「ようやく分かりました。私の『守りたいもの』。だから私…戦います!」
眼前に迫りくる木々を跳ねるように躱しながら疾走する少女は紫の閃光に包まれ徐々に巨大化、細身で鋭角な姿へと外観を変化させていく。
◇◇◇
「ルビィね…花丸ちゃんのことずっと見てた!ルビィに気を遣ってスクールアイドルやってるんじゃないかって。ルビィのために無理してるんじゃ無いかって!…心配だったから」
緊張で声を震わせ、今にも泣きそうになりながらもルビィは懸命に言葉を紡いでいく。
「でも…練習する時も、屋上にいる時も、皆んなで話してる時も…花丸ちゃん、嬉しそうだった。それ見て思った。花丸ちゃん好きなんだって。ルビィと同じくらい好きなんだって!スクールアイドルの事が」
「マルが…?」
「マルに出来るのかな……?」
尻込みする花丸の前に立つのは1人の少女。いつものように太陽のように明るく温かい笑顔で手を差し伸べた。
「私だってそうだよ。でも大切なのは出来るかどうかじゃ無い。」
その言葉に曜、梨子…そしてルビィも頷く。
「やりたいかどうかだよ!」
◇◇◇
(守るんだ……あの笑顔を。私の……帰る場所を‼︎)
宙はダークエボルバーを強く握りしめペドレオン目掛けて大きく跳躍する。刹那、収束させたエネルギーが迸り一気にスパーク。周囲に幾つもの紫の稲妻が発生する。
「おぉ……!」
あまりの眩しさにナイトレイダーの各々は目を背け、その場に蹲み込んだ。
ーーフォートレスフリーダム・司令室ーー
「!」
イラストレーターはチェスター越しに撮影されているその映像を見て目を見開く。宙と融合しているのは闇の巨人。しかし宙が肉体を変化させる際、ほんの一瞬ではあるが白銀の光が見えたのだ。
(これが来訪者の言っていた力なのか……?)
「シェアァ!」
「石堀!早くここから離脱するぞ!奴がビーストをいつまで引き付けていられるか分からん!」
「しかし!まだビーストは仲間を2人捕らえたままです!彼らを見殺しにするなんて…」
「私情を捨てろ!確かに彼らとお前の事は良く知っているが」
「俺の作ったチェスターは‼︎」
石堀と呼ばれた男の叫びは隊長の言葉を遮断する。
「ここにいる『全員』を乗せる事が任務です」
その迫力に隊長は気圧されしまう。石堀の瞳には揺るぎない意思が宿っていた。
「お前……」
刹那、大きな振動が起こり2人の足元をぐらつかせる。2人が再び顔を上げた時、眼前には黒い巨人が片膝をついて屈み込んでいた。
「……でけえ」
その姿に圧倒され言葉を失う2人を他所に、ファウストは包み込むように握られた両手を優しく地面に下ろす。巨大な両手が地面から離れるとそこには先程までペドレオンに捕われていた2人のホワイトスイーパーが横たわっていた。
信じられないという表情を浮かべる石堀に向かってファウストは微かに首を縦に動かす。頷いたのだ。
「……!」
後は任せた、という
ファウストは周囲から人間が完全に居なくなった事を確認するとペドレオンに向かって身を翻しながら光弾を発射する。空間を飛翔する5つの弾丸は左右どちらに避けても直撃するように扇状に放たれていた。
「ギ……」
ペドレオンは触角から火球を発射し5つの光弾全てを相殺。クラインの時に散々苦しめられた遠距離攻撃を克服しつつあった。そのまま火球を発射し続けながらファウストに突進していく。
(……そうなると思った)
これまでのビーストとの戦闘からこうなる事を既に予想していた
その瞬間、最初に跳躍した際あらかじめ上空に展開させておいた大型の光球が照明弾のように輝き無数の光弾となってペドレオンに降り注いだ。
ダーククラスター。フログロスを強襲する際にも使用したファウスト独自の攻撃方法だ。
「ーーーー!!!!!!」
今度こそ完全に意表を突かれたペドレオンは絶叫しながら痛みに耐えかねるように頭部を体内に引っ込める。その大きな隙を
姿勢を低く保ちながらペドレオンに向かって疾走していく。反射的に身の危険を感じたのかペドレオンは接近するファウストを跳ね除ける様に両腕の長い触手を振り回し始める。しかし相手の位置を捉えずにがむしゃらに振り回す攻撃が当たるはずも無く、ファウストはペドレオンの懐まで難なく接近。大振りで放たれた敵の右腕を屈み込みながら回避し、前転しながら後ろ足を大きく跳ね上げる。
ダッシュの勢いを一切殺さずに繰り出された胴廻し回転蹴りはペドレオンの上半身を大きく抉り、一瞬の内に無数の肉片へと姿を変えた。
