捨てネコじゃなくて女の子拾っちゃったんだけど   作:黒マメファナ

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第八話:バイト始めました

「今日からここでバイトします、よろしくお願いします」

 

 リサから連絡をもらい数日後、俺は新しいバイトを始めていた。コンビニのバイト、高校の時にちょっとだけやったなぁという懐かしさに駆られながら、店長に色々と説明を受けていく。

 当たり前だけど色々と変わってるんだな。機械とか最新だし、お客さんができることも格段に増えてる。決済方法とか前のバイト先はクレジットか現金だったしなぁ。

 

「今はQRコードのやつとか電子マネーとかありますからね~」

「いやまったく、便利だからって使っててよかったよ」

 

 そういうのに知識がなければ覚えるのが大変だ。よかったぁ、クレジットの決済処理も幾分か簡単だった。というかもうこうなると前のバイト先がアナログなだけな気がしてきたんだけど気のせいではなさそう。

 

「アタシが色々教えてあげますよ」

「助かる」

 

 そうして更に数日働き始めて、今回は馴染めそうだと思った。だが、ここで問題がある。いや毎日じゃないんだよ。バンドの練習ある時は決まってこないし、ゲームやってる時もあるからその時は来ないんだけど、そうじゃないときは高確率で燐子が店にやってくる。

 

「翔太さん翔太さん」

「……はいはい」

「暇そうなので、呼んだだけ……です」

「あ、そう」

 

 暇だけどさ。なんでいるの、と問いかけるとご主人さまの働く姿を眺めに来ました、とニコニコ顔で店内で買ったコーヒーと持ってきたらしい小説を手に語るペット系の居候。ちなみに家事は一通り済んでからきてるらしく、まったくもって優秀なペットさんである。

 

「優秀ついでに……休憩時間には構って、いただけると……夕飯、頑張れます……にゃん」

「それサラっと脅してませんか?」

「いえ……翔太さんは確か、カツの弁当が……好きだったはずなので、買って帰りますね……?」

「脅してるよなぁ!?」

 

 構わないと夕飯がコンビニ弁当になるらしい。相変わらず図々しいというかペット系なのにただ従順なわけでなく強かなところもあるというか。最近ではこれこそが燐子のいいところなのかと思い始めていた。

 

「燐子」

「……はい?」

「ううん、今度は大丈夫だよ」

「翔太さん……」

 

 なにより彼女は優しくて、前回辞めさせられたことを気にしてるフシがあるから。今回はそんなことにならないように注意するから。事情を知ってるリサもいることだし、平気だよ。燐子はそれを汲んでくれたのかふわりと天使の微笑みを浮かべてくれる。

 

「こらこら、イチャイチャしてないでね?」

「してねぇよ」

「ご主人さまに、構っていただいてる……だけです」

 

 それが問題なんだけどねぇ、とリサが苦笑いをする。確かにな、燐子は匂いを擦り付けるように甘えてくるし、それを構うのは触れて撫でてって感じだから傍から見てるとバカップルが人目を憚らずにイチャイチャしてる状態だよな。

 

「あんま公共の場でイチャイチャすると通報されるよ?」

「む……確かに、通報されるのは……困ってしまいますね」

 

 そう言って惜し気に離れていく燐子を見ながら、俺はまた家でなと甘やかしておく。休憩が終わる前にそれじゃあと去っていく彼女を見送り、姿が見えなくなってから、リサがニヤリと笑ってくる。

 

「……甘やかすね~」

「敬語どうした」

「いや、アタシの方がセンパイだし?」

「年上なんだが」

「燐子にデレデレのくせに?」

 

 それを言われるとなんとも反論しにくいが、リサにちょっと小バカにされたのが気に入らなくてむっとしてから、ちょいちょいと指を差した。んー? と顔を寄せてくるギャル系に俺はニヤリと笑ってやった。

 

「リサはあのヒトだろ?」

「……あ」

「目で追ってたからな、この間」

「そっか……目で」

 

 てっきり恥ずかしがるとでも思っていたらリサはちょっとだけ目を見開いてから、するりと表情を見せずにバックヤードへ戻ってしまった。

 ──ああこれ、もしかして地雷踏んだっぽいな。やっぱそういうのは苦手だ。

 

「ダメっすよ~桜田さ~ん」

「……びっくりした。青葉さんか」

「はーい」

 

 いつの間にか後ろに立っていたリサの後輩ちゃんである青葉モカがそんなことを言って返事をした後にまた話をそっちに戻してくる。

 リサにあの人の、同じバイトで働く俺と同年代の大学生の話は禁句だと教えてくれる。

 

「元カレなんで」

「……そりゃまずいことしたな」

「見てればわかる気がしますけど~」

 

 悪かったなわからなくて。そこまで恋愛とかマトモにしてきた時代なんてねぇからな。だがまぁそれと地雷を踏んだことは別だから、後でなんか奢ってやるかな。

 青葉さんもそれがいいと思います、と言ってくれる。なんなら家に招くかな。

 

「おや~?」

「ん?」

「家に招く……そういう感じですか~?」

「下心はねぇよ」

「狙ってるのかな~、と」

 

 狙ってねぇ。それに俺をこのバイト先に紹介してくれたのはリサなんだから交流があるのは当然だろうが。

 俺はそう否定するものの、青葉さんがどーでしょうな~とからかうように問うてくる。なにが言いたいんだか。

 

