皆さんお久しぶりです。
元気にしてますでしょうか?野球界は次々と故障者が出て来ましたね。皆さんも怪我には気をつけて下さいね。
では本編どうぞ!
ベンチ入りメンバーが確定した翌日、沢村はランニングする1年の中で一際目立っていた。いつもの様にタイヤを引きずりながらも先頭を走っていた。だがそれにぴったりとくっつきながら走っている者が1人。
「テメェ!俺についてくんじゃねぇ!」
「ああ?走るコース一緒なんだから当たり前だろ。それとも前走って欲しかったか?」
「なぬ⁈誰も俺の前を走らせん!」
「ははっ!その調子だ!」
沢村の気合いも凄いが、それに汗一つかかずに走る久里の体力も人並み外れていた。しかも久里はある事を思いながら走っている。
(走れ、必死にな。今のままだと甲子園に行った時、真っ先に外されるのはお前だからな)
「あのヤロー、今まで以上に気合い入ってんじゃねーか」
「ランニングぐらいはあいつに勝ちたいって思いがあるんだろ」
その光景を御幸と倉持が見守る。実はこの2人は沢村が落ち込んでいるのではないかと心配していたのだが、それが杞憂に済んで一安心していた。
「そうでなきゃ困るさ。ただでさえ、他の者より遅れているんだ。常に前へ進む姿勢が無ければ沢村は生き残れない」
そこにクリスがやって来る。
「クリス先輩」
「だが、少し危ういな」
「え?」
「さっき言った様に、あいつは覚えなきゃいけない事が山程あるんだ。しかもあいつの性格上、俺達がしっかりコントロールしてやらなきゃ潰れるまでやりかねないぞ」
クリスは頑張りと無茶の違いを嫌と言う程分かっている。御幸は彼を1番尊敬しているが故、それに何も答えられなかった。しかしクリスはそんな御幸の心情を察した。
「御幸、俺はまだ諦めた訳じゃないぞ」
「え?」
「久里に言われたんだ。『必ず怪我を治して甲子園で一緒に戦ってくれ』ってな。だから俺は最後まで諦めない。甲子園で必ずマスクを被ってやるってな」
「クリス先輩……」
「つまりだ、お前が情けないプレーをするなって事だ。スタメンマスクを狙ってるのは宮内だけじゃないって事だ」
「クリス先輩……俺、負けませんよ。いくら怪我を治してベンチ入りしても正捕手が手に入るとは思わないで下さいね」
お互いに良い顔で宣戦布告した。いくら元々正捕手だからって1年以上もブランクがある人にそう簡単に負けられない御幸。最後の可能性に賭け、自分をここまで必要としてくれている久里や丹波の気持ちに応える為に。
「御幸、お前だって久里を見返してやれ」
「え?」
「あいつがお前ではなく俺を頼ったって事、考えれば察しがつくだろ」
「…⁈あのヤロー」
つまり、久里にまだ信用されてないという事だ。御幸は必ず彼を認めさせ、自分が正捕手だと分からせてやると心に誓った。
その光景を片岡と太田と高島は見守っていた。
「片岡監督、沢村をベンチに入れた理由は丹波の調子がイマイチ上がってこないからですか?」
太田は沢村のベンチ入りに言葉こそ出さないが不満があった。ただでさえ、沢村を除いて投手は5人いるのだ。それに怪物1年生の2人の存在。荒削りだが威圧感で打者を圧倒する。そして何より久里の存在だ。まだ数試合しか投げてないが、全ての能力は既に高校生離れしている。そこに更に1年を入れる必要が果たしてあるのかと。
「いくらなんでも投手5人というのは多すぎでは?」
「勝たなければ意味がない高校野球に、内容の良いピッチングなど必要ない。どんなに不細工なピッチングだろうが、勝負に勝てる投手。それが俺の求めるエースだ」
「「⁈」」
「だが、本当のエースというのは、勝ちを最低条件とし、相手を戦意損失させ、相手の勝機を完全に断つピッチングをする奴を言う。そう言う意味では久里と降谷が近いだろう。だが2人とも中学野球をやってこなかった。その為、同学年と比べてもこの2人は経験が圧倒的に少ない。確かに久里の野球能力、センスはずば抜けている。だがそれだけで勝ち続ける程、高校野球は甘くない。更に、降谷は抑えてこそいるが、相手がボール球を振ってくれて助かった面が大きい。それを降らせると捉える事も出来るが、それが全国で通用するとは限らない」
片岡は淡々と語る。それは彼の信頼を誰も得られていないと言う事だ。
「沢村含めて。投手全員をこれからの合宿と予選でエースを育てていくしかあるまい。調子さえよければ1年生だろうがガンガン登板させるぞ」