(動ける……!まるでこの肉体が私の体そのものになったみたい)
戦闘に対するモチベーションが向上したおかげかは分からないが
バグバズンを仕留める前にほんの少しだけ体現できたファウストの動きを自らの体に投影するような感覚。水車の如く振り抜かれた踵からその感覚を以前よりも鋭く、より深く自分の体に落とし込めている実感があった。そのまま跳び前転しながら距離を取り、動かなくなったペドレオンに向かって拳を重ね合わせダークレイ・ジャビローム発射態勢を取る。
ーー
「ちょっとちょっと!何でこんなにやられてんの?」
その様子を少し離れた場所から観察している者がいた。
「てか何で姉さんは
花丸に接触したその少年は突然頭を掻きむしり始める。
「捨てられた分際で…気に入らないなぁ…はぁぁぁぁ!何でかなぁぁ!?」
剥がれ落ちかけた上っ面を何とか保ちながら半壊したペドレオンに手をかざす。
「まぁ良いや。いずれ僕が全て奪ってあげますよ。………あとペドレオン、君はもう少し働いて貰わないと困るから」
体の一部が大きく欠落したペドレオンは暫く停止していたが突然脈打つように動き始める。
(またこのパターン……いい加減…くどい!)
咄嗟に敵の生命反応が増幅している事を悟った
(⁉︎)
そのまま宙返りしながらファウストを飛び越え着地する。肉体を文字通り削られ体積が減少したせいで、その姿は以前のずんぐりとした体型からは想像もつかないほど細身の、より人間に近い形に変化していた。
ーーペドレオン(リキッドロイド)ーー
ゆっくりと振り返るような仕草をすると同時に目も口も存在しない顔面を大きく歪ませる。まるで笑っているようだった。
ーーフォートレスフリーダム・司令室ーー
「何なんですかこいつは……」
モニター越しに繰り広げられる戦闘を観察していた瑞緒が絶句する。イラストレーターは腕を組みながら沈黙を保っていたが、やがて絞り出すように掠れた声を発し始めた。
「………ビーストは戦いの中で学習し、何度も自身の肉体に成長を促す生き物だ。だがこんな短時間で相手に順応できるのは明らかにおかしい。ここ最近出現するビーストには皆共通して妙な違和感があったが……ようやく合点がついた」
「フログロス、バグバズン、ペドレオン……これらのビーストの脅威的な成長は人為的に引き起こされているとしか思えない」
それを聞き、瑞緒の顔からは血の気が引いていく。
「人為的って…それじゃあまさか…」
「ああ」
イラストレーターは静かに首肯する。
「『ラファエル』が近くに居る。間違いなく」
ペドレオンは地面を滑走するように移動しながらファウストに接近し、触手のついた腕を振り回す。その動きはこれまでとは比べ物にならないほど素早く、かつ不規則で予測する事が困難だった。
(ッ!)
挟み込むように振るわれた両腕の触手をギリギリのところで回避し、敵の顔面に右のノーモーションパンチを叩き込む。
(手応えが無い⁉︎)
拳に伝わる液体を殴り付けるのと似た感覚。その感覚は近接攻撃すらも無効化されつつあることを示していた。顔面を殴り付けられたペドレオンはそのまま上半身ごと右向きに一回転し、その勢いを乗せた左腕を振るう。
完成に虚を突かれた
「グアァァ!」
接触した触手から高電圧の電流が発生し、両腕の肉が焼けるような耐え難い激痛が走った。
「イラストレーター!このままじゃ宙さんがかなり危険ですよ!」
遂に被弾し始めた宙の様子を見た瑞緒は慌ててイラストレーターに詰め寄る。しかし反対にイラストレーターは随分と落ち着き払った様子だった。
「大丈夫。
瑞緒を落ち着かせるようにその肩に手を置く。
「彼女が力を発揮すれば上層部も『ミカエル』に対する考えを改める可能性が有る。君も知っている様に、何も特別なのはビーストだけではありませんから」
ジリジリと後退しながらもファウストはペドレオンの攻撃に対応しつつあった。敵が二本の腕を同時に振り回す瞬間を狙って頭上ギリギリを跳び越えながら背後につこうとする。
ペドレオンの直上を飛び越える間、宙は不思議な感覚に見舞われる。ペドレオンの背中から発射された火球が非常にゆっくりとした動きでこちらに向かってくるのだ。まるで時間が止まったような感覚だった。
膝を抱え込み体を丸めながら火球を難無く回避。直上で側宙しながらペドレオンの背後をとる。
(今度こそ…!)
