捨てネコじゃなくて女の子拾っちゃったんだけど   作:黒マメファナ

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第三話:愛着に素直になれない

 ペットを飼い始めて、一週間が経過した。いや健全にネコとかだったならよかったんだ。でもうちのマンション、ペット禁止なんだよね。そういう意味じゃネコを飼ってて癒されてる人を見ると羨ましいって気分になっていた。

 

「あ……猫」

「かわいいよね、なんというか画面越しでも癒されるんだよ……」

「……にゃぁ」

「正直やると思った」

 

 ネコとか好きだよ。動画とか漁るくらいにはさ。でもね……あれかな、体長1.5メートルちょっとの人語を操るペットはちょっとね。いくらネコっぽいって言ってもあなたは人間ですからね。だからそんな風に甘えてこないで、膝に寝転ぶな構ってあげるから! 

 

「……わかれば、よろしいのです……」

「図々しいな」

「ネコですから……」

「言うと思ったけど」

 

 こんな調子で一週間が過ぎようとしていた。燐子がペット顔で俺の家に転がり込んできて以来、賑やかな生活を送っていた。彼女、自分をペットだと信じてやまないという問題があるけどそれ以外は家事はできるしかわいいしで最強なんだよね。

 

「パソコン……課題、ですか?」

「レポートだね」

「……ですか」

 

 今日は休みだから構ってもらえると思ったのにこう作業をされていてはつまらない、というところだろうか。さっきからしょっちゅうくっついてくる。いい加減このスキンシップに慣れつつあるところが幸いなんだけどさ。如何せん柔らかい。彼女は柔らかいし暖かいしいい匂いするしで困ってしまうところなんだよ。実はあんまり集中はできてない。

 

「そうでした……買って、ほしいものが」

「なに?」

 

 何を隠そうこのペット系燐子、所持金が三ケタなのである。メシ代とかは俺のお金から出ていたりする。まぁいいんだけどさ、おいしいご飯食べれるのは嬉しい。食べるという幸福に目覚める日が来るとは思わなかったんだ。

 

「俺に買えるもんなら」

「お手頃価格です……」

「ん、どれ?」

「これです」

 

 そこで彼女が見せてくれたものは……首輪? ネコ用の首輪である。俺は何を見せられているんだろう。というかなんのプレイをさせられようとしてるんだろうか。当の彼女は素敵な笑顔をしていた。

 

「その、やっぱり……首輪が、ないと……あなたのもの、という証明がなく、ノラだと思われたら……嫌だなと」

「思われねぇよ」

 

 この子はギャグで言っているのかと思いきやそのギャグをごり押ししてくるから困るところなんだけど。

 だってまだ無言で俺にスマホの画面見せてくるんだもんね。どこまでも飼われたいらしい。あのねそもそも、俺預かってるつもりなんだけど。

 

「……チョーカーでも、いいかな」

「どこまでも首輪に拘るんだな」

「所有されていることを……表現するのは、大事なこと、かと……」

 

 俺に飼われているという意識は頑として持ち続けるつもりらしい燐子。ところであと一週間でこの関係終わりにするつもりある? 大丈夫だよな? 

 どうやら流石にチョーカーというもので妥協することにしたらしい燐子はまたもや甘えることにシフトしていく。

 

「そろそろ……二時間に、なります……」

「そっか」

「休憩、されませんか……?」

「いや、まだ頑張るよ」

「休憩しましょう……?」

「でも」

「……えい」

 

 アニメでチラリと見た、ぎゅっと抱き締める。抱き締めのお仕置きズラ~、というセリフが頭の中に響いていった。燐子が抱き着いてくる。弾力がすごい。なんと表現したらいいんだろう、すごい。頭の中がソレでいっぱいになるくらいにすごい。

 

「疲れて、いらっしゃるようですので……一旦休憩にした方が……効率がいいと思います」

「……そうだね」

「はい……あの、クッキー、作ってあるので……ぜひ食べませんか……?」

 

 昨日大学から帰ってきたらいそいそと何か作っていたのはクッキーだったんだな。そのあとすぐ前のバイト先に給料の支払いを直談判しに行くのと新しいバイトの面接に行っていたからそこまで確認できなかったけど。

 

「それじゃあ紅茶淹れよう。冷たいやつ」

「……はい。お淹れします」

 

 立ち上がり、パタパタと用意をしていく燐子は、なんだかさっきより幾分か明るい顔をしているような気がした。

 もしかして……と昼をとっくに過ぎた時計を見てみる。まだきっと暑いだろうが、それでも提案してみる価値はありそうだ。

 

「燐子」

「はい」

 

 呼ぶとまたパタパタと傍にやってくる。かわいらしいというか完全にペットである。当然だよな。この一週間ほど、彼女は学校には出かけてもその他の外出はしていない。所持金三ケタでは当面どこにも遊びに行けないんだろう。

 

「この後どこか出かけようか」

「……っ、い、いいんですか?」

 

 素直じゃない。出かけたかったんだろうにそんな風におずおずと確認するなよ、とは思うがいつも彼女はお金だけはかけないように頑張る傾向にあった。燐子が自分から何かがほしいと言ったのは今日が初めてのことだったんだ。

 

「いつも家事とかしてもらってるし。おかげで家ピカピカだし? そんな風に頑張ってくれるお礼はしないと」

「……ありがとう、ございます」

 

