「……」
「……」
無言のまま、背負われた男と背負った男が広い平原を歩いている。
朝の日差しが眩しく輝き、ジュラ平原を照らす。
背負われた金髪の少年が口を開いた。
「……ありがとうな、本当に」
「気にすんなよクリス。これでも民を守るのを仕事にしてるんでね。てかさっきも礼を聞いたぞ」
「……いや、何回言っても足りないだろ。命を救われたんだ」
金髪の少年クリスは顔を後方に向けた。
そこに見えるのは先程までいた大きな建造物、名を【混迷の場】というらしい。
レンガ造りの壁は古ぼけていて、ところどころに罅が入っている。とても古い建物のようだ。
「あんな、いつからあるかも分からないような場所に、何の用があっていたんだ?」
「いや、それは」
「ああすまん、そういや記憶喪失だったな」
「……別にいいさルーク」
青い短髪の少年ルークは、聞いてはいけないことを聞いてしまったと、少し申し訳なさそうな声を出した。
しかしクリスとしては、あのどうしようもない恐怖から救ってくれたルークに感謝してもし足りないので、まるで気にしてはいない。
とはいえ記憶喪失で不安ではあるのだ。
自身の喪失という事態は間違いなく恐怖感を煽り、クリスの体を震わせる。
「何よ情けないわね。そんなに震えちゃって」
「……」
掛けられた言葉は左後方からのもの。
無駄に偉そうなというか、ひねくれた雰囲気の女性の声。
クリスは少し渋い顔をして振り向いた。
「フン、覇気のない顔つき。モンスターに襲われてそんなにショック?」
「オルタ。なんで喧嘩腰なんだ?」
水色の髪の少女オルタは、その挑発的な態度をルークに咎められた。
それでも鼻を鳴らして態度を改めないオルタに、クリスは疑問が尽きない。
自分は彼女に対して何か失礼をしてしまっただろうか?
もしや。
(胸を凝視してたのが悪かったか……)
あまりに彼女がクリスの好みに合致していた為、まじまじと見とれてしまった時があった。特に大きな胸は主張が激しく、思わず凝視してしまった失敗。
もしそれが原因ならば何とか弁明せねばならない。
(しかしどうやって?)
あまりに貴女が綺麗で見惚れてしまい、二つの山を見てしまいました。もう滅茶苦茶好みです結婚してください……。なんて言える筈はなく。
それにもし原因が他のことなら、逆に相手にとんでもないバクダンを投げつけることにもなるかもしれない。
クリスは悩んだ。
「さっきから何をジロジロ見てるのよ」
「おわっ」
オルタに睨まれてしまったクリス。
考えていたら、自然と彼女の肢体を眺めてしまったようだ。
これではさらに話がこじれるかもしれない。
「ははは、クリスはオルタみたいなのが好みか!」
「い、いやそれは」
「すぐに否定しないとは……本当に脈ありだな!」
「よ、よせよ」
顔が赤くなってしまうクリス。
実際にルークが言っていることが当たっているからこその反応。
どう考えても言い逃れが出来ない状況だ。
「……!」
そして影響されるようにオルタの顔も赤くなる。
クリスは色々と怒っているのかもしれないと震え、彼女から目を逸らした。
ルークのからかいのせいでとんだ事態だ。
「青春してんなぁ。会ったばかりとは思えないぜお前等。息が合ってる気がする」
「……それはルークもだろ」
「お、嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
クリスたちは初対面とは思えないほどに息が合い、噛み合っている雰囲気を形成していた。
おかげで記憶喪失の不安もいくらか解消され、クリスは心の安定を保てている。
本当にこの二人には感謝してもし切れないと彼は思う。
「ま、モンスターに襲われたんだから、少しはリラックスしないとな。いくらでも話相手になるぜ」
「……モンスターか」
「気になるか? ……当然だよな」
クリスは自身を襲った怪物の姿を思い出し、大きく身震いする。
開いた口に並ぶ牙・獰猛な爪・狂気的にも見えてしまう目……。
どの要素も恐怖を抱くもので、今でも襲い掛かってこないか不安になってしまうぐらいだ。
巨大で素早く、こちらを捕食しようとする存在。
まともな神経を持っているのなら、強い恐怖感を持って当然だろう。
話の通じない強大なそれは人間に死のイメージを植え付ける。
「あの怪物は……滅びの恒星によって生まれ、世界中に存在していやがるのさッ」