それは調子次第でエースさえ、1年生に渡す事もある事を意味していた。つまり、沢村も可能性はゼロではない事である。そして片岡ほとんでもない発言を繰り出す。それには2人とも雷に打たれた衝撃を受けたのだった。
雨が降ってる何気ない日だった。今日はたまたまオフの日だったが各々で自主練をしている。そんな中、久里は寮などを散歩していた。意味は特に無い、なんとなくだった。室内練習場の外を歩いていると中から声が聞こえた。中を覗くと、沢村と降谷が御幸達に指導を受けていた。
「………」
それを黙って見続ける。何故なら、それは自分が手に入れる事が出来なかった姿だからだ。確かに今は以前よりはだいぶマシだ。練習はちゃんとしている。ここのメンバーは自分の野球能力について妬んだりしない。それどころか自分について教えを乞う者までいる。上級生であるのに。それだけ野球に対して真剣だと言う事だ。だが何処か周りと心の壁を感じていた。実は久里自身が作っているのを本人は気付いていない。久里は感じていたのだ、自分と彼等との実力の差を。彼等は甲子園を狙う強豪校。レベルが低い訳ではない。それでも物足りなく感じてしまうのだ。入学した当初はそこまで感じる程ではなかった。ではいつからか、明訓高校戦以降だ。彼等と戦い、久里は感じたのだ。自分と同等のレベルを。青道メンバーから感じられなかった強者の匂いを。
「どうしたの?」
そんな事考えていると後ろから声を掛けられた。後ろを振り向くと見知らない少女がいた。青道の制服を着ているのでここの生徒だろう。
「誰?」
「誰⁈私同じクラスなんですけど…それにマネージャーもやってるのに」
彼女は自分が覚えてもらってなかった事に驚く。後半は独り言の様に呟き、少し落ち込む。しかし別に気にする事ではない。何故なら、
「…悪い、クラスの名前は沢村以外覚えてないし」
そもそも久里は印象的だった沢村以外、誰一人としてクラスメイトの名前を覚えていない。言い合いをした金丸も彼の記憶から消去されている。マネージャーについても久里は入部してから1度として関わっていないので覚えていないのも無理はない。
「そ、そうなんですね。それじゃ自己紹介しますね。私、吉川春乃です。野球部のマネージャーやってます。よろしくお願いします。私、この前の試合見て興奮しちゃいました!…あっ!そういえばフェンスにぶつかったの大丈夫だったんですか⁈」
春乃は試合と言う単語で思い出し、慌てて心配する。もし故障しているならマネージャーにお世話になっている。それがないと言う事は平気だったのだが、今の彼女にその様な考えは回らなかった。
「いや、大丈夫だったけど」
「そう、良かった」
春乃はそう言って胸を撫で下ろす。正直、久里は困っていた。嫌いなのではない。どうすればいいか分からないのだ。今まで女子と接点の無かった久里からしたら女子は別の生き物。母親と同じ感じだったのなら久里も対応に困らなかったが、春乃は母親とは似ても似つかない。
「それで、なんか用?」
「私ですか?ちょっとマネージャー間で用があったんです。それでたまたま行く途中久里君がなんか覗いてるのが見えて。中で練習してるんですか?」
そう言って春乃は中を覗いて、沢村達が練習しているのが分かった。1年でベンチ入りしているメンバー全員集合だった。久里を除いて。
「行かないんですか?」
「俺は呼ばれてないからな」
「……入りたいんですか?」
「な、なんで俺が⁈」
春乃がふと言った言葉に久里が動揺する。普段は鈍臭いと言われる春乃だがこういう時だけ、妙に鋭かった。
「いえ、なんか、羨ましそうに見ていたので」
「羨ましい?」
「は、はい。違ったらごめんなさい」
「………それより用事はいいのか?」
「あ、そうでした!教えてくれてありがとうございます!」
久里が話を逸らすと春乃は思い出したかの様に走っていく。その途中で転ける彼女を見た久里は思わず笑ってしまった。春乃は立ち上がると恥ずかしそうに久里を振り返り、何も言わず走り去る。
「……羨ましい、か」
久里はそう言い残し、自室へ戻っていく。
ご愛読ありがとうございました。
今回は春乃と久里の初対面となりました。彼女はこれからも出てくるので春乃ファンは楽しみにしててください。
そして片岡が言った言葉はなにか予想してみて下さいね。
それでは次回もお楽しみに。またね