右足にエネルギーを集中させながらバグバズンを仕留めた物理法則という概念を超えたあの蹴りを放つ。死角からの一撃。高度な読み合いを制して放たれた蹴りは間違い無くペドレオンの肉体を捉えていた。敵が「逃走」という選択肢を取らなければ。
ペドレオンは置き土産とばかりに全身から毒ガスを噴射しながら細身の肉体を空中に打ち上げる。
ーーペドレオン(フリーゲン)ーー
飛行形態へと姿を変えたペドレオンはそのまま戦闘区域を高速で離脱する。戦いを経験すると共に成長していくスペースビースト。しかし、それでも分が悪いと判断した時、彼らは速やかに逃亡を図るのだ。そして時間を置いて再び成長した姿で人間達の前に現れる。
ナイトレイダーがビーストを倒しあぐねている一番の理由がそれだった。ビーストにはプライドや戦いに対する執着心は一切存在しない。彼らにあるのはただ一つ。人間という知的生命体を喰らい、より多くの恐怖をあるべき場所に送り込む事だ。
「ヴアアアアァァァ!!!!」
地上に噴射した毒ガスの中から突如野太い雄叫びと共に黒い影が爆発的なスピードで飛び出し、ペドレオンの背中に組み付いた。
ペドレオンはバリカン飛行をしながら振り落とそうとするが渾身の力を込めたファウストはビクリとも動かない。
「逃ガサナイ……コロス」
絞り出す様に発せられるそのくぐもった声から伝わるのは明確な殺意ーー即座に命を絶つという意思だった。
その瞬間、ペドレオンはかつて感じた事の無い強烈な感覚に襲われる。自身の背中に取り付いた黒い死神。迫り来る死。
イヤダ…コイツ……コワイ
あの少年から与えられた『成長力」の影響で"感情"という高度な思考が生まれてしまった。
コワイ…シニタク、ナイ
それは恐怖という感情だった。
両者はもつれ合いながらそのまま地上に落下する。互いのマウントを取り合うように地面を何度も転がり、やがてファウストがペドレオンを蹴り飛ばした。
ペドレオンはふらつきながらもリキッドロイドに姿を変え、最後の抵抗をするべく触角を中心に巨大な火球を生成し始めた。辺りの木々が燃え始める様子からその威力がどれほどの物であるかを実感させられる。正面から相手にする義理は無い。
(当たらなければそんな物…⁉︎ 嘘、でしょ……?)
振り返るとそこには無数の住宅やビルが立ち並んでいた。両者は戦いを続ける内にいつの間にか山岳地帯から抜けてしまったのだ。
正面に向き直ると同時にペドレオンの超大型火球が放たれる。迫り来る業火はファウストを一瞬の内に飲み込んだ。
自らの勝利を確信したペドレオンは勝ち誇ったように右手を空に向かって振り上げる。
しかし、突如業火の塊は吸い込まれるように消失。その中からは無傷のファウストが現れる。
「ギ……⁉︎」
直後、ファウストの右腕から赤黒い光波熱線が地面を削りながら爆進する。
ダークレイ・ジェネレード。
ペドレオンは最後まで何が起こったか理解できないまま消滅した。
ペドレオンはネクサス本編の1〜4話に登場しました。ナメクジから無数の触手が生えているような見た目をしており、かなりグロテスクです。姿を自在に変化でき、回を重ねる毎に防御力は強化されどんどん新しい技を身に付けていきました。最終的には超念動力みたいなのも使ってましたね。ウルトラシリーズ1話で登場した怪獣の中でもかなり強い部類に入るのではないかと個人的に思っています。
後、ペドレオン(リキッドロイド)とダークレイ・ジェネレードって技はネクサス本編には出ていません。
何か良さそうだなと思って勝手に作ってしまいました