模造巨人と少女   作:Su-d

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文章の拙さもありますがこの作品の一番よろしく無い点は更新するペースが遅いところですね。出来れば4〜5日に1話のペースでやりたいんですけどどうしても上手くいかず…
最終章のシナリオはなんとなくではありますが、考えているのでそれに行き着くまで何卒宜しくお願いします。

※今回の話の後半はわちゃわちゃするシーンに振り切っています。サンシャイン本編の内容に少し触れるだけなので、苦手な方は飛ばして貰っても次回に支障は無いと思います。本当にすみません。先に謝っておきます。


13.隣の堕天使

守りたい物が出来たからビーストと戦う。宙はそう決意を新たにした。が、ビーストが出現しない日はごく普通の高校生として日常生活を営んでいる。

今も彼女は千歌の隣に座って一緒に話をしながら作詞の手伝いをしていた。

 

今日は日曜日。学校も部の練習も何も無い日だ。スクールアイドルは来たるべきラブライブ予選に向けて万全の準備を整えるべく日々歌・ダンス・走り込み・筋トレに励んでいる。しかし、幾らスクールアイドルと言えど適度に休息を取らなければ体を壊しかねない。という事で、Aqoursは毎週日曜日に必ず「お休みの日」を取り入れる事になったのである。

 

「いっつも忙しいんだけど…いざ休みの日になったら何か暇だよね」

 

「そうですね。でも私はこういう日、結構好きですよ」

宙はそう言いながら先程コンビニで買ってきたポッキーを頬張る。

箱から取り出した一本を千歌に差し出した。

 

「どうぞ…」

 

「やった!ありがとっ」

 

「ん…///」

千歌は即座に口を開けポッキーを咥える。

以前と比べると宙は千歌達に対してかなり積極的に関わるようになっていた。表情こそ大きくは変化しないものの、今や彼女のとる行動に以前の刺々しさは微塵も見られない。

 

「ふぅ……ちょっと休憩」

千歌は作曲していたペンを置くと宙の後ろに回り込み、彼女の長髪を編み込みながらハーフアップを作ろうとする。

 

「休憩にならないんじゃ無いですか?」

 

「良いの良いの!宙ちゃんの髪綺麗だし気持ち良いから。あ、もし嫌だったら辞めるけど…」

 

「続けて下さい」

即答する宙。千歌は鼻歌交じりに宙の髪に手を伸ばし、ハーフアップの構築を再開した。

 

「部員も増えて賑やかになったし……次は皆んなで何処かに出掛けよっか。宙ちゃんは行きたい所とかある?」

 

「千歌さんと一緒ならどこでも」

 

「無理して私に合わせなくても良いよ?」

 

「無理なんてしてません。千歌さんの好きなところがいいです」

 

「もうっ…宙ちゃん!」

気持ちを抑えることが出来ず、千歌は後ろから宙を抱きしめる。

 

「ん…///」

 

そんな2人に一階から声が掛かる。

 

「ちーかー!こーすもー!今日お客さん多いからちょっと手伝ってーーー!」

千歌の姉・美渡の声だった。

 

「私が行きます。千歌さんは作曲の続きやってて下さい」

宙が素早く立ち上がったのでハーフアップは途中で崩れ、元に戻ってしまった。

 

「あっ…」

名残惜しそうな表情をする千歌を他所に、宙は仕事の邪魔にならないよう髪を後ろで束ねると一階に降りて行った。

 

いざ話し相手がいなくなると作業は中々捗らないもので、千歌は数分経つと音をあげてしまう。

 

「駄目だ〜」

誰か手伝ってくれる人はいないものか。ちゃぶ台の上に顎を乗せると辺りを見回す。ふと部屋の窓を見ると、窓の奥に映る家に1人の少女がいた。ピアノに向かって練習しているのが見える。

 

千歌は勢い良く窓を開け放つと向かいの家の少女に手を振った。

 

