捨てネコじゃなくて女の子拾っちゃったんだけど   作:黒マメファナ

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第十四話:絶対忘れない

 遠すぎず、けれども近すぎず、絶妙な距離感で夜空に一瞬の花が咲いていく。子どもの頃に近くで見たいと駄々をこねた俺は両親に連れられ、間近の花火の音に驚いて泣き出してしまったという思い出があって以来、あまり近すぎると肩が跳ねてしまう。お腹にまで響くその衝撃が、なんだか怖いと感じてしまうのだった。

 

「わぁ……!」

 

 燐子と一緒にその様子を見ていると、松原さんがなんとも言えないキラキラした瞳で花火を見上げていた。思わず花火は好きなの? と問うてみたくなるほど、純粋な瞳だった。その横顔に見惚れてしまっていると燐子に脇腹をつつかれる。

 

「……だめ、です」

「はい、ごめんなさい」

「言葉ではなく、誠意が……ほしいです」

「せ、誠意って?」

「ん、左手……あげてください」

 

 戸惑いながらも頷き左手を挙げると俺と燐子の間にできたスペースに入り込んでくる。え、ちょ、この体勢キツいんだけど。でも降ろすと手の位置に困ってしまうと悩んでいると燐子は自分の腰に触れてココですと誘導してくれる。えっと、拒否権は……ないよね。わがままペットさん相手にそれを求めるのは間違ってるよね。

 それじゃあ失礼して、その細い腰に手を置いていく。いや家ではよく触れてるんですよと言うとそれはそれでなんかの語弊があるんだけどさ。抱きしめて寝てたりいつも甘える時にこう、腕を腰や背中に回しているので。だけどそれを人前でするのはまた違うよなぁと。

 

「素敵な……ひとときです」

「花火が?」

「それも……そうですが、翔太さんの、匂いやぬくもりを感じながら……というのが」

 

 それがさらに素敵さを倍増させるのかどうかはイマイチわからないけど、燐子が幸せそうで、それを見ているとまぁいいかという気持ちになる。あとね、あの、やっぱり周囲の目が痛いので離れていいでしょうか? 

 

「花音! らぶらぶね!」

「そ、そうだね……あんまり触れないほうが」

 

 触れてくださいそうしたら離れられるんだよね。それかもう二人だけの世界に突入する場所を提供していただきたく思います。この頑固ペットちゃん、まったく動く気がないんですよ!

 

「それならお隣はどうかしら」

「いいかな?」

「ええ、でも今夜は花火が終わってもいーっぱいお話ししたいから、寝てはだめよ?」

「わかった」

 

 こころの厚意で俺は個室から花火を見ていた。どうやら客間を兼ねているようで少し豪華なベッドもあって、そこではなくテラスの前に陣取って、彼女を抱き寄せるかっこうになりながらゆっくりとその花火を鑑賞していく。

 

「浴衣で、翔太さんと……花火、ふふ……」

「喜んでもらえてよかった」

「はい……幸せ、です……」

 

 目を細めて心の底から幸せそうに笑ってくれる燐子が愛おしい。髪を結いあげて首元の露出が増えるというのはこういうまた違った魅力というか艶みたいなのを感じるんだなという感想を抱いた。そして肩に頭を乗せる燐子をふと見ると……あの? 

 

「燐子さん?」

「……どうかしましたか?」

「はだけてる」

「……ご覧になりたいなら、そうおっしゃってくだされば」

「違う! ホントにはだけてるの!」

 

 脱ごうとせんでいい! というかなんで? 下着は? と問うとストラップレスです、とよくわからない単語が羅列した。どうやら肌色に近く浴衣に不自然じゃないし見えないようにしてあるものらしい。燐子は浴衣を着るということで事前に着けていたんだな。上原さんは……その、弾んだ時に見えたけど。ああいや肩紐がね? 

