捨てネコじゃなくて女の子拾っちゃったんだけど   作:黒マメファナ

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第六話:女子高生がやってくる

 それはライブ終わりのことだった。いつものファミレスで反省会が終わったところだった。そういえば最近燐子が一時期、ゲームにログインしなくなった、という話からその事件は始まった。

 

「大丈夫だったのりんりん?」

「うん……ちょっと、鍵を落としちゃって……二週間ほど家を空けていて」

「え? それ大丈夫じゃないじゃん!」

 

 二週間って、そっか燐子の両親は海外旅行だったんだっけ。なんでそれで私たちに相談しなかったんですか、と紗夜が怒ってる。確かに、アタシらに相談したらなんとかできたのにさ、というけどあの時は動転していて……と下を向かれてしまう。

 

「それで、どうしたんですかその二週間」

「……ご主人さまに、拾って、もらいました」

「ん? 燐子ごめん、なんて?」

 

 ゴシュジンサマって日本語が正しくアタシの耳で処理できなかった。え、なんか今ヤバいこと言わなかった? 

 まさか……ご主人さまって言った? と確認したら燐子はこくんと頷いた。

 

「事情を……聴かせていただいてよろしいですか?」

「……はい」

 

 ──しばらく事情を説明される。友希那は途中で脳の処理ができなくなったようで首を傾げながらジュースを飲んでる。あこも同じっぽい。紗夜とアタシが顔を向かい合わせて、怪訝な顔をし合った。

 

「大丈夫……じゃないでしょ」

「一人暮らしの男の人と……同棲、ですか?」

「同棲ではなく飼われて……いるんです」

「それ、よりアブナイから」

 

 困っていたところで手を差し伸べて泊めてくれた一人暮らしの異性だなんてどうしても、ソッチの方面に想像が転がっていってしまう。しかも本人曰く相手は飼い主で自分はペットだと言われると余計に、これアタシだけ、と思ったら紗夜がちょっと頬を赤くしていたから多分おんなじことを考えてる。

 

「……危ない、ですか」

「リサ姉、なにが危ないの?」

「炎天下にそのまま立っている方がよっぽど危ないわ」

「ごめんね~、二人はちょーっと黙っててね~」

 

 後の二人はまだしも燐子はきょとんってしちゃだめでしょ。あーでも燐子もその辺疎そうだしよくよく考えずに転がり込んだ結果平気だったパターンなんだろうかと考察してみる。ほら、家出少女を連れ込んで泊める代わりに~とかさ。

 

「……特になにも、されてません」

「そっか」

「されても、いいんですけど……」

「……白金さん?」

 

 ほっと安堵した矢先の爆弾だったこともあり、紗夜がドン引きしてる。でも確かに今の発言はちょっと……あんまり自分の、その貞操、みたいなのを軽視したものだから、アタシとしても受け入れられるものじゃなかった。

 

「優しくて……少し怖がりな、わたしの飼い主さんです」

「い、いやいや……信じれると思う?」

「そうです。その関係は不健全極まりないのよ?」

「……証明、します。きっと、信じてくれる……はずです」

 

 そこまで言うのなら……と紗夜がつぶやき、話についていけなかったあこと友希那は置いといて、また後日、紗夜と二人でその家に来てほしいって言われたんだけど、大丈夫だよね? これ、うっかりしてるとアタシらもヤバくない? 

 

「確かに……白金さんが一種の洗脳状態にあるとすると非常にまずいです」

「だ、だよね~」

 

 紗夜の言う通りだと思う。燐子がそのご主人さま、えっと桜田さんだっけ。その人に何かしら、例えば脅迫して、とかで言うことを強制的に聞かなきゃいけない状態だったら、そんなヤバいことをする男の人の家に上がるっていうのはバカだし、相手が燐子だけじゃ飽き足らないって言うなら、怖いよね。

 

「大丈夫よ」

「紗夜?」

「いざとなったらこのボールペンを相手に突き刺します」

「物騒だなぁ……」

 

 学校帰り、アタシと紗夜はそんなことを言いながらその家に向かっていく。幸いなのかどうなのかはわからないけどそこまで燐子の家から離れているわけじゃなくて、既に帰ってきているらしい両親にも認められているということも少し警戒を緩める後押しになっていた。

 

「よ、よし……ここのマンションだっけ」

「ええ……行きますよ」

 

 燐子や紗夜がハマってるネトゲじゃないけど、まるでそういうゲームでボスがいるようなお城に忍び込んだみたいにアタシと紗夜はゆっくりと部屋の番号を押して、呼び鈴を鳴らしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──非常にまずいことになった。

 生徒会の用事で学校から帰ってきた燐子が唐突にこれからバンドメンバーが二人来ますと言い出した。なんでそんな急なんだよ。しかも俺がいるのに! 

 

「お二人に、翔太さんのことを……知ってほしいと思って」

「お前……さては」

「ご主人さまのこと……悪い人だと思ってる、ようだったので」

 

 燐子さん!? あのですね、みだりに周囲の人にご主人さまとかペットとか言ったらダメだって散々言ってあったよな!? それを一切無視すると燐子(ペット)じゃなくて(かいぬし)の立場が危なくなるんだからな? 