「おーーーい!梨子ちゃぁぁぁぁん‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「今日はありがとう宙ちゃん。 とっても助かったわぁ」

 

「こちらこそ。十千万のお仕事とっても楽しかったです」

空の色も夕焼けの橙から黒に変わる頃、ようやく仕事は一段落した。宙は隣を歩く志満から労いの言葉を貰いつつ、千歌の部屋に向かっているところだ。そろそろ夕食の時間だった。

十千万のご飯の虜になってしまった宙にとって、千歌の家族皆んなで食べる食事は至福の一時だった。表情こそ冷静さを保っているものの、今にもスキップしそうな足取りをしている事に本人は気付いていない。

そんな宙の様子を見て志満はさっきからずっとニコニコしていた。

 

「あの……どうかしました?」

黙ってじっと見られ続けるのは流石に恥ずかしいので宙は志満に声を掛ける。

 

「ああ、ごめんなさいね。何だか妹がもう1人できたみたいで嬉しくて。多分千歌ちゃんも同じ気持ちなんじゃないかしら。」

 

「そう……なんでしょうか?」

 

「千歌ちゃんね、幼い頃末っ子だったのが嫌だったみたいで『私にも同い年くらいの妹がいるもん!』ってずっと言ってたの。それほど妹が欲しかったみたい。もうずっと昔のことなんだけど……。でも今こうやって宙ちゃんが私達のところに来てくれた。それはあの子にとって、勿論私達にとっても本当に嬉しかった。」

その言葉を聞き宙は足を止める。

 

「あの!」

 

「?」

志満は微笑みを浮かべたまま振り返る。いつも柔らかな物腰で接してくれるが、その姿は見る者に長女然とした雰囲気を感じさせた。そんな高海家の長女に向かってこんな事を言うのは少しだけ恥ずかしくもあるが……宙は志満の目を真っ直ぐ見る。

 

「嬉しいのは私だって同じです。私、ここで過ごせる毎日が本当に幸せです。だって、千歌さんのお父様、志満さん、美渡さん、千歌さん、曜さん、梨子さん、Aqoursの皆さん………私に優しく寄り添い居場所を与え、生きる術を教えて下さった皆さんの事が………」

宙は胸に手を当て一呼吸置くと、恥ずかしくてこれまでずっと伝えられなかった気持ちを伝えた。

 

 

 

 

 

「大好きですから」

 

 

 

 

 

 

これまで笑っても「微笑み」で落ち着いていた彼女の表情が今、志満の目の前で弾ける程の飛びっ切りの笑顔を作っていた。

 

「ッ〜〜〜‼︎」

志満は宙に駆け寄って思いっきり抱きしめる。

 

「むがっ」

 

「ごめんなさい。暫くこのままでも良いかしら?」

 

「むがむが」

顔を胸の中に埋められ宙が口にするのは言葉になっていない。それでも志満を抱きしめ返した。

 

(千歌さんも志満さんもスキンシップが凄い……姉妹だからかしら)

 

 

 

 

 

 

 

「千歌ちゃん、そろそろご飯だから下に降りて………ってどうしたの⁉︎」

宙と一緒に千歌の部屋を訪れた志満が障子を開けるとそこにはベッドに突っ伏した千歌の姿があった。

 

「詰んだ……」

ベッドに顔を埋めながら千歌は弱々しい声を上げる。あの後梨子を部屋に呼んで続きをしていた彼女だったが、お客さんの喧騒も相まって集中出来ず、明日が期限とされている作詞の作業を終える事が出来なかった。

 

 

ーーー

 

 

「私も『缶詰』がしたい‼︎」

夕食の時間、千歌が発した第一声がそれだった。

 

「遂に誰かに食べられたいと思うようになったか」

美渡は突発的に千歌が何かを起こそうとする事に慣れきっており、白米を頬張りながら軽くあしらう。

 

