捨てネコじゃなくて女の子拾っちゃったんだけど   作:黒マメファナ

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第二話:癒し効果あります

 翌日、服が乾いたところで電話して、このお金で払ってねと言い渡して家を出ていった。すぐに業者が来てくれて、燐子は無事家に帰ることができたらしく、ありがとうございましたとメッセージが送られてきていた。よかったよかった、一件落着。

 結局、押し切られて一緒に寝たのはここだけの秘密だ。色々柔らかかったけどなんとかなった。二度くらいトイレ行きましたよ、ええ。

 

「お前クビ」

「……え、ちょ、店長!?」

「昨日クソ忙しかったのに体調が悪いとかテキトーなこと抜かしたヤツなんかもういらないから、もう出勤しなくていいよ」

「……うえ、マジ……?」

 

 けど一難去ってまた一難、というレベルではない。昨日のドタキャンが相当ヤバかったらしい。一人足らないせいでてんやわんやになってしまったらしく店長はそれでカンカンに怒ってしまっており、居酒屋のバイト先をクビになってしまった。

 もうこれ以上語ることはねぇとばかりに背を向けられ、今月分の給料だけでもほしいんだけどもらえないだろうなぁとか思いながら来た道を戻っていく。

 

「……はぁ、まぁ理由なんてしゃべっても一緒だろうな、ありゃ」

 

 それでもあの怒りは精神にクるものがある。言い訳、したいんだけど結局嘘の理由で突然シフトに穴を空けてそのせいでコース料理を出すのが滞ったのは一緒だ。理不尽だと思うが昨日の時点でもうちょっと冷静に行動できてればこんなことにはならなかったんだろう、という後悔の方が大きかった。

 またバイト先見つけないと、と考え事をしながらトボトボと家路に向かう。カギ穴に鍵を差し込み、回そうとするが、あれ回らない。

 

「燐子……閉め忘れか?」

 

 鍵をどこかに落としてしまうような子だ、パタパタと急いでうっかり忘れてしまったのかもしれない、と思いながらドアノブをひねると……やっぱり開いてるし。だが、その先は無人ではなく、ふわりといい匂いまで立ち込めていた。

 

「あ……おかえりなさい? 早かったんですね……翔太さん」

「え、り、燐子?」

「はい……あなたの燐子です」

 

 俺の燐子にした覚えはないけどそれは燐子だった。ごめん何言ってるのかわかんないだろうね俺も理解できてないことがあって言語野がバグってる。物凄く自然に燐子がウチのキッチンを使って料理をしていた。え、俺この子家に帰したよね? 

 

「……にゃぁ」

「うん帰れ」

「ち、違うんです……! お話しを、聴いてください……!」

 

 鍵を返すために待っていたのか。違う、鍵はポストに入れとけばいいよって事前に言ってあるからな。

 家に帰れなかったのか。違う、彼女は私服だった。ゴシックロリータ系でロングスカートなのが彼女の魅力であるナイスバディと清楚さを際立たせている。

 

「……少しでも、お礼がしたくて」

「お礼?」

「見たところ、あまり料理とか……されていないようでした……昨日もコンビニ弁当でしたし」

「……そうだな」

 

 ふと周囲を見渡すと、心なしか家がピカピカになっている。洗面所を覗くと積みあがっていたはずの俺の洗濯物の一切なくなっており、こちらもキレイになっている。キッチン回りもピカピカだ。

 

「家から……食材や、道具なんかも、持ってきました……迷惑、でしたでしょうか……?」

「あ……いや」

 

 しゅん、と下を向かれてしまい、邪気のない健気な彼女の行為を無下にしようとしていることに気付き、まずそんなことをしてしまっている自分を恥じた。燐子は感謝を伝えようと精一杯なだけだ。なにもできなかった時に手を差し伸べた俺は、彼女の英雄となってしまったんだから。

 

「ううん、ありがとう燐子。助かる」

「あ、いえ……満足いただけない、ようでしたら……ペットとして、使っていただくだけ、ですから」

「やっぱ今すぐ帰っていいよ」

「……なぜ……ですか?」

 

 なんでだろうね? 自分が今した行動を思い起こせばわかってもらえるだろうか。この子あろうことに自分の胸を揉み、手で弾ませてからボタンを外そうとしやがったよ。ペットとして使っていただくってそれ違う意味のペットだからな。

 

「はい、オナ──」

「それ以上言ったら二度と敷居は跨がせない」

「……わかりました」

 

 お、素直に引き下がったな。たった一日程の付き合いだが白金燐子という子がとんでもなく頑固で口から出そうとしたものは意地でも吐き出してくる子だということは既に学習済みである。流石にこう脅せば大丈夫なのか。けど、はて……なぜかとても嬉しそうなのだがなんで? 