 

「わたしは……翔太さんに見られるのを……常に意識してますから」

「苦手なんじゃないの?」

()()()()()です……ご主人様に性的な(そういう)目を、させてしまうことも、ぺットの落ち度、ですから」

 

 い、意識がえらく高いことで……このなんだか最近どんどん逞しくなってる気がする。俺の気のせいだったらいいんだけど、まぁ全然気のせいじゃないんだよな。

 大きな花火があがって、若干余韻を残しながら夜闇に消えていく。最後かなと時計を見るとどうやらそんな時間だ。なんかあっという間だったな。

 

「燐子」

「はい……ん」

 

 立ち上がった燐子を抱きしめる。へアセットを崩さないように背中に手を回し、この胸からあふれていく気持ちを言葉にしていく。まるで呪いのように何度も、何度も。彼女に愛情という首輪をつけるように。

 

「好き……好きだ」

「……はい」

「怖いんだ……俺は心のどこかでキミを傷つけて……?」

「だいじょうぶ、です」

「なにが……っん!?」

 

 俺が求める安堵と答えを、彼女は与えてくれる。その勢いがたまらずにベッドに腰かけるとさらに優しく、けれど苛烈に。むせ返るほどの女性としての艶、ニンゲンとしての感情。白金燐子は、そうすることで俺から罪悪感を奪っていった。

 

「それは汚い気持ちなんかじゃ……ありません」

「……だけど」

「知らない人に、向けられるのと……翔太さん……大好きな翔太さんに、向けられるのでは、まるで逆です……」

 

 ──気持ち悪くなんかない、もっと、求めてほしい。燐子はそんな風に俺に誘いをかけてくる。いつから? この間はそんな素振りを見せなかったのに。今では、ニンゲンの感情をペット系の雰囲気のまま出してくる。そんなことまでできるのか。

 

「この身体は……翔太さんのモノです。わたしは、あなたの燐子ですから……あなたの望む方法で、愛してください」

「……望む、方法で」

「愛玩でも、親愛でも、性愛でも、わたしは……翔太さんのすべての愛を、肯定します」

 

 その決意ができたのは浴衣に着替えながらリサや上原さんと話をしたことが原因だと教えてくれた。好きな人が好きって言ってくれる気持ちにいいも悪いもない、と言われたらしい。そりゃ別の人にも言ってたら嫌だろうけど。俺が燐子に向ける気持ちは正真正銘、燐子にだけ送るものだ。

 

「……それに」

「それに?」

「……弦巻さんに、愛しているなら……ほしくないのか、と問われて」

「なにを?」

「子どもを……です」

 

 ──そういうのが嫌だって言うけれど、好きな人の赤ちゃんはほしくないのかしら? きっかけはそんな純粋無垢な言葉だったらしい。快楽としてのみではなく、真の意味での愛を育むための行為。その気持ちを抑えられるかという問いかけに燐子は首を横に振ったらしい。

 

「それを抑えるための意味も、あるので……」

「つまり」

「発情期の、処理を……時折でいいので」

 

 そうだよなぁ。ネコなら去勢すればいいんだけど、ニンゲンはそうはいかない。倫理的なものがあるしね。燐子はネコ系ではあるけどネコじゃなくてニンゲンだから。ただし! いそいそと俺に跨ってきてるところ申し訳ないけど、ここヒト様の家だからな。そんなところじゃ俺が嫌だ。

 

「……う、浴衣で……というのが、計画のうちで」

「それなら、借りたらいいんじゃねぇの?」

「なるほど……そう、ですね」

「焚きつけたのがこころなら、その責任を多少なりとも負うべきだ」

 

 そういいながらなんとか説得しておく。危なかった。危うく俺もニンゲンでなくケダモノになるところだった。

 ──でも、本当に大丈夫なんだろうか。これまでも少しずつ、だけど確実に俺と燐子の関係は変わっていった。その一線は踏み越えていいものなのか? それとも、ここで変な方向に変わってしまうのだろうか。

 