「ちっがうよ!!!ほら、仕事を捗らせるために静かなとこに閉じこもるやつ!私も洋風ホテルみたいなところで作業に没頭したい!」

 

「ウチにそんな場所あると思ってんの?大人しく図書館行け図書館」

 

「夜遅くまでずっと集中したいの!図書館なんて無理だよ!」

 

「どうして缶詰したいの?」

志満の質問に千歌は光の速さでそちらを向く。

 

「次のライブで歌う曲の作詞がまだなの……環境を少し変えてみたら捗るんじゃないかって」

 

「でも梨子ちゃんに締め切りは明日までって言われたんでしょう?今からじゃ遅いんじゃない?」

 

「うう……」

まったくもってその通りだった。千歌はガックリと肩を落とす。

 

「千歌さん!」

隅っこで山脈を作っているのではないかと見間違う程ご飯を山盛りによそっていた宙が突然小さく手を上げる。

 

「今更かもしれないですけど、『静かで洋風かついつでも使えるお部屋』……私に心当たりがありますよ」

その言葉に千歌・美渡・志満の3人は顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーースクールアイドル部・部室ーー

「ごめん!」

 

「まだだったの⁉︎今日までって言ってたじゃない」

手を顔の前で合わせて頭を下げる千歌を見て梨子が困った表情をする。

 

「どうしても間に合わなくて……でもでも、今日こそは絶対上手くいくから!」

 

「いや締め切り今日なんだけど」

 

「だって私には集中出来る完璧な場所があるんだから!」

梨子の一言をスルーしながら、千歌は側で購買のパンを口に詰め込んでいる宙の肩を掴む。

 

「?」

 

「私、今日宙ちゃんの家で作詞に没頭するから!」

 

「宙ちゃんの家?千歌ちゃん家に居候してるんじゃないの?」

話を聞いていた曜が首を傾げる。

 

「あ、曜ちゃんや梨子ちゃんは知らなかったっけ?宙ちゃんマンション借りてるんだって。今は私の家に住んでるけど」

 

「暫く留守にしてたのでもうそろそろ風を通すために一回帰ろうかなって。何ヶ月も放置してカビを生やすわけにはいきませんから。ただ、私1人で家の事全部出来るか不安なので千歌さんもついてきてもらう事にしました。」

千歌の説明を宙は横から補足する。

 

「それで、私はお客さんの話し声も全く気にする事無く静かな部屋で泊まり込みで作業に集中出来るってわけ。宙ちゃんは志満姉から教わった家事のやり方を実践出来るし……まさに一石二鳥だよ!」

うきうきしている千歌を見て梨子は不安になる。

 

「あ!ルビィちゃんや花丸ちゃんも来る?宙ちゃんが借りてるマンション結構広いみたいだから5人くらいはいけるみたいだよ?」

 

「え⁉︎ごめんなさい……マル今日家の用事があって」

 

「ルビィは…人の家にお泊まりに行く時はお母さんやお姉ちゃんに3日前から伝えないといけないので……」

 

危惧していた事が既に起きそうになっている事に気付き梨子は頭を抱える。このままでは「泊まり込みで作詞」がただのお泊まり会になってしまうのは火を見るより明らかだった。

(宙ちゃんがついているとはいえ、宙ちゃんは千歌ちゃんに甘々だから………)

 

「分かったわ」

梨子は決意する。2人には申し訳ないが、やっぱり不安を拭い去る事は出来なかった。

 

「私も一緒に行く。宙ちゃん、それでも良いかしら?」

 

「もちろんです!千歌さん、梨子さんと初めて一緒に寝れるって事ですね!あ、曜さんも一緒にどうですか?」

宙は手をお腹の前で組み何かを言い出そうとモジモジしている曜に声を掛ける。

 

「私も行って良いの?」

誘いの声を掛けられ曜の表情がパッと明るくなる。

 