 思わず撫でてしまうけど、燐子は俺の手を目を細めて受け入れる。だんだん、この子に触れることへの抵抗感もなくなってきてしまっているのはいいことなのか悪いことなのか。

 けど、少なくともここまで懐いてくれる彼女に愛着が湧いているのは事実だった。

 

「……チョーカー、ほしいです」

「もう好きにして……」

「でしたら、ネコの首輪が」

「チョーカーでお願いします」

 

 人間は二択を突き付けられると自然のそれ以外の選択肢が思い浮かばなくなってしまうって心理学かなんかで聞きかじったことがあるけど、チョーカーとネコ用の首輪の二択を突き付けられた俺はまんまとその策にハマってしまった。

 ショッピングモールでその選択をさせられてから十分後、フードコートでは黒のレースみたいなチョーカーを付けて大変満足そうな燐子がドーナツをほおばっていた。さっきクッキー食ったよな? 

 

「幸せ……です」

「よかったね」

 

 ちなみにガチの南京錠みたいなのがついてるのもあったがそれは全力で止めた。もっとソフトなのにしてくれと泣きたい気持ちで頭を下げた。当然店内はザワついたわけだがそこでご主人さまがそうおっしゃるならと言い放ったことで更に店内がザワついた。穴があったら入りたい。

 

「また一つ……あなたのモノになれました……ふふ」

「言い方」

 

 けど本当に嬉しそうだ。そしてその顔を見てる俺も頬が緩んでることに気付いた。

 ──なんだ。結局俺も、独りはさみしかったってことか。燐子が段ボールにいたあの日から、俺はもうとっくに彼女の癒し効果の術中にハマってしまっているようだ。

 

「よし、後は持ち帰って明日食うか」

「……はい」

「服とかは?」

「大丈夫、です」

「後、ヘッドホンとかで音塞げるようならキーボード持ち込んでもいいよ。バンド、やってるんでしょ?」

「……はいっ」

 

 一緒にキーボードを運んで客間に置いておく。彼女のものが増えていく。いつも洗濯物がきっちり干されて仕舞われていて、パソコンに向き合ってレポートをやっていると、ふとした時にいい匂いが漂ってくる。

 エプロン姿の燐子ができました、と微笑みかけてくれて、一緒にご飯を食べていく。

 

「水着を、持ってきたので、今日こそ……お背中を……!」

「いらないから、入ってきたら追い出す!」

「……しゅん……前も洗って、あげたい、のに」

 

 しゅんじゃない声に出して言うな。前はもっと困るから! そんな攻防もなんだか楽しいと感じてしまう。どうやらこの捨てネコが来てしまったことでずいぶん俺もおかしくなってしまったようで。

 

「乾かして……ください」

「自分でやって」

「……ご主人さま」

「その呼び方はやめなさいっての、ほらドライヤー貸して」

「……はい、どうぞ」

 

 一週間経てば燐子の方もどのくらい踏み込んでいいのか、どれくらいで怒られるのかを覚えてしまったようで、困らせて振り回してくる。

 その日々がなんにもなかった俺を満たしてくれる。彼女の飼い主という自分が、どんどん好きになっていた。

 

「……翔太さん、その……」

「わかった」

「……え」

「ただし俺はそっち向かないから、向いたら……ヤバいし」

 

 その日の夜は毎回毎回気付いたらソファにいることもあり、諦めて久しぶりのベッドに寝ることにした。背中を向けてなるべく平常心で、そして平常心じゃなくなってもバレないように。

 そうしたら燐子はもぞもぞと俺の背中にカラダをくっつけてくる。クーラーの効いた部屋とはいえ今は夏、暑くはないだろうかと問うと燐子は大丈夫です、と小さく答えた。

 

「幸せです」

「……燐子?」

「あなたに、翔太さんに拾われて……よかった」

 

 怖がりで、さみしがりでネコみたいな燐子。中々本音や素直な言葉は教えてくれないけど、だからこそその言葉は俺の胸に暖かなものを響かせた。

 冗談じゃなく、俺は彼女を救ってしまったんだ。だからこそ燐子はこんなにも俺を慕って……というより懐いてくれるし。

 

「……また、こうなるんだな」

「んぅ……」

「はぁ……トイレ行こう」

 

 そして朝になったら何故か俺は反対を向いていて、燐子を抱きしめるようにして寝ているんだからアレだよな。俺も大概彼女に救われてるところがある。独りで寝るには大きかったベッドも、燐子がいるとなんだか丁度いい感じがする。

 独りじゃない、俺は独りじゃないんだな。相手が美少女で、そのくせスキンシップが多いのは困りものだけど。

 

「どうした、最近帰り早いな、バイトか?」

「バイトじゃないけど、ペットが待ってるんだよ」

「ペット? ネコでも飼い始めたのか?」

「まぁ、預かってるだけで、もうそろそろだけど」

 

 だが大学でそんな話をしていると、胸が痛む感じがした。そろそろ二週間、彼女と出会い拾ってから二週間がもう経とうとしていた。

 夢のようだった。楽しい、幸せな時間はあっという間に過ぎていった。

 

「明日の昼頃……帰ってくるみたいです」

「そっか」

「はい……」

 

 透き通った瞳は何を映しているのかわからない。けれど燐子はただ一言、キーボードや荷物を家に戻すことを手伝ってほしいと頼まれた。

 ──それが何を意味しているのか、わかってはいたが、あくまで俺は燐子を預かっていただけだ、と二つ返事で了承したのだった。

 

 

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