「どしたの?」

「浮かない顔ね!」

「あーいや……ちょっとね」

 

 燐子が青葉や上原さん、松原さんと会話をしている間にテラスでジュースを片手にため息をついているとリサとこころに声を掛けられる。俺の返しに二人は一瞬顔を見合わせ、リサがちょっとだけおそるおそるといった様子でもしかして()()()()()()()()()? と問われた。

 

「は? うまくって」

「ホラ、ね? こころ」

「そのために二人きりにしたつもりだったのだけれど……もしかしてダメだったかしら?」

「ええ!?」

 

 まさかの、いやいや……他人様の家でなんてことさせようとしてるんですか。こころはあっけらかんと気にしないわよと言い出すけど。よくなくない? ねぇこれなんか間違ってるところありますかね? 

 

「けれどここがダメってだけなら、浴衣を貸せばいいのよね?」

「……話がトントン拍子だよ」

「あはは、それがこころのイイトコだからねっ☆」

 

 なにからなにまで申し訳ないけど厚意に甘えることにさせてもらった。泊まっていってもいいのよと言われたが、逆にそうしたら燐子に我慢をさせることになるんじゃないかと感じて、俺は甚平姿のまま浴衣姿の燐子を連れて家に帰った。ちょっと歩くだけで汗ばむような熱帯夜を癒すようにクーラーの電源を入れ、冷蔵庫で冷やしてあった水出しのアイスティーを注ぎ、燐子に渡した。

 

「……あの」

「ん?」

「汗くさかったり……しませんか?」

「いやそれは、俺が気にすることだけどな」

「……だいじょうぶ、です」

 

 蒸し暑さが和らいだところで、俺たちはいつものように話をしながらいつもとは違った形で甘えてくる燐子に応えた。後ろから抱きしめたときにいつもは隠れている首が出ていて、そこから肩のラインというなんとも言い難い魅力に苛まれ、ついつい噛みついてしまう。お返しにと燐子にも噛みつかれ、俺と燐子はまるで何度も何度も繰りかえしたようにお互いの愛を分け合い増やし、与えていった。

 

「一緒に、お風呂に……入れるのも、幸せです」

「汗かくもんだね」

「……ですね、また水分補給しないと……たいへんです」

 

 俺と燐子の夏はそうやって終わっていった。俺は本当の意味でヒトを愛するということを燐子に教えてもらった。

 その意味がわかった瞬間がどうしようもなく幸せだった。

 

「だけどその首元はなんとかした方がいいと思うんだケド!?」

「ど、どうしたらいいんだよ」

「あたしは~、いつもばんそーこー貼ってますね~、ほら~」

 

 そういって後日のバイトでリサに怒られ、青葉がドヤ顔で首元の絆創膏をはがして赤黒い、俺や燐子についた愛のカタチを見せられ、ちょっとドキっとしてしまう。普段はもっと下なんですけどね~とあっけらかんと言い、リサがアイツ……と嫌な顔をしていた。

 

「ほら……って青葉、カレシいたのか」

「いますよ~、カッコよいですよ~、写真みます~?」

「な、名前のフォルダ……だよな。これスゲー数あるんだけど?」

 

 なんと中学一年生の頃からひっそりと撮りだめているらしく……ん? 青葉って羽丘女子学園だよな? という疑問には気づかないフリをした。そして俺はその写真を見るのを拒否させてもらった。中高一貫の女子校で長い間追いかけ続けられる男性っていったら、それしかないからな。

 

「まぁ幸せなら、いいんじゃないのか?」

「お~、しょーたさんならそーゆーと思ってましたよ~」

 

 結局青葉から絆創膏を分けてもらったせいで最後にリサから並ぶと勘ぐっちゃいそうだねと言われた。実際入れ替わりでやってきたパートのヒトに二人で指をさされ二人で同時に首を振った。別々の相手ですごめんなさいそんな嬉しそうな顔しないでください。

 

 

 

 

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