「滅びの恒星……」
「そうさ」
◆三人は遂に町を視界に収めた◆
◆東西南北+中央エリアに大きく分かれた町◆
(ソルタウンっていうとか……モンスターに対する備えは万全なんで、安心できるらしい)
クリスの目に映るのは町を囲む大きな外壁。
モンスター対策だろうと思われるが、さらに内部には、モンスターを排除するプロ集団がいるらしいとルークは言った。
(警備兵団……ルークもその一人か)
ルークですらその組織の中で新入りに過ぎないというのだから、クリスは驚愕するしかない。
あの怪物を倒した衝撃は頭から消えず、なので猶更信じれない事実だ。
ルークが言うにはどうやら武器にも秘密があるようだが……。
「そのソルタウンの――上空にあるだろう?」
「……」
ルークが指さす先を見遣るクリス。
そこにはあるおかしなモノが浮かんでいた。
いやもしかしたら、浮かんではいないのかもしれないし、そこに実際にあるわけでもないのかもしれない。
「なんだこれッ」
どれだけ目を凝らしてもソレを正しく認識できない。
どんな色をしているのかも、形をしているのかも、定まらずに無形である。
その事実に背筋を凍らせたクリスは呟いた。
「――あれが滅びの恒星」
モンスターを世界にばら撒いた元凶にして、いずれ世界を滅ぼすと言われている恒星。
いつ頃から発生したのかは不明。世界の始まりから在るという説すら存在する。
何もかもが謎に包まれているが、脅威だけは確かに存在し、世界を徐々に蝕んでいく。
「……」
クリスはそれをじっと見つめ、沈黙する。
その先にあるなにかを想像して、それを見ようとでもするかのように。
得体の知れない好奇心のようなものに突き動かされて、見つめ続ける。
「……ッ」
◆じっと・じっと◆
◆その正体を見定めようと——◆
「――」
◆クリスの視界が赤で染まった◆
◆何かを強く握った自分がいる◆
◆黒い翼を生やした少女が◆
◆彼を見て嘲っている◆
◆何を忘れているのかと◆
◆銀髪の少女が彼に言った◆
◆かけがえのない誰かと◆
◆どこかで離れてしまったようだ◆
◆顔のない少年が◆
「――ゲームスタートだ。クリス」
◆恐怖を湧き上がらせる声で、クリスに言った◆
「が、アああぁッッ!??」
クリスの口から絶叫が漏れる。
彼の頭がぐちゃぐちゃに混ざり合い、脳までかち割れそうな痛みと共に、意識は散り散りにはじけ飛んでいく。
周囲の自身を案ずる声すらまともに届かない状態になり、クリスの世界が急速に壊れていった。
もう何も見えないし・何も聞こえない。
想像を絶する恐怖の中で、彼の意識は途絶え、闇に沈んで行った。
◆◆◆
かつて起きた滅びの恒星による災厄――12の絶望。
その時世界に何が起きたのかについては諸説ある。
生き残った者の殆どは、発狂するか記憶を失うか、まともな状態ではなかった。強者と呼べる戦士ですら恒星に勝てず、次々と死に絶えていった。
その為現在までに伝わった情報は少なく、かろうじて残っていた資料ですら、十分ではなくとても災厄に対する対抗策を考えられるものではない。
あるマジックアイテムの力によって恒星の影響を抑えることに成功したが、完全に封じることは不可能で、恒星の研究を行っていた者達は嘆いた。
◆あれは、人間にどうにか出来るものじゃない◆
そもそものルールが違う。
立っている世界が違う。
どうやれば蟻に星を壊せるというのか。
次元の違う脅威の前に、人々は必死に抗い、そして目を逸らすしかない。酒に逃げ、娯楽に逃げ、どこにも逃げられてはいないというのに、ただ無力に背を向ける。
その時にある平穏に浸ったまま・いずれ来る脅威に心の底で怯えて。
どうしようもないことは当然で。
それは勇者と呼ばれる存在も例外ではないだろう。
◆覆せない恐怖を前に◆
◆誰もが怯えるこの世界の果てハ?◆