「二人とも! そろそろ遅刻になるからね!」

「おお、それは困っちゃいますよリサさ~ん」

「俺もだよ」

 

 ──こんな感じで、バイト先自体は居心地がよく、また雰囲気がいいから長続きはしそうだ。ただやっぱ時給が低いのはネックだなぁと思うところもある。そこは燐子がいてくれてありがたい……ごめん、見栄張ったくせにペットの金に手をつけるゴミ飼い主でごめんな。

 

「構いません……翔太さんの、ために……わたしも何かしてあげたい、ので」

「家事してくれてるのに?」

「はい……!」

 

 当の燐子はそんな風にむしろ頼られることを誇らしそうに微笑むだけだった。本当にできたペットで飼い主冥利に尽きるってレベルじゃねぇなこれ。

 代わりとは言えちゃんと休みの日には息抜きに出かけたり、燐子の望みを叶えてやることにした。本やアクセサリー……基本はチョーカーだけど、または服などの()()を買っていく。

 

「……作るの?」

「趣味、なので」

 

 そういえばミシンも持ち込んでたなぁということを思い出す。趣味はゲームと手芸、ただし集中したいそうで、特にミシンを使ってる間は家主なはずだが俺も部屋に入るのを拒否される。なんだかそう聞くと鶴の恩返しみたいだな。

 

「決して入っては……なりません、ですか?」

「白と黒、ってカラーも燐子にピッタリだね」

「ふふ……そう、ですね」

 

 ただ一つ違うのは滲むように細められるアメジスト。彼女の宝石のような瞳が印象的だった。愛でると嬉しそうに煌めくそのアメジストが、俺を捉えると、何故か心臓が跳ねる感じがする。まるで全部、この俺の汚い内面まで透過させられるような。

 

「ん……翔太さん?」

「……ごめん、つい」

「いえ……ご主人さまの手は、いつも心地よいので……」

 

 ついつい頬に触れ、手を引っ込めようとするもいつものようにすり寄ってきて、目を細めて気持ちよさそうに頬ずりする燐子に、抵抗を諦めて、その体温に手を預けることにする。前はこれで終わっていたんだけど、最近はじりじりと寄ってきて、やがて彼女は肩に顔を埋めてくるようになった。

 

「ん……すぅ」

「燐子?」

「落ち着きます……ふふ」

「そんなに匂いを嗅がれるのは恥ずかしいんだが」

 

 だがまぁだいたい寝る時はこのくらいの距離感に燐子の頭があるから、慣れてきてしまっている。両手は迷子になるが、結局は後頭部と背中に落ち着き、燐子が満足するまでそうしてのんびりと時間を過ごしていく。

 

「もうちょっと……甘えても、いいですか?」

「いいよ」

「……でしたら、失礼、します」

 

 そして今日はくるりと反転し、俺の膝の間にやってきて、身体を背もたれにしてくる。これは困って手の置き場に迷っていると燐子が誘導して……え、マジで? ここ? 腰なんだけど。

 

「ぎゅっと、していてほしい……です」

「なるほど?」

「ちょっとなら、揉んでもいいですよ……?」

「下ネタ厳禁」

「……冗談、です」

 

 嘘だ今冗談のトーンじゃなかったからな。それに自分で持ち上げてアピールすんな。そういうの嫌なんだよ。

 燐子と、そういう一線を越えたらなにもかも壊れる気がして……燐子がここからいなくなってしまう気がして。

 

「……覚えておいて、くださいね」

「なにを?」

「わたしは……翔太さんなら、なにされても……大丈夫ですから」

「そういう安い発言はダメ」

「……安くなんて。ただわたしは、わたしだけができる方法で、ご主人さまに癒しを与える……そういうペットでありたいんです」

 

 それと下ネタは関係ない、と言おうとしたけど、()()()()()()()()()()()癒しというのは、男性がそういうのを抱いているということを見抜いてのことだろう。俺だって性欲くらいあるし、燐子はネコ系というだけでネコではないのだから。

 

「大丈夫、燐子」

「……翔太さん?」

「その気持ちだけで十分だから」

「ですが……その」

「ん?」

「翔太さんが……致しているのを、見かけたことが、ないので。枕元のティッシュも……いつの間にか移動していましたし」

 

 すごいチェックしてる。それこそまさに気持ちだけ十分、余計なお世話なんだよな! 燐子がいない間に処理しているのでお構いなく! 確かに俺んちエロ本の一冊もないし、時折燐子も俺のノートパソコン使うから履歴も消してるけどさ! 

 

「なるほど……スマホ、ですね」

「……なんでそういう理解しちゃうんだよ」

「ちょっと……興味が」

 

 なくていいですそんなの。そしてぶっちぎりに見せられるものではないからね? えっと……黒髪、巨乳……うん。なんでもないです。他意はないですと言えればどれほどよかっただろうね! 見せられないヨ! 

 

「男のオカズには触れないでほしい」

「……うう、そんなの……ひどい」

「把握しようとしてくる方がひどいんだよこの場合」

 

 俺がどんなにそういうのに細心の注意を払ってると思ってんの? オブラートは剥がすものじゃなくて一緒に飲み込むものだからな!

 ──そんな会話のせいか少し、燐子はそういうのはないのだろうかと気になってしまった。ああもう会話がピンク色なのはこれだから苦手なんだからな! 

 

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