を掛けられ振り返るとなにやら全身黒づくめの女の人がいらっしゃった。リサが解説してくれるにはその黒い服の人たちとは弦巻さんのために頑張るシノビ的なもので言えば大抵なんとかしてくれる……らしい。いやわからないよなにそれ。

 

「女性の皆様はこちらへ」

「じゃああたしは翔太を案内するわね!」

 

 呼び捨て……まぁいいけど。やっぱりこうぐいぐい来るタイプは志保の一件ですっかり苦手なタイプになってしまったらしい。元気よくキラキラの金色の髪を弾ませる弦巻さんは急にくるりと振り返ってニコニコと笑みを浮かべてくる。

 

「燐子と一緒に暮らしているのね?」

「え、まぁうん……なんで知ってるの?」

「同じ匂いがするもの! 紗夜と日菜が、巴とあこが一緒の匂いがするみたいに、おんなじところに住んでる匂いがするのよ!」

 

 スゲー、そのたとえがどっちも片方しか知り合いじゃないからそう言われてもと思うところはあるが、とにかくまったくコッチに匂いを嗅いだような仕草をせずに言い切るのはスゲーの一言だ。

 

「それに燐子と翔太はちょっと仕草が似てるわ。一緒に暮らしていると、そういうのも似るのね!」

「……知らなかった」

 

 匂いはほら、燐子がほぼ毎日マーキングよろしく頬とかこすりつけてくるからなんとなくわからんでもないけど、仕草か。毎日一緒に暮らすとそういうのも似てしまうのか。それにしてもこの子観察眼スゲーな。さっきからスゲーしか言ってねぇけど。

 

「コッチよ!」

「ありがとう、弦巻さん」

「名前で呼ばれた方が、あたしは好きだわ」

「……じゃあ、そうするよ、こころさん……ってなんか変?」

「そうね!」

「じゃあ、こころ」

「これで翔太ともトモダチね!」

「そうなる……のかな?」

 

 握手をする。うん握手だ。まぁ握手しようと手を差し出してその手を頬に持ってくる女はこの狭い世界に何人もいちゃいけないだろう。というか燐子だけで充分間に合ってますとも。

 色々な柄の甚平の中から無難な紺色のを選び、黒服さんにサンダルまで用意してもらう。基礎基本西洋式のこのおうち、自然にそうなってたけど家の中で靴を脱がないスタイルなんだよな。

 

「ではこちらでお待ちください」

「はい」

 

 女性の浴衣の着付けってまぁ時間がかかるらしいしなぁと考えながらぼーっと待つこと十分ほど、待った甲斐があったものだと思ってしまうのは男のサガなのだろうか。

 リサは乳白色に水風船、帯が黄色。上原さんは薄いピンク、桜色って言えばいいのかな? 赤い朝顔に帯は濃い目のピンク。めっちゃピンク。青葉は涼し気な水色っぽい感じで、白い……菊かな? 帯は黄色に赤が入ってる。こころは松原さんよりも濃い目の黄色に……なんかピンクのよくわからない金魚のような模様である。ミッシェルよ! って言われてもチンプンカンプンです。

 

「……どう、ですか?」

 

 そして、燐子は暗い色でくるかなーと思っていたら意外なことに白地に、でも彼女のイメージ通りの紫の花がところ狭しと咲き誇り、金色のような光沢のある帯がまた燐子の華々しさをイメージされてるような印象がある。髪も普段とは違いアップでまとめられていて、セットされているし、(かんざし)も地味に浴衣と同じ花があしらわれていた。

 

「この花は?」

「撫子……だそうです」

「そっか。似合ってるよ」

「……よかった」

 

 胸の大きな人は浴衣を着てしまうと太って見えることがあるそうで、確かにその意味でいくと青葉かリサ辺りがいい感じに細く見えるなと視線を向けたら燐子と青葉に怒られた。青葉に怒られるとは思わなかった。

 

「ふん、セクハラするほーが悪なんですよ~だ」

「……浮気、ダメ……です」

「あははー、アタシは別に気にしないケド☆」

 

 逆にその会話で上原さんが太ってみえます!? と何故か俺に泣きついてきた。いやその……すいませんちょっとパタパタしてるせいで浴衣はだけてきちゃってるんで近寄らないでくださいませんかね!? そろりと燐子を見ると、やっぱりコッチに関してはお咎めなし。自分のに絶対の自信を持っているようで。あれだけ性的な目は嫌だって言ってたクセに……? 

 

「翔太さんが、今更わたしを、そういう目で……見る人ではない……と思っているので」

「信頼、ですな~」

「いやでもひまりのことをおっぱ──」

「──その話はやめようね!」

 

 松原さんとこころはどうやら結構近しい知り合いのようで呼んだけどこられなかった共通の人の話をしているようだった。

 ──ところでそろそろ始まるんだけど、移動しなくてもいいの? 

 

「ええ、ここで見るんだもの」

「ココ?」

「……ここ、です」

 

 ベランダ……というか階上のテラスだな、テラスと鏡張りになった部屋に案内され開いた口がふさがりそうにない。ここからならどうやら川まで遮るものなく見えるようで、それまで部屋でのんびり立食を楽しみながら、ということらしい。うーん本当になんでもありだなこれ。

 ということで俺が当初考えていた花火大会とはほぼ真逆の方向で、しかしわいわいと賑やかに始まっていった。

 

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