 

「逆を返せば……言わなければ、出入り自由ということで……」

「そういう意味のわかりました!?」

 

 出入り自由にする気は毛頭ないからね? つか鍵返せ。それスペアキーなんだよ、鍵を持ち歩いて無くした前科のあるやつに任せるわけないだろ。

 けれど燐子は頑として譲る気はないようで、ふるふると首を横に振る。なんなんこの子。

 

「……なら、最終手段です」

「最終手段?」

「この写真を警察に届けて訴えます」

 

 そこに映るは裸の……ってなんてもん見せてんだ。局部はシーツで隠れて見えていないけれどそこは俺のベッドの上で、隣には俺が寝ていて……明らかに事後である。いかなる理由があろうとも18歳未満に手を出したら即アウト。誕生日は訊いてもないのに教えてくれたので彼女が17歳であることも知っている。

 

「……いかがでしょうか?」

「事実無根だ……」

「信じて……もらえると?」

 

 そうだよなぁ。信じてもらえるわけないんだよ。万が一家に連れこんだ経緯を説明しても夏の暑さで頭がやられたヤバいやつに成り下がるだけ。ありえないくらいに立場が悪い。というか仮にもペット名乗ってる分際で主人脅すとかマジかよ。

 

「……認知、していただけないのなら……たとえ飼い主にも、噛みつきます」

「タチ悪っ」

 

 認知って言い方もよろしくないんだけど。燐子は深窓の令嬢、とでもいえばいいような、清楚さの最果てにいらっしゃるような見た目の印象とは裏腹に、とてつもなく頑固で強かで、そしてぐいぐい来る。

 

「わたしは……ご主人さまの役に立ちたい……だけ、ですから……」

「こんな押しかけペットなのに言葉だけは殊勝だな」

「ありがとう、ございます」

 

 いや褒めてない。けれど、タイミングのいいヤツだとも思った。きっと普通にバイトに行って帰ってきたんじゃ、問答も埒もなく追い出していたところだろう。

 でも、少し塞いでいた気持ちがすっと楽になるのが自分でもよくわかった。ペットは疲れたり嫌なことがあると癒し効果を発揮するって聴いたことある。

 

「はぁ……ごはん」

「はい?」

「なに作ってんの?」

「ホワイトシチュー……です。翔太さんの冷蔵庫にあった……牛乳の期限が、今日だったので」

 

 朝それを見つけてから食材を調達して、そうやって俺のために作って待っててくれた。そんな健気な想いを、ちょっと強引とはいえここまでしてもらって迷惑だから帰れ、なんてひどいヤツじゃない。そうだったらそもそも昨日彼女を拾ってすらない。

 

「俺、ブロッコリーが苦手でさ」

「……そう、なんですね。覚えておきます……」

 

 ホワイトシチューに入ったブロッコリーを差すと燐子は、本当に心の底から嬉しそうに微笑んでくれる。わたしもセロリは苦手なんです、なんて言って、俺に味の好みまで教えて。厄介な子を拾ってしまったなぁ。けど、彼女がいるだけで家が華やいで見えるんだから驚きだ。

 

「……わたしの、せいで」

「燐子は悪くない。嘘だってバレてたのが原因だから」

「そう……ですけど」

 

 ご飯を食べ終わり、お風呂も入ってソファに座ると、しばらくして隣に燐子が座ってくる。雑談をしながら今日あったことを話して、彼女は自分のせいだと眉を下げた。嘘を吐いたのは自分の保身だ。報いを受けて当然のことだった、と言っても燐子はイマイチ納得できていないように俯いた。マジで曲げないね、あとじりじりと近づいてこないで。というかなんでしれっと今日も泊まる気なの? 流してたけど今お前俺んちの風呂入って髪乾かしてるよな? 

 

「……すみません」

「いや、そんなに怒ってるわけじゃ」

「拾われた身なのに……一緒に入って、お背中を、流す……こともできずに」

「うん違うね」

「さすがに、飼い主である翔太さんで、あっても……裸を、晒すのは……恥ずかしくて」

「話が一ミリもかみ合ってねぇからな!?」

 

 確かに拾った。捨てネコ燐子を拾ってしまいましたけどちゃんと元のおうちにリリースしたはずなんだ。確かに、リリースした。

 なのに今日も当たり前のようにこうして燐子は、今度は自前の寝間着姿で俺の肩に顔をくっつけてくる。明らかに甘えてくるような仕草、いやなんだかペットが飼い主に甘えてくるような感じなんだけど、この子。

 

「もしかして、独りがさみしいの?」

「……猫ですから」

「ネコは基本一匹で活動するものだった気が」

「家猫ですから……飼い主、大事……です」

「素直に言えば泊めてやる」

「さみしいです」

 

 うん、なんかちょっとだけ扱い方がわかってきた気がする。彼女はあくまで俺を飼い主として、捨てられた自分を拾ってくれたご主人さまとして認知している。だから俺も、それに合わせてやるといいんだな。押しても押しても頑として動かない彼女を動かすには、一歩譲ることが大事、よし。

 

「最初からそういえば……両親が帰ってくるまでな」

「……ありがとう、ございます」

「いやいや。じゃあ二週間くらいだね……よろしく」

 

 手を差し出して握手でも、そう思っていたけど、彼女はじっと俺を見つめてからその手に頬をくっつけて、更に唇までつけてくる。驚いて手を引っ込めようとしたらガッチリ掴まれてしばらくすりすりと頬を擦り付けてくる。マジでネコだよ、顎の下とか撫でたらゴロゴロ言いそう。

 

「えへへ……よろしく、お願いします……翔太さん」

 

 こうして、拾った……もとい一時的に預かるような形で、燐子が俺の家に転がり込むことになった。家事全般優秀、癒し効果抜群とペットとしては100%突き抜けて400%くらい完璧なんだけどただ一つ問題なのはベッドを貸したのに一緒に寝ようとしてくるところかな。お前ネコじゃねぇから人間だから。俺の理性が危なくなる前にやめてくれ。

 

「ご主人さまが望むのなら……触って、いいですよ?」

 

 しかも誘ってくる始末である。お前の貞操観念どうなってるんだ、それとも発情期になる前に去勢手術した方がいいのか? けど結局朝起きると大抵ソファに寝転んですうすう言ってるんだから、マジでネコっぽいんだよなぁ。

 

 

 

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