「沢山集まった方が良い考えが思い浮かぶかもしれないですし、何より楽しいですから。大丈夫そうですか?」

 

「もちろんだよ!ありがとう宙ちゃん!」

 

「じゃあちょっとしたお泊まりに会って事になりますね!はぁぁ…楽しみです…あ、花丸さん、ルビィさんも機会があればいつでも言って下さいね」

残念な事に宙も千歌と同じで本質を理解していなかった。

 

「宙おね、じゃ無くて先輩、最近よく笑ってるよね」

 

「うんうん。マル達も今度は一緒に行きたいね」

 

「は、はは…」

梨子はニコニコしている彼女達を見て乾いた笑い声を上げる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

ーーフォートレスフリーダムーー

 

「あの黒い巨人のコードネーム、決まったみたいですよ」

 

200人以上が同時に飲食を可能とする大ホールで、ナイトレイダーBユニットの各々が束の間の休息を取っていた。彼らは対ペドレオン戦に参加していない。しかし、あの日ナイトレイダーAユニットの撤退を支援するように突如現れた黒い巨人の存在は、Bユニット各員にも強い衝撃を与えていた。今もその話題で持ち切りになっているところだ。

 

「ほう?何て言うんだ?」

 

「司令部では既に『ファウスト』と呼称されているようです」

 

「ファウスト?ドイツ神話に登場する悪魔と契約を交わした人間もそんな名前じゃなかったか?随分と物騒な名前を付けたもんだな」

 

「まぁあの外見だしな。悪魔と捉えられても仕方無いだろう」

その言葉を遮るように1人が立ち上がる。

 

「彼は2人のホワイトスイーパーの命を救ってくれたんですよ⁉︎その言い方は如何なものかと」

 

「はぁ…お前なぁ、誰彼構わず肩入れする癖をいい加減辞めろよ。人間を2人助けた?あいつはペドレオンから奪い取った人間を捕食するつもりだったとも考えられるぞ?よく分からない化け物は利用できる内は利用して、邪魔になったら勝手に死んでくれるのが一番こっちにとっちゃ都合が良いんだよ。……何故上層部はあんなのを受け入れようとする?奴らの考える事はさっぱり分からん」

 

「ファウストには人間態があるらしいぞ?それもかなり綺麗な顔立ちの少女だって噂になってる」

 

「馬鹿馬鹿しい。所詮化け物は化け物だ。あの人間態なんてどう頑張ってもアラクネアみたいなのが関の山だろ………っておい、どうした?」

隊員達の視線は笑い飛ばした男の後ろに釘付けになっていた。皆口をつぐんでいる。

 

振り返ると、そこには目に涙を浮かべた長身の女性が立っていた。その女性––––瑞緒は男の襟首に掴みかかる。

 

「年端もいかない女の子に何て事を……このッ……もういっぺんいってみろぉぉ〜〜!」

意外にもその力は強く、大柄な男を何度も前後に揺さぶる。

 

「オゴゴゴゴゴ」

先程笑い飛ばしたその男・Bユニットの副隊長は既に白目を剥きそうになっていた。

 

「対異星獣研究機関の七瀬主任だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー十千万・玄関前ーー

「しいたけ〜」

宙がその名を呼ぶと十千万の玄関の隙間から鼻がにゅっと伸び器用に戸を開け、中から大きな犬が彼女に向かって走って来る。そのまま宙に向かって大きくジャンプ。

 

「よっ…と」

宙はしっかりとしいたけを抱きとめた。大きすぎて彼女の胸の中に収まり切らないしいたけはそれでも宙の顔を舐めようとするが、宙は首を捻ってそれを躱す。そのまましいたけの体位を反転させ後ろから抱えこむ体勢を取った。

 

「くすぐったいからそれはダメです」

 

「キュウ〜」

悲しそうな声を上げるしいたけ。以前のようにはいかなかった。

 

「宙ちゃんもしいたけの事がだいぶ分かってきたね」

 

「す、凄い……」

その様子を見て目を丸くする梨子。

宙がしいたけを地面にゆっくり下ろすと同時に千歌と曜が駆け寄る。

 

「私達ちょっとだけ家を留守にするから夜居なくても心配しないでね」

千歌と曜が頭を撫でながら話すと、しいたけは彼女達の言う事をきちんと理解したようで、その場に座り込み一度大きな声で吠えた。

 

(見送りの挨拶……かな?)