 

「一人は、学校が別なので……合流してから、来るそうです」

「……あのな」

「大丈夫、ですよ……?」

 

 大丈夫じゃないからこんなに俺が慌ててるんだってことに気付いてほしいけど多分この頑固ネコさん、気付いていながらそれでも悪い人だと思われてるのを払拭したかったんだろうな。そういうところあるからな。

 

「お、おじゃましまーす」

「ど、どうぞ」

 

 そんな問答から二十分ほどした頃に、インターホンが鳴り、そこには確かに燐子の言った通り制服が同じ子と制服の違う子の二人組が訪問してきた。お茶とお茶菓子を準備してリビングに招く。

 一人はこう言ってはなんだけどギャルっぽいというか軽そうな印象の子、もう一人はクール系なのか緊張してるのか最低限の挨拶しかしない子だった。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「い、いや~、すみません急に押しかけちゃって」

「ああうん。まぁ燐子の発言を聴いたらそうなるのも無理はないですから」

 

 その言葉にややほっとしたような顔をするギャルっぽい方の子。名前は今井リサ、というらしい。もう一人の方は氷川紗夜、二人は燐子に言われた通り同じバンドをやってるメンバーで、燐子がキーボード、この二人がそれぞれベースとギターをやってる五人組なんだとか。

 

「それで桜田さんは、どういった経緯で白金さんと、その同棲をしていらっしゃるんですか?」

「同棲じゃなくて……」

「燐子」

「……ですが」

 

 隣にやってきた燐子を遮る。ここでキミがなんやかんや言っても誤解が広がるだけだからな? それよりも、どういった経緯か。多分燐子から一通りは訊いてるだろうけど、彼女の語る単語は情報誤認させるようなものが散りばめられてるからなぁ。

 あえて客観とかは省いて俺は俺の主観で語ることにする。そっちの方が燐子の言葉の意味とかがわかるかもしれないし。

 

「──というわけで、なんでかここに居ついたってわけなんだけど」

「な、なるほどね~……紗夜」

「私に振らないでください……ですが、事情はわかりました」

 

 なんか居ついたのではなく飼われてるんですと再三訂正を要求してくる黒ネコ系がいるがこの際無視しておく。

 あとお触り禁止だから。喉鳴らしてこないですり寄ってこないで。

 

「燐子……ほら、邪魔すんならあっち行ってて」

「……や」

「や、じゃなくて、話進まないでしょうが」

「邪魔、しませんから……」

「今してるめっちゃしてるめっちゃ邪魔──って痛ぁ!? お前今爪立てただろ!」

「……にゃん」

 

 にゃん、じゃねぇ。というか最近強引に押せばいいと思ってるな。今日はお客さんいるんだからなし崩し的でも甘えさせないから。

 だが時既に遅し。燐子とのやり取りに二人はすごく形容しがたい表情をしていた。

 

「……マジで飼い主、なんだ」

「ええ納得しました……」

「……だから、言ったじゃないですか……ご主人さまだと」

「すみません、遅れましたが白金さんがお世話になっております」

 

 態度を翻してきたな、とは思うけどそりゃ相手が未成年女子高生を家に引き込んでる危ない性欲魔人という警戒心から、実際はペットに振り回される残念飼い主だと知れば態度も変わるだろう。今井さんの方も苦笑いに変わった。

 

「燐子、その人マジで飼い主だったんだ」

「はい……優しい優しいご主人さまです」

「優しくないからもう部屋戻ってくんないかな?」

 

 ふるふると首を横に振らないで。もう結局ゴリ押しで人の膝の上でゴロゴロと甘え出してるんだけど。知り合いの前だろうとなんだろうと借りてきたネコにはなってくれないらしい。それとも相手もそれだけ勝手知ったる仲、ということだろうが。

 

「撫でて、ください……いつものように」

「燐子、いっつもこんな感じだったんですか?」

「え、うん」

「し、白金さん! 男性の膝に……はしたないですよ!」

 

 無駄です氷川さん。コイツはこうなったらご主人さまと呼び、なんなら貞操すら捧げようとしたはずなのに断固拒否してくるからな。結局そのまま寝始めてしまい、俺は普段の燐子のことを二人から訊いて、逆にこっちで生活してる燐子の様子を訊かれたりした。

 

「ごめんね燐子、夕ご飯まで」

「いえ……今井さんが、いたので、むしろいつもより楽できました……」

「ごちそうさまでした桜田さん」

「ああうん。燐子も嬉しそうだったし、よかったらまた来てよ」

「はい、また」

 

 パタン、とドアが閉まると同時にああよかった~という思いが膨れ上がった。よかった~、俺通報されなくてよかった。

 正直燐子に甘えられた時は終わったとすら思ったんだけどな? 結果的に燐子が説明時にご主人さまゴリ押ししてたから助かった部分がある。

 

「つまり……わたしの、おかげですね」

「うん違う。お前のせい、だからな」

「……にゃあ」

「にゃあじゃなくて……別にもう怒ってねぇけど」

「……! じゃあ、甘えても……いいですか?」

 

 いいよ、と折れると燐子が飛び込んでくる。さっき甘え足りなかったのか。あんだけ膝の上でにゃあにゃあと甘えてたくせに。

 でも、まぁ今日だけは許してやろう。向かい合ってJKと話すの緊張したから、ちょい癒しがほしい。なんだか最近、燐子の匂いを嗅ぐと落ち着いてしまう自分がいた。

 ──そんなこんなで、Roseliaにも公認の燐子の飼い主になったんだけど、マジで逃げ場もなく俺は飼い主のようです。いやいやそいつネコじゃなくて人間だからな。

 

 

 

 

 

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