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!ひっろーーーい!」

夕方、千歌達4人は宙が少しだけ、というより1日しか住んでいなかったマンションに到着した。千歌はその広い間取りを見て飛び跳ねている。

 

「でもやっぱり殺風景ね。宙ちゃんはここで料理とかはしなかったの?台所とか綺麗なままだけど」

 

「初めてここに来た時は精神的に大分参ってまして…ご飯も食べてなかったしお風呂にも入ってませんでした」

 

「…………そっか。でも今日は大丈夫だよ!私家から沢山色んな物持ってきたから!」

湿っぽい話題になりかけていたのを察した曜は上手く話題をシフトさせる。彼女が持ち込んだ大きな鞄からは大量のお菓子、ジュース、食料、その他ゲーム機らしき物も出てきた。

 

「よ、曜ちゃん、私達の第一目標は歌詞だからそれは」

 

「もっちろん!分かってるよ!」

曜はニコニコしながら拳を振り上げた。

 

「よし!まずはご飯だよーーー‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー数時間後ーー

 

「おりゃあ!喰らえ!」

 

「危ないっ」

 

「ちょっと!避けないでよ!私に当たるでしょ!」

 

「梨子ちゃん、これそうゆうゲーム」

 

「てか梨子ちゃんのキャラさっきからずっと盆踊りみたいな動きしてるじゃんwちゃんと戦わせないと」

 

「だってどれ押してもこれしか出来ないんだもん!」

千歌の言葉を聞き梨子は必死に今起きている状況を説明する。

 

「あ、ごめん忘れてた!梨子ちゃんのキャラその状態じゃ敵の攻撃受け流す事しか出来ない……」

 

「曜ちゃん⁉︎それ先に言ってよおぉぉぉぉ!?」

操作に苦戦する梨子に千歌の無慈悲な一撃が迫る。

 

「ここだあぁぁぁぁ!」

 

「ギャアアアアア‼︎イダアアアイ‼︎」

 

「っくww 何で梨子ちゃんがダメージ受けてるの」

曜も堪えきれずに笑い出す。宙が入浴している間も3人の盛り上がりは凄まじいものだった。何なら渋っていた梨子が一番盛り上がっていた。

 

 

 

「ふぅー」

浴室の扉がガラリと開き、少女が顔を覗かせる。

 

リビングからは楽しそうな笑い声が聞こえてくる。4人で協力してようやく作詞を終わらせる事が出来たから、おそらくテレビゲームなんかで遊んでいるのだろう。

 

(私も早く行こう………ってまずはダークエボルバーで全身を乾かして…ヘアブラシ…あ、台所の食器片付けたら千歌さん達喜ぶかな?)

 

せっかちなもので、宙は体にタオル一枚巻いた状態で台所に向かう。今は服なんてどうでも良かった。3人の喜ぶ顔がもっと見たい。

(料理を作る時は全く役に立たなかったけど、片付けなら……!)

 

誰も居ない台所に来ると突然宙は足を止める。

 

 

○○○

 

「お風呂上がった?じゃあちゃんと服着なさい。お父さんがびっくりしちゃう」

 

「今日はもう遅いから、もう寝なさい」

 

○○○

 

 

 

(私にも、皆さんみたいにお父さんやお母さんがいたら……そんな風に暮らしてたのかな……?)

 

急に胸がいっぱいになり、その気持ちを飲み物で紛らわせるべく慌てて冷蔵庫を開け、中から銀色に光る缶を取り出す。

 

(曜さんが買ってきた物の中にこんなの無かったけど……瑞緒さんが私のために買ってきてくれたのかな?)

 

宙はタブを引っこ抜くと中の液体をこくりと飲み込んだ。

ちょっと苦い……けど身体はじんわりと温かくなった気がした。

 

(私には皆さんが居る。寂しくなんて無い)

身体はどんどん熱を帯びてくる。何だか本当に体温が上がった気分だ。頭もボーっとしてきて………

 

「ヒック」

口からは小さなしゃっくりが漏れる。それからの事は記憶から吹っ飛ぶ………わけでも無く、普通に覚えていた。

 

 

 

 

「もう一回よ!」

見事1位を獲りすっかり夢中になった梨子が声を張り上げる。

 

「梨子ちゃんコツ掴むの速いなぁ……あ、でも宙ちゃんももうすぐお風呂上がるだろうし次からはどうなるか分からないよ!」

 

そう意気込む3人の後ろから宙がひたひたと歩いて来た。

 

「あ!宙ちゃん上がっt……フォ⁉︎」

彼女の存在にいち早く気付いた梨子は振り返り、宙の格好を見て変な声を上げる。

 

「な、何でタオル一枚だけなの⁉︎」

 

「ちょっと!宙ちゃんそれは駄目って前から言ってるじゃん!早く服着てよ〜」

曜も千歌もあられもない格好をした宙を見て仰天する。

 

「ヒック」

真っ赤な顔をした宙は千歌達の言葉に反応せずそのまま三人の間に入って胡座をかいて座り込んだ。

 

「えへ」

そのまま三人に向かってニヘラッと笑いかける。

 

「……このアルコールの匂い…もしかして!」

異変に気付いた曜は台所に向かって走って行った。そしてそこには彼女の予想通り飲みかけの「アレ」が置いてあった。

 

「ちょっと千歌ちゃん!これビールだよ!殆ど残ってるけど…」

 

「何でそんなのが宙ちゃんのマンションに置いてあるの⁉︎」

 

「確かここってTLTの人が宙ちゃんに提供したって言ってたわよね?その人が間違えて置いて行ったんじゃ…」

梨子はそう言って苦笑する。何故か満更でも無さそうに見えるのは気のせいだろうか。

 

「曜ちゃん!とにかくお水持ってきて!すぐに飲ませないと……きゃっ!」

言い終わらない内に千歌は宙に押し倒される。

 

(今なら何しても許して貰えそうですし、少しくらいなら良いですよね?)

当の本人は、高まったテンションに身を任せ普段抑えていた気持ちを爆発させようとしていた。

 

「はぁっ…千歌さん……」

そのまま千歌に顔を近づけていく宙。

 

「おわぁ!」

反射的に宙が何をしようとしているのか察した千歌は慌てて顔を背ける。

 

チュッ

 

「」

 

「!?!?!?!?!?!?!?」

 

「キマシ………!」

 

当たったのは頰だったのでギリギリ千歌のファーストキスは奪われずに済んだ。千歌は曜と梨子に慌てて手を伸ばす。

 

「2人とも!見てないで助けてぇ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にすみませんでした」

宙は三人に向かって地に頭を擦り付ける。彼女の酔いが覚めたのはあれから数分後のことだった。

 

日付が変わろうとする頃、千歌達4人は寝床に就いていた。ベッドに4人収まるのは流石に無理があるので、ジャンケンで千歌・曜がベッド、梨子・宙がベッドのすぐ側に布団を敷いて寝ている。

 

「作詞も出来たし、4人で一緒に色んな事出来たし……今日は本当に楽しい1日だったよ」

千歌が暗い天井を見上げながらぽつりと呟いた。

 

「私もだよ。また次もこんな事したいね。私も新しい料理作れるようになって皆んなに食べてもらいたいし、別のゲームも持ってきたいな」

 

「私も……すごく楽しかったわ。こんな事したの初めてだから…友達とお泊まりってこんなにも素晴らしいものだったのね」

随分とはっちゃけていた事を思い出し、梨子は暗闇の中で顔を赤らめる。

 

「………」

 

「あ、あの宙ちゃん、そんなに落ち込まなくても良いんじゃない?千歌ちゃんももう気にして無いって」

3人から顔を背け丸くなっている宙を見て梨子は必死にフォローする。

 

「私は最低な人間です…本来私が率先してやるべき家事は全然出来なかったですし、変な物飲んで千歌さんにあんな事を……」

 

「宙ちゃん」

千歌の声を聞き宙は少しだけ首を動かす。

 

「私別に全然嫌じゃ無かったよ。むしろ嬉しかった」

 

「!」

 

「エ⁉︎」

 

「このお泊まり会で私、皆んなの普段見ない沢山の表情や仕草を見ることが出来た。それで思ったの。私にはまだ見てない皆んなの良い所がたっっっっくさんあるんだなって。これからも皆んなと一緒にスクールアイドル続けていったらそれがどんどん分かっていくんだって考えると、何だか毎日が凄く楽しみになるの。私、このメンバーでスクールアイドルやる事が出来て本当に幸せだよ。ありがとね」

 

「「千歌ちゃん(さん)……」」

 

 

4人がこのお泊まり会で得た物は決して「詞」だけでは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

けたたましく鳴り響く携帯のアラーム音を梨子は素早く止めた。そのまま上半身を起こし大きく伸びをする。

 

「ふぁぁ…梨子ちゃんおはよ」

隣のベッドで曜も身を起こしていた。

 

「おはよう。朝から皆んなの顔が見れるって何だか新鮮ね」

梨子はそう言って曜に笑いかけた。

 

「ほら、千歌ちゃんも起きて」

曜は隣で布団を被り縮こまっている千歌の肩を揺する。

 

「むぐぐぐぐ」

布団の隙間から少しだけ見えているアホ毛がピョコピョコと動き始める。起きるにまだ暫く時間がかかりそうだった。

 

「あれ?そう言えば宙ちゃんは?」

梨子の隣は既に空っぽだった。不思議に思い曜と梨子は目を擦りながら寝室を出る。

 

宙はリビングにいた。が、彼女は壁に耳を付けておりそこから動いていない。

 

「おはよう宙ちゃん。……何、やってるの?」

曜と梨子の声を聞き宙は振り返る。

 

「おはようございます。曜さん、梨子さん。朝トイレに行ってたら壁の向こうから変な声が聞こえてて、今までずっと聞いてました」

 

「『せいれいけっかい』とか『まりょくこうぞう』がどうのこうのって聞こえます。一体何の事でしょう?」

 

「さぁ……?」

曜と梨子はどう頑張っても厚い壁の奥から聞こえてくるという声が聞こえる事は無く、返答に困っている。

 

次の瞬間、ドタドタという足音が移動する音が聞こえ隣の部屋の窓が開け放たれた。

 

 

「やってしまったぁぁぁぁ!!!!」

 

「何よ堕天使って!ヨハネって何⁉︎リトルデーモン?サタン?居るわけないでしょ!そんなもーーーーーん‼︎」

 

曜、梨子、宙の3人は慌てて窓を開け、声が聞こえる隣の部屋を覗き込む。そこにはフリルの付いた黒い衣装を着ている少女が窓から身を乗り出し大きな声で叫んでいた。

 

「」

初めて見た隣人の姿に宙は開いた口が塞がらなくなる。

 

 

 

それが堕天使ヨハネこと津島善子との出会いだった。




瑞緒(酒犯) 「あれ?もしかして私何かやっちゃいました⁉︎」

吉良沢 「未成年の飲酒は絶対ダメです」
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